日本薬理学雑誌
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114 巻, 5 号
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  • ストレスと細胞応答
    小川 和宏, 柴原 茂樹, 藤田 博美
    1999 年 114 巻 5 号 p. 255-264
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    無酸素環境下で誕生した地球上の生命は,光合成生物の出現により発生した大気中の酸素濃度に適応して進化してきた.酸素は生物にとって有害物質であり,有酸素環境への適応には酸素を結合するヘムが中心的役割を果たしてきたと考えられる.哺乳類におけるヘムはヘモグロビンやチトクロムP-450の補欠分子族として知られているが,近年ヘムが酸素センサーであることや,ヘムの分解産物ビリルビンが抗酸化作用を持つことが示され,ヘムが環境応答に深く関与していることが明らかになってきた.低酸素ではヘムタンパクである酸素センサーがそれを検知して,転写因子hypoxia inducible factor-1(HIF-1)が活性化し,エリスロポエチン(EPO)などの遺伝子発現を誘導すると考えられており,ヘムを含んだ酸素センサー分子の同定と,その下流にあるシグナルの流れについての詳細な解明が期待される.ところでヘム分解の律速酵素HOの誘導性アイソザイムHO-1も低酸素で誘導される遺伝子の1つであるが,そのほかに基質であるヘム,熱ショック,金属等の様々なストレス刺激によっても誘導され,これは酸化的ストレスに対する生体防御反応と考えられている.今年報告されたHO-1欠損症では貧血,血清中のヘム高値,ビリルビン低値,組織への鉄沈着,血管内皮傷害が見られ,ノックアウトマウスの所見と共通点が多かった.in vivoでのこれらの結果から,HO-1は触媒機能以外に,ストレス応答や鉄の再利用にも必要であることが明らかになった.酸素センサーや抗酸化作用などのヘムの新しい機能に注目して環境応答機構を詳しく解析することで,酸素や酸化的ストレスに関連する環境-遺伝子相互作用や,その異常による疾患の発症機序が解明されていくものと期待している.
  • ストレスと細胞応答
    六反 一仁
    1999 年 114 巻 5 号 p. 265-272
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    熱ショックタンパク質遺伝子をはじめとする多くのストレス関連遺伝子の発現により引き起こされるストレス反応は,生物が環境変化に適応し生き延びるための重要な戦略の一つである.ラットに水浸拘束ストレスを負荷すると,すばやく一過性の熱ショック応答が認められる.低タンパク質栄養状態のラット,両側副腎摘出ラット,および横隔膜下で迷走神経を切離したラットを用いてこの反応を調べると,急性ストレス時の胃粘膜の熱ショック応答は,視床下部・下垂体・副腎皮質と交感神経・副腎髄質によるストレス反応と連動して引き起こされた.さらに,アドレナリンレセプターの各サブタイプとグルココルチコイドレセプターの拮抗薬を用いた実験から,α1Aアドレナリンレセプターを介する反応であり,ストレス潰瘍を抑制することを明らかにした.最近我々は,表層粘液細胞はNADPH oxidaseを発現しており,腹腔マクロファージに匹敵する程の多量のスーパーオキシドアニオン(O2-,50 nmol/mg protein/h)を産生することを明らかにした.表層粘膜細胞からのO2-の産生は,ヘリコバクター・ピロリ菌のエンドトキシン(LPS)により,3倍以上増加する.増加したO2-はオートクリン・パラクリン的に作用してNF-κBを活性化する.このように,ヘリコバクター・ピロリ菌が最初に接触する表層粘液細胞は,ヘリコバクター・ピロリ菌に反応して自らのO2-の産生を高め,炎症と免疫応答に重要な役割を果たすNF-κBを活性化させ,IL-8,ICAM-1,誘導型一酸化窒素合成酵素などの発現を促す.このように,胃粘膜細胞由来のO2-はヘリコバクター・ピロリ菌感染胃粘膜のストレス応答の重要なシグナル分子と考えられた.
