針葉樹における自殖由来の実生苗は、近交弱勢の影響により、生存率や成長が他殖由来の実生苗よりも劣ることが多い。しかし、自殖しても実生苗の生存率や成長が他殖とほとんど変わらない個体群も存在する。本研究では自殖率が高いことで知られる房総丘陵のヒメコマツについて、個体群サイズの異なる 2個体群を対象とした。 SSRマーカーで天然生の実生苗の交配様式を明らかにした上で交配様式と個体の大きさおよびマツ材線虫病抵抗性との関係を調べた結果、サイズが比較的大きな個体群では、他殖に比べて自殖由来の実生苗は小さく、マツ材線虫病抵抗性は低かった。一方、サイズが小さな個体群では、個体の大きさや材線虫病抵抗性に対して、交配様式は有意な影響を与えていなかった。以上の結果から、小さな個体群の天然生種子を用いて種苗生産した場合、育苗の過程で自殖苗が除かれない可能性があり、遺伝的多様性の保全の観点からは問題があると考えられた。
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