Functional Food Research
Online ISSN : 2434-3048
Print ISSN : 2432-3357
16 巻
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挨拶
総説
  • 稲田 全規
    原稿種別: 総説
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p4-10
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    運動器は,歩行や生活運動に関わる骨を中心とした広範囲な生体の器官を含む.超高齢社会を迎え,日々よく動き,よく噛んで食べることを維持することは生活の質を維持する上で重要である.骨の健康維持は,運動や食生活などの生活習慣改善が必須であり,機能性食品による運動器系疾患予防の概念に関わる多くの研究報告がなされてきた.本総説では,これら機能性因子のうちで,柑橘由来ポリメトキシフラボノイド(PMF: polymethoxyflavonoid)の骨への作用に焦点を当てて概説する.柑橘由来PMF は,抗酸化作用をはじめとした様々な生理活性を持つことが明らかとなっているが,骨代謝に対するこれらメカニズムについては不明な点が多く残されていた.一方,90 年代には臨床疫学的にノビレチンには骨量維持作用があることが発見され,著者らはこの報告以降,ノビレチンをはじめとした種々のPMF を用いた臨床疫学のエビデンスに基づいた基礎研究を進めてきた.これら結果より,PMF の多くはNF-κB の活性化を抑制し,プロスタグランジンE2産生,破骨細胞分化誘導因子であるRANKL の発現および破骨細胞形成を抑制することを見いだしてきた.

    本総説では,PMF による骨代謝調節作用について,細胞を用いた機能性評価から柑橘の質量分析イメージング法までの知見を紹介し,機能性食品による健康増進について考察する.

  • 山本(前田) 万里
    原稿種別: 総説
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p11-20
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    2015 年に施行された機能性表示食品制度は,生鮮食品も対象となった届け出制で「身体の特定の部位の表現」や「主観的な指標による評価」が認められた.2020 年3 月16 日現在2,801 品目あり,そのうち生鮮食品では,みかん(機能性関与成分はβ-クリプトキサンチン;骨の健康の維持),大豆もやし(イソフラボン;骨の健康の維持),リンゴ(プロシアニジン;体脂肪低減),メロン,ブドウ,バナナ(γ- アミノ酪酸<GABA >;高めの血圧低下,記憶力の維持),カンパチ,ぶり,卵(DHA/EPA;血中脂質低減),米,トマト,ケール(GABA,ルテイン;目の健康の維持),ホウレンソウ(ルテイン),唐辛子(ルテオリン;血糖上昇抑制),メロン(GABA;精神的ストレス緩和),鶏胸肉,豚肉(イミダゾールジペプチド;ストレス緩和)など62 品目が,また,単一の農林水産物のみが原材料である加工食品では,緑茶(メチル化カテキン;ハウスダストによる目や鼻の不快感軽減),冷凍ホウレンソウ,蒸し大豆,大麦,無洗米,みかんジュース,数の子,寒天などが届け出・受理された.

    2019 年3 月にガイドラインの修正が行われた.生鮮食品に関わる主な修正点は次のとおりである.生鮮食品について,機能性が報告されている一日当たりの機能性成分の摂取量の一部(50% 以上)を摂取できると表示可能になったこと,届け出確認の迅速化,軽症者データの取り扱い範囲の拡大,専ら医薬品として使用される原材料を元から含む生鮮食品や加工品について届け出しようとする食品の機能性関与成分が「専ら医薬品リスト」に含まれる場合の消費者庁における確認過程の明確化(医薬品に該当しなければ上記リストに記載されていても機能性表示食品として届け出可能<成分例:デオキシノジリマイシン,γ- オリザノール>),届け出対象成分の拡大など.今後の生鮮食品開発では,機能性関与成分のばらつきに対する栽培・加工的制御技術開発,農産物の全数検査システムの開発,複合的な作用の検証方法,消費者が「食による予防,医食同源」の考え方を身につけて機能性食品を適正に喫食するための教育と消費者への正しい情報発信などの課題がある.