  • ストレスと細胞応答
    赤池 昭紀
    1999 年 114 巻 5 号 p. 273-279
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    特定の神経細胞群の進行性変性という現象は,パーキンソン病や筋萎縮性側索硬化症などの難治性中枢神経疾患における重要な特徴であり,疾患特異的神経細胞死の重要な要因としてグルタミン酸による興奮性神経毒性と一酸化窒素(NO)やスーパーオキシドアニオン(O2·-)などのラジカル毒性の関与が指摘されている.グルタミン酸神経毒性にはNOとO2·-の反応により生成するperoxynitrite(ONOO-)が重要な役割を果たす.錐体外路系の運動疾患であるパーキンソン病は黒質線条体ドパミン系の障害を特徴とし,その原因としては1-methyl-4-phenyl-1,2,3,6-tetrahydropyridine(MPTP)様物質の蓄積が有力視されている.ドパミンニューロンでは,ラジカルストレスに対するグルタチオンなどの抗酸化物質による防御系が発達しているが,MPTPなどの神経毒によりこのような細胞防御系が破綻し,興奮性アミノ酸刺激が引き金となって生じるラジカルストレスに対して脆弱になると推定される.一方,筋萎縮を主徴とする運動性疾患である筋萎縮側索硬化症(ALS)では,脊髄前核の運動ニューロンの変性が急速に進行する.培養脊髄細胞においてグルタミン酸トランスポーター阻害薬存在下に低濃度のグルタミン酸を長時間投与すると,運動ニューロンに対する選択的毒性が誘発される.脊髄前角では非運動ニューロンの方がグルタミン酸神経毒性に対して抵抗性を示し,その要因としてはcGMPの非運動ニューロンに対する保護作用が重要な役割を果たすと推定される.これらの知見は中枢変性疾患における選択的なニューロン死にはNOおよびO2·-の細胞毒性を制御する細胞内機構が重要な役割を果たすことを示唆する.
  • ストレスと細胞応答
    松田 敏夫, 田熊 一敬, 李 英培, 馬場 明道
    1999 年 114 巻 5 号 p. 281-286
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    培養ラットアストロサイトを低Ca2+溶液に短時間曝露しその後正常溶液でインキュベートすると,細胞死を伴った細胞障害が見られる.この細胞障害は,アポトーシスの特徴であるDNAの断片化,核の凝縮等の生化学的,形態的変化を伴う.本細胞障害の発現には細胞内Ca2+濃度の増加,活性酸素の産生,NF-κBの活性化が重要な役割を演じており,またこれらの過程にはカルパイン,カスパーゼ等のプロテアーゼが関っている.Ca2+流入後,産生された活性酸素はカルシニューリン依存的にNF-κBの活性化を引き起こす.これらのシグナルカスケードの阻害薬は本細胞障害を抑制する.また,種々の脳機能改善薬も本細胞障害を抑制するが,それらの薬物の作用メカニズムは多様である.種々の細胞内シグナル伝達系がストレスに応答するが,これらのバランスのコントロールが障害保護の面から重要と思われる.
  • ストレスと細胞応答
    橋爪 裕子, 安孫子 保
    1999 年 114 巻 5 号 p. 287-293
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    細胞膜構成リン脂質であるホスファチジルコリンの代謝産物リゾホスファチジルコリン(LPC)は,虚血に陥った心筋組織中に蓄積してくる.心筋細胞にLPCを投与すると,細胞内のCa2+濃度が上昇し,心筋細胞の形態が桿状から球状へ変化し,またクレアチンキナーゼを遊出させる.従ってLPCは心臓の虚血障害増悪因子として重要であると思われる.心筋細胞におけるLPCによるカルシウムオーバーロードのメカニズムは,(1)非選択的陽イオンチャネル(小孔)を活性化して,直接細胞外から内へCa2+が流入することと,(2)非選択的陽イオンチャネル(小孔)やその他の経路を介して細胞内Na+濃度が上昇して,これがNa+-Ca2+交換系を介するCa2+の流入をおこすことの2つが考えられる.β受容体遮断薬やカルシウムチャネル遮断薬などの中で,脂溶性が高い薬物は,LPCによる心筋細胞障害を抑制することがわかった.今後,LPCによる心筋細胞障害を完全に抑制できるような薬物が開発されれば,虚血心筋保護薬や臓器移植の際に臓器を保護する薬物として大いに期待できるであろう.
