日本薬理学雑誌
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154 巻, 4 号
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特集:薬理学研究に使える形態学的手法の基礎
  • 小澤 一史
    2019 年154 巻4 号 p. 156-164
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    免疫組織化学とは,抗体抗原反応という生体に存在する多様で特異的な分子認識機構を応用し,細胞,組織,臓器,個体の中に存在する特定の物質を探索し,可視化して観察する研究技法で,多くの領域で汎用されている.光学顕微鏡,電子顕微鏡,蛍光顕微鏡,共焦点レーザ走査顕微鏡などの顕微鏡を用いて観察する形態学と,免疫沈降法,Western blotting法などを用いて細胞や組織内の物質の存在を検出する生化学が合体し,形,構造とその中に存在する物質の同時観察が出来る研究手法である.このステップを簡単にまとめると,「抗原」と特異的に結合する「抗体」を反応させ,その抗原抗体反応した部位を「可視化」して顕微鏡で観察することが免疫組織化学の基本的なステップである.このステップにおいて,重要なポイントがいくつかあるが,その1番目は「よい一次抗体」を用いて明瞭で容易に,また再現性高く探索対象とする物質(抗原)を検出することである.2番目として,組織や細胞内の物質(抗原)の不動化,すなわち固定の必要性である.固定作業は一方で抗原の分子構造変化をもたらし,結果として抗原抗体反応を抑制することがある.従って固定と免疫染色性という相反性の問題を超える必要がある.3つめは「可視化」である.単に見えるだけではなく,特異的で明確に判断できるように見えなくてはいけない.これらのポイントを意識しながら正しい免疫組織化学反応を判別できるようにし,誤った検出結果,検出判断をしないことが大変に大切なことである.そのためのコントロール実験は常に意識すべき重要なポイントになる.

  • 松﨑 利行
    2019 年154 巻4 号 p. 165-170
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    蛍光抗体法はタンパク質の細胞内局在を解析するために有用な手法で,多分野の研究者に広く用いられている.本稿では,蛍光抗体間接法の基本的な手法と多重染色について基本的な手法を説明した.概要は以下の通りである.①培養:カバーガラスで培養する場合はコラーゲンコーティングをおこなう.スライドガラスでは1枚のガラスに複数の培養面を設けた市販品が便利.メンブレンフィルターの場合はメンブレンの上下で異なる培養環境を作ることが可能である.②固定:固定液の基本は4%パラホルムアルデヒド-りん酸緩衝液であるが,1%酢酸-エタノールや,エタノール,メタノールなどの有機溶媒も用いることができる.③細胞膜透過処理:抗体の浸透をよくするためにTriton X-100やサポニンを用いる.④ブロッキング:抗体の非特異的な結合を防ぐために,二次抗体の動物種と同じ動物種の血清をPBSで5%に希釈して用いる.⑤抗体の反応:ブロッキング液で希釈した抗体希釈液を反応させる.異なる動物種由来の一次抗体による多重染色では,一次抗体どうし,二次抗体どうしをそれぞれ混合して反応させてよい.⑥二次抗体の選択:多重染色用の,交差反応を示さない,また適切な蛍光色素で標識された抗体を選択する.⑦試料の保管:退色防止剤を含む封入剤で封入し,−20°Cで保管する.⑧トラブルシューティング.本稿が,多くの読者にとって,蛍光抗体法でより良い結果が得られるようなヒントとなれば幸いである.

