日本薬理学雑誌
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145 巻, 5 号
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漢方治療薬によるアルツハイマー病の進行阻止への挑戦―その薬理学的基盤と臨床研究
  • 東田 千尋, 渡り 英俊
    2015 年 145 巻 5 号 p. 224-228
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/10
    ジャーナル フリー
    アルツハイマー病(AD)の根本的治療薬とは病気の原因を抑える薬である,という考えに基づいて,近年Aβを抑制する作用を有した多くの候補薬が開発されてきた.しかしそれらが,臨床試験では有益な効果を示さないことから,病因を抑えるだけではアルツハイマー病治療に十分でないことが確実になってきた.我々は以前より,AD脳において生き残っている神経細胞を機能的・形態的に活性化させることで,正常な神経回路網を構築させることができれば,神経組織が変性した状態からでも,ADの記憶障害が改善できるはずだと考えてきた.そこで,Aβによって誘発される神経回路網破綻に対して,それを修復する活性を有する可能性のある漢方方剤として,帰脾湯および加味帰脾湯に着目し,そのAD改善作用を検討した.マウスにAβ(25-35)を脳室内投与して記憶障害を生じさせるモデルにおいて,帰脾湯の投与は空間記憶障害を改善させた.また,遺伝子改変ADモデルである5XFADマウスに加味帰脾湯を投与すると,物体認知記憶障害が顕著に回復した.5XFADマウス脳内では,Aβプラークと重なる領域に限局した,軸索終末の球状化と前シナプスの肥大化,すなわち軸索の変性が認められるが,加味帰脾湯投与群ではこれらの変性が有意に減少した.また加味帰脾湯には,PP2A活性を亢進することで,過剰にリン酸化されたtauを脱リン酸化フォームにシフトさせ,軸索の形態的,機能的の正常化をもたらしている作用があることが示された.以上,帰脾湯,加味帰脾湯は,アルツハイマー病の脳内における神経回路網の破綻を修復しうる作用を有していることが我々の研究により明らかになった.他グループの臨床研究においてもアルツハイマー病の中核症状に対しての改善作用が臨床研究でも示されており,帰脾湯・加味帰脾湯の有用性が期待される.
  • 山國 徹, 川畑 伊知郎
    2015 年 145 巻 5 号 p. 229-233
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/10
    ジャーナル フリー
    超高齢化社会を迎えた我が国の高齢者認知症の人口は今や約462万人に上るともいわれ,認知症の克服は喫緊の国家的課題となっている.著者らはアルツハイマー病(Alzheimer’s disease:AD)の克服のため,初期のADの分子的病態に注目してその進行を阻止する活性をもつ天然薬物の探索研究および薬理研究を進めてきた.本稿ではADにおいて臨床研究の取り組みがなされているノビレチン高含有陳皮(N陳皮)の抗認知症作用についてその薬理学的解析結果を解説し,ノビレチン単体に対する「N陳皮の優位性」に関するエビデンスを紹介する.また,認知症の周辺症状の漢方治療薬抑肝散加陳皮半夏について,N陳皮配合処方エキスの抗認知症作用の特徴を簡潔に解説する.本総説では生薬や漢方処方の抗認知症作用に関する薬理学データに基づいてこれらの薬剤のもつ「多成分系薬剤の優位性」を考察したい.
  • 関 隆志
    2015 年 145 巻 5 号 p. 234-236
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/10
    ジャーナル フリー
    塩酸ドネペジルをすでに内服しているアルツハイマー病(AD)患者にノビレチン高含有の陳皮(N陳皮)を投与して安全性を検証するとともに,ADの認知機能への効果を検討する.塩酸ドネペジル内服中の中程度から軽度の認知機能障害のあるAD患者を2群に分けて,介入群と対照群とした.MMSEおよびADAS-Jcogにて認知機能を評価した.観察期間は1年とし,介入群には塩酸ドネペジルおよびN陳皮の煎じ薬を毎日1年間投与した.対照群は塩酸ドネペジルのみ投与を続けた.介入群では,1年の間でMMSEおよびADAS-Jcogの有意な変化を認めなかった.一方で対照群ではMMSEおよびADAS-Jcogが有意に悪化した.ADAS-Jcogの1年間の変化量は二群間で有意な差が認められた(P=0.02).塩酸ドネペジルを内服中のADの認知機能の悪化をN陳皮の1年間の投与が食い止める可能性が示唆された.
