日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
150 巻, 1 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
特集:医薬品開発における薬理試験のこれからの統計解析
  • 黒須 真介
    2017 年 150 巻 1 号 p. 4-9
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー
    電子付録

    非臨床薬理試験から得られるデータの特徴は多種多様であり,またデータの解析方法の選択肢も多数存在する.したがって,試験のデータにどの解析方法を適用するのが最良かという判断に研究者のみならず,筆者のように研究者より相談を受ける統計担当者もしばしば頭を悩ませている.本稿では,探索的な位置づけで実施された2つの薬理試験の事例,およびそれぞれの事例に適用可能ないくつかの解析方法と解析結果を示した上で,解析方法選択の基本方針について考察した.その結果,検出力や前提とする分布といった統計学的な着眼点のみならず,生物学的・薬理学的な項目やその他にも多く留意が必要な点があると思われた.主要な解析を事前に1つに定めることが原則である検証的試験とは異なり,探索的試験では,計画段階で様々な解析方法を挙げ,得られたデータにそれらを適用した後,結果や方法自体について総合的に考察を加え,最も適切な解析方法を選択することが必要である.その上で検証的試験に臨むことで,試験の成功確率を最大化できる.

  • 中西 展大
    2017 年 150 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー

    試験計画段階で統計学的に留意すべき点は多岐にわたり統計学的有意差検定手法の選択もその一つの要素である.統計学的有意差検定には非常に多くの手法が存在しており,試験のデザイン,目的,評価項目の特性などに応じて,適切な方法を選択することが求められる.しかし,試験の都度,計画段階から統計専門家が参画し,適切な検定手法を設定することは通常困難である.そこで本総説では,統計学的有意差検定の選択法について,ある程度一般化可能と考えられる指針を示す.選択の対象とする検定手法は,日薬理誌掲載論文における各種統計学的有意差検定の使用件数を参考に頻出のものを中心に扱い,「パラメトリック検定,ノンパラメトリック検定」「対応のある検定,対応のない検定」「等分散性の下での検定,不等分散を考慮した検定」「2群の検定,多群の検定(多重比較検定)」「全対比較(Tukey)型,対照群比較(Dunnett)型」といった要素のそれぞれについて,選択の基準となる指針について述べ,代表的な誤用例について解説をおこなう.ここで示す考え方のみを以て,常に正しい解析手法の選択ができるという保証はないが,統計手法の選択に苦慮される方にとって薬理試験計画時における参考となることを期待する.

  • 原田 淳
    2017 年 150 巻 1 号 p. 16-22
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー
    電子付録

    2種類の薬物の効力を比較する場合,平行線検定を用いて効力比を求めることがよく行われている.薬物間の効力比をその信頼区間とともに求めれば,その効果の違いを具体的な数値パラメータとして扱える上に,効力比の信頼区間が1を含まないならば,効果の有意な違いを統計学的に示すことができる.また,適当な同等性マージンを設定すれば2種の薬物の効力の同等性を示すこともできる.従来,平行線検定は直線をあてはめるものが主流であったが,近年ではシグモイド曲線を用いた非線形回帰分析での平行線検定が可能な統計解析ソフトウエアが利用可能で,シグモイド曲線にしたがうことが多い薬理学での利便性が高まった.一方,本手法の前提となる2つの用量反応直(曲)線の平行性に関しては,2つの直線の傾きの違いをみるF検定で有意差が無いことで検討してきたが,米国薬局方の生物学的アッセイ法の新しいガイドラインではそれに代わって,傾きの差や比の信頼区間を用いる方法が提唱されている.本稿ではこれらの新しい流れを紹介し,実地で活用する際の注意点に関して考察する.

  • 本田 主税, 溝手 紳太郎
    2017 年 150 巻 1 号 p. 23-28
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー

    薬学・生命科学の進歩に伴い,創薬研究者に求められる統計学の素養も日増しに高まっている.創薬に関わる,あるいはこれから関わろうとしている研究者に対して,創薬研究を円滑に進めるための統計教育が必要である.筆者は,創薬研究者の統計的思考力を高めることにより,研究目的に沿った合理的な実験計画の立案力がつくだけでなく,創薬イノベーションや研究競争力強化の一助になると考えている.本稿では,筆者の所属する企業における非臨床分野の統計教育事例を紹介する.そのなかで,創薬ターゲット選定,リード物質探索などの創薬の初発研究から非臨床試験,品質試験など,いわゆる非臨床分野に携わる統計家と創薬研究者のかかわりや,創薬研究者が抱えている統計学での悩み,統計的思考力を高める人財育成の展望についても論じる.

