日本薬理学雑誌
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144 巻 , 1 号
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特集 受容体シグナルによる幹細胞制御
  • 原 孝彦, 種子島 幸祐
    2014 年 144 巻 1 号 p. 4-7
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/10
    ジャーナル フリー
    CXCL12-CXCR4 シグナル伝達経路は,始原生殖細胞・神経前駆細胞・造血幹細胞の生体内移動,および20 種類以上のがんの悪性増殖・転移に主要な役割を果たしていることが知られている.これまで,CXCL12 はCXCR4 受容体の唯一のケモカインリガンドと考えられてきた.我々は,類縁のケモカインCXCL14 がCXCR4 に高親和性で結合し,CXCL12 によるケモタキシス活性を抑制することを見出した.ヒト単球性白血病細胞株THP-1 にCXCR4 を過剰発現させたところ,125I 標識CXCL14 の高親和性結合部位が増加し,逆にsiRNA を用いてCXCR4 をノックダウンさせると,その数が減少した.また,THP-1 細胞,ヒトT細胞性白血病由来Jurkat 細胞,およびヒト骨髄由来CD34造血前駆細胞において,CXCL14 はCXCL12 による細胞誘引をほぼ完全に阻害した.詳細な解析によって,CXCL14 はCXCL12 とは異なるCXCR4 上の部位に結合し,CXCR4 受容体を細胞内へ取り込ませることで細胞をCXCL12 不応答化させていることが判明した.以上の実験結果は,CXCL14 がCXCL12 の天然阻害因子として作用する可能性を示唆している.CXCL14 はCXCL12 と並んで,魚からヒトまでアミノ酸配列が高度に保存されているケモカインである.CXCL14 は,発生や形態形成に重要な役割を果たすCXCL12-CXCR4 軸の強さを微調整する分子として,non-signaling 受容体CXCR7 と共にゲノム内に保存されてきたものと推察される.興味深いことに,CXCL12-CXCR4 軸の抑制は,CXCL14 のC末端二量体ペプチドによっても再現された.したがって,CXCL14 を構造可変することにより,新しいタイプのCXCR4 アンタゴニストを開発できる可能性がある.
  • 粂 昭苑
    2014 年 144 巻 1 号 p. 8-12
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/10
    ジャーナル フリー
    筆者らはこれまで膵への分化誘導方法の構築をしてきた.足場を至適化することにより,分化効率化を図ってきた.最近,未知な分化制御機構を探索するために,低分子化合物ライブラリーをスクリーニングし,その知見を利用することで,in vitro でグルコース濃度依存的にインスリンを分泌できる(GSIS)インスリン陽性細胞を作成することに成功した.著者らは,膵臓前駆細胞からNgn3 陽性の内分泌前駆細胞への分化促進薬として小胞モノアミントランスポーター2(VMAT2)阻害薬であるレセルピンおよびテトラベナジン(TBZ)を同定した.レセルピンおよびTBZ は分化効率化の作用とともに,分化細胞内のインスリン含量を増やす作用を示す.また,同様に,分化促進作用を有するものとして同定された細胞透過性cAMP アナログであるdBu-cAMPは,糖応答性インスリン分泌能を有する細胞へ分化させる作用を持つ.VMAT2 阻害薬とdBu-cAMPの両方を作用させることで,成体内の機能的な膵β細胞と近いインスリン含量および糖応答性インスリン分泌能を持った成熟したβ細胞を作り出すことができた.さらにES 細胞由来のβ細胞を糖尿病モデルマウスに移植したところ血糖値が正常に戻った.今回の研究成果は将来的な多能性幹細胞を用いた再生医療に貢献できる可能性を示した.
