日本理科教育学会研究紀要
Online ISSN : 2433-0140
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24 巻, 1 号
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  • 徳永 好治
    1983 年24 巻1 号 p. 1-8
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    大学における教職専門科目「理科教材研究」の教授内容を改善するために,教授前に理科授業(小学校)にたいする大学生の批評能力を調査した。大学生が初めておこなった理科授業にたいする批評の能力は,筆者の予想以上にすぐれていることを認めた。その特徴は次の点である。(1)検討に値する多彩な批評を述べていて,現場の教育に積極的な興味を示し,かつ批評の表現は感性豊かである。(2) 理科授業に期待する教育者(教師)の観点および被教育者(児童)の観点を同時に備えた批評である。(3)しかし,教授前の批評能力であるので当然といえるが,他の教科と異なる理科教育の特質,例えば教材のねらいと構成,児童の自然認識と授業過程の関連などを考慮した批評が極めて少ない。大学生の批評にもとづく共通の研究課題を明らかにしたうえで教授内容を構成したが,その批評経験が学習に効果的に作用し,その結果「理科教材研究」が実践的研究授業として成立して良い効果を生みだした。

  • 石川 正
    1983 年24 巻1 号 p. 9-14
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    理科の探究学習は,生徒中心の個別化された授業を通して,主体的に学習に取り組ませ,理科の本質である基本的科学概念や科学の方法を習得させたり,科学的態度や思考力を育成することにある。そのためには,それぞれの教材に含まれる基本的概念や科学の方法を明確にする必要がある。そうすることによって,指導の重点目標も明確になるし,目標の構造化も可能となる。そこで筆者は,中学校地質領域に含まれる基本的科学概念と科学の方法を洗い出し,それらの構造化を試みた。それは,従来このような試みが,地質領域の教材では,あまりなされていないためである。その結果は,大略次の通りである。(1)基本的科学概念としては,物質概念,エネルギー概念,時間•空間概念が考えられる。これらのうち,物質概念とエネルギー概念を中心とした構造図と時間・空間概念を中心とする構造図の2つにまとめることが適当であるとの結論に達した。(2) 科学の方法としては,観察と記録,データの解釈,分類,推理・推論,条件コントロールと実験.仮説,モデルが考えられ.これらが,地質領域の探究の過程として構造化できる。

  • 松森 靖夫
    1983 年24 巻1 号 p. 15-22
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    前報では,小学校低学年児における電気回路認識能力について考察した。引き続き本報では,小学校高学年児を対象に,電気回路概念の認識能力を空間認識の立場から調査した。調査結果の分析より次のことがわかったので報告する。(1)学年を増すごとに正答率は徐々に上昇し,第 6学年では,各設問で十分な認識状態を示した。また,低学年に比べ,高学年では,各設問の誤答理由が多様化した。(2)回路(形一定)の提示されている位置が,回路認識に大きな影響を与えていること。小4・5 では,約30%の者が,回路の位置にとらわれていた。(3)導線がねじれること自体が, 誤認の主要因であること。また,導線のねじれ方・輪の大きさは,閉回路認識を妨げる直接的要因ではないこと。(4)導線のねじれ数が多いほど,回路認識は困難になること。 「回路がねじれても,閉回路であれば,豆電球は点灯する」というトポロジカル空間的認識能力に欠けた者が多い(小6は除く)。これらの実態に基づき,電気回路学習改善への方策を検討した。

  • 高橋 成和, 波多野 捷二
    1983 年24 巻1 号 p. 23-30
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    電磁作用にかかわる生徒実験において使用する装置は,力が電流のみならず磁束密度にも比例することを探究・検証できるものでありたい。このとき永久磁石による磁束を用い,発生する力が実感として受けとめられるだけの大きさであることが望まれる。このことを満たす実験装置と方法を求め本研究を行なった。まずこの実験に適する磁石を模索した結果,(1)強力なアルニコ製U形磁石では力と電流の比例関係が得られた。しかし(2)磁束発生が弱い磁石では,電流による磁石の磁化のため比例関係が得られない。 (3)永久磁石を用いて磁束密度を整数倍ずつ変えるには,並行した鉄棒を磁極とし,この間にアルニコ製棒磁石を夾み,その本数を変える方法で実現できた。また電磁石でも,(4)有磁心のものは上記(2)のことが起るとどうじに,磁心の磁気的飽和の問題が起った。 (5)空心のコイルにはこのような問題点がなかった。以上の結果をもとに,電流天秤方式の生徒用実験装置を設計・製作した。この天秤の稈は250本の電線を束ねた長方形のコイルで,その支点にはミニチュアベアリングを使用した。この装置は,250本の電線を流れる全電流とアルニコ製U形磁石との相互作用で100gw,鉄棒とアルニコ製棒磁石を組合せた磁石で10gw程度の力の発生を見て,後者については棒磁石の数と力の間に比例関係が得られた。また,地磁気との作用も検出できた。

