日本薬理学雑誌
Online ISSN : 1347-8397
Print ISSN : 0015-5691
ISSN-L : 0015-5691
155 巻, 1 号
選択された号の論文の13件中1~13を表示しています
特集 Central Neuro-Uro-Pharmacology研究最前線
  • 清水 孝洋, 吉村 直樹
    2020 年 155 巻 1 号 p. 3
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー
  • 吉村 直樹, 橘田 岳也, 嘉手川 豪心, 宮里 実, 清水 孝洋
    2020 年 155 巻 1 号 p. 4-9
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    膀胱と尿道からなる下部尿路は蓄尿と尿排出の二つの相反する機能を司り,その機能は,末梢神経だけでなく中枢神経路を介して複雑にコントロールされている.まず,蓄尿時の調節は,主に脊髄レベルの反射によって制御され,交感神経(下腹神経),体性神経(陰部神経)の興奮によって膀胱の弛緩と尿道の収縮が引き起こされる.そして,尿排出時には,脊髄から脳幹の橋排尿中枢を経由する反射経路が活性化され,副交感神経(骨盤神経)の興奮によって排尿が起こる.そして,これらの末梢神経の働きは,脊髄より上位の中枢神経によって複雑に制御され,随意のコントロールが可能となる.そして中枢での神経伝達物質としてドパミン,セロトニン,ノルエピネフリン,GABA,グルタミン酸などが排尿のコントロールに関与しており,末梢だけでなく,中枢神経路の変性疾患や外傷による障害および薬物投与が,頻尿,尿失禁,尿排出力低下などの下部尿路機能障害を引き起こす.

  • 嘉手川 豪心, 菅谷 公男, 吉村 直樹
    2020 年 155 巻 1 号 p. 10-15
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    脊髄における排尿薬理機構を検討するために,脊髄損傷(spinal cord injury:SCI)によって引き起こされる膀胱線維化を伴う膀胱リモデリングと,それに対するアドレナリンα1A/D受容体遮断薬(ナフトピジル)およびホスホジエステラーゼ(PDE)5阻害薬(タダラフィル)の効果を検討した.SD系メスラットを用い,Normal群(脊髄正常),Vehicle SCI群(Vehicle経口投与),タダラフィルSCI群(タダラフィル5 mg/kg/day経口投与)およびナフトピジルSCI群(ナフトピジル20 mg/kg/day経口投与)の4群で検討した.SCI後2,4,8,12週目に膀胱および尿道内圧測定を実施し,1,2,4,8,12週目に摘出膀胱組織内の虚血マーカー(HIF-1α:hypoxia inducible factor 1α,VEGF:vascular endothelial growth factor)および線維化マーカー(TGF-β1:transforming growth factor β1,collagen type 1,collagen type 3)のmRNA発現量と,コラーゲンおよびエラスチン含有量を解析した.Vehicle SCI群ではSCI早期から排尿筋括約筋協調不全(DSD:detrusor-sphincter dyssynergia)パターンを呈し,排尿効率が低下した.TGF-β1とHIF-1α発現量,そしてコラーゲンとエラスチン含有量がSCI早期から増加し,膀胱コンプライアンスはSCI中期をピークに増加したのち低下した.ナフトピジル投与により,Vehicle SCI群で認められたSCI早期のTGF-β1およびHIF-1αの増加,SCI中期のコラーゲン含有量増加,およびSCI後期のDSDと膀胱コンプライアンス低下が抑制された.タダラフィル投与によりVehicle SCI群に認められたSCI早期のTGF-β1の増加,全期間を通したコラーゲン含有量の増加,およびSCI後期の膀胱コンプライアンス低下が抑制された.SCIによりDSDを伴う排尿筋過活動が誘導され,膀胱壁内虚血および膀胱線維化が誘導されることが確認できた.また,α1A/D受容体遮断薬およびPDE5阻害薬ともにSCI後の膀胱線維化および膀胱コンプライアンスの低下を抑制した.また,薬剤によって作用する時期が違うことが示されたことから,さらなる詳細な検討を進めることが,SCI後の膀胱リモデリングを伴う神経因性膀胱に対するきめ細やかな治療につながっていくと期待される.