  • 石塚 俊晶, 渡邊 康裕
    2014 年 144 巻 1 号 p. 13-16
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/10
    ジャーナル フリー
    多能性幹細胞の多分化能の維持,増殖,あるいは特定の細胞への分化誘導には,いくつかの細胞膜受容体を介したシグナルの関与が明らかになっている.マウス多能性幹細胞における多分化能維持および増殖には,leukemia inhibitory factor(LIF)受容体を介したJak/Stat3 の活性化が重要であり,ヒト多能性幹細胞では,fibroblast growth factor 2(FGF2)受容体シグナルの重要性が指摘されている.我々は,FGF2 非存在下のヒト人工多能性幹細胞(iPS 細胞)において,α1-アドレナリン受容体やアンジオテンシンtype 1 受容体といったGq 共役型受容体を刺激し,PKC,MEK/ERK およびPI3K/Akt の活性化により,細胞増殖促進作用が得られることを見出した.また,多能性幹細胞から心血管前駆細胞への分化促進には,bonemorphogenetic proetin(BMP)/Smad シグナルが重要であると報告されている.我々は,ヒトiPS 細胞をβ-アドレナリン受容体アゴニストで刺激すると,BMP-4 やアクチビンA による心血管前駆細胞への分化誘導がさらに促進されることを見出し,その作用にPKA やp38MAPK の活性化が関与していることを明らかにした.一方,Smad シグナルは,多能性幹細胞から神経前駆細胞への分化に抑制的に働くのに対し,セロトニン5-HT4 受容体およびβ-アドレナリン受容体の刺激を介したcAMP/PKA シグナルは,多能性幹細胞から神経前駆細胞への分化増強に寄与していることが示唆された.このように,受容体シグナルの特異的制御により,より効率的に多能性幹細胞を増殖・分化させることができれば,あらゆる臓器・組織における幹細胞治療をより早期により有効に行える可能性がある.その意味でも,多能性幹細胞の薬理学的制御に関する研究が,今後の再生医療研究に与える影響は少なくないと考えられる.
  • 諫田 泰成
    2014 年 144 巻 1 号 p. 17-21
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/10
    ジャーナル フリー
    幹細胞は自己複製能と多分化能の特性を有しており,再生医療や病態メカニズムの解明,創薬への応用などへの期待が高まっている.近年,がんは「がん幹細胞」と呼ばれるごく少数の細胞を起源として形成されるというコンセプトが非常に注目を集めている.がん幹細胞は幹細胞マーカーを発現して薬剤耐性能を有することから,抗がん薬の治療後に残存したがん幹細胞ががんの再発や転移に関与する.従って,幹細胞を標的とした治療法を開発することによりがんの根治療法の実現が期待される.がん幹細胞は細胞数が少なく同定・単離が難しかったため実体が不明であった.近年,細胞表面抗原,スフィアと呼ばれる細胞塊を形成する方法,薬剤排出能を利用する方法(SP 細胞),細胞内アルデヒド脱水素酵素(ALDH)の酵素活性を利用する方法など様々な技術開発によりがん幹細胞を同定,分離できるようになりつつある.しかしながら,がん幹細胞の増殖制御機構など明らかになっていない点も多く,がん幹細胞を直接たたくような治療薬はほとんど開発されていない.本稿では,がん幹細胞の同定法を中心に紹介し,がん幹細胞を標的とした創薬の可能性について概説したい.
