日本薬理学雑誌
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135 巻, 1 号
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総説
  • 荒井 啓行, 岡村 信行, 藁谷 正明, 古川 勝敏, 谷内 一彦, 工藤 幸司
    2010 年 135 巻 1 号 p. 3-7
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)の根本治療薬の登場を目前にして,ADの診断と薬効評価パラダイムが,従来の認知機能検査ベースからバイオマーカーベースへと大きくシフトしようとしている.また,蓄積物質(病理像)を画像化する新しい分子イメージング技術が日米両国で開発されている.このような考えに立って米国で2005年から発案・開始されたプロジェクトが,Alzheimer’s Disease Neuroimaging Initiative(ADNI)である.ADNIは米国,欧州,オーストラリアと本邦の世界4極で同一プロトコールを用いて実施される長期観察研究である.ADNI研究の目的は,①AD,軽度認知機能障害,正常高齢者において,MRIやPETなどの画像データの長期的変化に関する一定の基準値を作るための方法論を確立すること;②画像サロゲートマーカーの妥当性を証明するために臨床指標,心理検査,血液・脳脊髄液バイオマーカーを並行して収集すること;③AD根本治療薬の治療効果を評価するための最良の方法を確立すること,の3点である.2008年7月Japanese-ADNIで患者登録が開始された.蓄積物質をイメージングすることは究極のバイオマーカーとして,将来は発症前診断を可能にするかも知れない.製薬企業による根本治療薬開発との連動が不可欠である.
  • 西 昭徳, 黒岩 真帆美, 首藤 隆秀
    2010 年 135 巻 1 号 p. 8-13
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    ドパミンは精神運動機能を調節する神経伝達物質であり,ドパミン情報伝達系の中でcAMP/PKAシグナルが中心的役割を担っている.cAMP産生を調節するドパミン受容体機能に加え,cAMPを分解するホスホジエステラーゼ(PDE)はドパミン情報伝達制御において極めて重要である.ドパミン神経の投射を受ける線条体にはPDE1B,PDE7B,PDE10Aの発現が高く,精神機能調節に重要なPDE4Bも多く発現している.1つの神経には複数のPDEアイソフォームが発現し,発現するPDEアイソフォームは線条体神経サブタイプにより異なる.我々は,線条体組織におけるPDE4とPDE10Aの役割を解析し,PDE4は主としてドパミン神経終末でドパミン産生を制御し,PDE10Aは直接路と間接路の線条体神経でcAMP/PKAシグナルを制御していることを明らかにした.PDE抑制による線条体cAMP/PKAシグナルの増強は,(1)ドパミン産生と放出の促進作用,(2)ドパミンD1受容体シグナルの増強作用,(3)ドパミンD2受容体シグナルの拮抗作用を示す.PDE抑制により,D1シグナル増強による直接路活性化とD2シグナル拮抗による間接路活性化がおこり,大脳基底核からの抑制性出力に対して脱抑制と抑制強化という相反する作用を導く.直接路活性化が優位となる場合にはドパミン関連行動は増強され,間接路活性化が優位となる場合にはドパミン関連行動は抑制される.これらの作用はPDEアイソフォームに特異的であり,ドパミン神経終末,直接路D1タイプおよび間接路D2タイプ線条体神経での発現パターンとPDE活性が大きく影響する.PDEインヒビターを精神神経疾患の治療薬として臨床応用するためには,神経サブタイプに発現するPDEアイソフォームの解析と選択的PDEインヒビターの開発が必須である.
  • 森山 芳則
    2010 年 135 巻 1 号 p. 14-19
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    エネルギー通貨ATPは,また,細胞間の情報伝達を担うシグナル伝達物質でもある.我々は,ATPを分泌小胞に能動輸送するトランスポーターVNUTを発見した.VNUTにより,ATPの小胞内蓄積と分泌機構が解明され,プリン作動性化学伝達のネットワークの全体像を知ることができるだろう.
  • 戸田 昇, 安屋敷 和秀
    2010 年 135 巻 1 号 p. 20-24
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    神経源性と考えられてきたアルツハイマー病(AD)を初めとする認知・記憶障害にも,脳循環低下による慢性的な酸素供給の減少と代謝障害が関与することを示す報告が少なからず見られる.その中で,脳血管内皮障害の占める役割に多くの注目が寄せられている.内皮障害には血管性危険因子(vascular risk factor)や加齢が強い関わりをもつ.内皮機能の主要なマーカーとしての一酸化窒素(NO)とADとの関係について最近興味ある情報が数多く見られる.β-amyloid(Aβ)沈着と脳微小血管内皮障害との間に強い相関が観察されている.NOの減少はAβ沈着を助長し,AβはNOの働きや合成を抑制して脳血流を減少する.NO合成酵素(NOS)阻害薬はAβの有害作用を増幅する.AD治療薬であるコリンエステラーゼ阻害薬の血管作用にNOが関係する可能性が示唆されている.脳における炎症反応はiNOSを介してNOの過剰産生をもたらし神経変性や神経死をひき起す.新しい視点からのAD研究が,ADの予防と治療の発展に貢献することを願っている.
