日本薬理学雑誌
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131 巻, 4 号
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特集:未病治療へ向けての薬理学的展開
  • 稲垣 直樹, 高 〓坤, 田中 宏幸, 永井 博弌
    2008 年 131 巻 4 号 p. 240-243
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    NC/Ngaマウスの耳殻皮膚に,テープストリッピングとダニ抗原溶液の塗布を繰返すと,血中IgEの上昇,インターロイキン-4(IL-4)mRNA発現の増大およびインターフェロン-γ(IFN-γ)mRNA発現の減弱を伴う耳殻腫脹が誘発される.病理組織学的検討では表皮の肥厚,真皮の腫脹,炎症細胞の集積などの炎症の徴候が認められる.アトピー性皮膚炎に有効性を示す漢方方剤の十全大補湯,補中益気湯,消風散および黄連解毒湯は,IL-4 mRNA発現の増大およびIFN-γ mRNA 発現の減弱を回復させる傾向を示し,耳殻腫脹とともに組織学的な炎症の徴候を抑制する.したがって,これらの方剤はTh1/Th2バランスを矯正することによってアトピー性皮膚炎に対して治療効果を発揮する可能性が示唆される.

    (〓は、漢字の金を3つ)
  • 間宮 隆吉, 喜瀬 光男, 森川 桂子, 鵜飼 良
    2008 年 131 巻 4 号 p. 244-247
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    最近は一時に比べ,健康食品ブームもようやく落ち着いてきた.しかし充分な検証もないまま効能だけが一人歩きし,あたかも医薬品以上の効果があるかのように謳う商品が未だに存在することは由々しきことである.そうした商品が世の中にあふれるのは,マスコミなどメディアの過剰な報道によることと同時に,充分な検証がされていないことにも問題があると思われる.大雑把に言えば,ヒトや動物が口に入れるもののうち医薬品(医薬部外品)でないものが健康食品で,そのうち特定保健用食品と栄養機能食品については国が基準を定めている.医薬品(医薬部外品)が発売されるまでには動物やヒトを用いた基礎および臨床研究によって十分な効果を実証し(その上で毒性試験など)厳しい審査基準をクリアしなければならないが,そのほかのものは医薬品と比べると厳しくない.我々は食品についても十分な基礎薬理学的な検討が必要と考え,いくつかの食材や食品について行動薬理学的に検討してきた.ここでは日本人の主食であるコメおよびコメに含まれる成分に着目しマウスにおける効果を薬理学的に検証したのでその一部を報告したい.
  • 駒井 三千夫, 神山(渡部) 麻里, 神山 伸, 大日向 耕作, 堀内 貴美子, 古川 勇次, 白川 仁
    2008 年 131 巻 4 号 p. 248-251
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    ビタミンは,基本的には食品から摂取されなければならないが,大量に摂取することによって,基本的な生理機能の働きのほかに疾病を予防するなどの新規な機能を発揮することが知られてきた.また,体力増強や疲労回復などにもビタミンが利用されるようになってきた.このように,ビタミンを所要量の数倍から数十倍摂取すると,体内におけるビタミンの薬理作用が期待されている(薬理量,保健量の摂取).当論文では,ビオチンによる新規生理作用のうち,とくに高血圧症改善効果に関してまとめた.ビオチンの摂取によって耐糖能とインスリン抵抗性の改善はすでに報告されているが,今回は脳卒中易発性高血圧自然発症ラット(SHRSP)を用いて,高血圧改善効果を証明できたので報告する.すなわち,毎日3.3 mg/L水溶液の飲水からのビオチンの摂取によって,飼育2週目以降で高血圧症が改善されることを見出した.このように,本態性高血圧症を呈するSHRSPにおいてビオチン長期摂取により血圧上昇抑制効果が確認され,またそれによる動脈硬化の軽減が実際に示された.さらに,ビオチンの単回投与による血圧降下作用の検討によって,この作用はNOを介さない経路での可溶型グアニル酸シクラーゼ活性化を介したcGMP量増加の機構(Gキナーゼ介在による細胞内Ca2+濃度の低下)による可能性が示唆された.
