日本薬理学雑誌
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124 巻, 5 号
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ミニ総説「新規薬物標的としてのメカノトランスダクション機構の解明とその応用」
  • 曽我部 正博, 成瀬 恵治, 唐 瓊瑶
    2004 年 124 巻 5 号 p. 301-310
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    あらゆる細胞は多様な機械刺激(張力,圧力,ズリ応力など)に対して様々な応答を示すが,その仕組みはよく分かっていない.その最大の理由は,機械刺激の受容体(センサー)の分子実体や作動原理が不明な点にある.現在実体が分かっている機械センサーは,電気生理学的な根拠が明瞭なMS(mechano-sensitive)チャネルと呼ばれる一群のイオンチャネルのみである.ただし,分子構造までが明らかなMSチャネルはごく一部に過ぎない.その中で細菌由来のMSチャネル(MscL,MscS)についてはX線結晶解析によって高次構造が分かっており,詳細な構造機能連関の研究が進行中である.一方,大方の関心事である高等生物のMSチャネルについては,多くの候補分子はあるものの,分子構造(1,2次構造)が既知でかつ詳細な電気生理学的解析に耐えるのは,2PドメインKチャネル(TREK/TRAAKファミリー)と本稿で紹介する心筋由来のSAKCAチャネルぐらいである.それ以外のMSチャネル遺伝子候補はまだ100%確定という状態ではない.一方で,MSチャネルに対する特異的ブロッカーの欠如もこの分野の研究を遅らせている原因の一つである.長い間3価のランタノイドであるガドリニウム(Gd3+)がブロッカーとして用いられてきたが,特異性が低いために種々の制約があった.しかし,ごく最近特異性の高いブロッカーとして期待される蜘蛛毒由来のGsMTx-4という35-merのペプチドが精製された.大変興味深いことに,GsMTx-4には伸展誘導性の心房細動を抑制する効果が認められるので,このペプチドをベースにした心疾患治療薬開発の可能性がクローズアップされてきた.本稿ではMSチャネルの研究の現状を紹介した後,我々が同定した心筋MSチャネルの性質,およびそれに対するGsMTx-4の作用機構について紹介する.
  • 増田 道隆, 小形 尚子, 望月 直樹
    2004 年 124 巻 5 号 p. 311-318
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    血管内皮細胞に発現しているPECAM-1(CD31)は,細胞間接着部位に集積し,細胞外ドメインのホモフィリックな結合により内皮細胞間をつないでいる接着分子である.PECAM-1の細胞内ドメインには2つのチロシンリン酸化部位があり,内皮細胞に機械的刺激を加えるとリン酸化が起こる.このリン酸化はFerキナーゼによる可能性がある.リン酸化によりSHP2が細胞間接着部位に集積し,ERKキナーゼの活性化が引き起こされる.シアストレスによるERKの活性化にはPECAM-1とSHP2が必須である.抗PECAM-1細胞外ドメイン抗体でコートした磁気ビーズを用いてPECAM-1を直接引っ張ると,PECAM-1のリン酸化とERKの活性化が起きる.コントロールのポリリジン磁気ビーズではどちらも起こらない.これらの結果はPECAM-1がシアストレスセンサーとして機能していることを示唆する.
  • 山本 希美子, 安藤 譲二
    2004 年 124 巻 5 号 p. 319-328
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    血管内面を一層に覆う内皮細胞は血流と直接接していることから,機械力である流れずり応力に曝されている.内皮細胞は流れずり応力の変化を認識し,その情報を細胞内に伝達して,形態や機能や遺伝子発現の変化につながる細胞応答を起こす.流れずり応力に対する内皮細胞の応答は生体で生じる血流依存性の現象である血管新生や血管リモデリング,粥状動脈硬化症の発生に重要な役割を果たすと考えられている.  近年,流れずり応力の情報伝達に関する多くの研究により流れずり応力がGタンパク,アデニル酸シクラーゼ,イオンチャネル,タンパクキナーゼ,接着分子など多彩な情報伝達因子を活性化することが示された.この事実は流れずり応力の情報伝達に複数の経路が関わっていることを示唆している.現在のところ,これらの経路のうち,どれが一次的で,どれが二次的であるかは分かっていない.同時に複数の経路を活性化するのが,流れずり応力の情報伝達の特徴かもしれない.  内皮細胞にずり応力を作用させると,細胞内情報伝達系でセカンドメッセンジャーとして働くカルシウムの濃度が即座に上がることから,カルシウムシグナリングを介した感知機構がある.内皮細胞にずり応力が作用すると細胞内カルシウム濃度が上昇する反応が起こる.そこで本報告では,ヒト肺動脈内皮細胞において,ずり応力の強さに依存して細胞外カルシウムの細胞内への流入が起こることを観察した.このカルシウム流入反応には主にATP作動性カチオンチャネルであるP2XプリノセプターのサブタイプであるP2X4を介していた.また,血管内皮細胞は流れずり応力に反応して,多種類の血管作動性物質を合成,貯蔵,放出することが知られている.この点に関して,我々は流れずり応力を受けた内皮細胞から応力依存的にATPが放出されることを確認した.以上の結果から,この流れずり応力により放出される内因性のATPがP2X4レセプターを活性化することで,内皮細胞のカルシウム反応を修飾する機序が示唆される.
