日本薬理学雑誌
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128 巻 , 5 号
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特集:薬理作用の予測法におけるIn vitro試験法の有用性と限界
  • 川村 聡
    2006 年 128 巻 5 号 p. 289-292
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    安全性評価におけるin vitro試験法の利用目的は大きく括ると動物試験の代替法,スクリーニング試験法(あるいは短期試験法),毒性発現機構の解明,ヒトへの予測性の向上の4つが考えられる.これらの目的のために種々のin vitro試験法が開発されてきているが,開発推進の原動力として,動物福祉,医薬品・農薬等の開発効率の追求,新技術の開発・発展,ヒト組織の利用環境の整備が挙げられる.代替化の取り組みが最も進んでいるのは皮膚腐食性試験であり動物実験との相関性が認められ実用レベルに達しているが,汎用性の点で課題を残している.近年の医薬品開発は成功確率の向上と開発期間の短縮が課題となっており,高精度・高速スクリーニング法開発への期待は大きい.動態研究においてはヒトCYPのような的確な標的を利用できるようになりスクリーニング法開発に進展がみられる.毒性研究においてはAmes試験という有用な方法もあるものの,新規な方法の開発に目覚しい進展はない.毒性発現機序解明という点では,トキシコゲノミクスをはじめとする網羅的な解析を可能とする技術などの発展があり,機序解明の有力な手段となることが期待される.これまでに重篤な副作用がヒトにおいてはじめて顕在化する事例が知られている.近年,ヒト組織を利用した研究をおこなう環境が整備されてきており,毒性発現機序が解明されヒト組織での反応をin vitroで解析することにより,ヒトへの予測性が向上することが期待される.
  • 李 昌一
    2006 年 128 巻 5 号 p. 293-297
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    様々な疾患に関わる酸化ストレス(oxidative stress)の原因である活性酸素種(Reactive Oxygen Species:ROS)を特異的に検出可能であるのが電子スピン共鳴(electron spin resonance:ESR)法である.酸化ストレスとはROS産生と抗酸化システム(抗酸化酵素,抗酸化物質)のバランスが崩れた状態をいい,ROSによる酸化作用(例えば脂質過酸化作用)により生体の様々な病態生理現象に関わる.抗酸化能の本質は生体の抗酸化酵素,抗酸化物質が有する酸化ストレスを惹き起こすROSを消去する能力を意味するものである.In vitro ESR法による抗酸化能評価はin vitro ESR法によるROSの検出方法が基本となり,検討する薬剤がいかなるROSに対して消去活性があるのか(定性),どれくらい消去活性を有しているのか(定量)という直接的なROSに対する抗酸化能評価をすることが可能である.さらに,in vivo ESR法によって生体における酸化ストレスを含めたredox情報を提供可能なことを,酸化ストレスが原因とされる高血圧,脳卒中が惹き起こされる生活習慣病のモデル動物を用いた脳内の酸化ストレス評価法を確立した.今後これらESR法による評価法を用いて薬物や飲食料品の抗酸化能評価を進め,優れた抗酸化能を有する新規薬物,飲食料品の開発に寄与する評価技術として発展させたい.
  • 池田 幸穂
    2006 年 128 巻 5 号 p. 298-302
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    活性酸素,フリーラジカルが脳血管障害,頭部外傷をはじめとして多くの脳疾患の病態に関与していることが指摘されている.多くの脳保護療法が開拓されているが,臨床に還元できるものは,いまだ十分でないのが現状であろう.その中にあって,活性酸素消去剤,フリーラジカルスカベンジャーが注目されている.本報告では,現在使用されている脳疾患に関与する薬剤の中に活性酸素消去能を有するものがあり,薬理作用の多面性に活性酸素消去能,フリーラジカルスカベンジャーの切り口から再評価する重要性を指摘したい.電子共鳴スピン(ESR)法は,フリーラジカルを検出する最も信頼性に富む方法である.In vitro ESRとin vivo ESRよる解析が可能になりつつある.In vitro ESR法は,種々の薬剤の薬理作用の中で,活性酸素・フリーラジカル消去能を検討することが可能である.Superoxide radical, hydroxyl radical, singlet oxygen, nitric oxide (NO) radicalの消去能について,それぞれ特異的なspin trapping剤を用いることにより検出が可能となっている.今回,臨床応用されているEdaravone,L-histidine,頭痛・片頭痛治療薬,静脈麻酔薬,ホスホジエステラーゼIII阻害薬,さらに実験的脳外傷モデルにおける損傷脳の活性酸素・フリーラジカル消去能についてin vitro ESR法を用いて検討した.今後,多くの医薬品の開発・検討にあたって活性酸素・フリーラジカル消去能の視点から,in vitro ESR法をもちいたin vitro試験法の有用性を強調したい.