  • 清水 孝彦
    原稿種別: 総説
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p21-27
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    ミトコンドリアは,好気的エネルギー産生の場であり,活性酸素種(reactive oxygen species, ROS)の産生母地でもある.加齢に伴うミトコンドリア機能低下は,細胞運命を左右するため,抗老化研究の標的となる.ミトコンドリアでの生理的な酸素代謝で生じた活性酸素の基点物質スーパーオキサイド(O2・-)はsuperoxide dismutase (SOD)の触媒作用で速やかに処理される.細胞内には,細胞質にSOD1 が,ミトコンドリアマトリックス内にSOD2 がそれぞれ構成的に発現・局在し,細胞内のO2・-濃度を適切に維持している.われわれは,遺伝子改変マウスを用いた解析から,細胞質SOD1 欠損,もしくはミトコンドリアSOD2 欠損によるレッドクス制御破綻が,細胞死や細胞老化様の変化を示し,さらに全身の様々な臓器に萎縮や機能不全をきたすことを明らかにしてきた.いずれのマウスモデルも早期老化や加齢様疾患を呈することから,酸化傷害を起点とした老化モデルマウスとなる.また明確な臓器老化を示すため,薬剤や食品成分の科学的評価が可能である.本総説では,モデルマウスの最新知見と機能性食品因子の具体例を紹介し,老化制御の可能性について論じたい.

  • 野村 義宏
    原稿種別: 総説
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p28-34
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    変形性膝関節症(knee OA)モデルの紹介とコラーゲン摂取による効果について解説した.Knee OA モデルは,自然発症型と外傷性のモデルが報告されている.いずれのモデルも一長一短があり,実験に即したモデルを用いるのが重要である.

    当研究室では,自然発症型kneeOA モデルにコラーゲン加水分解物を投与した研究を報告している.加水分解コラーゲン摂取によりOA 症状が改善しており,その効果は血中移行したコラーゲン特有のペプチドに寄る可能性があることを示している.

  • 出雲 貴幸
    原稿種別: 総説
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p35-39
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    超高齢化社会を迎えた日本において,健康上の問題で日常生活が制限されることなく生活できる期間,いわゆる健康寿命の重要性が提唱され,平均寿命と健康寿命の乖離を短縮することが大きな課題と考えられている.要介護の主な原因のうち「高齢による衰弱」,「骨折・転倒」,「関節疾患」など,運動器の障害がおよそ40%を占めるという背景から,近年,「運動器の障害のために移動機能の低下をきたした状態」としてロコモティブシンドローム(ロコモ)が定義され,食習慣や運動習慣を中心とした生活習慣の改善によるロコモの予防に関心が高まりつつある.

    一方,機能性表示食品制度の開始により,科学的根拠に基づく機能性を有した食品の開発が注目を集めている.なかでも生活習慣の改善を主とするロコモ対策市場においては,多様な機能性表示食品が展開されており,超高齢社会の中では今後もますます注目度が高まることが想定される.サントリーウエルネス株式会社では,運動器(関節・筋肉・骨)の老化研究に注力しており,なかでもグルコサミン含有食品のヒト有効性エビデンスの取得に主眼をおき,ロコモ対策に向けた機能性表示食品の研究開発を行っている.本稿では,弊社が開発したひざ関節機能ならびに歩行速度に着目した機能性表示食品に関して,ヒトのエビデンスを中心に紹介したい.また今後の研究開発方向性についても触れたい.

  • 蒲原 聖可
    原稿種別: 総説
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p40-50
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    新型コロナウイルス感染症(COVID-19)がパンデミック(世界的大流行)となり,ヘルスケアシステムに大きな影響を与えている.COVID-19 の予防法は,原因ウイルスであるSARS-CoV-2 への暴露機会を減らす,宿主であるヒトでの感染に対する抵抗力を高める,の2 つである.機能性食品成分には,抗ウイルス作用や免疫賦活作用,抗炎症作用などを有する成分が知られている.また,これらの成分を含むサプリメントを用いた介入試験により,ウイルス性呼吸器感染症に対する予防や重症度軽減作用が報告されてきた.COVID-19 重症化の機序として,サイトカイン・ストームの関与が注目されている.機能性食品成分の中には,サイトカイン産生調節に働く成分も存在する.本稿では,COVID-19 対策に外挿できる機能性食品成分のエビデンスを概説した.

  • 富成 司, 市丸 亮太, 松本 千穂, 平田 美智子, 宮浦 千里, 新間 秀一, 稲田 全規
    原稿種別: 総説
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p51-56
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    超高齢社会の日本において,食による生活習慣病の予防が注目されている.野菜や果物など農産物に含まれるフラボノイドやカロテノイドなどの機能性成分は,抗酸化作用といった健康維持に効果を持つことが明らかになってきている.液体クロマトグラフィー質量分析(Liquid ChromatographyMass Spectrometry; LC-MS)など,質量分析法は多彩な農産物中の機能性成分の定性および定量分析に広く用いられている.近年,質量分析法で用いられるイオン化法の一つであるマトリックス支援レーザー脱離イオン化法(MALDI)を応用した技術として,質量分析イメージング法(MSI)が開発された.MSI は試料表面をイオン化させ,直接質量分析することにより,任意のマススペクトル中のピークを選択し,試料表面上での分布強度を得ることが可能である.MSI 技術の開発により,様々な化合物の分布解析が農産物の組織切片上で可能となってきた.本研究では,農産物のうちミニトマトの組織切片を用い,MSI による機能性成分の分布解析を行った.これらMSI 技術の進歩により,農産物の成分分布から,鮮度・劣化指標,農薬検出などの評価と農産物の高付加価値を担保する品質管理法への応用が示唆された.