  • 田中 秀央
    2019 年154 巻4 号 p. 171-177
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    蛍光イメージング法は,組織・細胞内の特定の構成成分や機能分子を蛍光画像化する組織化学の基本的手法である.近年の顕微イメージング技術と蛍光プローブの目覚ましい進歩により,細胞内の蛍光機能分子が高い時間空間分解能で可視化できるようになり,生きた組織・細胞の機能解析が可能になった.ここでは,筆者が取り組んできた心筋組織の蛍光機能イメージングから得た以下の成果を紹介し,機能を見る組織化学の有用性を示す.①心臓のin situ Ca2+イメージング:ラットの摘出灌流心に高速共焦点顕微鏡を適用し,心筋細胞のCa2+動態を高い時間空間分解能で可視化した.心臓がCa2+過負荷に陥ると拡張期に筋小胞体からCa2+が自発性に放出されて個々の心筋でCa2+波が発生し,これが心臓内で同時多発すると不整脈原性の異常興奮が生じる.一方,筋小胞体からのCa2+放出が損なわれると収縮期に細胞内・細胞間でCa2+放出が空間的に不均一になり,一拍毎にCa2+濃度が交代性に増減するCa2+オルタナンスが生じる.この不均一なCa2+動態は小動物の心房や不全心で観察される横行小管(T管)の発現低下が一因とされ,心臓の収縮・拡張機能を反映する上で重要な現象と考えられる.②ギャップ結合機能異常による不整脈:心筋細胞間の電気的結合を担うCx43の機能をラット新生仔心筋の単層培養組織でドミナントネガティブ阻害すると,心筋組織の伝導速度が低下し,旋回性に興奮伝導する不整脈が起こりやすくなることを見出した.③心房細動の組織形態学的発生基盤:ラット摘出灌流心に心房細動を誘発し膜電位感受性蛍光プローブのイメージング下によりその発生起源を同定,組織学的解析との統合により心房に内在する不整脈原性基質を明らかにした.以上,生きた心臓組織の蛍光機能イメージングは,心臓の興奮伝導やその異常の解明に有用な情報をもたらしてくれる.

特集:シグナル受容器・一次繊毛を標的とした薬理学研究の展望
  • 斎藤 祐見子, 濱本 明恵, 小林 勇喜
    2019 年154 巻4 号 p. 179-185
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    Gタンパク質共役型受容体(GPCR)は膜7回貫通構造を特徴とする膜タンパク質であり,ヒトゲノム最大のファミリーを形成する.GPCRは閉鎖系(細胞-細胞間)ばかりでなく,開放系(光,匂い,味覚)の情報伝達を担い,様々な生理機能を制御する重要なシグナル分子である.現在使用されている薬剤の約30%がGPCRを標的としており,治験状況から見ても,GPCRは今後も引き続き,創薬標的となることが予想される.GPCRは細胞膜に局在する受容体として認知され,HEK293やCHO細胞の細胞膜に受容体を高発現させた実験系を用いることでGPCRの構造活性相関や活性調節因子の解析が行われている.ところが,2008年,あるGPCRは細胞膜ではなく,細胞膜から突き出た細胞小器官である神経細胞の一次繊毛膜に局在し,しかも脳領域選択的であることが報告された.繊毛には「細胞運動を制御する動く繊毛」と「不動型繊毛-一次繊毛」がある.後者は1つの細胞に1本しかないため,その微小な構造に「選ばれた」タンパク質が高度に集積する.このような機能分子集合体は,外部環境を鋭敏かつ迅速に感知するための基盤となっている.これまでの研究により,in vitro,in vivoのどちらの系においても,中枢神経の一次繊毛膜に選択的に局在することが確実なGPCRは限られていることも明らかになってきた.その数少ないGPCRのうちの1つが,摂食・情動・睡眠に関与する中枢性神経ペプチドであるメラニン凝集ホルモン(melanin-concentrating hormone:MCH)の受容体,MCHR1である.本稿では,まず繊毛局在型GPCRについて概説し,次に,MCHR1が一次繊毛膜という「場」を起点とすることで生じる動的現象(繊毛長の縮退)とその関連シグナル系に重点を置き,紹介する.

