日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
133 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集 医薬品開発における薬物性QT延長症候群回避のための基本戦略
  • 杉山 篤
    2009 年 133 巻 1 号 p. 4-7
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    従来の非臨床試験では,薬物性QT延長症候群の発生を予知できなかった.その結果,不整脈誘発作用のある薬物が臨床の現場で患者に処方され,不整脈死が世界各地で発生した.このような事故を回避するため,日米欧医薬品規制調和国際会議(通称ICH)はS7BおよびE14ガイドラインに非臨床試験の役割を明確に記載し,特にQT間隔を延長する医薬品の不整脈誘発リスクを直接評価できる催不整脈モデルの重要性を示した.我々は催不整脈モデルとして慢性房室ブロック犬モデルを開発し,薬物性QT延長症候群の高リスク患者に存在する解剖学的・生化学的・電気生理学的torsades de pointes(TdP)発生基盤を有することを証明した.TdP誘発の高リスク薬であるシサプリドやテルフェナジンなどをこのモデルに投与すると臨床用量付近からTdPが誘発されたが,QT延長作用を欠くファモチジンやレボフロキサシンなどでは臨床用量の10倍以上を投与してもTdPは観察されなかった.この事実から慢性房室ブロック犬は感度・特異度の高い催不整脈モデルと国内外で評価されている.最近,我々はカニクイザルを用いた慢性房室ブロックモデルの開発にも成功した.このモデルはイヌモデル同様に高いTdP検出力を有することが明らかになった.また,薬物で誘発されたTdPが自然停止することが多いので再現性の確認が可能であり,さらに,モキシフロキサシン投与時のQT延長の程度が健康成人ボランティアにおける結果と同等であることも示されたので,臨床への外挿性が非常に高いモデルと考えられている.
  • 熊谷 雄治
    2009 年 133 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    薬剤性QT延長症候群はtorsades de pointes(TdP)と呼ばれる致死的な心室頻拍のリスクファクターであり,薬物治療の上で重要な問題である.新薬の開発においてもICH-E14ガイドライン「非抗不整脈薬におけるQT/QTc間隔の延長と催不整脈作用の潜在的可能性に関する臨床評価」の海外での運用が開始されている.このガイドラインにおいて詳述されているthorough QT/QTc試験(tQT試験)はTdP自体の発現ではなく,心電図QT/QTcの延長という代替マーカーを用いてTdPのリスクを予測しようというもの,すなわち,個人で発現するまれな事象を,代替マーカーの全体におけるわずかな平均値の変化で予測する試験である.検出しようとするQT/QTcの変化量は5 msという極めて微少なものであることから,試験計画を立案する際には様々な注意点がある.繁用されている試験デザインは盲検化,クロスオーバー,非投薬時のコントロール測定,プラセボ対照,試験の精度を保証するための陽性対照の使用などである.QT測定は外部中央測定の方法論が確立されており,かなり高い精度の測定結果を得ることが出来るようになっている.QTの測定値に関する最大の問題は,心拍数補正である.特に軽度であっても心拍数の上昇が見られる薬剤については見かけ上のQT/QTc延長が見られることがあり,適切な心拍数補正法の検討が重要である.我が国ではまだtQT試験の実施例は少ないが,今後予定される日本語版のE14ガイドラインの施行とともに増加すると思われ,試験計画立案には個々の薬剤の特徴に応じた充分な考慮が必要である.
  • 渡橋 靖
    2009 年 133 巻 1 号 p. 14-18
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    綿密な(thorough)QT/QTc試験は,被験薬の治療用量,最大曝露量の数倍の用量,プラセボ,陽性対照の4薬剤を比較する臨床薬理試験である.陽性対照は試験の分析感度を証明するために用いられる.主要なエンドポイントは,同じ時間に測定した被験薬とプラセボの平均値の差の,収集の全期間を通じた最大値であり,これはQTc間隔の日内変動,PharmacokineticsやPharmacodynamicsの特徴,統計学的性質を考慮して決定された.時点毎に被験薬とプラセボの平均値の差とその95%片側信頼区間を求め,全ての時点で信頼区間の上限が10 msを下回っていれば陰性と判断される.試験を計画する際は,QTc間隔の変動要因を考慮し,Fisherの3原則を適用して,バイアスとなる系統誤差を可能な限り除去し,偶然誤差を可能な限り小さくすべきである.ベースライン値による調整は,個体間変動や日内変動の影響を減じるために重要である.Time-matched baselineとPre-dose baselineがよく用いられており,一般に並行群間比較試験では前者が薦められるのに対し,クロスオーバー試験では後者も適切であると考えられる.