  • 横山 篤
    2006 年 128 巻 5 号 p. 303-307
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    日本における医薬品の安全性試験は,欧米諸国が比較的早い段階で臨床試験に入るのに比べて徹底して前臨床試験つまり動物実験を実施してから臨床試験に移行することから,かなり重要視されている.しかし,近年欧米諸国を中心に無駄な動物実験はしない,実験動物数の削減,培養細胞などin vitro試験系への転換が叫ばれ,様子が変わってきた.本来,動物愛護の精神により検討されてきたテーマである,動物数の削減や痛みの除去などが中心であったが,そこに動物実験による膨大な時間と予算と設備と人件費の削減を希望する企業との利益が一致した.近年では,コンピューターによる医薬品候補物質の構造式を観るだけで催奇形性を持つかを検索できるシステムやトキシコゲノミクスのようにDNAチップを用いて遺伝子に変化を与える化合物の割り出しを瞬時に多サンプルを処理できる机上の試験系が全盛期に入りつつある.この中で生殖発生毒性試験だけはヒト臨床試験は行えず,奇形生成に関与する遺伝子の同定もわずかであることからDNAチップを作成して遺伝子への影響は判定しにくい.そこで,生体内(子宮内)になるべく近い環境で,簡易的で迅速に試験できるin vitroの試験系を模索した.その結果,(1)ES細胞を用いた方法,(2)マイクロマスカルチャー,(3)哺乳類胎児培養法の3方法が提案された.我々はこの3種の方法を精査して検討を重ねた結果,(1)と(2)は細胞培養で重層化しているとはいえ二次元レベルであるのに対して,(3)胎児培養は唯一の三次元レベルの個体培養である.しかも,外表部分の形態形成だけでなく内臓,脳,神経,胎盤の形態形成も実施され,形だけでなく,その生理的,生化学的機能も成長するとあって,妊娠の全期間の培養は無理でも器官形成期に絞り込んで発生毒性試験の代替化試験にならないかを検討したので報告する.
実験技術
  • 小林 真之, 藤田 智史, 越川 憲明
    2006 年 128 巻 5 号 p. 309-314
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    Sharp grass electrodeを用いた細胞内記録法は,in vivo,in vitroを問わず多くの実験系で行われ,多くの成果を上げてきた.その一方で,現在,ニューロンの機能解析に関してはパッチクランプ法によるアプローチが全盛である.しかしsharp grass electrodeを用いた細胞内記録法には,細胞質のwashoutを最小限に抑えられること,成熟動物標本へ適用しやすいといったパッチクランプ法に勝る長所がある.また,記録細胞にbiocytin等を注入して染色する場合,sharp grass electrodeを用いれば細胞外への漏れがほとんどなく,極めて美しい標本を作成することが出来る.したがって細胞内記録法は,パッチクランプ法では得ることが困難な情報を引き出せる手法であり,お互いを相補的に用いることによって,より多くのニューロンの情報を解析することが出来る.本稿では,脳スライス標本を用いた細胞内記録法について,パッチクランプ法と比較しながらその手技を紹介する.
  • 藤井 彰, 松本 裕子, 山根 潤一, 姜 桂珍
    2006 年 128 巻 5 号 p. 315-320
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    ラット口腔内を用いた実験は,歯科医学関係のものが多いが,近年では薬物の副作用に唾液分泌の亢進または抑制などの項目も多く見られるようになり,一概に歯科医学の研究対象だけではなくなってきている.しかしながら,ラットの口腔内を対象にした実験を行う場合,ラットの口腔は微小であり,開口量は比較的大きいが操作が煩雑であるという欠点がある.そこで,実験を容易に行うための開口器を試作した.本器は口腔内が見やすく,しかも気道を圧迫する恐れのないもので,術中に死に至ることもなく,盲嚢(ポケット)内に結紮糸を留置し物理的刺激を加えることによる歯周炎の作成,歯周病原因菌の盲嚢内定着による歯周病の作成,歯の移動のためのデバイスの装着,口腔粘膜,歯肉,舌の特定部位への物質の投与等の実験に有用である.近年,歯周疾患に起因する全身疾患(心血管疾患,糖尿病,呼吸器疾患,骨粗鬆症等)や低体重児に関しても多く研究されるようになり,歯周疾患動物モデルの作成も重要な位置を占めるに至っている.また,骨粗鬆症による全身的骨脆弱化が歯の欠損と有意に相関があることが多く報告されている.しかしながら,骨粗鬆症における大腿骨と顎骨の関連については報告が少ない.本報告では,これらの実験を小動物を用いて行う場合に有用である小動物用開口器を開発し使用しているので紹介する.
