日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
Print ISSN : 0389-9039
23 巻, 2 号
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  • 松村 佳子, 池尾 和子, 岩橋 恭子
    1982 年23 巻2 号 p. 1-7
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小学校における理科の授業展開法の差異が,児童の興味のもち方や理解の仕方に影響を及ぼすと考え, 2年生の単元“おもりで動くおもちゃ”を研究テーマとして取りあげた。“おもりで動くおもちゃ”の授業に関して,奈良・大阪両市の小学校に対してアンケート調査を行った結果,教材の展開順序や授業の方法の違いにより児童が興味を示す対象が異なり,理解の仕方にも差を生ずることがわかった。そこで,この“おもりで動くおもちゃ”を一つの系統的な流れの中で指導する授業研究を試みた。紙で作った輪を用い,遊びと製作活動や,結果を絵や文章で表現させる等の合科的な授業を試みたところ,児童は高学年で学習するてこやてんびん等への理解の基礎を遊びの中で習得していることがわかった。合科的指導をすれば,理科学習に対する意欲が増し,他教科への取り組みもよくなり,人格形成にも良い結果を及ぼすことが期待される。以上のようなことをまとめると,1. 低学年の理科学習の推進のためには,学習に興味をもたせ,十分に遊ばせて,その遊びの中で児童が系統的な変化を見つけ出したり,自主的に遊びを発展させたりできるようにすることが大切である。2. このような指導をするためには,十分な教材研究が必要である。3. 理科学習効果を高めるためには,合科的指導が望ましい。

  • 高橋 成和
    1982 年23 巻2 号 p. 9-18
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    古典から現代科学への懸橋の一端を担った固体の比熱が高等学校「理科I」で取り扱われることは,生徒が科学発展の節目を学び,熱量に関する重要概念を獲得する上から有意義である。本論文は,金属等の比熱測定に関する簡単かつ単時間に行なえる方法を述べ,生徒実験の場の構成を容易にするものである。合せて熱伝導率の測定法も提示し,もの一ここでは球体一の温まり方について考察を加え,熱に関する初・中等理科指導の参考に供する。試料は直径5cmの銅,鋼鉄,鉛,ジュラルミン,エボナイト製球体である。この中心温度が測定できるように,水銀棒状温度計あるいは熱電対を挿入する。まず,室温の試料を沸騰している湯(100°C)の中に入れ温め,熱平衡状態まで待つ。次に,室温の水中に移し,試料と水の温度が等しくなるまで放置する。各定常状態における試料の中心温度を測定し,試料と水の質量と合せ熱量収支より,素材の比熱を求める。また試料を温める過程における温度上昇の経時変化から熱伝導率を求めた。これらの操作から得た比熱・熱伝導率の測定値は他の文献による値と比較して相対誤差10%の範囲にあった。球の温まり方についての議論は,素材の熱伝導率,熱容量と合せ表面での熱伝達が大きく関与することの良き学習題材を提供することが確認できた。

  • 田中 昭夫
    1982 年23 巻2 号 p. 19-26
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    愛媛県内の小・中・高校生を対象に,毎年募集している夏休みの自由研究「児童生徒理科研究作品」のうち,昭和56年度自由研究部門・小学校の部に応募のあった作品をもとにして,その研究素材の調査と分析を試みた。調査件数は812件である。調査は,研究素材を分類することから始めた。分類は, 1研究作品から1研究素材を抽出し,類似した研究素材を1つの研究素材群にまとめ,更に,研究素材群を小学校理科の3区分に分けるという方法で行った。次に,分類した集計表をもとにして,小学校の自由研究で取り上げられる研究素材の実態について考察した。その結果,次のような所見を得た。1) 研究素材は,数・種類ともに,区分Aに属する素材が多く,こん虫・草花などの身の周りの観察が容易なものに集中する。2)児童の学年進行につれて,研究素材の種類が増加する。素材はア授業中の学習素材から応用的な研究素材へ,総合的なものから分析的なものへ,巨視的なものから微視的なものへと移行し,区分Bに属する素材が増加する傾向がある。