  • 大幡 久之, 新岡 丈治, 金 明淑, 安藤 さなえ, 山本 雅幸, 百瀬 和享
    2004 年 124 巻 5 号 p. 329-335
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    細胞は,液性・化学因子に加えて,機械的,物理的因子を刺激として受容し,様々な細胞応答を起こす.例えば,血流の局所的な制御には,血流刺激による血管内皮細胞からの血管トーヌス制御因子の放出が重要な役割を果たしている.しかし,これらの機械刺激の感知機構の実体は未だに不明である.著者らは,生体活性リン脂質の一つであるリゾホスファチジン酸(LPA)が培養平滑筋細胞や培養水晶体上皮細胞などと同様に培養ウシ大動脈血管内皮細胞の流れ刺激により誘発されるCa2+応答を著明に増強することをリアルタイム共焦点顕微鏡を用いて画像化することにより明らかにした.この時認められるCa2+応答は,機械受容チャネルからのCa2+流入とその拡散による局所的なCa2+上昇から成る時空的特徴を持つ現象であり,機械受容応答の初期過程に直結したエレメンタリーイベントとしてCa2+ spotsと命名した.この現象が血流中に存在しうるLPA濃度と生理的な流れ刺激強度の範囲で生じることから,LPAが機械受容機構の内因性の制御因子である可能性が示唆された.また,最近,組織構築を維持したマウス大動脈中の内皮細胞においてもほぼ同様の現象が生じることを確認し,上皮細胞や内皮細胞で認められる普遍的な現象であると考えられた.本稿ではLPAが機械受容応答の感受性を増強する内因性物質(メカノセンシタイザー)として機能する可能性を示し,さらにはその生理的病態生理学的意義について考察する.
  • 田辺 由幸, 中山 貢一
    2004 年 124 巻 5 号 p. 337-344
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    肥満は様々な循環器病や糖尿病などの生活習慣病の危険因子であり,その予防と解消は極めて重要である.肥満の解消には,エネルギー需給バランスの改善が第一であるが,一方で,痩身効果を期待した脂肪組織へ局所的マッサージなどは日常的に経験することである.このような脂肪組織の局所的な運動,例えば圧迫,伸展(ストレッチ),揺動などは,組織を構成する脂肪細胞への機械的な力学刺激になり得よう.『脂肪細胞に対して,力学刺激がどのような効果を示すのか?』意外なことに,この疑問について科学的に検証された例はこれまでにほとんど見あたらない.肥満は成熟・肥大化した脂肪細胞が増え過ぎることによる脂肪組織の過形成が原因である.その際には前駆脂肪細胞の増殖・分化と分化後の細胞の脂肪の蓄積による肥大化のいずれもが重要な位置を占めると考えられる.我々は,株化培養前駆脂肪細胞を用いたin vitro脂肪細胞分化系において,ERK/MAP-kinase系が伸展刺激により持続的に活性化されることにより,脂肪細胞の分化に重要な転写制御因子PPARγ2の量が減少し,成熟脂肪細胞への分化が強く抑制されることを明らかにした.この結果は,脂肪細胞に対して力学刺激を与えることの生理的意義として,脂肪組織における脂肪細胞の更新・再生(リニューアル)の抑制を示唆するとともに,既存薬物との併用も含めた力学刺激の生活習慣病への適用の可能性をも期待させるものと考える.
実験技術
  • 加計 正文, 出崎 克也, 矢田 俊彦
    2004 年 124 巻 5 号 p. 345-352
    発行日: 2004年
    公開日: 2004/10/22
    ジャーナル フリー
    血中グルコース濃度の調節は,最も基本的な生体ホメオスタシスの一つである.グルコース濃度の変化に応じて,膵β細胞からインスリンが放出される.この機構の破綻はインスリン分泌不全と糖尿病をきたす.インスリン分泌細胞であるβ細胞は膵ランゲルハンス島細胞の約70%を占めるがα,δ,PP細胞も混在しており,β細胞の解析は直接インスリン分泌制御機能の解析となり得る.インスリン分泌は,β細胞の細胞質Ca2+濃度により制御されており,蛍光指示薬を用いた蛍光画像解析により,Ca2+の細胞内分布や濃度変化をリアルタイムで測定することが出来る.さらに,細胞内グルコース代謝をNAD(P)Hの自家蛍光として測定することが出来る.また,β細胞は様々なイオンチャネルや受容体チャネルを発現しており,イオンチャネル活動はグルコース代謝情報を電気情報に変換する.パッチクランプ法を用いた電気生理学的解析により,各種イオンチャネル活性および膜電位変化を直接測定することが出来る.β細胞の細胞株として,HIT細胞,MIN6細胞,INS1細胞,RIN細胞,βTC細胞などが用いられているが,必ずしも正常なグルコース応答能を保持していない.したがって,β細胞の生理学的機能解析には,正常動物または病態動物からの初代培養系が要求される.コラゲナーゼを用いた膵島単離法ならびに単一β細胞の調製法は,小動物から大動物まで応用可能であり,生理的グルコース応答能を保持したβ細胞を得ることが出来る.この初代培養β細胞を用いることにより,細胞内情報伝達系の解析ならびに薬効評価を行うことが可能となり,今後,病態機能の解析など様々な応用が期待できる.
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