日本薬理学雑誌
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117 巻, 5 号
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総説
  • 高橋 信之, 河田 照雄
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 5 号 p. 319-327
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    ペルオキシソーム増殖薬応答性受容体(peroxisome proliferator-activated receptors:PPARs)は, 発見当初リガンドが不明ないわゆるオーファン受容体であった.しかし, そのリガンドが薬理的な作用, 特にフィブラート系薬剤のごとく中性脂肪低下作用などの脂質代謝, さらにはチアゾリジン誘導体のごとくインスリン抵抗性の改善による糖質代謝にまで広範で顕著な効果を示すことが判明して以来, 急速な研究の進展を見せた.その結果, 生活習慣病発症と関連する内分泌·代謝さらには血管機能や炎症などの循環器系や発がんの調節機構にも関わる多機能で主導的役割を有する重要な受容体として位置づけられるようになってきた.ここではPPARsの構造や生理機能, リガンドと薬理機能, さらにヒトゲノム解析と疾患などについて概説する.
  • 亀井 千晃, 大熊 千尋
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 5 号 p. 329-334
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    扁桃核の反復電気刺激によりキンドリングを形成したラットの脳内ヒスタミン含量は, 大脳皮質, 海馬, 視床および視床下部のいずれの部位でも減少する傾向を示したが, 有意差は認められなかった.しかし, 扁桃核では, 有意なヒスタミン含量の減少を示した.扁桃核キンドリングが完成したラットを用いたヒスタミンならびにH1作用薬を側脳室内に投与して検討した結果, 扁桃核キンドリング発作はこれらの薬物により有意に抑制された.しかしH2作用薬では効果は認められなかった.ヒスチジンおよびヒスタミン-N-メチル基転移酵素の阻害薬であるメトプリンの腹腔内投与でもキンドリング発作は抑制された.H3受容体はヒスタミンの合成および遊離を調節している自己受容体であり, その拮抗薬は, ヒスタミンを投与した場合と同じ効果を示すと考えられる.H3受容体拮抗薬であるチオペラミド, AQ0145およびクロベンプロピットは, 側脳室内投与でも腹腔内投与でもキンドリング発作を抑制した.ヒスタミン, ヒスチジンおよびH3拮抗薬の投与により生ずるキンドリング発作抑制作用は, H1拮抗薬であるジフェンヒドラミンおよびクロルフェニラミンにより拮抗されたが, H2拮抗薬であるシメチジンおよびラニチジンでは拮抗されなかった.従って, ヒスタミンによるキンドリング発作抑制作用はシナプス後膜に存在するH1受容体を介して発現することが明らかとなった.ヒスタミンによるキンドリング発作抑制作用の作用機序解明を試みた結果, GABA神経系を活性化させるジアゼパム, バルプロ酸およびムシモールによりヒスタミンの効果は増強され, GABA拮抗薬であるビククリンにより拮抗された.これらの成績より, ヒスタミンによるキンドリング発作抑制作用はGABA神経系と密接に関連していることが明らかとなった.
新薬紹介総説
  • 池田 衡, 杉山 泰雄
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 5 号 p. 335-342
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    チアゾリジンジオン誘導体ピオグリタゾンは当社における糖尿病モデル動物の基礎研究と脂質低下薬の合成研究の出会いから生れたインスリン抵抗性改善薬である.インスリン抵抗性を示す種々糖尿病動物において顕著な血糖および脂質低下作用を示した.その作用機序に関しては, インスリン受容体以降の細胞内インスリン情報伝達機構の障害を正常化させるユニークな機作が関与する.未だ完全に明白ではないが, 細胞内情報伝達機構の正常化には, インスリン抵抗性惹起物質であるTNF-αの産生および作用抑制が関与し, さらにTNF-α経路とリガンド依存性核内受容型転写因子PPAR-γとの関連が推測される.2型糖尿病(インスリン非依存型糖尿病:NIDDM)忠者において, 1日1回15-45mgの用量で血糖およびHbA1cを低下させた.脂質に関しては, トリグリセリドの低下とHDL-コレステロールの上昇がみられた.以上のことから, 糖尿病に合併するmicro-angiopathyとmacro-angiopathyの治療および防止に役立つものと期待される.
  • 松永 敏幸
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 5 号 p. 343-349
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    15員環のマクロライド系抗菌薬であるアジスロマイシン(ジスロマック®)が, 2000年3月に我が国で承認された.アジスロマイシンはStaphylococcus aureus, Streptococcus pneumoniae, Streptococcus pyogenes, Peptostreptococcus micros, Haemophilus influenzae, Moraxella catarrhalis, Mycoplasma pneumoniae及びChlamydia pneumoniaeに対して, in vitroあるいはin vivoで優れた抗菌活性を示した.特に, H. influenzaeに対する本薬の抗菌活性は, 従来のマクロライド系抗菌薬より強力であった.本薬を患者に経口投与したとき, 速やかに吸収されて体内に幅広く分布し, 食細胞及び各組織には血清あるいは血漿中に比べて高い濃度が認められた.食細胞内へのアジスロマイシンの移行性はエリスロマイシンの10倍以上に達し, S.aureus存在下で食細胞からアジスロマイシンは細胞外へ速やかに遊離した.実験的マウス感染症において, 感染組織のアジスロマイシン濃度は非感染組織より高く, 食細胞の遊走により感染組織へ薬物が選択的に移送されることが示唆された.これらの薬理学的及び薬物動態学的特性が臨床効果に反映され, 本薬は1日1回3日間という短期療法で呼吸器感染症をはじめ各種感染症に対して優れた有効性を示した.