  • 加藤 洋平
    2019 年154 巻4 号 p. 186-191
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    細胞膜から突出する一次繊毛はヒトのほとんどの細胞に存在し,さまざまな外部シグナルを受容するアンテナとして機能する.繊毛の形成不全や機能異常が嚢胞腎や網膜変性などの多様な症状を呈する繊毛病を引き起こすことが明らかになるにつれて,繊毛の重要性に注目が集まってきた.繊毛がアンテナとして働くためには,特定の受容体やイオンチャネルが選択的に繊毛に局在する必要がある.Gタンパク質共役型受容体(GPCR)などの積荷タンパク質は,繊毛内タンパク質輸送(intraflagellar transport:IFT)装置によって運ばれる.IFT装置は3つのタンパク質複合体(IFT-A複合体,IFT-B複合体,BBSome複合体)と2つのモータータンパク質(キネシン2とダイニン2複合体)を含み,全部で40以上のサブユニットから成る巨大なタンパク質複合体である.IFT装置を動かす2つのモータータンパク質は繊毛内タンパク質輸送の根幹であるにも関わらず,キネシン2がIFT装置とどのようにして連結しているのか,ダイニン2複合体はどのようにして構築されるのか,ダイニン2の各サブユニットの機能の違いは何かなど,基本的な分子メカニズムがわかっていなかった.筆者らは『観るだけでわかるタンパク質間相互作用解析法(VIPアッセイ)』とCRISPR/Cas9システムによるゲノム編集を活用することによってこれらの問題に取り組んだ.本稿では筆者らの最近の研究成果を中心にして,繊毛内タンパク質輸送を担う2種類のモータータンパク質の構築様式と機能について解説する.

  • 周 縁殊, 斎藤 将樹, 福間 剛士, 高橋 康史
    2019 年154 巻4 号 p. 192-196
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
    ジャーナル フリー

    一次繊毛は,中心小体由来の基底小体と微小管ベースの軸糸からなる非運動性繊毛である.近年,繊毛病の発症とのつながりにより一次繊毛の構造と機能が注目されつつある.走査型イオンコンダクタンス顕微鏡(SICM)は細胞を生きたままで表面の形状や機能をナノスケールでマッピングすることが可能である.さらに,形状計測に関しては,蛍光画像のように測定対象物をラベル化する必要がない.著者らは,SICMを用いてヒト網膜色素上皮細胞株(RPE-1細胞)とイヌ腎臓尿細管上皮細胞株(MDCK細胞)の一次繊毛の構造をナノスケールで比較した.さらに,高解像度なSICMの形状イメージングにより,蛍光標識が困難なシリアポケットの可視化にも成功した.

  • 斎藤 将樹, 大津 航
    2019 年154 巻4 号 p. 197-202
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
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    一次繊毛は細胞膜が突出して形成されるシグナル受容器である.細胞周期G0/G1期に中心体由来の基底小体を基にして,1細胞あたり1本形成される.特異的な増殖性刺激を受容すると短縮・消失してG1/S期に再駆動するため,細胞増殖を促進する.細胞増殖作用は,主に胎児期における種々の臓器形成に重要である.血球系を除くほとんど全ての細胞種に形成されるため,一次繊毛の形成異常および一次繊毛シグナルの破綻は,脳,眼,鼻,耳,心臓,肺,肝臓,腎臓,骨など種々の臓器の形成不全につながる.これらの先天性遺伝性疾患を総称して繊毛病と呼ぶ.しかし,繊毛病の病因には不明なことが多く残されており,さらなる分子機構の解明が必要である.特に,一次繊毛の短縮・消失機構は,Aurora Aキナーゼやヒストン脱アセチル化酵素(HDAC)6による制御機構が2007年に初めて報告されたが,まだ知見は乏しい.Tctex-1(t-complex testis expressed-1)は細胞質ダイニン軽鎖の一種で,細胞内物質輸送を制御する.Tctex-1はまた,リン酸化されると細胞質ダイニン複合体から遊離してダイニン非依存的な役割を果たす.本稿では,一次繊毛の短縮・消失機構の現状についてリン酸化Tctex-1による分子制御機構を中心として解説する.

