日本薬理学雑誌
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119 巻, 3 号
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受賞者講演
  • 小山 豊
    原稿種別: 受賞者講演
    2002 年 119 巻 3 号 p. 135-143
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    アストログリアは脳病態時に活性化アストログリアへの細胞形質の転換をおこす.活性化したアストログリアは,細胞体の肥大,特異的遺伝子群の発現,増殖性の獲得を起こし,これらの機能変化は,傷害された神経系の再生過程に重要な作用を持つ.この活性化アストログリアは,新たな脳機能改善薬の標的としての可能性を秘めたものであるが,活性化に伴う機能変化に関わる分子機構については明らかでない.血管収縮ペプチドであるエンドセリン(ET)は,脳病態時に増加し,神経系の病態生理反応への関与が示唆されている.アストログリアに高い発現を示すETBタイプ受容体の病態生理的役割の検討から,この受容体の刺激がアストログリア活性化を惹起することが明らかとなった.培養細胞での検討では,ETがアストログリアの細胞骨格アクチンの再構成により,細胞形態を制御することが示された.この変化はアストログリアの肥大との関連が考えられるが,その細胞内シグナルには低分子量Gタンパクrhoが関与していた.傷害された神経系の再生過程に重要な働きをもつアストログリア由来の神経栄養因子(BDNF,GDNF,bFGF)の産生に対し,ETはこれを促進させた.脳傷害時のグリア瘢痕形成に到るアストログリアの増殖機構を検討し,ETは細胞接着に依存する機構と依存しない機構の両者で増殖の促進を惹起させることが明らかとなった.そして前者には,focal adhesion kinase(FAK)を介したcyclin D3の発現が,後者には,extracellular signal-regulated kinase(ERK)を介するcyclin D1発現が各々関与していた.以上のことは,脳傷害時のアストログリアの機能制御における,薬物標的としてのETB受容体の有用性を示す.
  • 沢村 達也
    原稿種別: 受賞者講演
    2002 年 119 巻 3 号 p. 145-154
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    動脈硬化の重要なリスクファクターである高LDLコレステロール血症において,酸化LDLがその生物活性を担っているといわれている.マクロファージは酸化LDLを血管壁で貪食し,特徴的な泡沫細胞へと変化する.その一方で血管内皮細胞にも酸化LDLは働いて,endothelial dysfunctionとよばれる機能的な変化を誘導する.このとき酸化LDLの働きを内皮細胞上で媒介する受容体のクローニングに筆者は成功し,LOX-1と名付けた.実際にin vitroの解析ではLOX-1を介して酸化LDLによりendothelial dysfunctionの特徴である,NOの放出の減少や接着分子の誘導が起きる.またその発現様式は非常に誘導がかかりやすく,炎症性サイトカインなどにより発現が亢進するとともに,高血圧,高脂血症,糖尿病などの動脈硬化の危険因子によっても発現が亢進し,これらの病態下での動脈硬化の進行にLOX-1が関与している可能性が考えられる.さらにLOX-1は酸化LDLのほかに酸性リン脂質を介してアポトーシス細胞や活性化血小板を結合し,血栓形成に何らかの形で関わっている可能性もある.一方LOX-1を利用して,生体内の酸化LDLのリガンドを検出する系を樹立し,高脂血症などの条件下でのLOX-1リガンド活性の上昇を検出しており,このような状況下ではLOX-1を介した作用が,受容体レベルの上昇だけでなく,リガンドレベルの上昇という形でも高まっていることがわかってきた.この系によるLOX-1リガンドの測定により血管内皮細胞の機能を予測し,虚血性心疾患の危険度を推定できる可能性がある.今後LOX-1の個体レベルでの機能解析を通じてendothelial dysfunctionと疾患との関連が明らかになってくることが期待される.
  • 杉浦 麗子
    原稿種別: 受賞者講演
    2002 年 119 巻 3 号 p. 155-161
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    カルシニューリン(CN)は,酵母からヒトに至るまで高度に保存されたCa2+/カルモジュリン依存性タンパク質脱リン酸化酵素であり,免疫抑制薬FK506,シクロスポリンAの標的分子である.免疫抑制薬,シクロスポリンAおよびFK506は,イムノフィリンと結合し,さらにCNと複合体を形成し,CNの酵素活性を阻害することにより免疫抑制効果を発揮する.CNは免疫応答や心臓発生,さらには神経可塑性(LTP,LTD)など,多種多様な生体機能に関与する事が明らかにされてきたが,従来の生化学的手法や細胞生物学的手法のみでは,これらの機構を分子レベルで解明することは,困難であった.我々は,哺乳動物に極めて近い細胞内情報伝達系を持つモデル生物である分裂酵母においてもCNがFK506の標的分子であることに着目し,CNと機能的に関連する因子を遺伝学的アプローチにより同定し,機能解析を行うことで,CNを介するシグナル伝達経路を分子レベルで解明しようと考えた.その結果,分裂酵母CN遺伝子はClホメオスタシスに必須であること,CNシグナル経路は哺乳動物のERKと相同な経路であるPmk1 MAPキナーゼ経路と拮抗的にClホメオスタシスを制御することを明らかとした.さらに分裂酵母CN遺伝子をノックアウトしても致死ではないことに着眼し,CN遺伝子破壊と合成致死になる変異体のスクリーニングを行った.その結果,分裂酵母CN遺伝子は,phosphatidylinositol-4-phosphate 5-kinaseなどの遺伝子とともに,細胞質分裂などの生理現象の制御に関わっていることが明らかとなってきた.本論文では,分裂酵母モデル系を用いた筆者らの研究を中心に,CNの細胞機能,およびその作用経路について述べる.
