日本薬理学雑誌
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138 巻 , 5 号
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特集 心血管疾患と炎症
  • 小川 佳宏
    2011 年 138 巻 5 号 p. 178-181
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    微生物感染に代表される急性炎症と同様に,肥満やがんなどの慢性疾患の病態に炎症性サイトカインや免疫細胞が関与することは良く知られているが,これらの疾患における持続的な炎症反応(慢性炎症)の実体には不明の点が多い.慢性炎症の分子機構は,急性炎症とは質的に全く異なっており,単なる急性炎症の繰り返しや持続化では説明できない.慢性炎症では,長期にわたるストレス応答により各臓器を特徴付ける実質細胞とその隙間に存在する間質細胞の相互作用が遷延化し,本来可逆的であるはずの適応反応の破綻により不可逆な「組織リモデリング」を生じて臓器の機能不全や種々の疾患をもたらす.最近では,ストレスを受けた実質細胞より放出される内因性リガンドとマクロファージなどの間質細胞に発現する病原体センサーの相互作用により誘導される慢性炎症として「自然炎症(homeostatic inflammation)」の概念も提唱されている.たとえば,肥満の脂肪組織では,実質細胞である脂肪細胞より脂肪分解により放出される飽和脂肪酸が間質細胞であるマクロファージに発現する病原体センサーTLR4(Toll-like receptor 4)を活性化して炎症反応が持続化するが(脂肪組織リモデリング),これは自然炎症のプロトタイプと考えることができる.自然炎症の分子機構の解明は肥満の発症・進展の理解と新しい診断・治療戦略の開発の手掛かりになると考えられる.
  • 佐田 政隆
    2011 年 138 巻 5 号 p. 182-186
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    急性心筋梗塞の発症原因として,軽度な狭窄しかきたさない動脈硬化病変の破裂やびらんに起因する急性血栓性閉塞が注目されている.破綻した病変では,脂質コアの増大,被膜の菲薄化,平滑筋細胞数の減少,凝固能の亢進,コラーゲン含有量の減少,炎症細胞浸潤,タンパク分解酵素の発現亢進,プラーク内血管新生などが認められる.しかしプラーク脆弱化の機序,予防法などに関しては不明な点が多く,急性冠症候群の発症をバイオマーカーや画像診断で予知することは困難である.私たちは,臨床材料ならびに動物モデルを用いて,動脈硬化の進展と破綻の機序を研究している.ヒトの動脈硬化は,従来考えられていたよりかなり早期から始まり,各種生活習慣の悪化とともに急速に増悪し,突然イベントを誘発する.その病態においては,従来研究されてきた脂質の沈着や細胞増殖だけでなく,血管周囲のVasa Vasorum からの新生血管を介した細胞流入や微小出血が関与することがわかってきた.また,血管,特に冠動脈周囲には豊富に脂肪組織が存在し,血管の慢性炎症,動脈硬化に深く関与し,粥腫の進展と不安定化に重要な役割を担っていると考えられた.この一連の病態に,レニン−アンジオテンシン系は深く関与しており,その抑制は血管炎症,プロテアーゼ発現,内皮細胞アポトーシス,外膜血管新生を効果的に抑制し,プラークを安定化させた.本稿においては,生活習慣病によって動脈硬化が進展し破綻するまでの過程に関する最新の知見を解説する.特に,動脈硬化の病態における慢性炎症の役割とその新規制御因子として注目されているVasa Vasorumと血管周囲脂肪組織の役割を詳細に検討する.