総説
  • 土田 琢磨
    2019 年154 巻4 号 p. 203-209
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
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    非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)は世界中で増加の一途を辿っている慢性肝疾患である.特にNAFLDの一部の患者は,予後不良な非アルコール性脂肪肝炎(NASH)へと進展し,しばしば肝線維化を呈して,最終的には肝硬変や肝細胞がんの発症に至る.肝線維化はNASHなどの慢性的な肝臓での障害に起因する細胞外マトリックスの過剰蓄積であり,非常に動的なプロセスである.肝星細胞の活性化は,静止型のビタミンA貯蔵細胞が増殖性で線維化促進性のmyofibroblastに形質転換することであり,非臨床の肝線維化の病態モデル及び臨床的にも,肝線維化の進展の中心的な役割を有することが概念として確立している.しかしながら,オートファジー,コレステロール代謝,ヘッジホッグ経路,マクロファージからのシグナルなど,肝星細胞の活性化を制御する新たな経路やメディエーターが次々と見出されており,複雑な制御機構が明らかとなってきている.また肝線維化が解消する過程で,活性化した肝星細胞がアポトーシス,細胞老化,そして脱活性化によりクリアランスを受けることが示されてきている.このような発見は,肝星細胞の活性化の可逆性を示唆しており,その機序を解明することにより,NASHなどの慢性肝疾患の治療薬の創製に繋がることが期待される.

創薬シリーズ(8) 創薬研究の新潮流(37)
  • 森 大輝, 前田 和哉, 楠原 洋之
    2019 年154 巻4 号 p. 210-216
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
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    薬物トランスポーターは医薬品の体内動態を決定する重要な分子である.Organic anion transporting polypeptides 1B1/1B3(OATP1B1/1B3)は,種々アニオン性薬物の肝取り込みを担う.OATP1B1/1B3の機能変動の要因には遺伝子多型や薬物相互作用があり,特に薬物相互作用の場合には重篤な有害事象が生じうる.このため,そのリスクを定量的に評価する方法論が複数検討されてきた.その一例として,内在性基質をプローブとする手法では,プローブ薬の投与なしに,医薬品開発のより早期に相互作用リスクを評価できる.また陽電子断層撮像法(PET)の利用は基質の肝臓中濃度の追跡を可能にし,肝胆系輸送の素過程に対する阻害薬の影響の定量化を可能とした.生理学的薬物速度論モデルは相互作用の程度を定量的に予測できる手法として,新薬の承認申請時を含め今後広く活用されると予想される.

新薬紹介総説
  • 武田 忍, 三木 隆司
    2019 年154 巻4 号 p. 217-229
    発行日: 2019年
    公開日: 2019/10/10
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    フィダキソマイシン(ダフクリア®錠200 mg)は,Clostridioides(Clostridium)difficile(C. difficile)感染症(CDI)治療薬として2018年7月に国内で承認された18員環マクロライド骨格を持つ新規クラスの抗菌薬である.本薬は,C. difficile由来RNAポリメラーゼによる転写に対する阻害活性を有し,C. difficile臨床分離株に対して抗菌作用を示した.なお,本薬の抗菌作用は殺菌的であった.各種細菌標準株に対する検討において,C. difficileを含む一部のグラム陽性菌にのみ抗菌活性を示し,多くのグラム陰性菌には抗菌活性を示さなかったため,抗菌スペクトルが狭域で,正常な腸管細菌叢を撹乱しにくい特徴を有すると考えられた.最小発育阻止濃度未満の濃度作用下でも芽胞形成を抑制するとともに,薬剤除去後も芽胞発芽後の生育を抑制し,栄養型への移行及びトキシン産生に対して阻害作用を示した.さらに,ハムスターを用いたC. difficile感染致死に対しても防御作用を示した.国内外の臨床試験成績では,CDI患者に対し本薬1回200 mgを1日2回10日間経口投与したとき,バンコマイシン1回125 mgを1日4回10日間経口投与したときと比較して,高い治癒率及び治癒維持率を示したのみならず,再発率が低いことも示された.有害事象はおおむねバンコマイシン投与群と違いはなく,安全性に大きな問題は認められず忍容性は良好であった.以上の非臨床薬理試験及び臨床試験の結果から,フィダキソマイシンは正常な腸管細菌叢を撹乱しにくい特徴を有し,CDIに対して高い治癒率と再発抑制効果を持つ新たな治療薬として有用な薬剤になるものと期待される.

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