実験技術
  • 田中 秀和
    原稿種別: 実験技術
    2002 年 119 巻 3 号 p. 163-166
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    分子生物学の手法が進歩し,遺伝子操作したマウスで,生体内での分子の意味を直接探ることも可能な昨今である.そんななかin vitroの培養系を用いてわざわざ人工的·非生理的な条件で研究をするのはなぜかとのお叱りもあろうかと想像する.だが,培養ニューロンは比較的均一な系であり,極端な状態を作り出すことが可能なので,生体内では観察するのが困難な現象も抽出しうる可能性がある.私はそう考えて,培養ニューロンを比較的幅広い目的に用いる努力をしている.
新薬紹介総説
  • 小友 進
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 119 巻 3 号 p. 167-174
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    毛髪の長さと太さは主に毛包サイクルの成長期毛包の期間の長さで決まる.成長期はVEGF,FGF-5S,IGF-1,KGF等の細胞成長因子で維持されている.しかし体内時計によって設定された時が満ちれば,FGF-5,thrombospondin,あるいは何らかの未同定の因子により成長期は終了し,毛母細胞にアポトーシスが誘導され退行期へと移行する.男性型脱毛症は遺伝的背景の下に男性ホルモンによって,より早期に成長期が終了する事によっておこる毛包の矮小化である.ミノキシジルの発毛効果はsulfonylurea receptor(SUR)を作動させ,(2)血管平滑筋ATP感受性Kチャネル開放による毛組織血流改善,(3)毛乳頭細胞からのVEGFなど細胞成長因子の産生促進,(4)ミトコンドリアATP感受性Kチャネル開放による毛母細胞アポトーシス抑制,のいずれかを誘起し,成長期期間を延長して,矮小化毛包を改善することによると推察される.
  • 秋吉 恵, 重岡 恒彦, 鳥居 慎一, 牧 栄二, 榎本 悟, 高橋 宏正, 平野 文也
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 119 巻 3 号 p. 175-184
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    レボカバスチンは4-arylcyclohexylamine誘導体のひとつで,ベルギーのヤンセン社において合成された新規H1ブロッカーである.選択性が高く,特異的なヒスタミンH1受容体遮断作用のほかに,肥満細胞からのケミカルメディエーター遊離抑制作用や好中球·好酸球の遊走抑制作用を持つ.ヒスタミン点眼および感作動物への抗原点眼により誘発した結膜炎モデルにおいて,レボカバスチンは結膜炎症状を改善した.レボカバスチンはモルモットにおける抗原誘発結膜炎モデルの涙液中ヒスタミン量増加の抑制や,ヒスタミン点眼並びに抗原点眼による結膜炎モデルでの血管透過性亢進をレボカバスチンが抑制することが示された.また,ヒスタミンおよびサブスタンスP誘発鼻炎モデル並びに感作動物における抗原誘発鼻炎モデルにおいて,レボカバスチンは血管透過性亢進を抑制した.さらに,レボカバスチンの抗ヒスタミン作用用量と非特異的作用用量との差(特異性指数)は他の抗アレルギー薬と比べ非常に大きく,その非特異的作用としては眼瞼下垂が認められたのみであった.このような選択的,特異的な抗アレルギー作用と,局所投与経路の優位性を有するレボカバスチンは,臨床においてアレルギー性結膜炎並びに鼻炎治療薬としての有用性が期待され,国内外の臨床試験においてアレルギー性結膜炎や春季カタル,アレルギー性鼻炎の治療に有効かつ安全な薬剤であることが示されている.
  • 岩永 裕氏
    原稿種別: 新薬紹介総説
    2002 年 119 巻 3 号 p. 185-190
    発行日: 2002年
    公開日: 2002/12/24
    ジャーナル フリー
    過敏性腸症候群(IBS)は,腹痛あるいは腹部不快感などの腹部症状と下痢あるいは便秘などの便通異常を症状とし,原因としての器質的変化を同定しえない消化管の機能的疾患である.ポリカルボフィルカルシウムは高吸水性ポリマーであり,便中の水分を吸水·保持することによりIBSの便性状を改善することが期待された.ポリカルボフィルカルシウムは酸性条件下でカルシウムを脱離し,中性条件下では初期重量の70倍の吸水能を示すとともにゲル化する物理化学的特性を示した.ラット空腸および結腸を用いたin situ試験では,ポリカルボフィルが腸管による水吸収に逆らって管腔内に水を保持することが示された.下痢に対して,マウスのプロスタグランジンE2および5-hydroxy-L-tryptophan下痢モデルおよびラットのヒマシ油下痢モデルで有効性を示し,イヌのセンノシド下痢モデルにおいて下痢便排泄頻度を低下させ便性状を改善した.便秘に対しては,正常ラットおよび低線維食ラット便秘モデルにおいて,排便量を増大させた.正常イヌにおいても下痢を誘発することなく,排便頻度,排便量および便水分含量を増加させた.また,ポリカルボフィルはラットおよびイヌにおいて消化管から吸収されず,代謝を受けることなく糞中に排泄された.さらにイヌにおいて,併用投与した薬物の吸収に影響を及ぼさなかった.IBS患者を対象とした二重盲検法による用量設定試験において本剤は,下痢,便秘いずれに対しても有効性を示し,マレイン酸トリメブチンを対照とした比較試験の結果,有効性において有意に優れ,安全性において差を認めなかった.副作用としては,嘔気·嘔吐や口渇などが認められたが,薬理効果過剰による便秘や下痢の発現はわずかであり,ユニークな作用に基づくIBS治療薬として期待される.
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