  • 森本 信也
    1983 年24 巻1 号 p. 31-40
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    カリキュラム評価において,学習者の認知能力を基礎とする研究方法は,従来のカリキュラム評価研究には見られない新しい視点である。英国で開発されたカリキュラム評価プロジェクトCSMSは,この点に関して,幾つかの新しい知見を提示している。本研究においては, CSMSを素材として,わが国におけるこれらの研究方法の有効性と問題点の検討を目的とした。本稿においては,この研究の第一段階として,先ず, CSMSの研究の内容と方法を明らかにすることに努めた。CSMSで取り上げられた課題は,カリキュラム内容とそれを学習する生徒の認知発達段階との適合性を評価することにある。この課題達成のために,このプロジェクトは,次の三つの内容領域に従って研究を進めた。(1) 生徒の認知発達段階を分析するためのピアジェの認知発達理論の有効性の検討。(2) 中等教育段階の生徒の認知発達段階を評価するための方法の開発。(3)カリキュラム内容理解のために必要とされている認知発達段階の評価方法。

  • 佐伯 敬一, 小寺 悦子, 山下 享子, 谷口 和良, 嘉島 信哉, 溝辺 和成
    1983 年24 巻1 号 p. 41-51
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    小学校学習指導要領(昭和52年改訂)によると,回路を流れる電流は方位磁針を使って確認し,豆電球と電池でつくられる回路で,豆電球の明るさを調べるようになっている,豆電球の明るさとそこを流れる電流の関係は余り深く触れていない。電気学習上で,電流が大事であることは言うまでもない。そこで我々は,小学校4年の電気学習の際に,一歩踏みこんで,電流を定性的に測定するため,方位磁針を利用する授業を計画した。事前に生徒達の実体を知るため,事前調査をした。電流の方向や,豆電球の直列,並列の場合の明るさや電流につき誤解があることが判ったので,それらを除き,正しい理解となるように授業を計画し,電流が身につくように方位磁針の使用を多くして授業を行った。事後調査を行い授業との関連を調べた。結果は成績では10%程度しか向上が得られなかった。原因は回路の中で豆電球を点灯すれば,そこで電流が使われるというような電流観を持ってしまい,教師が教えようとした回路の中では電流の量は変わらないという電流観と違ってしまい,それを十分除去し得なかったせいと思われる。これは電流の他に電圧や電力等が教えられないせいでもあるので,それらの取扱いの必要性を示したものともいえる。

  • 栢 義昌
    1983 年24 巻1 号 p. 53-63
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    自己評価能力は学習力の要素として重要なものの一つである。この能力を高めることを学習指導のにどのように取り入れるべきかと考えて,研究に取り組む。(1) 自己評価能力を高めるためには,①内容的側面,②サイズ的側面,③誘発的側面の3つの側面から考えて,自己評価カード等を作成する必要がある。(2)実践した自己評価表の2つについて説明する。(ア)学習過程の階層自己評価表 学習過程を6つの階層に分け,各階層ごとに自己評価項目を作り, 3段階評価をさせて,自己評価の得点と形成的評価の関係の変化や,自己評価以外の利用価値や,実践した生徒の感想を調査した。(イ)基本的学習態度と学習内容の自己評価表 形式や実施方法の説明と学習態度の変容や自己評価得点とテスト成績の関係,生徒の感想を調査した。(3) 自己評価能力を高めるには,この形式が良いというような決定したものはなく,生徒とその発達状態にかかわり合いながら,自己評価表を作る必要がある。そして簡単なものでも継続することが効果を高める。