  • 宮里 実, 芦刈 明日香
    2020 年 155 巻 1 号 p. 16-19
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    腹圧性尿失禁(SUI)は,中年女性にみられる一般的疾患で,生活の質を著しく損なう.一方で,臨床的に,あまり有効な薬剤はない.妊娠,出産に伴う女性特有の成因に起因し,尿道過可動と内因性括約筋不全の二つに大別される.腹圧尿失禁の病態,創薬開発にあたって,直接的,間接的陰部神経損傷モデルが使用されている.私達は以前,脳梗塞ラットも尿禁制反射が減弱していることを報告した.SUI評価法として,リークポイント圧測定や尿道マイクロチップ法があり,私たちは後者にくしゃみ刺激を利用する独自の評価方法を確立した.実際,中枢にはSUIの標的が数多く存在することが明らかとなってきている.特に,ノルエピネフリン,セロトニン(5-HT)が標的で,陰部神経核(オヌフ核)周囲に存在するα1受容体,5-HT2C,5-HT7が尿禁制反射を増強,α2,5-HT1Aが減弱することが明らかとなっている.さらに,脊髄オピオイドμ受容体が尿禁制反射を増強することを,弱オピオイドであるトラマドールを用いて報告した.このように,脊髄にはSUIの新たな創薬開発の標的となる受容体が数多く存在する.

  • 清水 孝洋, 清水 翔吾, 東 洋一郎, 吉村 直樹, 齊藤 源顕
    2020 年 155 巻 1 号 p. 20-24
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    心理・精神ストレスが排尿機能に影響をおよぼすことは「緊張するとトイレが近くなる」という日常的な事象からも想像に難くない.実際,心理・精神ストレス曝露による頻尿誘発・膀胱機能障害に伴う症状の増悪が動物モデルのみならずヒトの患者レベルでも報告されている.以上から,これらストレスが頻尿誘発のみならず,膀胱機能障害増悪の一因となる可能性が考えられる.ストレスに対する生体応答誘発に脳が重要な役割を担うことは周知の通りであるが,意外にもストレスが排尿機能へおよぼす影響およびその脳内機序について,詳細は未だ明らかにされていない.著者らは,これまで行ってきた交感神経-副腎髄質系賦活(代表的なストレス反応の1つ)の脳内制御機構に関する神経薬理学研究の成果をベースに,ストレス誘発性頻尿の脳内機序の解明を試みている.本稿ではその脳内機序解明の第一歩となりうる,著者らの最近の研究成果について概説する.

特集 低酸素応答シグナルを治療標的とする―PHD阻害薬の治療応用―
  • 武田 憲彦, 冨田 修平
    2020 年 155 巻 1 号 p. 25
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー
  • 武田 憲彦
    2020 年 155 巻 1 号 p. 26-29
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    我々の体の各臓器,細胞はそれぞれ異なった酸素濃度の環境で生存しており,また体内局所における酸素濃度は種々の生理的・病的ストレスにより大きく変動する.細胞外環境としての酸素濃度は我々の細胞に大きな影響を与え,特に低酸素環境では遺伝子発現を含む数多くの細胞機能が抑制される.一方で低酸素応答型転写因子hypoxia inducible factor(HIF)-αと呼ばれる一群の転写因子群は,低酸素環境においても一部の標的遺伝子(低酸素応答遺伝子)発現をむしろ増加させる働きを有する.近年の研究からHIF-α機能が細胞外酸素環境に応じてどのように調節されているか,その詳細な分子機構が明らかになってきた.また様々な病態モデルを用いた検討から低酸素環境下におけるHIF-1αシグナルが,炎症,組織リモデリングの過程で重要な役割を果たしていることも判ってきた.このようなHIF-1αを介する炎症プロセスは,細菌感染や外傷のみならず,心血管病など内的環境の変化により引きおこされる疾病においても重要な役割を果たしていることが確認されている.今後HIF-1αシグナルへ介入することで疾患の治療応用を目指す薬物治療も期待されており,生理的および病的側面からHIF-1αシグナルを包括的に理解することの重要性が現在特に強く認識されている.本稿では炎症プロセスにおいて中心的役割を果たしているマクロファージ活性化においてHIF-1α,HIF-2αが果たしている機能について紹介すると共に,その組織リモデリングでの役割について概説する.

