Gタンパク質共役型受容体(G protein-coupled receptor:GPCR)は,細胞膜を7回貫通する特徴的な分子構造を有しており,現在,臨床で用いられている薬物の約50%がGPCRをその標的分子としている.一般に,GPCRは,神経伝達物質やホルモンといった細胞外の様々な刺激情報を三量体Gタンパク質(G
q,G
s,G
i,G
12ファミリー)を介して細胞内へ伝達し,細胞機能の調節・制御・修飾に寄与する.心血管系疾患の病態形成において,重要な役割を担っているエンドセリンA型受容体(ET
AR),アンジオテンシン1型受容体(AT1R),ATP(P2Y)受容体(P2YR)などのGPCRは,いずれもG
qタンパク質と共役している.これらGPCR刺激は,G
qタンパク質/ホスホリパーゼC(PLC)の活性化を介して,セカンドメッセンジャーであるイノシトール1,4,5-三リン酸(IP
3)やジアシルグリセロール(DAG)の産生量を増大させ,その結果,小胞体からの一過性Ca
2+遊離や細胞外からの持続性Ca
2+流入をもたらす.このうち,持続性Ca
2+流入は,興奮伝導,筋収縮,分泌,増殖・分化,生存・死などの多種多様な細胞応答を制御する上で,中心的な役割を果たしている.この様な持続性Ca
2+流入に関与する分子として,Ca
2+透過性カチオンチャネルであるTRPC(transient receptor potential canonical)が同定されている.TRPCは,Ca
2+だけではなく,Na
+をも透過させる.TRPCを介したNa
+流入は,細胞内外のNa
+濃度勾配や膜電位の変化をもたらすことにより,Na
+/Ca
2+交換輸送体(Na
+/Ca
2+exchanger:NCX)や電位依存性Ca
2+チャネル(voltage-dependent Ca
2+channel:VDCC)を介したCa
2+流入を惹起する.また,Na
+は,Na
+/H
+交換輸送体(Na
+/H
+exchanger:NHE)を介しても細胞内へ動員され,NCXの活性化に寄与する.本稿では,TRPC,NHE,NCXが協働してもたらすNa
+流入と持続性Ca
2+流入との機能的共役について,ET
ARに関する我々の知見と最近の報告を織り交ぜて,論述する.
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