日本薬理学雑誌
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142 巻, 2 号
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特集 新規自己免疫疾患治療薬の研究開発戦略
  • 村本 賢三
    2013 年 142 巻 2 号 p. 58-62
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    Biologicsと言われる生物学的薬剤は,医療全体に大きな影響を与え,治療における改革を促進してきている.これらから新たに得られている知見も多く,病気の発症メカニズムの解析にも大きく貢献している.たとえば,抗TNFα抗体は,関節リウマチの前臨床モデルにおける抑制効果はあまり強くはないが,臨床においてTNFαが重要な働きをしていることに議論の余地はない.今後も生物学的薬剤は,成長し貢献していくことが予測される.しかしながら,世界的に医療費高騰が問題となりつつある中,より安価な薬剤の開発が求められているのも事実である.そこで,現状での生物学的薬剤の状況を踏まえた上で,開発中の低分子薬剤の状況について説明する.また,日本発の低分子薬剤,中でも我々が検討してきた新規抗リウマチ薬であるイグラチモドの開発経緯とその関節リウマチにおける抑制メカニズムに関して概説する.イグラチモドは,第III相試験において,メトトレキセートの効果不十分例における併用試験において24週で,プラセボ群30.7%に対して,イグラチモド群は69.5%と有意な改善効果を示した.我々は,この抗リウマチ作用のメカニズムとして,既存の抗リウマチ薬にない作用であるB細胞に対する抑制作用を提唱している.イグラチモドは,細胞増殖等には影響がないが,ヒトとマウスのB細胞からの抗体産生を明確に抑制する作用を示した.これは他の抗リウマチ薬にない作用であり,新規の薬剤であると言える.最後に,今後の薬剤開発の方向性やこれらの使い分けに関して,論じた.この拙文が今後の自己免疫疾患領域における創薬を考える一助となれば幸いである.
  • 稲見 真倫
    2013 年 142 巻 2 号 p. 63-67
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    近年の免疫領域における細胞内シグナル伝達研究の発展は目覚ましいものがある.最先端の分子医学的な手法を駆使することにより,主要免疫担当細胞における重要なシグナル伝達経路が明らかとなり,その中の鍵となる分子が同定されてきた.その中でも特にタンパク質リン酸化酵素は,ほぼ全てのシグナル伝達経路に関与し決定的な役割を果たしていることがわかっている.タンパク質リン酸化酵素(キナーゼ)はATPからリン酸基を転移させて,特定のタンパク質をリン酸化する酵素である.ATP結合領域は各キナーゼにおいて相同性が高いため,特定のキナーゼのATP結合領域に特異的に拮抗する低分子を見出すことは難しいとも考えられてきた.しかしながら,がん領域におけるイマチニブの成功により,がん分子標的薬としてのキナーゼ阻害薬が非常に注目され,創薬におけるキナーゼ阻害薬の可能性が今までになく議論されるようになってきた.自己免疫疾患領域においても,その細胞内シグナル伝達におけるキナーゼの重要性は認識されていたものの,前臨床の研究に留まっていたが,p38阻害薬が臨床入りし,ついに2012年にはJAK阻害薬が上市された.本総説においては,JAK阻害薬に焦点を当てて,自己免疫疾患におけるキナーゼの重要性,創薬の可能性,問題点などを概説したい.
  • 糸見 安生, 相良 将樹, 藤谷 靖志, 河村 透, 瀧澤 正之
    2013 年 142 巻 2 号 p. 68-72
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    病態の発症・進展に抗体が関与する抗体依存性疾患の治療には,現在主にステロイド剤や免疫抑制剤が使用されているものの十分な治療効果が得られているとは言い難い.これは抗体を産生している形質細胞が既存薬に対し抵抗性を示すことが原因の一つであると考えられる.そのため形質細胞に直接作用する薬剤はより効果的な抗体依存性疾患の治療薬になり得ると期待できる.プロテアソーム阻害薬であるボルテゾミブは多発性骨髄腫やマントル細胞リンパ腫の治療薬として使用されており,その作用機序のひとつとしてがん化した形質細胞を直接除去することが知られている.近年,ボルテゾミブが形質細胞数を減少させ抗体価を低下させることで,抗体依存性疾患である全身性エリテマトーデス(systemic lupus erythematosus:SLE)および腎移植時の抗体関連型拒絶(antibody-mediated rejection:AMR)に対して有効性を示すという臨床および非臨床における知見がいくつか報告されてきている.これらのことから,プロテアソーム阻害薬は既存の治療薬とは異なり形質細胞を直接除去する作用を有するため,抗体依存性疾患に対してより有効な治療薬になると考えられる.