  • 田中 哲洋
    2020 年 155 巻 1 号 p. 30-34
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    尿細管間質の慢性低酸素は慢性腎臓病(CKD)の病態進展における最終共通経路を担う.エリスロポエチン(EPO)遺伝子の転写調節機構に関連する研究から低酸素誘導因子(HIF)が発見され,その発現調節を司るプロリン水酸化酵素(PHD)が同定されたことにより,EPOの低酸素誘導を薬理学的に活性化することが可能になった.現在,HIFの活性化をもたらすPHD阻害薬が新規腎性貧血治療薬として開発され,国内外で大規模臨床試験が進行中である.一方,PHD阻害薬が有する潜在的付加価値として,低酸素を背景に有する腎疾患そのものに対する治療応用の可能性が挙げられる.同コンセプトは急性腎障害モデルを用いて精力的に研究されてきたが,CKDの病態における影響を検討した報告は限定的である.いくつかの疾患モデルでは炎症や酸化ストレスを抑制して病態軽減をもたらす一方,間質線維化の増悪や多発性嚢胞腎における嚢胞の増大など,HIFが病態の進展・増悪に寄与するリスクも報告されており,PHD阻害薬によるHIF活性化が腎臓にもたらす影響は原疾患や病期に強く依存するものと考えられる.他方で,近年のヒト臨床試験のデータから,PHD阻害薬に糖・脂質代謝の改善作用があることが伺われ,糖尿病や肥満を伴う腎障害に対する有効性が検討されている.PHD阻害薬がCKDの腎臓に与える影響は多面的であり,疾患文脈ごとに慎重に知見を蓄積する必要がある.

  • 松永 慎司, 冨田 修平
    2020 年 155 巻 1 号 p. 35-39
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    組織内に走行する血管は,組織内の細胞へ酸素や栄養などを供給する重要な組織構造である.一方,腫瘍組織では異常な血管形成が認められる.これらの背景には血管透過性の亢進,不規則な血管新生,未成熟な血管形成があると考えられている.また,これらは腫瘍血管構造の特徴でもある.したがって,腫瘍組織は血流が乏しく,組織内間質圧が高く,低酸素,低栄養,低pHの組織環境に曝されている.このような組織環境は,抗がん薬化学療法や放射線療法に対する治療抵抗性の一因とも考えられている.血管内皮特異的なプロリル水酸化酵素(PHD)欠損マウスにおいて形成された腫瘍において腫瘍血管は正常様の血管を形成し,腫瘍微小環境は改善することが報告されている.がん細胞・組織においてのPHDの下流のシグナル経路の低酸素誘導因子(HIF)シグナルの増強は,がんの増殖と転移を促進するといわれている.一方で,免疫細胞においてHIFシグナル経路の亢進は,炎症を活性化し,抗腫瘍効果を誘導するとの報告もされており相反するものも多い.これらの背景より,最近開発されたPHD阻害薬が腫瘍組織に対してどのような影響を及ぼすのか.また,これまでの報告から予期されるような腫瘍血管の正常化を促し,腫瘍微小環境を改善するのか否か,腫瘍免疫にどのような影響を与えるかについて我々の知見を概説する.