  • 松森 靖夫
    1982 年23 巻2 号 p. 27-35
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小学校電気学習において,電気回路は,たいへん重要な概念の1つである,一般に電気回路とは「電源(電池)の両極を,電気を通す線(導線)で切れ目なくつないだ道すじであり, 1つの閉じた図形」として定義できる。また電流が流れるためには,回路が不可欠であり,回路が閉じていないと電流は流れない。従って,磁気作用も発熱作用も生じない。このように,本概念は,直接視覚を用いて認識でき,電気学習の中でも最も基礎的な概念といえる。本研究では,児童の回路概念の認識能力を,空間(図形)認識の立場から調査した。調査結果の分析より次のことがわかったので報告する。1. 回路(形一定)の提示される位置が,回路認識に大きな影響を与えていること。回路の位置が異っても,同一回路として同定できた者は,小2で40%,小3でもわずか55%であった。2. 導線のねじれによる回路認識のつまづきがみられた。導線のねじれ数が多いほど,回路認識は困難になる。3. 回路認識には,次の2つの空間認識能力が必要であること。 a同一回路(形一定)が異なる位置で提示された時,視点の移動を行い,両者を一致される能力 b「導線がねじれていても,閉回路であれば,豆電球は点灯する」というトポロジカル空間認識能力

  • 池田 俊夫
    1982 年23 巻2 号 p. 37-46
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    自然界を総合的に理解するためには,「相互に作用し依存しながら,多くの構成要素が全体として一つのまとまりを作りつつ常に動的平衡を保っている」という,自然を一つの閉じた「系」として考える「系概念」の体得が必要である。新しい高等学校「理科I」のねらいもここにある。筆者は,このような「系概念」を高等学校「理科 I」の学習内容の中で生徒がどのように認識しているかを探るため「系概念」に対する一つの見方を提唱して,「水」を核にした新しいカリキュラムの開発を行い,さらに試行的授業を実施して,その前後の認識の変容度を調査研究した。その結果,以下の事項が明らかになった。(1)学習索材にとりあげた「びわ湖」を,生態系を視点にして一つの「系」という見方で理解し認識する学習者の数の増加が見られた。(2) 環境保全,自然回復の将来の見通しは暗いと予想する生徒が増大しているが,このことは不十分ではあるが自然を一つの「系」として理解し認識した結果である。(3) 社会に生じる環境問題について,直接的に短絡的に思考する生徒が多く,総合的にみる見方・考え方の育成がいまだ十分ではない。(4) 「自然とは何か」,「自然をどうみるか」という,高校生らしい素朴な自然観や価値観を正しく身につけさせる必要がある。

  • 栗田 一良
    1982 年23 巻2 号 p. 47-56
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    アメリカのNSTAが1981年に出版した冊子What Research Says To The Science Teacher (Volume 3)は,アメリカにおける理科教育の現状を膨大な資料に基づいて客観的に分析し,その平均的な実態を明らかにし,いろいろな問題点とそれらの解決策を提言したものである。これは次に述べる諸点において,わが国の理科教育の進路や研究方法について,問題を提起したり参考資料を提供したりするものと思われるので報告する。①わが国の理科の現代化運動は,アメリカのカリキュラム改革運動に触発されて起ったが,本拠地のアメリカでその後この運動がどのように評価されているかを,ある程度知ることができる。②彼等のカリキュラム改革運動への反省点は,わが国の理科教育に対して若干の示唆を与える。③カリキュラムの評価とその改善ほ,極めて重要なことであるが困難な作業である。本研究は,その研究過程がユニークであり,研究方法論の一つのタイプを提供するものと思われる。④ 理科教育の研究方法として,定性的(質的)総合的方法論を導入しているが,この方法論は理科教育の研究に多くの示唆を与えるように思われる。