  • 安藤 綾俊, 山元 崇
    2013 年 142 巻 2 号 p. 73-78
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    炎症性腸疾患(Inflammatory bowel disease:IBD)は,根本的な治療法が確立されていない難治性の慢性炎症疾患である.炎症性サイトカインの一種であるIL-12およびIL-23(IL-12/23)が共有するサブユニットに対するヒト化モノクローナル抗体は,生体内で産生されるIL-12/23を中和することで,IBDを対象とした臨床試験において有効性を示した.新規IBD治療薬を目指す取り組みの中で,治療標的分子としてIL-12/23に注目し,Phenotypic screeningの手法を用いて,IL-12/23産生抑制作用を有する低分子化合物APY0201を見出した.APY0201は,サイトカイン選択的な抗炎症作用を有しており,IL-12/23を抑制する一方でTNF-αなどの炎症性サイトカインを抑制しなかった.またマウスIBDモデルに対する1日1回の経口投与により,有意な腸炎抑制効果を確認した.このユニークな抗炎症作用を有するAPY0201の標的分子に興味を持ち,その同定を試みたところ,APY0201がPhosphatidylinositol 3-phosphate 5-kinase(PIKfyve)と呼ばれる脂質キナーゼの一種を阻害することを見出した.またsiRNAの細胞内導入によるPIKfyve遺伝子のノックダウンの実験から,APY0201はPIKfyveの阻害を介してIL-12/23産生阻害作用を示したことが示唆された.PIKfyveは,リン脂質であるホスホイノシチドの代謝に関わる酵素であることが知られているが,既存情報は限られており,抗炎症作用を説明する詳細な分子機序については明らかではない.今回得られた新しい抗炎症治療標的分子に関する情報は,より最適化された化合物探索手法や,IBDの病態生理に関わる分子の機序解明に繋がることが期待される.
受賞講演総説
  • 山村 寿男
    2013 年 142 巻 2 号 p. 79-84
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    細胞内Ca2+シグナルは,発生から神経伝達物質の遊離,筋収縮,遺伝子発現,高次脳機能に至るまで様々なレベルの生命現象に関与している.その細胞内Ca2+動態を調節し,生体の恒常性を維持する上で本質的な役割を担っている分子の一つがイオンチャネルである.多彩かつ重要な細胞機能を制御する細胞内 Ca2+変動とその制御に関わるイオンチャネル分子を可視化(イメージング)して,その動態を追跡することは,各種臓器機能とその病態での変化を解明する上で極めて意義深い.さらに,新規治療薬を開発する上でも,創製した薬物が細胞内Ca2+濃度やイオンチャネル活性に及ぼす効果は,薬効を担う重要な因子となっている.本研究では,電気生理学と遺伝子工学を基盤としたイオンチャネルの分子機能解析に,高速走査型共焦点レーザー顕微鏡(confocal imaging),全反射蛍光顕微鏡(TIRF imaging),一分子可視化法(single-molecule imaging),ブリーチングステップ法(bleaching-step analysis),蛍光共鳴エネルギー移動法(FRET analysis)などの先端的イメージング技術を導入した.これらの画像解析と電気生理応答の同時測定によって,細胞内Ca2+シグナルと機能的に共役するイオンチャネルならびにその分子複合体の生理的意義の解明を目指した.本研究の成果は,①細胞内Ca2+動態を制御する分子群の機能的連関の解明,②細胞内の限局した領域で発生するCa2+シグナルの画像解析の展開,③イオンチャネルの一分子動態と分子間相互作用の可視化に大きく寄与した.本研究で構築した高度イメージング技術と電気生理学的情報に基づいたイオンチャネル分子機能解析は,薬理学領域の発展およびイオンチャネル標的創薬の推進に大きく貢献できると考えられる.
総説
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(6)
  • 藤田 義文
    2013 年 142 巻 2 号 p. 89-95
    発行日: 2013年
    公開日: 2013/08/09
    ジャーナル フリー
    国内の製薬企業の多くが「オープンイノベーション」に注力するスタンスを示している.そのスタンスを示すに至った外的要因は多数存在するが,創薬シーズ獲得の困難さ,当局の姿勢の変化,開発段階における層別化の要請,分子標的薬・抗体医薬・核酸医薬への移行,パイプラインの枯渇などが挙げられる.上述の外的要因および競争の激化から,製薬会社はオープンイノベーション活動などの外的資源の活用,および研究領域の絞込みなどの社内資源の効率化,による創薬効率上昇に取り組んでいる.それから第一三共株式会社が実施しているオープンイノベーション活動,特にTaNeDSについて内容を紹介する.TaNeDSの成果および課題を述べた上で,最後に国内でのオープンイノベーション活動を促進する上で,産学への希望を述べる.
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