セルロースーピラノーズ環に含まれる3個の水酸基の水分吸着能の相違を検証するため,酢化度の相違した一連のセルロースアセテート試料について,それらの等温水分収着曲線および水分収着熱を,絶乾から飽和の全域にわたって, 30°Cの恒温において測定した。なお試料は再生セルロースおよび三酢酸セルロースを両端に含み,各水酸基の酢化置換度が独立に定量されたものである。
従来これら親水性試料の等温収着曲線の解析に慣用されてきたB. E. T.の多分子層吸着式は,特に関係湿度5%以下の低湿領域では,セルロースアセテー卜類のみならず,厳密にはセルロース自身についても成立せず, D'Arcy-Wattの複合収着式で多分子層(クラスター)形成項を省略した, 2つのLangmuir項と1つの直線項をもつ3成分式が比較的よく適合することが判明した。結果として,大きい吸着エネルギー因子をもつLangmuir項が6位の炭素に結合した水酸基による吸着,小さい吸着エネルギー因子をもつLangmuir項が2, 3位の炭素に結合した水酸基による吸着,さらに直線項が置換酢酸基による吸着に対応するものと同定された。
さらにこれら試料の絶乾状態における微分収着熱を求め,これが各極性吸着座席の微分収着熱の単なる加成式で与えられると仮定し,逆に6位炭素に結合した水酸基, 2, 3位炭素に結合した水酸基,および置換酢酸基の微分収着熱を算出し,これらが液相水1グラム当りそれぞれ383, 320および180calとなり,上の3種の水分収着機構の同定と少くとも定性的に一致することを示した。
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