総説
  • 横井 毅
    2014 年 144 巻 1 号 p. 22-27
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/10
    ジャーナル フリー
    医薬品開発における臨床試験や市販後において,予期せぬ副作用や毒性発現による試験中断や販売中止 は,患者のみならず他の領域にも大きな影響をもたらす.近年の薬物代謝や動態研究の長足の進展に伴って, ヒトにおける体内動態に起因する臨床開発の中止は,最近では1%以下と報告されている.しかし,過去20 年間,副作用や毒性発現に起因する臨床試験の中止は高頻度のままであり,改善されていないのが現状であ る.なかでも薬物性肝障害の発症による中止事例が多い.薬物代謝酵素による反応性代謝物(反応性中間体)の生成反応が注目され,実験動物とヒトとの種差やヒトにおける個人差を定量的に予測評価ができるようになることを目指して研究が行われてきた.しかし,現状では特異体質性と分類される発症頻度の極めて低い薬物性肝障害を,非臨床試験で予測することは困難であると考えられている.我々は,肝障害発症の注意喚起がなされている臨床使用薬の多くについて,薬物代謝・動態を考慮することによって,肝障害の動物モデルを作出した.この動物モデルを用いて,反応性代謝物生成における薬物代謝酵素の関与のみならず,免疫および炎症関連因子の寄与を明らかにし,発症メカニズムを包括的に理解することを目指した.さらに,これらin vivoで明らかにした発症メカニズムに基づき,in vitroでの予測試験系の開発研究を行っている.今後,発症メカニズムに基づいた薬物性肝障害のin vivo およびin vitro の非臨床予測試験系が確立され,所謂「特異体質性」という分類用語が使われなくなることが期待される.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(16)
新薬紹介総説
  • 大原 常晴, 廣内 雅明, 岡 美智子
    2014 年 144 巻 1 号 p. 34-41
    発行日: 2014年
    公開日: 2014/07/10
    ジャーナル フリー
    レグテクト®錠333 mg(有効成分:アカンプロサートカルシウム)は,「アルコール依存症患者における断酒維持の補助」の効能・効果,「通常,成人にはアカンプロサートカルシウムとして666 mg を1 日3 回食後に経口投与する.」を用法・用量として2013 年3月に承認された.アカンプロサートカルシウムは,ラットのアルコール(エタノール)自発摂取ならびにエタノール離脱効果を抑制した.さらに,エタノールへの条件づけ場所嗜好性(CPP)を獲得したマウスに対し,本薬はエタノールCPP の発現を用量依存的に抑制した.また,エタノールの持続曝露によりグルタミン酸作動性神経活動が亢進したラット大脳皮質初代培養神経細胞では,グルタミン酸刺激による細胞障害が増悪した.本薬はこの作用を顕著に抑制し,エタノール依存で生じた過剰なグルタミン酸作動性神経活動を低下させることでエタノールへの渇望を抑え,自発摂取やCPP 発現の抑制につながると考えられた.一方,国内第Ⅲ相臨床試験ではアルコール依存症患者を対象にプラセボを対照としたランダム化二重盲検並行群間比較試験を実施した.アルコール依存症の治療目標は断酒であり,主要評価項目である治験薬投与期間中の完全断酒率は本剤群47.2%(77/163 例)およびプラセボ群36.0%(59/164 例)であり,本剤群が有意に高かった(P=0.0388,χ2 検定).本剤群のプラセボ群に対する完全断酒率の差(95%信頼区間)は11.3%(0.6~21.9%)であった.投与期間中の有害事象発現率は本剤群77.9%(127/163 例)およびプラセボ群68.3%(112/164 例)であり,本剤群の方が高かった(P=0.0498,χ2 検定).死亡およびその他の重篤な有害事象は,すべて治験薬との因果関係は否定された.因果関係が否定できない有害事象(副作用)発現率は本剤群17.2%(28/163 例)およびプラセボ群13.4%(22/164 例)であり,両群間に有意な差は認められなかった(P=0.3444,χ2 検定).投与期間中に認められた有害事象および副作用はほとんどが軽度または中等度であった.最も発現率が高かった副作用は下痢であり,本剤群12.9%(21/163 例)およびプラセボ群4.9%(8/164 例)であった.下痢は無処置または整腸剤等の投与で回復可能であり,本剤に重大な安全性所見は認められなかった.さらに,本剤による薬物依存性は認められなかった.以上より,アルコール依存症の断酒治療において心理社会的治療に加えて本剤を使用することで断酒維持効果が高まり,一人でも多くの患者がアルコール依存症からの回復につながることが望まれる.
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