  • 南野 徹
    2011 年 138 巻 5 号 p. 187-191
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    心不全の病態生理には,交感神経系やレニンアンジオテンシン系などの制御異常が関与していると考えられているが,最近では,心臓における炎症の役割についても注目されている.我々は,心不全モデルの遺伝子発現解析を通じて,12/15リポオキシゲナーゼが不全心において著しく増加していることを観察した.そこで,心不全に対する12/15リポオキシゲナーゼによる炎症の役割を検証するために,心臓特異的12/15リポオキシゲナーゼのトランスジェニックマウスを確立した.その結果,心エコーでは,加齢に伴い心機能の悪化がみられた.組織学的検討では,加齢に伴う心臓線維化とマクロファージの浸潤の増加が認められた.これらの結果に合致して,心臓におけるMCP-1の発現が増加していた.心臓特異的12/15リポオキシゲナーゼのトランスジェニックマウスに対してMCP-1阻害薬による治療を行うと,加齢に伴う心臓線維化とマクロファージの浸潤の増加は抑制され,心機能の悪化が改善した.さらに,心不全に対する12/15リポオキシゲナーゼによる炎症の役割を検証するために,12/15リポオキシゲナーゼ欠失マウスに圧負荷心不全モデルを作成した.その結果,持続的な圧負荷によって引き起こされるマクロファージの浸潤や心機能低下が12/15リポオキシゲナーゼ欠失マウスにおいて改善していたことから,12/15リポオキシゲナーゼによる炎症は心不全の発症に重要な役割を果たしていることが明らかとなった.
  • 古川 哲史, 大石 咲子, 笹野 哲郎
    2011 年 138 巻 5 号 p. 192-195
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    心房細動は臨床上もっとも頻度の高い不整脈である.高血圧,メタボリック症候群,加齢など多数の環境リスク因子による病態発現の共通基盤に慢性炎症が存在する.ところが,これらの環境リスク因子が心房の炎症を惹起するメカニズムに関しては不明な部分が多い.心房細動患者で最も高頻度にみられる臨床所見が左房径の拡大であることから,心房筋進展とマクロファージ動員の関連についてin vitroおよびin vivoの実験で検討を行った.心房由来細胞株HL-1の伸展,あるいはTACによる左房進展によりマクロファージの動員が誘導された.これには,伸展により心房から分泌される液性因子が関わっており,そのブロッカーによりHL-1伸展およびTACによるマクロファージの動員は有意に抑制された.TAC後,心房リモデリング,線維化,および電気的刺激による心房性不整脈の誘発が増強されたが,液性因子ブロッカーによりこれらはすべて有意に抑制された.伸展刺激による心房筋からの液性因子分泌,液性因子によるマクロファージ動員機構,マクロファージによる心房性不整脈誘発の詳細なメカニズムの検討は今後の課題であるが,心房筋伸展による心房炎症の初期メカニズムとしてパラクライン作用によるマクロファージ動員が関与することが示唆された.
総説
  • 山本 希美子, 安藤 譲二
    2011 年 138 巻 5 号 p. 196-200
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    血管の内面を一層に覆う血管内皮細胞には,血流に起因するメカニカルストレスである流れずり応力が作用している.血管内皮細胞が流れずり応力の情報を介して血行動態の変化を捉え,それに応答することで循環系の恒常性を維持する役割を果たしている.血管内皮細胞には流れずり応力の変化を感知し,細胞応答を起こす働きが備わっている.細胞の形態が血流の方向に伸展,配向したり,一酸化窒素(NO)やプロスタサイクリンの産生が亢進するなど,細胞の機能を修飾したり,それら細胞の機能に関連した遺伝子の発現にも影響を及ぼす.流れずり応力は転写やmRNAの安定化を介して数百にのぼる多数の内皮遺伝子の発現を修飾する.これら血流刺激に伴う内皮細胞の応答が障害されると,高血圧,動脈瘤,血栓,粥状動脈硬化といった血管病の発生につながる.これらの事実は血流刺激の情報を細胞内部へ伝達するメカノセンシング機構が存在することを示唆し,現在までイオンチャネル,増殖因子受容体,Gタンパク質共役受容体,カベオラ,接着分子,細胞骨格,グリコカリックス,一次繊毛など様々な膜タンパク質やミクロドメインが関わり,その下流で多岐に渡る情報伝達経路が活性することが報告されているが,まだ詳細な分子機構は解明されていない.最近,細胞のメカノセンシングに細胞から放出されるアデノシン三リン酸(ATP)と細胞膜に発現するATP受容体を介するATP-メカノカップリング機構が注目されている.血管においても流れずり応力により内皮細胞のカベオラからATPが放出され,それが細胞膜に発現するATP作動性カチオンチャネルP2X4を活性化して細胞外カルシウム(Ca2+)の流入反応を起こす機構が存在する.最近,P2X4 欠損マウスで流れずり応力のCa2+シグナリングが起こらなくなると血流依存性に起こる内皮のNO産生や血管拡張反応や血管のリモデリングに障害が現れることが示された.