総説
  • 杉本 幸彦
    2015 年 145 巻 5 号 p. 237-242
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/10
    ジャーナル フリー
    プロスタグランジン(PG)は,細胞膜リン脂質から産生される最も代表的な脂質メディエーターであり,各PGに特異的な受容体を介して多彩な作用を発揮する.近年,受容体欠損マウスや特異的作動・遮断化合物を用いた解析からそれらの生理的意義が分子レベルで解明されてきた.とくに古くから知られるPGの神経作用,発熱や疼痛に関しては,その分子レベルでの調節機構が明らかとなった.またこうした既知作用のみならず,PGはミクログリアによる神経毒性やドパミン系を介した心理ストレスにも関与することが見いだされ,アルツハイマー病をはじめとする神経炎症の増悪因子として,さらには衝動や抑うつ応答の制御因子として注目されている.さらに最近,PG産生基質であるアラキドン酸の新たな供給経路が発見され,その責任酵素が種々の神経疾患の治療標的として脚光を浴びている.本稿では,PGによる神経機能の調節とその作用メカニズムに関する最近の知見を概説するとともに,創薬標的としての方向性を考察したい.
創薬シリーズ(7)オープンイノベーション(21)
新薬紹介総説
  • 巽 良之
    2015 年 145 巻 5 号 p. 250-258
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/10
    ジャーナル フリー
    エフィナコナゾールは,科研製薬株式会社で創出され,2014年7月に製造販売承認を取得した新規トリアゾール系抗真菌薬で,国内初の外用爪白癬治療薬である.本薬は,真菌細胞膜の構成成分であるエルゴステロールの生合成を阻害し,爪真菌症の主要原因菌Trichophyton rubrumおよびTrichophyton mentagrophytesを含む各種真菌種に対して,既存治療薬以上の抗真菌活性と広い抗真菌スペクトラムを示した.また,爪の主成分であるケラチンに対する親和性が既存治療薬よりも低いため,ヒト爪を良好に透過し,ケラチン存在下でも高い抗真菌活性を保持した.さらに,モルモット爪白癬モデルにおいて,エフィナコナゾール液剤の連日爪塗布は,海外市販ネイルラッカー剤に比べて高い爪内生菌数減少効果を示した.In vitroモデルでは,エフィナコナゾール液剤の単回ヒト爪適用は,爪下層や爪甲下の白癬菌に対して高い抗真菌活性を示し,有効濃度の薬剤が爪下層および爪床に到達することが示された.第Ⅰ相臨床試験では,爪白癬患者において高い爪中濃度と爪貯留性が確認され,血中濃度は低かった.二つの第Ⅲ相臨床試験(国際共同治験および海外試験)では,爪白癬に対してそれぞれ17.8%および15.2%の完全治癒率(感染面積0%かつ真菌学的治癒の割合)が得られ,いずれも基剤群との有意差が認められた.また,日本人患者の完全治癒率は28.8%であった.これらの臨床試験成績から,エフィナコナゾール液剤は,爪白癬に対して海外承認の外用剤より高く,イトラコナゾール経口剤とほぼ同等の治療効果を示すと期待される.さらに,血中曝露の低さから,全身性の副作用と薬物相互作用に懸念が少ないと考えられる.以上のことから,エフィナコナゾール液剤(クレナフィン®爪外用液10%)は,今後の爪白癬治療の新たな選択肢になると考えられる.
  • 岩田 理子, 堤 健一郎, 原田 寧
    2015 年 145 巻 5 号 p. 260-265
    発行日: 2015年
    公開日: 2015/05/10
    ジャーナル フリー
    アビラテロン酢酸エステルは生体内で速やかにアビラテロンへ加水分解され,アンドロゲン合成酵素であるC17,20-lyase/17α-hydroxylase(CYP17)を阻害する.アビラテロンは精巣,副腎および腫瘍組織内におけるアンドロゲン合成を阻害することにより,去勢抵抗性前立腺癌(CRPC)に対して抗腫瘍効果を示す.アビラテロンはヒト精巣由来CYP17を不可逆的に阻害し,ヒト副腎皮質腫瘍細胞株を用いたin vitroでの検討およびマウスに経口投与したin vivoでの検討においてアンドロゲン合成を抑制した.さらに,ヒトCRPCを模したヒト腫瘍異種移植マウスモデルにおいて,アビラテロンは腫瘍内アンドロゲン含量を低下し,腫瘍体積を縮小するとともに無増悪生存期間(PFS)を延長した.日本で実施した去勢抵抗性前立腺癌患者を対象とした臨床試験において,アビラテロン酢酸エステル(本剤)1000 mgとプレドニゾロン10 mgを併用投与したときの前立腺特異抗原(PSA)奏効率(PSA値がベースラインから50%以上低下した被験者の割合)は,化学療法未治療患者で60.4%(29/48例,90%信頼区間47.5%~72.3%),化学療法既治療患者で28.3%(13/46例,90%信頼区間17.6%~41.1%)であった.いずれの試験においても,本剤の忍容性および安全性に大きな問題は認められなかった.アビラテロン酢酸エステルは,化学療法歴の有無にかかわらず去勢抵抗性前立腺癌に使用可能な薬剤であり,新しい治療選択肢のひとつとして,社会に大きく貢献できる薬物である.
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