総説
  • 栗田 尚佳, 位田 雅俊, 保住 功
    2017 年 150 巻 1 号 p. 29-35
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー

    亜鉛(Zn),銅(Cu),鉄(Fe)などの生体内微量金属元素は,酵素をはじめとする多くのタンパク質の活性中心となるため,生命活動を行う上で必要不可欠である.それぞれの元素において,過剰症,欠乏症が存在するため,生体内外における適切な調節が必要である.脳内においても,これらの微量元素は,神経系の調節に重要な役割を果たしている.したがって,微量金属元素の生体内恒常性の破綻は,脳神経系への影響を引き起こす可能性がある.これまでにアルツハイマー病(Alzheimer’s disease),パーキンソン病(Parkinson’s disease)および筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis)などの神経変性疾患の発症と,微量金属元素の恒常性変化との関連が示唆されている.これらの知見を基に,金属キレート剤についての,疾患モデルを用いた治療研究も成されている.本総説では,神経変性疾患と金属トランスポーターをはじめとする調節因子との関わりについて,我々の知見を含めて,細胞内ストレス応答および生体内微量金属代謝異常という観点から概説する.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(15)
  • 深水 啓朗
    2017 年 150 巻 1 号 p. 36-40
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー

    医薬品のコクリスタル(共結晶)は,薬効を有する活性分子と添加剤からなる分子結晶である.コクリスタル化を検討する最大の意義は,結晶構造中に組み込まれた第2成分の性質が固体(結晶)の物性に反映されるため,活性成分の化学構造を修飾することなく,原薬の溶解性ならびに生物学的利用能を改善できることである.近年の創薬ストラテジーで創出される難水溶性の候補化合物,特に経口吸収性が不十分なために開発を断念されかけている化合物にとって,その問題を劇的に解決しうるviableな技術ということができる.本稿では,創薬研究者が普段思い浮かべる活性分子の化学構造ではなく,その集合体である原薬の形態について,その中でも近年のトピックであるコクリスタルを中心に,その定義や溶解挙動における特徴から製剤開発における最新の知見と戦略,ならびにレギュレーションの最新動向について解説する.

新薬紹介総説
  • 木下 潔, 岩佐 隆史, Ernest Asante-Appiah, 中村 圭介
    2017 年 150 巻 1 号 p. 41-53
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー

    エルバスビル(エレルサ®)+グラゾプレビル(グラジナ®)併用療法は,セログループ1(genotype 1)のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変を対象とした,インターフェロン(IFN)フリーの直接作用型抗ウイルス薬(DAA)による治療法である.エルバスビルはC型肝炎ウイルス(HCV)の非構造タンパク質5A(NS5A)複製複合体の阻害薬であり,グラゾプレビルは非構造タンパク質3/4A(NS3/4A)プロテアーゼ阻害薬である.HCVレプリコン細胞を用いたin vitro試験において,広範なgenotype(GT)に対してエルバスビルはpMレベルの,また,グラゾプレビルはnMレベル(いずれもEC50値)の抗ウイルス活性を示し,GT1aレプリコン細胞を用いた両阻害薬のin vitro併用試験では,複製が相加から相乗的に阻害された.さらに,NS3/4A,NS5A,及びNS5Bの各領域でみられる耐性変異(RAS)による,エルバスビル+グラゾプレビル併用に対する交差耐性はほとんどみられなかった.日本人HCV(GT1)慢性感染肝炎及び代償性肝硬変患者を対象とした国内第Ⅱ/Ⅲ相試験(058試験)では,エルバスビル50 mg及びグラゾプレビル100 mgの1日1回12週間併用投与の終了後12週時の持続的ウイルス陰性化(SVR12)率は,それぞれ96.5%(219/227例:慢性肝炎)及び97.1%(34/35例:代償性肝硬変)であり,本併用療法の高い有効性が示された.このとき,治療期間中の非奏効はみられず,前治療の有無及び反応性,IL28B遺伝子多型,食事の有無,肝硬変の有無,ベースライン時点のNS5A又はNS3領域のRASの有無はSVR12率に影響しなかった.また,海外第Ⅱ/Ⅲ相試験(052試験)又は海外第Ⅲ相試験(061試験)では,慢性腎臓病やHIV/HCV重複感染を有する患者集団に対しても,エルバスビル+グラゾプレビルの併用又はエルバスビル/グラゾプレビル配合薬の有効性が認められた.さらに,各種臨床薬物相互作用試験の結果から,強力なCYP3A阻害薬との併用によるエルバスビル及びグラゾプレビルの曝露量の増加は概して治療域の範囲内であることが示唆されており,胃酸抑制薬との併用でも臨床的に意味のある影響はみられなかった.よって,特段の注意を要さずにアゾール系/マクロライド系抗生物質を含むCYP3A阻害薬や胃酸抑制薬との併用が可能と考えられた.また,エルバスビル+グラゾプレビル併用療法によるCYP3Aに対する阻害作用は弱くCa拮抗薬との併用においても特段の注意は必要ないと考えられた.エルバスビル及びグラゾプレビルは,2016年4月に厚生労働省より優先審査品目に指定され,同年9月に「セログループ1(ジェノタイプ1)のC型慢性肝炎又はC型代償性肝硬変におけるウイルス血症の改善」の効能・効果を有する1日1回併用投与の治療薬として製造販売承認を得た.現在,エルバスビル+グラゾプレビル併用療法は,DAA治療歴のないC型肝炎(GT1)の治療第一選択として推奨されており,透析患者を含む慢性腎臓病(CKD)ステージ1~5の腎障害患者においても投与可能である.エルバスビル+グラゾプレビル併用療法は,初回治療例や前治療再燃例を含む治療歴をはじめ種々の背景を有する幅広いHCV(GT1)慢性感染患者で有効であり,さらに耐性変異症例においても高い抗ウイルス効果を示すことから,C型慢性肝炎の治療に大きく貢献するものと期待される.