  • 森本 信也
    1982 年23 巻2 号 p. 57-64
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    第 1報において報告されたProject Synthesisの「探究学習グループ」の研究成果を紹介する。アメリカにおいて,探究学習理論は,理科教育改革運動以来20年経過した今日においても継承・発展させられている。しかし,理論と現実との間には幾つかの問題点が存在している。そのため,このグループは,次の三つの手続きを経て,問題の所在を明確にし,探究学習を発展させるための幾つかの提言を行なっている。(1)探究学習の望ましい状態の設定 探究学習が成立するための環境条件を分析する。たとえば,カリキュラム,教師,施設・設備,地域社会の意見等である。もし,これらの諸条件が整備されていれば,探究学習の望ましい状態の設定が可能になる。(2)探究学習の実態の分析 探究学習の実態が,教員養成,地域社会の意見,生徒の学力等の観点から分析されている。探究学習を支えるこれらの諸条件の整備は,不充分であるということが結果であった。(3)探究学習の望ましい状態と実態とのギャップ及び探究学習推進のための提言 理論と現実とのギャップを埋めるためには,探究学習の目標を次のように設定する必要がある。すなわち,探究能力の育成は,生徒一人ひとりの差異,個人の目標及び社会の要請を考慮しながら行なわれなければならない。

  • 木谷 要治
    1982 年23 巻2 号 p. 65-74
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    1. 関心・態度の評価には,個々の児童・生徒の情意面のふるまいを客観的にとらえるための用具が必要である。先にクロッファーは,情意面の構造図を作っており,生徒のふるまいを位置づける方法を示している。しかし,この構造図にも,生徒のふるまいの例にも若干の問題点がある。筆者は,日本の小中学校の実情にあうように表と例文をつくりなおしてみた。2. 実際の指導に際しては,望ましい関心・態度を育てるという目的にそって,テストによる指導的効果をあげることも目的の中に含めた関心・態度測定用のペーパーテストを行うことも必要である。そのための問題も試作してみた。3. 実際に関心・態度を客観的な方法で評価することの必要性は,実際に野外で露頭の観察をしたクラスとそうでないクラスの学習意識の比較調査でも明らかになった。野外で観察したクラスは,実施しなかったクラスに比べて格段に意欲的であろうと予想して調査してみたが,小学4年から中学3年までの各学年の意欲をみると,上級に進むにつれて意欲的でなくなっていく傾向がみられた。一度だけの野外実習では,野外での活動に意欲的になるとは即断できないし,また,野外での活動の際のふるまいのみでは,関心・態度ははかれない。やはり,あらかじめ用意した評価方法で評価してみることが必要である。

  • 酒見 次郎
    1982 年23 巻2 号 p. 75-80
    発行日: 1982年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    中学から高校へと学年が進むにつれて理科嫌いの生徒が増えていく傾向は特に物理の分野において著しく,その原因は内容が抽象的であることに因ると聞く。しかし高学年になると共に抽象的になっていくのは避けられないことなので,それを分かりやすく教える工夫が必要である。ここでは「運動量」と「運動エネルギー」という抽象的で分かりにくい概念について,先ずこれらの概念を明確にするために両者の違いを分析し,次に分かりにくいと思われるところをどう考えれば分かりやすくなるかを研究した。現象は必ず時間と空間に関連して起こるが,運動量は力の時間的効果を表わし,運動エネルギーは力の空間的効果を表わしている。このことを分かりやすく図示し,そして真上に投げ上げられた物体の運動と,二物体の衝突を例にとって,運動量と運動エネルギーが保存されたり保存されなかったりするのは,時間と空間の性質の違いに起因することを示した。運動量と運動エネルギーが分かりにくいのは,物体がある速度で運動しているという一つの現象に対して,運動量と運動エネルギーという二つの量が対応していることに抵抗を感ずるからであろうと思われる。これについては,始めに静止していた物体が一定の力を受けながらある速度で運動している瞬間の運動量と運動エネルギーを,それまでにかかった時間と動いた距離に置き換えて考えれば,類推によってそのような抵抗を取り除くことができると考えた。

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