  • 鈴木 信孝
    2008 年 131 巻 4 号 p. 252-257
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    欧米の先進諸国において,補完代替医療(CAM)の利用頻度は近年急速な増加傾向にある.また,わが国でも,患者自身の治療選択における自己決定意識の高まりに加え,インターネットの普及などから,実際の医療現場でもCAMの利用者が急速に増加していることが指摘されている.このような背景のもとに,2001年に厚生労働省がん研究助成金による研究班が組織され,わが国におけるがんの補完代替医療の利用実態調査が全国規模で行われた.そして,がん患者の44.6%(1382/3100名)が,1種類以上の代替療法を利用していることが明らかになった.さらに,利用されているCAMの種類としては,健康食品・サプリメント(漢方・ビタミンを含む)が96.2%と群を抜いて多いことや,使用頻度の高いものとしてアガリクス(60.6%),プロポリス(28.8%),AHCC(7.4%),漢方薬:OTC(7.1%)などがあることもわかった.また,半分以上の患者が,十分な情報を得ずにCAMを利用していることや,患者と医師の間にCAMの利用に関して十分なコミュニケーションがとれていないことも判明した.たしかに,サプリメントが薬理学的に高い効果を示すかどうかは懐疑的である.しかし,患者側の立場としては,たとえわずかであっても効果が認められるものがあれば取り入れたいと思うのは当然であろう.今後,氾濫するサプリメントの情報の中で,科学的に的確なものを見極め,総合的な医療としてサプリメントなども利用した健康管理も必要となろう.本稿では,まずCAMを概説し,わが国における食品の分類,サプリメントの安全性や米国で進む植物性医薬品(Botanical Drug)の研究・開発についても解説する.
総説
  • 奥山 治美, 橋本 道男, 伊藤 幹雄, 徳留 信寛, 島野 仁, 板倉 弘重
    2008 年 131 巻 4 号 p. 259-267
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    過去半世紀の食習慣の変化は,健康寿命を延ばす上で十分に寄与したと思われる.しかし,多種の癌の死亡率増加やアレルギー・炎症性疾患の増加,行動パターンの変化なども伴っていた.これらの変化に脂質栄養が深く関わっていると考えられているが,従来の“植物油を善玉とし,動物性脂肪とコレステロールを悪玉とする栄養指導”は,むしろ心疾患を増やし,癌死亡率,総死亡率を上げる危険なものであった.短期間の臨床試験の結果を長期の慢性疾患の予防に直接当てはめてしまったこと,家族性高コレスロール血症のような遺伝的素因を持つ人の多い集団の結果を,一般集団にまでそのまま演繹してしまったこと,疾病と相関の高い因子を危険因子とし,因果関係を考慮することなく,その因子を減らす(低下させる)手段をとってきたことなど,考えるべきことが多い.本総説では,各種脂肪酸が脳機能,メタボリックシンドローム・糖尿病,癌,動脈硬化性疾患,などに及ぼす多様な影響について,基礎・臨床面の最新のデータを紹介しながら,心身の健康増進に寄与しうる脂肪酸のバランスについて解説している.
実験技術
  • 植田 真一郎
    2008 年 131 巻 4 号 p. 269-274
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    ヒトにおいて血管内皮機能は,アセチルコリンを前腕の動脈に注入し,前腕血流量の変化をプレシスモグラフにより測定することによって評価される.現時点では,ヒト内皮機能測定のgolden standardである.内皮非依存性の拡張は主としてニトロプルシッドの動注による前腕血流の変化を測定して評価する.この方法はFurchgotらの論文,すなわち「アセチルコリンは内皮細胞の存在下でEDRFを遊離し血管を拡張する」に基づいている.NOS阻害薬であるL-NMMAの併用によりNO依存性血管拡張も評価可能であるが,L-NMMAにより抑制されない部分の血管拡張作用のメカニズムはヒトではまだ明らかではない.高血圧,高脂血症,糖尿病患者など心血管危険因子を有する患者で反応の低下が報告されている.またアセチルコリンの反応の一部は薬理学的な刺激によるNO産生を反映するが,L-NMMA自身による血管収縮作用は,NOの基礎的産生を間接的に表すとされ,インスリン感受性との相関が報告されている.さまざまな薬剤の内皮機能におよぼす影響が検討されているが,アセチルコリン血管拡張作用にはさまざまなconfounding factorが存在し,結果の解釈は容易ではない.機能的バイオマーカーとして,どちらかと言えば薬剤の比較的急性の効果を評価するヒトでの薬理実験に適している.FMDは超音波で阻血解除後の血流増加による血管拡張を測定し,その変化率を内皮機能として評価する方法である.この方法は侵襲がない利点があり,疫学研究にも採用されているが,再現性の問題,方法の多様性(最近まで標準化されていなかった),用量反応曲線を描けないこと(一点での反応),データ解釈の難しさ等解決すべき問題は多い.