原著
  • 堀本 泰弘, 中谷 祥恵, 齋藤 彩果, 片倉 賢紀, 杉本 直俊, 古旗 賢二
    原稿種別: 原著
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p57-64
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    テオブロミンはキサンチンのメチル誘導体の一種で,カカオ,茶やガラナなどに含まれている.テオブロミンの生理作用として,カフェインと同様に血管拡張作用や覚醒作用などが知られている.最近の研究で,テオブロミンは間葉系幹細胞(MSC)から骨芽細胞への分化を促進する可能性が報告された.そこで,本研究では,テオブロミンの摂取がマウスの骨密度と骨髄中のMSC および造血系幹細胞(HSC)の増殖能および分化能に与える影響を検討した.

    6 週齢の雄性C57BL/6J マウスを通常食,0.05% テオブロミン食の2 群に分け,自由摂食条件下で4 週間飼育した.飼育終了後,右後肢脛骨の骨密度をX線CT で測定した.また,後肢大腿骨および脛骨の骨髄液から採取したMSC の細胞増殖能をWST-1 法で評価した.骨芽細胞への分化能は,アルカリフォスファターゼ(ALP)活性染色法を用いて評価した.HSC の破骨細胞への分化能は,tartrate-resistant acid phosphatase(TRAP)陽性細胞数で評価した.さらに,骨髄液中のテオブロミン濃度をLC-MS/MS によって測定した.

    テオブロミン食群の骨密度は通常食群と比較して皮質骨で有意に高値を示し,海綿骨では高値傾向(p = 0.0602)であった.テオブロミン食群骨髄由来のMSC の増殖能および分化能は通常食群と比較していずれも1.3 倍で有意に高値を示した.HSC の分化能は,テオブロミン食群で通常食群と比較して低値傾向(p = 0.1055)であった.骨髄液のテオブロミンは,テオブロミン食群でのみ検出されたが,18.9 ± 5.6 pg/mL と低濃度だった.

    これらの結果から,継続的なテオブロミン摂取が間接的にMSC の増殖能と骨芽細胞への分化能を高め,一方でHSC の破骨細胞への分化能を抑えることにより,骨密度を増加させる可能性が示唆さ

    れた.

  • 中谷 美咲, 関 洋子
    原稿種別: 原著
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p65-74
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    野菜や果物は長時間の保存が難しく,一般的には野菜はピクルスや漬物,果物はジャムに加工して保存されてきた.しかし,加工の際の酸処理や加熱によって,野菜・果物に含まれる酵素を不活性化してしまう,加熱により総ビタミンC 量が低下するという問題があった.そこで最近では果物や野菜を生のまま砂糖漬けにして発酵させることで,有用な物質の破損なしに加工・保存する方法がある.果物や野菜を砂糖漬けにすることで,数日で野菜や果物から出てきた水分で砂糖が溶け,シロップ漬けの状態となる.このシロップは酵素シロップと呼ばれ,発酵による有用成分の増加および機能性の向上,がん細胞増殖抑制作用が期待できる.そこで,本研究ではりんごを利用した酵素シロップに着目し,発酵によるがん細胞増殖抑制作用,抗酸化作用,α-グルコシダーゼ阻害作用を調査した.また,発酵に関与している微生物の同定を行った.

    りんごは青森県の早生ふじりんごを用い,16 分割にした後,1.1 倍の砂糖と共にガラスの容器で2 週間室温に保存し,発酵7 日目と14 日目のシロップを用いてマウス白血病細胞株P388 の細胞増殖への影響,抗酸化活性,α-グルコシダーゼ阻害活性を測定した.

    がん細胞増殖抑制作用を評価するため,細胞数を調整したマウス白血病細胞株P388 に発酵7 日目と14 日目の酵素シロップまたは滅菌水を添加し,37°C で7 日間5.0% CO2 環境で培養し,p388 の細胞数を比較した.酵素シロップの抗酸化作用はDPPH ラジカル消去活性を,α-グルコシダーゼ阻害作用はα-グルコシ ターゼ阻害活性を測定した.発酵に関与している微生物を同定するため,酵素シロップを適宜希釈し標準寒天培地に塗抹し,35℃で2 日間培養した.2 日後,出現したコロニーの微生物同定を行った.

