1, 4-ジアミノアントラキノン(分散染料)のナイロン6フィルム中の拡散係数(D
f)を膜内の染料の濃度分布(プロファイル)と膜中から水中への脱着速度の解析によって求めた。プロファイルから得られたD
fは同じ条件の脱着速度から得られたそれの約2倍であった。
この不一致の原因を明らかにするために吸着等温線とプロファイルを60, 80及び90°Cで測定したところ,吸着等温線は直線ではなく,上に凸な曲線となり,膜中の染料濃度(C
f)の関数としての拡散係数(D
(C))はC
fと共に減少した。
測定された吸着等温線とプロファイルを解析したところ,染料が分配則とラングミュアー吸着の二つの機構によって基質内に取り込まれるとする二元収着モデルによって測定された結果が良く説明できることが分かった。
分配機構によって基質内に取り込まれた染料(溶解種)とラングミュアー機構によるそれ(吸着種)の吸着・拡散挙動は次の様に異なる。
(1)基質中の溶解種の濃度(C
p)と吸着種のそれ(C
L)を比較すると通常はC
P〓C
Lであるが,基質中の染料濃度(C
F=C
P+C
L)が減少するとC
p/C
Lの比は次第に減少する。即ち,染料濃度の低いところでは吸着種の基質内の振舞が染料の見かけの吸着・拡散挙動に大きな影響を与える。
(2)溶解種の拡散孫数(〓)は各温度において吸着種のそれ(〓)の約2.5倍であった。C
fの関数としての溶解種の拡散係数の(D
P(C))はC
fと共に減少し,吸着種のそれ(D
L(C))はC
fの減少と共に増加する。従来,分散染料のD
fはC
fに依存せず一定とされていたのは80-90°Cの高温ではD
PとD
Lの相補性によってC
fが高~中の範囲でD
(C)がほぼ一定となるためであることが分かった。
測定方法によって異なるD
fが得られる原因を二元収着モデルで説明した。
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