  • 木谷 要治
    1983 年24 巻1 号 p. 65-74
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    先に,第 1報より第 2報において報告されたアメリカにおけるProject Synthesisの中の生物教育研究グループの研究の概要を紹介する。他の領域の研究と同じく,本研究も望ましい状態の設定,実態の分析,両者の問のギャップの原因とそれらの改善のための提言の3つの部分から成っている。我が国の今後の生物教育のあり方についても示唆するところが多いので報告する。(1) 生物教育の望ましい状態の設定 望ましい生物教育の目標,カリキュラム,教師,施設設備,実際の授業のあり方,評価のあり方,等について分析する。(2) 生物教育の実態の分析 アメリカにおける生物教育の実態を,教師の意識,生徒の関心,志向等もあわせて分析する。(3) 生物教育の望ましい状態と実態の間のギャップおよび,生物教育の改革と推進のための提言 生物教育の理想と現実の間の差異を整理し,改善の方策を,日標,カリキュラム,指導形態,教師の態度等についてまとめている。

  • 福岡 敏行
    1983 年24 巻1 号 p. 75-82
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    第1, 2, 3, 4報で紹介したProject Synthesisの中の「物理科学グループ」の研究成果を紹介する。 1956年にPSSC物理で始まった理科教育改革運動以来20年を経過してきたが,物理科学教育においてもさまざまな問題が存在する。彼らは,これに対して次の4つの提言を行っている。 1.教育目標の拡大 物理科学教育の目標は,従来から重要視されてきている基本的科学知識の目標の上に,個人の必要性,社会の要請,職業教育の目標が付け加えられるべきである。2.新カリキュラム開発の必要性 すべての生徒がすべてのレベルにおいて,物理科学の内容や探究の過程を幅広く体験し,個人の必要性,社会の要請,職業教育の目標群に適応することができる新しいカリキュラムを開発すべきである。3.教員蓑成と現職教育の改革 上記の目標群を強調した教員養成や現職教育のカリキュラムが開発され,同時にこのカリキュラムが物理科学において応用,分析,総括.評価の場として使われる方法も含むべきである。4.学習評価の改革の必要性 上記の目標群に関する学習評価は,幅広い地域レベルの到達度テストや評価計画に導入されるべきである。また.理科グループ等によるテスト問題の開発・たくわえ•利用等がすすめられるべきである。

  • 川上 進
    1983 年24 巻1 号 p. 83-90
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    配位結合理論に習熟していない段階で,錯体を構造化学の立場で学習させることは極めて難しい問題である。この問題克服のひとつの試みとしてWernerの配位説を取りあげ.配位説を活用することがこの段階の学習者の実態によく対応していることを指摘し,さらにこの法則の果たす役割とその学習指導の問題について検討を加えてみた。得られた結果を要約すると次のとおりである。(1) 質問紙法による調査によれば,学習者は錯体に対しかなり高い興味・重要性・必要性を感じているにもかかわらず,理解の程度は予想以上に低い状態にあることが見うけられた。このことは配位結合に関する理解が困難であるという回答の多いことと関連が深く,錯体学習の初期では配位結合理論を用いて学習させることには問題が多いことを示唆している。(2) Wernerの配位説は錯体についての規則性を美事に体系化しており,その本質的理解への発展に重要な役割を果たしている。その分かりやすい内容と,適用の広い性格とから考えて,錯体学習の入門の段階で活用することにより,大きな効果をあげうることを期待することができる。(3) Wernerの配位説を学習させるのに最も適した物質はコバルトのアンミン錯体である。その学習順序は,まず始めにルテオコバルト(Ⅲ)塩化物を用いて〔Co(NH3)63+という錯イオンの存在することに気付かせ,次いでプルプレオコバルト(Ⅲ)塩化物が〔Co(NH3)5Cl〕2+,ビオレオコバルト(Ⅲ)塩化物とプラセオコバルト(Ⅲ)塩化物が同じ錯イオン〔Co(NH3)4Cl2+をもつことより,配位結合の原子価および方向性を推測させるという筋道をたどらせることが最も適切であろう。なお,この学習にあたっては,既習の理論を駆使して仮説をたて,これを実験で検証して行くという能力が割合に低いというところに留意する必要がある。

  • 赤堀 侃司
    1983 年24 巻1 号 p. 91-96
    発行日: 1983年
    公開日: 2024/06/28
    ジャーナル フリー

    星座の学習教具として,マイコンを用いた。マイコンを用いる事によって,ディスプレイ上に画かれた星座の観察をする。通常,星座は天球の概念を用いて理解している。ところが,実際は観測地点(地球)から星までの距離は異なっている。これを生徒に理解させるために,マイコンのディスプレイ上に,星を画かせ,立体視する方法を開発した。その結果,予想通り立体視が得られ,興味ある学習方法と考えられる。またマイコンによる立体視は他の教科でも応用できると考えられ, CAIシステムにおける教材開発として応用できる。

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