創薬シリーズ(6)臨床開発と育薬(1)(2)
  • 西村(鈴木) 多美子
    2011 年 138 巻 5 号 p. 201-204
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    新薬の承認審査では申請品目のリスク・ベネフィットバランスが評価され,効能・効果,用法・用量,使用上の注意の妥当性が審査される.承認申請の際に提出される資料には,品質,非臨床試験,臨床があり,審査では,非臨床試験のリスクおよびベネフィットも評価される.非臨床試験として実施される薬理試験とベネフィット,および薬理試験とリスクの関連性は,日米EU医薬品規制調和国際会議のガイドラインや厚生労働省の通知などに記載されている.また,承認審査の過程では,非臨床データがヒトへ外挿され,申請された効能・効果(案),用法・用量(案),使用上の注意(案)が修正されることがある.既承認の抗体医薬品を例に,薬理学データのヒトへの外挿を解説した.新薬開発に薬理学の関与は必須である.新薬開発に関わりたいと考える若い読者の方々へ,臨床開発へと導く薬理学研究のポイントを説明したい.
  • 竹澤 正行
    2011 年 138 巻 5 号 p. 205-208
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    臨床試験の実施の基準(GCP: Good Clinical Practice)は,医薬品として承認を得るために必要な臨床試験(治験)や医薬品の市販後に再審査,再評価を受けるために必要な臨床試験(製造販売後臨床試験)を実施する際に遵守しなければならない基準である.このGCPは,厚生労働省令として定められており,薬事法で「当該資料は,厚生労働大臣の定める基準に従って収集され,かつ,作成されたものでなければならない.」と規定されている「厚生労働大臣の定める基準」の1つである.なお,GCPは,治験などの対象となるヒト(被験者)の人権と安全性の確保,臨床データの信頼性の確保を図り,治験などが倫理的な配慮のもとに科学的に適正に実施されることを目的として定められている.
新薬紹介総説
  • 小山 則行, 徳永 武志, 小笠原 若菜, 村上 美幸, 山下 雄次
    2011 年 138 巻 5 号 p. 209-217
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/10
    ジャーナル フリー
    エリブリンはクロイソカイメンから発見された抗がん物質ハリコンドリンBの誘導体である.微小管阻害薬であるが従来の類薬とは異なり,微小管の重合部位に選択的に高親和性に結合し微小管を阻害する.細胞周期のG2/M期でがん細胞の増殖を停止させアポトーシスを誘導する.エリブリンのin vitroの検討では,様々ながん細胞の増殖を阻害し,in vivoにおける検討では,乳がん,大腸がん,黒色腫,卵巣がんのモデルにおいて,腫瘍の進展を抑制し縮小させることが確認されている.エリブリンは,国内第II相試験において化学療法治療歴のある転移乳がん患者に対し奏効率21.3%の有効性が確認された.有害事象で発現率が高かったのは,白血球減少症,好中球減少症,脱毛症,リンパ球減少症などであった.海外の第III相試験(EMBRACE試験)では,既存の薬剤からなる主治医選択治療群との比較において,全生存期間の有意な延長が確認された.また末梢神経障害の発現が少ないという特徴も,臨床試験と基礎研究を通じて明らかになった.エリブリンの排泄は主に糞便中であり78.6%が未変化体であった.CYP3A4などの代謝酵素の影響を受けにくいため,他剤との併用のリスクは少ないと思われた.エリブリン投与では,過敏症に対する抗アレルギー薬等の前投与が不要である.水溶液のバイアルにて医療機関に提供され,必要量をそのまま投与または希釈後に点滴投与が可能である.投与時間が2~5分と非常に短いこととあわせ,患者,医療従事者への負担が極めて少ない,製剤上の優れた性質を有した薬剤と言える.エリブリンは抗がん剤の前治療の少ない患者において,有効性だけでなく延命にもより貢献できることが示され,今後はより早期の乳がんに対する効果の検証が進められるであろう.
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