    その結果,がん細胞増殖抑制作用の評価では,発酵7 日目および14 日目の酵素シロップでp388 細胞の増殖抑制効果が確認された.抗酸化作用の評価では,酵素シロップの抗酸化活性と比較してリンゴ自体の抗酸化活性で高い値が確認された.α-グルコシダーゼ阻害作用の評価では,発酵7 日目および14 日目の酵素シロップで高いα-グルコシダーゼ阻害活性が確認された.また,発酵に関与した微生物を同定した結果,相同値97%でMetschnikowia pulcherrima であった.以上のことからリンゴを利用した酵素シロップはがん細胞増殖抑制作用,α-グルコシダーゼ阻害作用が確認され,発酵に関与している微生物はMetschnikowia pulcherrimaであることがわかった.

  • 小山 千尋, 辰田 ひかり, 福原 由実子, 平岡 るい, 永峰 賢一, 竹之内 明子, 義澤 克彦
    原稿種別: 学位論文
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR191202-1
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    [早期公開] 公開日: 2020/02/21
    ジャーナル フリー

    網膜色素変性症(RP)は最終的に失明を来す代表的な眼科疾患で,酸化ストレスに起因した視細胞のアポトーシスが関与する.根本的な治療法はなく,この病態の理解と治療法の確立が必要である.われわれは抗酸化作用のあるアセロラ(ニチレイ・アセロラパウダーVC30)を用いて,N- メチル-N- ニトロソ尿素(MNU)誘発ラット網膜変性症モデルおよび遺伝性網膜変性症マウスモデルでの病態抑制効果を検証した.

    7 週齢の雌SD ラットに生理食塩液もしくは50mg/kg MNU を単回腹腔内投与した.蒸留水(DW)もしくは4,8% アセロラ水(AW)をMNU 投与の3 日前から解剖日まで2mL/ 匹を1日1回,MNU 投与日は1 日3 回強制経口投与した.MNU 投与後7 日に眼球を採取し,網膜の形態学的評価(視細胞比率,網膜障害率)を実施した.その結果,MNU 群と比べ,MNU+8%AW 群では辺縁部網膜における視細胞比率減少の有意な抑制が認められた.

    同モデルを用いてMNU 投与後10,24 時間あるいは7 日の眼球および血清を採取し,メカニズム解析を実施した.DW もしくは8%AW を同様のスケジュールで投与した.眼球はTUNEL 法ならびに各種免疫染色(γH2AX,ロドプシン,PDE6β,HO-1,TG)を実施し,血清はd-ROMs 法により酸化ストレス度を測定した.その結果,MNU 群と比べ,MNU+8%AW 群ではMNU 投与後24 時間の視細胞においてTUNEL およびγH2AX 陽性細胞数(アポトーシスの指標)の減少が認められた.また,HO-1 およびTG陽性細胞数(酸化ストレスの指標)の減少が認められた.MNU 投与後7 日ではロドプシンおよびPDE6β陽性像(網膜機能の指標)の広範囲にわたる残存が認められた.MNU 投与後10 時間で血清酸化ストレス度が有意に軽減した.

    C3H 新生仔マウスに生後8 日齢から解剖日まで0.1mL/ 匹のDW もしくは4%AW を隔日または連日腹腔内投与した.生後13 および17 日齢に眼球を摘出し,網膜の形態学的評価(視細胞比率)を実施した.その結果,C3H マウス13 日齢の辺縁部網膜において,DW 投与群と比較して4%AW 連日投与群で視細胞比率減少の有意な抑制が認められた.

    以上より,異なるRP動物モデルのMNU誘発ラット網膜変性症および遺伝性網膜変性症マウスモデルでAW による病態抑制効果が認められ,その効果はAWによる網膜での酸化ストレス抑制が関与したと推察された.