  • 南嶋 洋司
    2020 年 155 巻 1 号 p. 40-45
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    後生動物のように個体の生存に酸素が必須な生物の細胞には,必要とする酸素よりも利用出来る酸素が少なくなった低酸素状態(hypoxia)に対する応答反応(低酸素応答)がプログラムされている.低酸素環境下で必要な遺伝子群の多くは,低酸素応答のマスターレギュレーターとも呼ばれる転写因子HIF(hypoxia-inducible factor)によって誘導されるのだが,低酸素応答の研究は,そのHIFの発見によって飛躍的に進化した.2019年のノーベル生理学・医学賞が低酸素応答の研究者3名に授与されたことからもわかるように,「酸素濃度のセンシングと,低酸素環境への適応」の分子メカニズムに関する研究領域は,その面白さと重要性が広く認知されている.正常酸素濃度環境(normoxia)においては,酸素添加酵素(oxygenase)に分類されるプロリン水酸化酵素PHDが,分子状酸素O2を用いてHIFのα-サブユニット(HIFα)の特定のプロリン残基を水酸化する.プロリン水酸化されたHIFαは,ユビキチン-プロテアソーム依存的タンパク質分解へと導かれるため,normoxiaにおいてはHIFによる低酸素応答は不活性化されている.一方でhypoxiaにおいては,酸素添加酵素であるPHDの酵素活性が低下するために先述したHIFαのプロリン水酸化が抑制されるため,プロリン水酸化依存的タンパク質分解を免れてタンパク質発現量が急速に上昇したHIFαが,β-サブユニット(HIFβ/ARNT)と結合し,ヘテロダイマー型転写因子HIFとして低酸素時に必要な遺伝子群の転写をドライブする.すなわち,HIFを介した低酸素応答は酸素濃度依存的なPHDの酵素活性によって制御されているため,PHDこそが酸素濃度センサーとして機能しており,PHDの活性を抑制すると正常酸素分圧下においてもHIFを介した低酸素応答を活性化させることが出来る.本稿では,PHD-HIF経路を介した低酸素応答を,近年開発されたPHD阻害薬(HIF-PH阻害薬.本邦では2019年9月20日付けで腎性貧血治療薬として認可された)を用いて人為的に活性化させることで,様々な疾患の治療に応用しようといういくつかの試みについて紹介させて頂きたい.

連載 これからの薬理学教育を考える
実験技術
  • 原 一恵, 鈴木 宏昌, 草苅 伸也, 松岡 正明
    2020 年 155 巻 1 号 p. 51-55
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/01/01
    ジャーナル フリー

    薬理学におけるコンピューターを用いたシミュレーション演習は,動物や生身の人体を用いずに行える学生実習方法であるというだけでなく,実際の臨床においても書物で得た知識を活用するための効率的な手段の一つである.東京医科大学薬理学分野では,薬物の個別治療に欠かせない薬物動態学の概念を視覚的に理解させる目的で,血中濃度シミュレーション実習を行っている.導入当時は学内コンピューターを用いて実習期間中に限定した実習を行い,一定の学習効果を得た.さらに,2014年からは,学生自らが各自のコンピューターを用いて実習開始前にシミュレーションを行うことにより,自主的学習を促進させ実習内容の理解を深めさせることに成功した.今回,近年の著しいIT環境の変化に起因する様々なシステム上の問題やシミュレーション用ソフトウエアの利用上の制約を解消するため,我々は新たに薬物動態シミュレーションに利用できるWebアプリケーションを構築した.このアプリケーションは,インターネットに接続できる環境下であれば,対応するオペレーティングシステムや時間・場所の制限がなく無料で利用できる.その効果として,これまで各大学において当アプリケーションの新規導入時の課題となっていた購入費用の問題が解決された.従って,医学部における薬理学実習のみならず他の医療系学部や臨床の場における補助的学習手段としても広く活用されることが期待される.

feedback
Top