日本薬理学雑誌
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134 巻, 2 号
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総説
  • 松本 信英, 田平 武
    2009 年 134 巻 2 号 p. 59-63
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)は認知機能が次第に低下していく神経変性疾患である.これまでの研究から,アミロイドβ(Aβ)と呼ばれる凝集性の強いペプチドが病因として関与していることが実証され,現在ではこの脳内Aβの増加・凝集・蓄積がAD発症の引き金を引くという「アミロイド仮説」を基盤として,様々な治療法の開発が行われている.その先駆けとなったワクチン療法は,Aβを有害な侵入者に見立て患者の免疫系を利用して排除するという画期的な方法として注目された.ワクチン療法はモデル動物を用いた実験では良好な結果を示したが,ヒトでの治験は副作用の出現により中止され,その後の追跡調査では,ワクチン接種によりAβの蓄積は軽減されるが認知機能の低下は食い止められなかったという残念な結果が報告された.本稿では,これまでの研究から得られた知見を概説し,これからのワクチン療法の可能性について考察したい.
  • 斎藤 博久
    2009 年 134 巻 2 号 p. 64-67
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    気道リモデリングには気道平滑筋の増生,杯細胞過形成,コラーゲンなどの細胞外基質成分の組織への沈着,気道上皮網状基底層の肥厚,血管新生などの要素が存在し,それらの多くは喘息治療標準薬であるステロイド薬により抑制されない.マスト細胞は気道平滑筋の増生や杯細胞過形成に非常に重要な役割を演じている.マスト細胞はIgE受容体を介して活性化されると脱顆粒のほか,非常に多くの遺伝子が転写されサイトカインなどの分子が産生される.このマスト細胞の活性化は試験管内におけるステロイド薬やタクロリムス前処理により部分的に抑制される.そして,この両者の薬剤を同時添加することにより,ほぼ完全に遮断される.気道リモデリングの進行に対する有効で安全な治療方法を確立するために今後のマスト細胞研究のさらなる進展が期待される.
実験技術
  • 篠崎 陽一, 住友 弘二, 津田 誠, 小泉 修一, 井上 和秀, 鳥光 慶一
    2009 年 134 巻 2 号 p. 68-72
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    受容体の機能はリガンドが受容体に結合する事でおこる構造変化によって発揮される.例えば,イオンチャネル型受容体の場合はアゴニストが結合すると膜貫通ポアが開き,その中をイオンが通過する事で機能する.多くの場合は電気生理学的に,または指示薬などを用いる事でイオンチャネルの機能を評価するが,実際にその受容体がどのように構造変化して機能を発揮するかについては,溶液中で直接観察する事は困難であった.我々は,原子間力顕微鏡(atomic force microscopy: AFM)と呼ばれる新たな実験手法を用いる事で,水溶液中における一分子のP2X4受容体の表面構造および活性化に伴う構造変化のタイムラプス観察に成功した.また,P2X受容体に特徴的な現象として知られているポアダイレーションに相当する構造変化の観察にも成功した.
  • 太田 尚
    2009 年 134 巻 2 号 p. 73-77
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    温度,大気圧,光などの環境因子が生体機能に影響を及ぼすことはこれまでの多くの研究で明らかであるが,地上において常に一定方向から一定の大きさで存在する重力が生体機能に及ぼす影響を検討することは地上においては不可能である.宇宙空間という微小重力下での滞在は宇宙飛行士の骨密度の低下や筋肉量の低下を引き起こすことが知られているが,どのような機序で起こっているかは明らかでない.1Gという重力環境で生活していた人類が宇宙空間という微小重力環境に滞在すると明らかに地上とは異なった生体応答が生じていることは重力が生体機能維持に重要な働きをしていることの傍証であると考えられる.重力が生体に及ぼしている影響を調べるには1G下での生体機能と微小重力下での生体機能との比較が一つの手段と考えられるが,微小重力という環境は非常に限られた方法でしか得ることが出来ない.今回,航空機によるパラボリック(放物線)飛行により得られる微小重力環境においてマウスを用いた実験を行うことが出来た.微小重力負荷により,血中コルチコステロンの上昇が認められたことから微小重力負荷は少なくともマウスにストレス応答を引き起こしていることが明らかとなった.また,下肢骨格筋や視床下部での遺伝子発現解析結果は遺伝子発現レベルが短時間の微小重力負荷後,時間単位で変化することを示しており,パラボリック飛行による短時間の微小重力負荷であっても,生体機能変化を分子レベルで追跡できる可能性を示している.本稿ではパラボリック飛行による微小重力下で行った実験に基づいて実験に関する方法論および実験上の注意点に関して紹介する.