実験技術
  • 水谷 暢明, 渕上 淳一, 高橋 真樹, 奈邉 健, 吉野 伸, 河野 茂勝
    2010 年 135 巻 1 号 p. 25-29
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    慢性閉塞性肺疾患(COPD)は,吸入されたタバコ煙などの有害粒子やガスにより,肺胞壁の破壊による肺気腫,さらには慢性気管支炎を示す病態である.しかしながら,本病態の発症メカニズムの詳細については明らかではない.COPDの発症メカニズムの解析ならびに新規治療薬の開発には,ヒトに類似した症状を示す動物モデルが必要である.一般的に,肺気腫を示す実験的COPDモデルは,タバコ煙を3ヵ月以上曝露することにより作製されているが,本方法は長期間を必要とするとともに反応も弱いものである.そこで筆者らは,比較的短期間でのCOPD様症状を示す動物モデルの作製を企図して,特に肺気腫症状を示す病態モデルの作製を試みた.まず,1)肺にタバコ煙の成分を長時間滞留させるために,タバコ煙を溶液としてモルモットの気管内に直接投与し,さらには2)症状増悪化の因子である感染を考慮してリポポリサッカライド(LPS)をタバコ煙溶液の投与とともに加えた.この方法により,3週間以内に,気道抵抗,残気量および機能的残気量の上昇が観察された.また,タバコ煙溶液およびLPS溶液を投与したモルモットの肺を肉眼的に観察すると,明らかな肺の過膨張が認められるとともに,病理組織学的な検討では,上皮細胞の過形成および肺胞壁の破壊を示す肺気腫が観察された.さらに,肺胞内への肺胞マクロファージおよび好中球の浸潤が認められた.一方,本モデルを用いてテオフィリンの効果を検討したところ,気道抵抗の上昇および上皮細胞の過形成は明らかに抑制されたが,その他の症状に対して抑制効果は認められなかった.これらのことより,タバコ煙溶液およびLPS溶液を気管内に投与することにより,短期間に肺気腫を示す動物モデルの作製が可能となった.
創薬シリーズ(4)化合物を医薬品にするために必要な薬物動態試験(その4)排泄(1)(2)
  • 水内 博
    2010 年 135 巻 1 号 p. 30-33
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    薬物の尿中排泄には腎での糸球体濾過と尿細管分泌が関わっている.中でも尿細管分泌は腎尿細管上皮細胞の刷子縁膜および側底膜に存在しているトランスポーターが協働する方向性を持った物質輸送過程であり,近年,トランスポーターの実態が分子レベルで次々と明らかにされ,尿細管分泌過程における特定のトランスポーターを介した薬物間相互作用についても報告がなされている.これまで,医薬品開発における腎排泄に関しての検討では,事象をマクロ的に捉えることが主であり,その多くが腎機能低下(加齢,疾患,薬剤)による血中薬物濃度推移等の薬物動態変化を把握し,情報提供するというものであった.これらの情報は臨床使用上非常に重要ではあるが,腎排泄に関わるトランスポーターの実態が明らかとなった今日,特にin vitroでの評価ツールが整ってきたことから,薬物の腎排泄のメカニズムをより詳細に検討することが求められつつある.
  • 永井 純也
    2010 年 135 巻 1 号 p. 34-37
    発行日: 2010年
    公開日: 2010/01/14
    ジャーナル フリー
    臨床において,患者に薬物が単独で投与されるよりも,複数の薬物が投与される場合の方が多い.したがって,薬物治療を受けている患者において,程度の差はあるものの,少なからず薬物相互作用が生じているものと予想される.また,医薬品が市販後に市場から撤退を余儀なくされる場合,薬物相互作用による重篤な副作用が原因であることが少なくない.したがって,薬物相互作用をいかに回避あるいは予測できるかは,安全性に優れた医薬品を開発していく上で重要である.これまで代謝酵素が関与する薬物相互作用については数多くの報告がなされてきた.一方,近年,薬物の生体膜透過を担うトランスポーターが分子レベルで解明されるとともに,代謝過程の阻害のみでは説明できない薬物相互作用にトランスポーターが関与することが明らかになってきている.本稿では,腎臓および肝臓におけるトランスポーターを介した薬物相互作用を中心に概説する.
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