治療薬シリーズ(9)疼痛
  • 砥出 勝雄
    2006 年 128 巻 5 号 p. 321-325
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    痛みの種類は炎症性疼痛,侵害受容性疼痛および神経因性疼痛など急性痛から難治性の慢性痛まで多種多様である.現在,それぞれの治療薬として非ステロイド性鎮痛薬,非麻薬性鎮痛薬や麻薬性鎮痛薬,抗てんかん薬や抗鬱薬などが用いられている.炎症性疼痛や侵害受容性疼痛は治療法がほぼ確立しているといっても過言ではないが,神経因性疼痛などの慢性痛においては病態発症機構の解明が進んでいるものの有効な治療薬の開発はやっとその途についたばかりである.それゆえ慢性痛の病態解明や治療法の確立は急務である.近年,疼痛に関する基礎研究は大きく進歩し,末梢組織,後根神経節,脊髄後角さらに脳などで痛みに深く関わるタ-ゲット分子が多数発見され,それらの疼痛発症機構に関する研究に加え,各疼痛ターゲットに種々の動物モデルを用いた創薬研究が展開されている.
  • 井関 雅子, 中村 吉孝, 森田 善仁
    2006 年 128 巻 5 号 p. 326-329
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    痛みの治療を専門とする医師の間でも,神経因性疼痛に対して患者が満足するような確実な除痛効果が得られないこともあり,しばしば治療に難渋するのが現状である.その中でも,鎮痛補助薬である抗鬱薬,抗痙攣薬,NMDA受容体拮抗薬などの使用により,痛みに関与する神経伝達物質の促進・抑制,各種チャネルや受容体の作動・遮断をおこなうことで,痛みを緩和することが可能な場合もある.欧米ではCaチャネルブロッカー(α2 δ1subunit)としてシナプス前で神経伝達を抑制すると考えられているプレガバリンが有望視されているが,残念ながら本邦では未発売である.一方,以前は神経因性疼痛に無効と考えられていたオピオイドに関しても,近年では有効性を示す論文も散見される.今後も,副作用の少なく除痛効果の高い薬物の開発が望まれる.
新薬紹介総説
  • 廣瀬 毅, 間宮 教之, 山田 佐紀子, 田口 賢, 亀谷 輝親, 菊地 哲朗
    2006 年 128 巻 5 号 p. 331-345
    発行日: 2006年
    公開日: 2006/11/14
    ジャーナル フリー
    統合失調症は,生涯罹病危険率が人口の0.75~1 %を占める代表的な精神疾患であり,中枢のドパミン作動性神経の過剰活動にその主な原因があると考えられている(ドパミン過剰仮説).過去には,クロルプロマジンを始めとしてハロペリドールなどのドパミンD2受容体アンタゴニスト作用を有する薬剤が数多く開発された.これら定型抗精神病薬は総合失調症の症状の中で,幻覚,妄想および精神運動性興奮などの陽性症状に対しては効果がある反面,情動の平板化,感情的引きこもりおよび運動減退などのいわゆる陰性症状に対しては効果が弱い.安全性の面では,アカシジア,ジストニア,パーキンソン様運動障害などの錐体外路系副作用が多く,高プロラクチン血症が問題になっていた.1990年代に入って,非定型抗精神病薬の概念を確立させたクロザピンに続くオランザピンの開発,リスペリドンを始めとするserotonin-dopamine antagonist(SDA)の開発などで,先述した定型抗精神病薬の欠点の中で特に錐体外路系副作用を軽減することができた.しかし,非定型抗精神病薬の残る副作用として,体重増加,脂質代謝異常,過鎮静作用,心臓QT間隔延長などがクローズアップされ,より安全性と効果の面で優れた,次世代の抗精神病薬の登場が待たれていた.大塚製薬では,1970年代後半より,統合失調症のドパミン過剰仮説にのっとり,シナプス前部位ドパミン自己受容体へのアゴニストの研究を開始した.その後,その研究をシナプス前部位ドパミン自己受容体へはアゴニストそしてシナプス後部位ドパミンD2受容体に対してはアンタゴニストとして作用する新しい化合物の研究へと発展させ,その成果として,ドパミンD2受容体部分アゴニスト,アリピプラゾールを見出した.アリピプラゾールは,ドパミンD2受容体部分アゴニスト作用を有する世界で初めての抗精神病薬であり,既存薬とは異なりドパミン神経伝達に対してdopamine system stabilizer(DSS)として働くことより次世代の抗精神病薬として注目されている.
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