創薬シリーズ(4) 化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その2) 分布(1)(2)
  • 榎園 淳一
    2009 年 134 巻 2 号 p. 78-81
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    薬物の多くは,血漿中でアルブミンやα1-酸性糖タンパクなどのタンパク質へ結合している.アルブミンは脂溶性の高い酸性化合物,α1-酸性糖タンパクは塩基性化合物に対し高い親和性を示す.タンパクへ結合した薬物は細胞膜を透過することができないため,血漿中の遊離型薬物のみが組織に分布して薬効や毒性を発現し,代謝や排泄を受けて体内から除去される.したがって,血漿中タンパク結合は薬物の体内動態や薬効,毒性に多大な影響を及ぼす.血漿中タンパク結合には種差があり,体内動態や薬効,毒性の種差の原因となる.また,血漿中タンパク結合は病態や薬物間相互作用によっても変動し,薬効の減弱や副作用の増強など臨床上好ましくない現象を引き起こす場合がある.したがって,薬物の血漿中タンパク結合は医薬品の探索・開発を通じて評価しなければならない重要な項目の一つである.
  • 大槻 純男
    2009 年 134 巻 2 号 p. 83-86
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    脳,網膜,胎盤や精巣は関門機構が存在する組織である.このような組織では薬物の分布にトランスポーターが大きく関わっている.中枢への薬物分布には,脳毛細血管内皮細胞で構成される血液脳関門に発現するトランスポーターが重要な役割を果たしている.血液から脳への供給輸送に関わるトランスポーターに薬物が認識されることによって中枢への分布が促進される.一方で,脳から血液への排出輸送に関わるトランスポーターに認識されることによって中枢への分布が制限される.本総説では,中枢への薬物分布に関わる血液脳関門のトランスポーターの機能と役割に関する最新の知見,およびトランスポーター機能の評価法について紹介する.
新薬紹介総説
  • 永岡 真, 田原 誠, 江坂 悦子, 大石 昌代, 中根 正己
    2009 年 134 巻 2 号 p. 87-95
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    ペガプタニブナトリウムは,血管内皮増殖因子(Vascular Endothelial Growth Factor:VEGF)阻害薬である.その活性本体はアプタマーと呼ばれる核酸分子であり,アプタマー部分がVEGFに結合することでVEGFのVEGF受容体への結合を阻害する.VEGFは血管新生および血管透過性亢進に関与しており,加齢黄斑変性(Age-related Macular Degeneration:AMD)のうち,脈絡膜新生血管(Choroidal Neovascularization:CNV)を本態とする滲出型AMDにおいて,CNV形成と関連していることが報告されている.その中でもVEGF165は炎症誘発性が高く,眼内における病的血管新生に関与していると考えられている.ペガプタニブナトリウムは,in vitro試験においてVEGF165の受容体への結合とそれに伴う受容体機能を選択的に阻害し,動物モデルにおいて血管新生および血管漏出を抑制した.国内外の臨床試験の結果,0.3 mgから3 mgのペガプタニブナトリウムの投与により視力低下抑制作用が確認され,臨床推奨用量は最小用量である0.3 mgとなった.主な副作用は角膜浮腫,前房の炎症,飛蚊症,硝子体混濁であったが,国内外とも発現率は同程度であり,用量による明らかな増加はみられなかった.硝子体注射に伴う有害事象の頻度は高かったが,その多くは軽度または中等度であり,忍容性は良好であった.薬物動態の検討の結果,1 mgでも初回投与の結果から予想された蓄積係数の1.06倍を超える累積は確認されなかった.以上の特徴から,ペガプタニブナトリウムは滲出型AMDに対する新規作用機序を有する治療薬として期待される.
  • 戸倉 猛, 奥 久司, 塚本 有記
    2009 年 134 巻 2 号 p. 97-104
    発行日: 2009年
    公開日: 2009/08/12
    ジャーナル フリー
    ピルフェニドンは新規の抗線維化薬である.動物実験では各種線維化疾患モデルで各臓器における明らかな線維化の減少と機能低下の抑制が認められている.ブレオマイシン誘発肺線維症モデルでは,ステロイドであるプレドニゾロンとの比較により,プレドニゾロンは抗炎症作用のみを示したのに対し,本薬は抗炎症作用と抗線維化作用の両方を示した.種々の検討からピルフェニドンは,炎症性サイトカイン(TNF-α,IL-1,IL-6等)の産生抑制と抗炎症性サイトカイン(IL-10)の産生亢進を示し,Th1/2バランスの修正につながるIFN-γの低下の抑制,線維化形成に関与する増殖因子(TGF-β1,b-FGF,PDGF)の産生抑制を示すなど,各種サイトカインおよび増殖因子に対する産生調節作用を有することが示されている.また,線維芽細胞増殖抑制作用やコラーゲン産生抑制作用も有しており,これらの複合的な作用に基づき抗線維化作用を示すと考えられる.本邦において実施された特発性肺線維症(IPF:Idiopathic Pulmonary Fibrosis)患者を対象とした第III相試験の結果,ピルフェニドン投与によりプラセボ群に比べ有意に肺機能検査VC(肺活量)値の悪化を抑制し無増悪生存期間の延長に寄与していたことから,特発性肺線維症の進行を抑制することが示された.一方,本薬投与による特徴的な副作用は,光線過敏症,胃腸障害(食欲不振,食欲減退),γ-GTP上昇等であった.ピルフェニドンが特発性肺線維症患者に対して一定の効果を示したことにより,副作用の発現はプラセボ群に比べ高かったものの,減量・休薬等で副作用をコントロールし治療を継続することで,病態の進行を抑制し生命予後の改善にも寄与することが期待される.
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