  • 広井 純
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 5 号 p. 351-357
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    アトピー性皮膚炎の発症原因としては, 皮膚バリアー機能の低下及びアトピー(アレルギー)素因が考えられている.アトピー性皮膚炎を誘発するアレルギー反応としてはI型(即時型及び遅発型)アレルギー反応が中心と考えられてきたが, 最近ではIV型(遅延型)アレルギー反応の関与も知られ, 種々のアレルギー反応が複雑にからみ合って発症原因となっていると考えられている.臓器移植時の拒絶反応抑制薬であるタクロリムスは, 上記のいずれものアレルギー反応においても中心的な役割を果たすT細胞の働きを阻害することが明らかとなっており, そのアトピー性皮膚炎の治療薬としての可能性を追求するために軟膏剤(プロトピック®軟膏)を開発した.タクロリムスはin vitroでT細胞のサイトカイン産生を強く抑制する他, アトピー性皮膚炎において関与が考えられているマスト細胞, 好酸球等の炎症性細胞の活性化を抑制し, ランゲルハンス細胞の抗原提示能も抑制した.In vivoにおいてもタクロリムス軟膏は抗原誘発遅発型アレルギー反応モデル, 接触性皮膚炎等の急性皮膚炎モデルに対し有効性を示す他, ラットハプテン連続塗布皮膚炎モデル, NCマウス等の慢性皮膚炎モデルに対しても強い皮膚炎抑制作用を示し, アトピー性皮膚炎における抗炎症効果が期待された.国内での中等度以上の成人アトピー性皮膚炎患者を対象とした臨床実験において本剤は, 躯幹·四肢ではストロングクラスのステロイド難膏並に奏効し, 顔面·頚部ではミディアムクラスのステロイドの作用を上回った.副作用としては一過性の皮膚刺激性が高頻度にみられる他, 皮膚感染症に対する考慮が必要であるが, 長期に用いてもステロイド軟膏にみられる様な局所皮膚障害作用はみられなかった.同様の臨床効果が米国及び欧州でも得られつつあり, 本剤はステロイド軟膏の弱点を補完する新たなアトピー性皮膚炎治療薬として期待される.
新薬開発状況
  • 荒木 博陽, 二神 幸次郎, 五味田 裕
    原稿種別: その他
    専門分野: その他
    2001 年 117 巻 5 号 p. 359-366
    発行日: 2001年
    公開日: 2002/09/27
    ジャーナル フリー
    急激な高齢化に伴う諸種疾患が問題となるなか, 骨粗鬆症患者の骨折による寝たきり状態は介護の問題を含め, 社会的にも重要な課題といえる.しかしながら, これまで骨粗鬆症は病気というよりも老化現象ととらえられ, 治療の対象としては考えられなかったために, 我が国での治療薬開発は低調であった.しかし最近, 薬剤の作用機序が明確であり, 作用発現が速やかな骨吸収抑制薬の登場により臨床開発に力が注がれてきている.すでに, 8種類の成分としては10種類以上の薬剤が医療用医薬品として市販されているが, さらに現在臨床試験中の薬剤も多く, 競争が激しい分野となってきている.種類としては, エストロゲン製剤, 蛋白同化ステロイド製剤, カルシトニン製剤, 活性型ビタミンD3製剤, ビスホスホネート製剤が臨床試験中である.エストロゲン製剤の中で選択的なエストロゲン受容体調整薬(SERM)が生殖器の受容体に対して拮抗作用を有することから副作用の心配を除去できることが期待されている.また, エストロゲン, プロゲストーゲン様活性を有することからプロゲストーゲンの周期的投与を必要とせず, また弱いアンドロゲン作用を有する新規ステロイドが, 閉経後女性の骨量減少予防, 骨素國症患者の骨量増加作用を有することで注目されている.ビスホスホネートは第1世代のエチドロネートに比較すると極めて強力な骨吸収抑制作用を有し, 連続投与が可能な第2世代, およびそれに加えて高用量投与でも石灰化障害作用が認められない第3世代の製剤が現在臨床試験されている.今後, これらの副作用が軽減された効果の明らかな製剤の登場により, 医療現場では作用機序の異なる薬剤の併用が可能となるものと期待される.さらに, 基礎的検討から骨粗鬆症の発現機序が明らかになるにつれて新しい考え方の薬剤の登場も期待されている.最後に骨粗鬆症治療薬の今後の展望についてもふれた.
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