  • 辰田 ひかり, 小山 千尋, 竹之内 明子, 吉岡 正浩, 赤木 良太, 丸尾 俊也, 鈴木 利雄, 圦 貴司, 義澤 克彦
    原稿種別: 学位論文
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR191212-2
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/09/10
    [早期公開] 公開日: 2020/02/21
    ジャーナル フリー

    網膜色素変性症(RP)は最終的に失明を来す眼科疾患である.根本的な治療法はなく,この病態の理解と治療法の開発が必要とされる.RP は酸化ストレスによる視細胞アポトーシスが関与し,酸化ストレスの軽減はRP 改善効果が期待できる.黒大豆種皮抽出物は高い抗酸化力を持つことから,われわれは黒大豆ポリフェノールを高含有するクロノケア® (クロノケア® SP60, フジッコ株式会社)を用いて,MNU 誘発ラット網膜変性症モデルにおける病態軽減効果を検証した.1, 2, 4% クロノケア® 水溶液の抗酸化力はOXYadsorbent test(OXY 吸着法)で測定した.その結果,クロノケア® 水溶液は濃度依存的な抗酸化力の増加を認めた.次に,7 週齢の雌SD ラットに50mg/kg MNU を単回腹腔内投与し,4 週齢時から解剖日まで0.2% もしくは2% クロノケア® 含有食を自由摂餌させた.MNU 投与後48 時間に眼球を摘出し,視細胞比率を算出した.MNU 単独群と比較して,2% クロノケア® 併用群で視細胞比率減少の軽減傾向がみとめられた.同じモデルを用いて,2% クロノケア® 含有食を同様のスケジュールで自由摂餌させた.MNU 投与後24 時間および7 日の眼球を摘出し,TUNEL 法ならびに各種免疫染色を実施した.MNU 投与後24 時間の2% クロノケア® 併用群では,MNU 単独群と比較してTUNEL およびチミジングリコール陽性シグナルが減少した.MNU 投与後7 日では,ロドプシン陽性像が網膜外層に広く残存した.以上の結果から,クロノケア® SP60 はMNU 誘発ラット網膜変性症モデルの病態を軽減した.その効果は網膜での酸化ストレス軽減が関与したと示唆された.クロノケア® はヒトRP の病態軽減効果が期待できるかもしれない.

  • 蒲原 聖可
    原稿種別: 原著
    2020 年 16 巻 論文ID: FFR2020_p97-103
    発行日: 2020/08/11
    公開日: 2020/09/10
    ジャーナル フリー

    背景:地方自治体とヘルスケア企業との公民連携による健康寿命延伸産業創生および課題解決型保健事業の取り組みが散見されるようになった.

    目的:公民連携による健康づくり事業としての非対面型減量プログラム「さかいまちメタボ脱出プロジェクト」(茨城県境町)の有用性を検証する.

    方法:茨城県猿島郡境町在住の成人肥満者を対象に,ICT(Information and Communication Technology;情報通信技術)対応・非対面型減量プログラムを構築し,2017 年11 月から2018 年2 月の間に,機能性食品素材を含むフォーミュラ食(置き換え食)の利用を通じた,肥満改善施策を「さかいまちメタボ脱出プロジェクト」として実施した.本プロジェクトでは,(1)管理栄養士を中心とした医療有資格者による非対面型支援,(2)1 日1 食を目安にフォーミュラ食を利用,(3)減量に関する啓発情報の定期配信,(4)運動の啓発動画を提供,(5)低エネルギー食品や機能性食品成分の利用に関する案内を行った.なお,フォーミュラ食として用いた「DHC プロティンダイエット」の標準的な製品は,1 袋50 g 当たりのエネルギー量が167 kcal であり,タンパク質20.1 g,推奨量の約3 分の1 のビタミン類およびミネラル類,その他の機能性食品素材を含有する.また,希望者に対して,プログラム実施前後において,腹部CT撮影による内臓脂肪面積を測定した.さらに,プロジェクト終了時に,住民参加型イベント「さかいまちダイエットアワード」を開催した

    結果:87 名(男性42 名,女性45 名,平均年齢47.2 歳)がプロジェクトを完了した.12 週間のプログラム前後の変化(mean ± SE)は,BMI(kg/m 2 )が29.0 ± 0.3 から27.1 ± 0.4 へ,体重(kg)が77.0 ± 1.3 から71.4 ± 1.3 へ,腹囲(cm)が96.1 ± 0.9 から89.1 ± 0.9 へ,それぞれ有意に減少した(p<0.01).なお,参加者全員の減量の総計は,12 週間で337.8kg に達した.さらに,52 名が腹部CT撮影による内臓脂肪面積の評価を受け,介入前の145.62 ± 7.62 cm 2 から,介入後に119.65 ± 8.04 cm 2 へ有意な減少を認めた(p<0.01).

    考察:肥満の改善という行政課題に対する取り組みとして,公民連携による健康づくりとして,非対面型減量プログラムを実施し,一定の有効性が認められた.今後,ファンクショナルフード素材を扱うヘルスケア企業の可能性として,公民連携に基づく健康寿命延伸産業創生および課題解決型保健事業の取り組みを継続する.

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