要旨:アセトアミノフェン(acetaminophen:AAP)は,一般に非ステロイド性抗炎症薬(non-steroidal anti-inflammatory drugs:NSAIDs)と比較して副作用が少ない解熱鎮痛薬として,高齢者や肝腎機能障害を有する患者にも頻用されている。一方で肝障害の副作用が知られ,肝疾患のある患者では1,500 mg/日以下とすべきであると記載されている。今回,常用量AAPによる昏睡型肝不全の一例を経験したので報告する。症例は意識障害を主訴に当院へ救急搬送された73歳の女性。左変形性膝関節症に対して,左膝関節全置換術施行後もAAP 1,200 mg/日の内服を2カ月間継続していた。搬送時にJapan Coma Score (JCS) 200の意識障害と黄疸,全身性浮腫を認めた。高度の肝機能障害と凝固障害,肝萎縮があり,昏睡型急性肝不全と診断し加療を開始した。集学的に加療を行ったものの,第7病日に痙攣が出現し呼吸状態悪化に伴い亡くなった。本症例はAAPによる薬物性肝障害(drug-induced liver injury:DILI) であったと判断した。以前より指摘されていた非アルコール性脂肪性肝疾患(nonalcoholic fatty liver disease:NAFLD)と高齢により,DILIのリスクが高かったと考えた。本症例のようにDILIの危険性のある症例では,定期的な肝機能検査の施行や,症状改善に伴う頓服への変更または減量が推奨される。
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