  • 吉田 孝寛, リュウ イリーン, 太田 美穂子, 中山 博, 柳原 康夫, 中村 裕樹, 芹生 卓, 上正原 勝
    2017 年 150 巻 1 号 p. 54-61
    発行日: 2017年
    公開日: 2017/07/07
    ジャーナル フリー

    ポナチニブは,慢性骨髄性白血病(CML)およびフィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ ALL)における薬剤耐性に対しても有効なBCR-ABLチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)として開発された新規の薬剤である.本剤はその構造に炭素間三重結合を有し,薬剤耐性の原因となるBCR-ABLの点突然変異(特にT315I)が存在しても,活性部位に結合できるように分子設計された第三世代TKIである.本剤の国外および国内臨床試験の結果,前治療薬に抵抗性又は不耐容のCML,および再発又は難治性のPh+ ALLに対する治療薬として2016年9月に国内で承認された.ダサチニブもしくはニロチニブに抵抗性もしくは不耐容,またはT315I変異を有する慢性期CML(CP-CML)患者267例,移行期CML(AP-CML)患者85例,急性転化期CML(BP-CML)患者62例およびPh+ ALL患者32例を対象とした海外第Ⅱ相試験において,CP-CML患者の主要評価項目である12ヵ月までの細胞遺伝学的大奏功(MCyR)率は56%,AP-CML,BP-CMLおよびPh+ ALL患者の主要評価項目である6ヵ月までの血液学的大奏功(MaHR)率はそれぞれ,55%,31%および41%であった.また,長期観察の結果,CP-CML患者の4年MCyR率は82%と推定された.なお,全患者において,発現率30%以上の副作用は血小板減少(44%),腹痛(43%),発赤(42%),便秘(37%),頭痛(37%),皮膚乾燥(36%),疲労(30%),高血圧(30%)であった.また,ダサチニブまたはニロチニブに抵抗性または不耐容であるCML,若しくはTKIによる前治療に抵抗性または不耐容であるPh+ ALL患者(計35例)を対象にした国内第Ⅰ/Ⅱ相試験において,第Ⅰ相では,12例中2例でDLTが発現し,第Ⅱ相での推奨用量が45 mgとされた.第Ⅱ相では,CP-CML患者の12ヵ月までのMCyR率が64.7%,進行期患者(AP-CML,BP-CMLおよびPh+ ALL患者)の6ヵ月までのMaHR率が61.1%であった.35例中発現率35%以上であった副作用は,発熱(66%),血小板数減少(69%),高血圧(49%),好中球数減少(40%)であった.なお,海外第Ⅱ相試験における動脈の血管閉塞性事象(VOE)の発現率は23%,国内第Ⅰ/Ⅱ相試験におけるVOEの発現率は14%であった.今後,VOEの発現頻度を低減すべくエビデンスを構築し,本剤を必要とする患者において,適正な使用が推進されることが期待される.

feedback
Top