  • 加藤 貴雄
    2009 年 133 巻 1 号 p. 19-21
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    薬物使用中に心電図QT/QTc間隔が異常に延長する病態を薬物性QT延長症候群という.心臓薬のみならず非心臓薬でも起こりうることが指摘され,その一部はtorsades de pointes型心室頻拍などの致死性不整脈を惹起することが報告されて以来,臨床の現場で広く注意が喚起されるに至っている.一方で,新たに開発されてくるさまざまな薬剤に関しても,安全性重視の観点から,薬剤の薬理学的作用によってたとえ軽度であってもQT/QTc間隔を延長させることがないかを,厳密な方法でかつ客観的に証明することが国際調和会議の中で求められるようになってきた.すなわち,新規薬剤開発のための臨床試験計画において,詳細な心電図記録・計測・評価システムを含む試験プロトコールを立案することが不可欠である.しかし実際の臨床においては,QT/QTc間隔をはじめとする種々の心電図指標値は,当該薬剤の薬理作用のみならず他のさまざまな患者要因の影響を受けて大きく変動する.薬剤の持つ純粋なQT延長作用の有無を正確に評価することのできる,よい試験プロトコールを立案するためには,対象薬剤の薬理作用を詳細に把握しておくことが肝要であるのは言うまでもなく,対象患者のさまざまな臨床背景を充分に考慮に入れることが重要である.
実験技術
  • 座間味 義人, 高取 真吾, 川崎 博己
    2009 年 133 巻 1 号 p. 22-26
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    脊髄穿刺モデルは,循環反射の関与を除外した状態で各種血管作動性物質による心血管反応をin vivo系で観察することができるだけでなく,穿刺ロッドを介した電気刺激により各種神経性の心血管反応とこれに対する薬効評価も観察できるため,末梢における心血管反応の評価に有用である.モデル作製では,ラットを用い,ペントバルビタール麻酔下に眼窩より脊柱内にロッドを挿入し,仙髄までの脊髄を破壊し,人工呼吸下に,頚動脈に挿入したカニューレを介して全身血圧および心拍数を測定記録した.血圧および心拍数が安定した後,穿刺ロッドを介して胸髄上部を電気刺激すると心拍数の増加を伴った刺激頻度依存性の血圧上昇反応,胸髄下部刺激では心拍数の増加を伴わない刺激頻度依存性の血圧上昇反応が観察される.この昇圧反応は,遠心性交感神経による血管収縮反応である.メトキサミンで平均血圧を人工的に約100 mmHgに上昇維持し,ヘキサメソニウムで自律神経を遮断した条件で,電気刺激を行うと,心拍数の増加を伴わない刺激頻度依存性の血圧下降反応が観察される.この降圧反応は,CGRP作動性神経による血管拡張反応である.脊髄穿刺SHRでは,CGRP神経性血管反応の減弱が観察されるが,これがSHRの交感神経性血管反応の増大を招き,高血圧の進展・維持に関与している可能性を示唆する.脊髄穿刺インスリン抵抗性ラットでは慢性的な高インスリン血症状態が交感神経性血管反応の増大とCGRP神経性血管反応の減弱が生じていることから,これら神経の機能的な変化が高血圧症状を誘導すると考えられる.一方,脊髄穿刺ラットの実験で,nNOS神経が交感神経からのノルアドレナリン遊離を抑制することで,過度の血管収縮を抑制し血管の緊張度を調節していることも示唆できる.これらの研究から,脊髄穿刺モデルはin vivo系における神経性心血管反応とこの反応に対する薬効評価ができる有用なモデルであると考えられる.
治療薬シリーズ(33) 標的分子薬-4-1
  • 平井 洋, 下村 俊泰, 駒谷 秀也, 小谷 秀仁
    2009 年 133 巻 1 号 p. 27-31
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    正常な体細胞ががん化する為には,細胞のいくつかの制御機構に異常が引き起こされることが必要と考えられている(1).これらは,細胞増殖のシグナルの異常,細胞死制御の異常,DNAの修復機構の異常などが含まれるが,その中でも,細胞周期に変化を起こすような細胞分裂制御機構の異常は細胞のがん化におけるひとつの大切なホールマークとして知られている.  細胞分裂は4つの周期に分けられており,それらはG1期,S期,G2期,M期で,それぞれ異なったタンパク質がその時期の制御に関わっている.現在使用されている抗がん薬の多くは,この細胞周期の1つまたは,複数期に関わっているタンパク質の活性を阻害するものであり,その臨床的な有用性は様々な研究によって証明されている.  しかしながら,現行の抗がん薬には様々な副作用も知られており,また,多くの抗がん薬がその化合物が天然物由来であることもあり,阻害メカニズムに由来した以上の副作用も存在している.これらのことから,患者さんからは副作用の少ない次世代の抗がん薬の創製が強く望まれている.  以上のような理由から,現在細胞分裂の制御に関係したタンパク質の阻害薬が多くの研究者,企業によって開発されている.このレビューでは,特に,現在その標的に対して薬が作られていない新規の細胞分裂抗がん薬ターゲットに着目してその開発状況を報告する.