治療薬シリーズ(25)パーキンソン病治療薬
  • 神田 知之, 森 明久
    2008 年 131 巻 4 号 p. 275-280
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病治療薬の主流は,ゴールドスタンダードと位置づけられるレボドパやドパミン作動薬を中心としたドパミン受容体の活性化をもたらす薬剤である.それらは明瞭な症候治療効果を有するが,種々の副作用や長期使用による様々な問題を呈することも知られ,本疾患の経過を通じ薬物療法上の大きな問題になっている.この問題を解決するため,近年,ドパミン受容体とは異なる非ドパミン性の受容体を標的とすることが提案され,いくつかの化合物が臨床開発に入っている.本稿では前者をドパミン性アプローチ,後者を非ドパミン性アプローチと大別し,非ドパミン性アプローチを中心に代表的な化合物を紹介する.また神経変性疾患であるパーキンソン病の根本治療のため,神経保護作用へのアプローチとして様々な創薬標的が提案されている.これらについても概説し,併せて探索評価のための動物モデルにも言及し,本領域の今後の研究課題を展望した.
  • 村田 美穂
    2008 年 131 巻 4 号 p. 281-284
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    パーキンソン病(PD)は大脳黒質ドパミンニューロンの変性により振戦,無動,固縮,姿勢調節障害を主体とする,アルツハイマー病に次いで多い神経変性疾患である.抗PD薬はドパミン前駆物質であるL-dopaを始めドパミン受容体刺激薬,MAO阻害薬,COMT阻害薬等多数開発されているが,現時点ではL-dopaをしのぐ薬剤はない.L-dopaは効果が高く,副作用は少なく廉価で極めて優れた薬剤であるが,半減期が短いのが最大の欠点である.PD治療においては現存の薬剤で初期には良好な効果を得られるが,長期治療中には効果持続時間の短縮によりwearing-off現象や不随意運動,精神症状などの問題点が出現してくる.今後期待される薬剤としては,半減期の長いL-dopa製剤,振戦,すくみ,姿勢調節障害に効果の高い薬剤,さらに,細胞変性を50%程度で維持できる神経保護薬の開発が強く望まれる.
創薬シリーズ(3)その3 化合物を医薬品にするために必要な安全性試験
  • 義澤 克彦
    2008 年 131 巻 4 号 p. 285-290
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    皮膚は体の中の最大の器官であり,常に化学物質や環境物質など外界からの刺激に暴露されている.皮膚毒性はその発現機序により,皮膚に触れておこる傷害である接触性皮膚炎(刺激性皮膚炎,アレルギー性接触性皮膚炎,化学熱傷),紫外線との複合作用により引き起こされる光過敏症(光毒性皮膚炎,光アレルギー性接触性皮膚炎),接触性蕁麻疹,化学挫瘡,色素沈着異常,薬疹,毛の異常,爪の異常,腫瘍に大別され,本総説では皮膚の機能・構造およびこれら皮膚毒性の特徴について概説した.近年,特定の分子・遺伝子を標的とする医薬品やナノテクノロジーを利用した医薬品開発が進歩し,新規医薬品の新たなメカニズムによる毒性発現が懸念され,ここで述べた基本的な毒性変化を理解しておくことが重要であろう.
     我々は日常生活の中で化学物質や環境物質など外界からの刺激に常に暴露されており,様々な皮膚の症状を経験する.「化合物を医薬品にするために必要な安全性試験」シリーズの本稿では,1)皮膚の機能・構造,2)医薬品・化学物質による皮膚毒性の特徴について,自験例を含めて解説する.
