マツ科トウヒ属のヒメバラモミは、推定個体数が2,000以下と少ないことから、国の絶滅危惧II類に指定されている。これまで積極的な保全対策がなかったことから、大部分の自生地を管理する中部森林管理局によって、2010年にヒメバラモミ遺伝資源林が八ヶ岳の西岳国有林に設置された。ほぼ分布域全体から採取された穂木から接木苗が増殖され、産地によって区分した遺伝資源林( 八ヶ岳地域由来の北区:9産地69クローン372本、南アルプス地域由来の南区:9産地65クローン372本) に植栽された。植栽7年後の2017年には、累積生存率80%、平均樹高228 cmに成長し、ほぼ順調に生育していることが確認された。しかし、南区の2015-2017年の平均枯死率は1.9 % y-1であり、2050年までに植栽時の372本から138.7本に減少することが予想された。また、全体ですでに消失した13クローンに加え、2050年までに5.8クローンの減少が予想された。採穂木の直径と接木活着率とは負の相関が見られることから、現在遺伝資源林で成長している若木から穂木を採取すれば、老齢で太い採穂木から採取するよりも高い活着率の接木苗木の生産が見込まれる。そして、再増殖した苗木を遺伝資源林に補植することで、遺伝資源林の保有クローン数は維持されると考えられた。
抄録全体を表示