新薬紹介総説
  • 笹川 慎一, 清水 豊, 今田 和則, 水口 清
    2009 年 133 巻 1 号 p. 32-40
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    ジエノゲスト(販売名:ディナゲスト錠1 mg)は,プロゲステロン受容体に対して選択的なアゴニスト活性を示す第4世代のプロゲスチンである.ジエノゲストは,ラットおよびウサギに経口投与することによりプロゲステロン作用を示し,一方,アンドロゲン作用,グルココルチコイド作用およびミネラルコルチコイド作用は示さなかった.ジエノゲストは,カニクイザルに反復経口投与することにより月経周期の停止,月経周期に伴う血中エストラジオール濃度の上昇および黄体形成ホルモン濃度の上昇を抑制し,卵巣機能抑制作用を示した.ジエノゲストは,カニクイザルに単回経口投与することにより,血中卵胞刺激ホルモン濃度の基礎値に影響することなく血中エストラジオール濃度を低下させ,このとき,主席卵胞の閉鎖を示唆する所見が観察された.また,ジエノゲストは,ヒト正常子宮内膜および子宮内膜症組織由来の間質細胞の増殖を抑制した.以上の結果から,ジエノゲストは,子宮内膜症患者において,卵巣機能抑制作用および直接的な子宮内膜症細胞の増殖抑制により,疼痛の軽減および病巣の縮小・萎縮を示すと考えられる.子宮内膜症患者を対象とした国内臨床試験において,ジエノゲストの2 mg/日により,自覚症状の改善および他覚所見の改善が認められた.また,本剤の長期投与試験において,投与期間の延長による骨密度の累積的な減少がみられることなく有効性を示したことから,長期投与による有用性が期待される.
  • 神田 裕子
    2009 年 133 巻 1 号 p. 43-51
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/01/14
    ジャーナル フリー
    シタフロキサシン(STFX:グレースビット®錠50 mg,細粒10%)は,第一三共株式会社において創製され,2008年6月に発売されたキノリン骨格の1位にフルオロシクロプロピル基を,7位にスピロ型アミノピロリジン基を有するキノロン系抗菌薬である.本剤は,既存のキノロン系抗菌薬耐性菌を含むグラム陽性菌ならびにグラム陰性菌,さらにはマイコプラズマおよびクラミジアなどの非定型菌に対して,既存キノロン系抗菌薬と比較して最も高い抗菌活性を示した.特に,呼吸器感染症主要原因菌である肺炎球菌および尿路感染症主要原因菌である大腸菌に対し,既存キノロン系抗菌薬と比較してそれぞれ2~32倍および8~16倍強い抗菌力を示した.STFXは細菌の標的酵素であるDNAジャイレースおよびトポイソメラーゼIVのいずれの酵素に対しても強い阻害作用を有し,さらに既存のキノロン系抗菌薬に耐性化した変異酵素の活性も強く阻害するため,他のキノロン系抗菌薬の耐性株に対しても強い抗菌力を発揮できると考えられた.STFXはヒトにおいて経口投与により速やかに吸収された後,良好な組織移行性と約6時間の半減期を示しながら,その大部分(約70%)が未変化体として尿中に排泄された.臨床試験においては,呼吸器感染症,尿路感染症をはじめとする各種感染症において90%以上の高い有効性が認められ,さらに,直前抗菌化学療法無効患者においても93.4%の高い有効性が認められた.細菌学的効果(菌消失率)は,呼吸器感染症で92.0%,尿路感染症で95.8%であり,本剤の強い抗菌力を反映した優れた効果が認められた.臨床試験で認められた主な副作用は下痢(13.0%)であったが,大部分が軽度であり一過性のものであった.これらの基礎試験および臨床試験成績から,STFXは呼吸器感染症,尿路感染症をはじめとする細菌感染症治療の有用な選択肢と考えられる.
feedback
Top