新薬紹介総説
  • 永野 伸郎
    2008 年 131 巻 4 号 p. 291-299
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    貧血とは,酸素運搬能を有するヘモグロビン(Hb)の血中濃度の低下で定義される.成体において,造血ホルモンであるエリスロポエチン(EPO)の産生部位は腎であるため,腎機能が廃絶している慢性透析患者において,貧血は頻発する重大な合併症となる.遺伝子組換えヒトEPO(rHuEPO)製剤は,1990年の発売以来,その優れた造血効果と安全性で,腎性貧血治療において多大なる貢献をし続けてきたものの,貧血改善効果を持続するには,週3回の透析ごとの投与が基本となる.ネスプ®(一般名:ダルベポエチン アルファ)は,遺伝子工学および糖鎖工学の手法により,rHuEPO分子に新たにアスパラギン結合型(N-結合型)糖鎖を2本付加した持続型赤血球造血刺激因子製剤である.ネスプのヒトEPO受容体に対する結合親和性はrHuEPOに比較して低いものの,ラットおよび透析患者における静脈内投与時の血中消失半減期は約3倍に延長されている.その結果,貧血症状を呈する慢性腎不全ラットにおいて,ネスプは単回静脈内投与時にはrHuEPOの1/3の用量で,また反復静脈内投与時(総投与量が等しい場合)にはrHuEPOの1/3の投与頻度で,ほぼ同等の貧血改善効果を示す.血液透析(HD)患者においては2週間に1回,腹膜透析(PD)患者においては4週間に1回の最大投与間隔で,ネスプはHb濃度を安定して11 g/dL前後に維持でき,かつHb濃度の上昇に付随して,健康関連の生活の質(QOL)が全般的に改善することが国内臨床試験で認められている.ネスプは本邦では,2007年7月より,「透析施行中の腎性貧血」を効能・効果として,rHuEPO製剤からの切り替え下で臨床使用が開始されており,透析患者の貧血改善ならびにQOL向上はもとより,透析医療現場において,投与頻度の減少に基づく医療事故の低減や様々な業務改善が期待されている.
  • 篠崎 豊
    2008 年 131 巻 4 号 p. 301-304
    発行日: 2008年
    公開日: 2008/04/14
    ジャーナル フリー
    ビジクリアは,米国において2001年より販売されているVisicol錠(Salix Pharmaceuticals, Inc.)を,日本人に適した製剤および用法・用量に検討,開発した経口腸管洗浄剤である.ビジクリアは,リン酸二水素ナトリウム一水和物および無水リン酸水素二ナトリウムを有効成分として配合しており,大腸内視鏡検査の前処置薬として優れた腸管洗浄効果を示す.また,ビジクリアは日本で初めての錠剤タイプの経口腸管洗浄剤であり,患者受容性(服薬のしやすさ)の向上を目的として開発された.ラットおよびイヌでの薬効薬理試験の結果から,ビジクリアの作用機序は,腸管内に水分を貯留させて瀉下作用を示し,その結果腸管洗浄効果を発揮すると考えられている.ビジクリアの用量・用法はVisicol錠でのそれを基に検討し,その洗浄効果,副作用発現率,受容性の結果および本邦における使用上の利便性を考慮し,「大腸内視鏡検査の4~6時間前から1回あたり5錠ずつ,約200 mLの水とともに15分毎に計10回(計50錠)経口投与する」とした.ビジクリアを用法・用量に従い服薬した時の大腸洗浄効果の有効率は,93.1%(311/334例)であり,既存の経口腸管洗浄剤の有効率と比較して劣るものではなかった.また,承認時までの安全性評価対象例中49.2%(268/545例)に副作用が認められ,その内訳は自他覚的副作用の発現率11.4%(62/545例),臨床検査値異常の発現率43.7%(238/545例)であった.この臨床検査値異常において認められる血清中電解質の変動(血清カリウム低下,血清リン低下等)は一過性のものであり,ほとんどの被験者で服薬開始3~7日後には服薬前に回復した.受容性は4段階で評価し,「受入れやすい」または「まあまあ受入れやすい」と回答した割合は,80.3%(192/239例)であり,大腸内視鏡検査の経験がある被験者において,77.1%(27/35例)が「過去の腸管洗浄法がつらかった」と回答した.一方,ビジクリア服薬後のほとんどの被験者の大腸内にビジクリア由来の不溶成分(結晶セルロース)が認められたが,容易に吸引除去が可能であった.以上の結果から,ビジクリアは大腸内視鏡検査の前処置において有用な経口腸管洗浄剤であると考えられた.
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