  • ストレスと細胞応答
    高橋 徹, 鈴木 勉, 山崎 晶, 築地 崇, 平川 方久, 赤木 玲子
    1999 年 114 巻 5 号 p. 295-302
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    近年,敗血症は感染に対して全身的な炎症反応が亢進している状態(systemic inflammatory responsive syndrome: SIRS)として捉えることが提唱され,過剰な炎症反応にによるOxidative Stressが細胞を傷害し敗血症性多臓器機能障害(septic multiple organ dysfunction syndrome: Septic MODS)に陥ると考えられている.ヘム分解の律速酵素であるheme oxygenase-1(HO-1)はその遺伝子解析より熱ショックタンパク32としても知られており,基質であるヘムのみならず虚血再灌流等の酸化ストレスやIL-6によって細胞内に誘導される.筆者らはlipopolysaccharide(LPS)をラットに投与することにより血中IL-6の上昇を伴うSeptic MODSモデルを作成しHO-1の動態とその意義について検討した.LPS投与後時間経過は異なっていたが,肝,肺,腎でHO-1 mRNAの発現が認められ,肝ではそれに先立って細胞内遊離ヘムの上昇が認められ,肝HO-1 mRNAの誘導にはLPSにより障害されたヘムタンパクより遊離したヘムが関与し,誘導されたHO-1はpro-oxidantである細胞内遊離ヘムを分解することにより肝保護的に働くことが示唆された.敗血症による障害の著しい肺のHO活性を特異的拮抗阻害薬Snmesoporphyrinで阻害するとLPSによる肺障害の悪化が見られたことから,HO-1は生体防御的に働くと考えられた.さらに白血球中のHO-1 mRNAの発現がLPS投与早期(3時間)にIL-6レベルの上昇に一致して増加したことからHO-1が敗血症の新しい病態マーカーの候補となる可能性が考えられた.
  • 富宇賀 孝, 秋山 康博, 小林 正敏, 原 久仁子, 川島 英敏
    1999 年 114 巻 5 号 p. 303-313
    発行日: 1999年
    公開日: 2007/01/30
    ジャーナル フリー
    Sprague-Dawley系4週齢雄性ラットを用いて2つの実験を行った.実験1ではカルシウム(Ca)不足による骨量減少病態の作製を検討した.ラットを0.05,0.1,0.2,0.5および1.16% Ca含有飼料で3週間飼育することにより,飼料中のCa量の低下に対応した大腿骨乾燥重量の低下が認められた.0.05および0.1% Ca群では1.16% Ca群に比して体重,骨長,血漿中Ca値の低下と血漿中アルカリホスファターゼ活性の上昇が観察されたが,他の群ではこれらの項目の変化は認められなかった.すなわち,体重および血漿中成分に影響を与えず,骨量を減少できる飼料中Ca量として0.2%が適量であることが明らかとなった.実験2では低Caラットでの骨強度低下に対するビタミンK2(メナテトレノン,V.K2)の効果を検討した.ラットを0.2% Ca飼料で3週間飼育し,さらに3または6週間これらのラットを0.2または0.5% Ca飼料で飼育し,同時にV.K2を混餌投与した.0.2% Ca群の大腿骨および腰椎の骨塩量,骨密度は0.5% Caで飼育した同週齢正常群に比し3および6週後いずれも有意の低値を示し,0.2%から0.5%に飼料中Caを回復させた群ではいずれの項目も経時的に急速に上昇した.また,大腿骨3点曲げ試験および腰椎圧縮試験による骨強度も骨密度と同様の変化を示した.この病態に対するV.K2の効果は大腿骨においては骨塩量,骨密度および骨強度のいずれも認められなかったが,腰椎では0.5% Ca V.K2 3週投与群および0.2% CaV.K2 6週間投与群のいずれも圧縮強度の有意な改善を示した.0.5% Ca回復群6週後の腰椎の骨塩量と投影面積に対してもV.K2群は改善傾向を示した.以上の結果よりV.K2は椎体の骨強度に対し有用な作用を持つことが示唆された.
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