入会林野研究
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40 巻
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  • 表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化法の実施に求められること
    高村 学人
    2020 年 40 巻 p. 5-20
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    所有者不明土地問題を解決する立法の一つとして表題部所有者不明土地の登記及び管理の適正化法が制定された。本稿では、この法が入会に由来する土地に与える影響を考察し、入会集団の力を活かす法実施のあり方を提唱する。所有者不明土地問題は、入会地の全面積を所有者不明土地にカウントし、入会集団のほとんどが既に消滅したとの事実認識に立っている。この認識は誤っているが、それに起因して入会地に対しても利用の実質を見ず、登記上の名義にのみ注目し、その変則をトップダウン的に解消することを法は目指している。今後、字名義の土地を市町村帰属と見做したり、ポツダム政令の効力を拡張する見解・運用が一般化した場合、入会地の多くが機械処理的に公有化される恐れがある。本稿は、このような法運用ではなく、入会地を利用してきた地縁的結合を法的に組織化し、他の政策も併せて動員することで土地の共同管理の担い手へ再生させる法実施を行うべきことを主張する。最後にそれに向けた既存の法制度の活用法と研究上の課題を提示する。
  • 近年の紛争例、英国の立法を参考に
    鈴木 龍也
    2020 年 40 巻 p. 23-34
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    本報告は、近年の入会訴訟(財産区に関する訴訟も含む)およびイギリス(基本的にイングランドのみに対象を絞る)のコモンズに関する立法の分析から示唆を得て、日本の入会林野のガバナンスに今何が必要とされているか考察するものである。近年においても入会や財産区がかかわる訴訟のうちのかなりの部分を「開発」に起因する訴訟が占めている。また、最近は財産区の適切な管理を求める市民からの請求が、住民訴訟という形で行われるようになってきている。これらは入会団体内部の構成員および外部の市民からの現状の入会財産管理に関する異議申立である。イギリスでは、コモンズの管理不全に対応すべく立法へ向けた努力が継続されてきた。その過程では、コモンズの所有者やコモナーの利害に加えてコモンズへの市民のアクセスや動植物の保護、農地や林地としての利用など様々な利害をどのように調整するかが問われてきた。これら2つの対象に関する検討から示唆されるのは、今後の入会地の管理にとって、入会地にかかわる様々な公益の内容および優先順序に関する社会的な合意を形成すること、そして具体的な場でそれら様々な公益を調整しうる有効な枠組みを作り上げていくことが喫緊の課題となっているということである。
  • 高橋 卓也
    2020 年 40 巻 p. 36-39
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/01
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    2019年7月にペルー・リマで開催された国際コモンズ学会世界大会への参加について報告する。大会のテーマは、「コモンズを守る:挑戦・イノベーション・行動」であった。参加者の顔ぶれとしては、米国、ペルー、ブラジル等の南北アメリカ大陸からの研究者・実践者が多かった。主に対象とする資源としては、地元である南アメリカ大陸の湿潤な生態系に加え、開発公害など課題も多い鉱業資源が想定されていた。さらに発展途上国で急速に進む都市化にともなう課題にも関心が寄せられていた。対象とする主体としては、先住民を含む社会の下積みとされてきた人々に焦点を当てていた。以上の話題以外にも世界中の共有資源に関する数多くのセッションがあったが、本稿では会員が参加したか、または森林をテーマとしたセッションの報告タイトルを通覧した。そのうえで大会全体の感想として、次の4点を挙げた。1. 森林、水、生物多様性がつながったものとして考えられている。2. 情報、知識の重要性が強調されている。3. 法的権利が重要なテーマ。4. グローバルとローカルによる国家の挟み撃ち戦略の有効性。
  • 伊藤 勝久
    2020 年 40 巻 p. 58-61
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/07
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  • 牛尾 洋也
    2020 年 40 巻 p. 62-66
    発行日: 2020年
    公開日: 2021/04/07
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  • 中日本入会林野研究会40年の議論を通して
    川村 誠
    2020 年 40 巻 p. 67-77
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/01
    ジャーナル オープンアクセス
    中日本入会林野研究会は発足以来40年を経て、この間、激動の入会林野を直視してきた。しかし、その変化はあまりにも大きく、議論は尽きない。本稿では、入会林野の法人化を“縦糸”に、入会林野利用における造林への転換を“横糸”に織り込んで、将来に引き継ぐべき研究の課題の一端を明らかにしようとした。そのため、生産森林組合への法人化に関わる議論に止まらず、入会林野利用が造林に始まる林業生産へと転換したことに注目し、その変化が生産森林組合に与えた影響を論じた。その結果、生産森林組合の理念である「所有と経営の一致」を維持することは難しく、むしろ、分収契約による「所有と経営の分離」に至ったことを指摘した。さらに、昨今、林政サイドの立法による経営権譲渡の動きに対して、経営権の譲渡に走らず、生産森林組合として新たな林業生産に取り組むべきものとして、林業の方向を論じた。
  • 幕府評定所の入会裁判(3)
    後藤 正人
    2020 年 40 巻 p. 78-82
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/01
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    幕府評定所の入会裁判の3回目として、2つの入会裁判を検討した。第1の入会裁判は下総国香取郡下の2つの村の間での争論である。この両村は、現在で言えば共に千葉県香取郡神崎町に属する。第2の入会裁判は、下総国海上郡の4か村と同じ海上郡の1か村との間の争論である。この村々は全て現在の千葉県銚子市内に属している。特に数村入会地に負担金がある場合に、入会「権」の範囲は一般に各村高に比例することになり、更にこの村高の増加は村方の一方的な主張では認められず、幕藩領主によって認められることが必要とされた。また前2回では、評定所の裁判史料は「裁許之事」と出て来た。但し豆州賀茂郡下の入会訴訟は、その中では「取替證文之事」である。今回も「取替證文之事」とある。裁判官の苗字・官名は消えたが、「證文取替」を行った双方の「代表者」の名前が出てくるのは有益である。更に当事者たちがどういう点を認め、或いはどういう誤りを認めて謝り證文を出したとか、さらに裁判所が依って立つ文書や絵図面・線引などに対する村民たちの法知識や法意識を窺うことも出来る。
  • 入会林野研究との比較を手掛かりとして
    峰尾 恵人
    2020 年 40 巻 p. 83-99
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/05/01
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    寺社は、古代から森林を所有し、宗教的な原理を反映した森林の管理経営を行う主体である。本稿では、入会林野研究との比較によって、寺社林に関する先行研究の動向の特徴を明らかにした上で、寺社有林に関する唯一の網羅的な資料である農林省山林局編『社寺林の現況』に検討を加え、「寺社と森林」研究の今後の課題について論じた。寺社林に関する先行研究は、入会林野研究と比べて、①量的に少ない、②論点とアプローチが多様で自然科学分野からの研究の比率が高い、③寺社側の視点が弱い、④著名な寺社や地域の事例に情報が偏在している、といった特徴がある。農林省山林局編『社寺林の現況』は、調査・出版の時期と背景が不明であり、本文中の記載および農林省の資料から、1939年の森林法改正と同時期の1939年頃に作成され、1940年に出版されたものと推測した。「寺社と森林」研究の課題として、公共性を帯びた財をめぐる権利配分や制度設計、伝統木造建造物用材生産の担い手としての寺社の可能性の2点を挙げた。入会林野と寺社有林は、近代化の過程の中で前近代的なものと捉えられてきたが、新たな角度から再評価される時期に来ている。
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