日本薬理学雑誌
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155 巻, 4 号
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特集:ユニークな天然物資源を活かした,地域産業,国際化,医療に貢献する薬理学研究
  • 宮本 理人, 奥山 聡
    2020 年 155 巻 4 号 p. 201
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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  • 佐藤 洋美, 船木 麻美, 木村 友紀, 住友 麻衣, 吉田 博也, 奥村 明子, 深田 秀樹, 細山 浩, 黒田 正幸, 大川 柊弥, 樋 ...
    2020 年 155 巻 4 号 p. 202-208
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    Cyclolepis genistoides D. Don(一般名パロアッスル;Palo)の抽出物は,南米パラグアイ共和国で糖尿病や腎臓疾患への効果を期待して伝承的に飲用されており,日本ではサプリメントとして販売されている.本研究では特にインスリン抵抗性に焦点を当て,Paloの抗糖尿病活性のメカニズムを解明することを目的とした.Paloは,脂肪分化の主要な調節因子であるPPARγの調節により,3T3-L1細胞の成熟脂肪細胞への分化を促進し,アディポカイン発現レベルを調節した.ヒト脂肪細胞においても,Paloの添加により3T3-L1とほぼ同様の傾向が確認された.生体におけるPaloの影響を確認するため,高脂肪食(HFD60)を負荷するC57BL/6Jマウスの肥満誘導モデルにおいて250 mg/kgまたは1000 mg/kgを強制経口投与し,週5日・14週間の投与を継続した.Palo 250 mg/kg投与群では,PPARγおよびその標的であるadiponectin mRNA発現の増加とともに,皮下脂肪重量を減少させる傾向が確認された.また,別のインスリン標的細胞として,筋肉分化への影響を調べた.C2C12マウス筋芽細胞においてPaloは,IGF-1,myogenin,ミオシン重鎖(MHC)などの筋分化マーカーの発現を濃度依存的に増加させ,また5’-AMP活性化プロテインキナーゼ(AMPK)の活性化を誘導した.さらに,分化誘導条件下でPaloは筋管形成を促進した.以上より,Paloは脂肪細胞,筋肉細胞の分化や成熟機能に多彩に作用することが明らかとなり,脂肪細胞においてはPPARγ誘導作用が種を超えて機能することが示唆された.

  • 金子 雪子, 菅 敏幸, 石川 智久
    2020 年 155 巻 4 号 p. 209-213
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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    2型糖尿病患者の数は世界的に増加の一途を辿っている.特にアジア人は膵β細胞が脆弱であり,インスリン分泌不全やβ細胞量の減少などによるβ細胞機能の低下が2型糖尿病の発症の主因となる.すなわち,インスリン分泌不全やβ細胞量減少を抑止することは,特にアジア人の2型糖尿病治療において非常に有効な手段となる.ポリメトキシフラボノイドであるノビレチンは柑橘類果皮に含まれ,抗肥満効果やインスリン抵抗性改善効果等の2型糖尿病改善効果を示すことから,近年,研究が盛んに行われている.著者らは,ノビレチンがβ細胞に対しても効果を示す可能性を検証した.膵β細胞株INS-1を用いた検討により,ノビレチンが濃度依存的にグルコース誘発インスリン分泌を促進すること,およびタプシガルギンにより誘発されるcaspase-3およびJNKの活性化を抑制し,抗アポトーシス作用を示すこと,さらに,インスリン分泌促進作用はEpac阻害薬,抗アポトーシス作用はプロテインキナーゼA阻害薬によりそれぞれ抑制されることが示された.一方,肥満2型糖尿病モデルdb/dbマウスへのノビレチンの2週間持続投与により,経口糖負荷試験における耐糖能が改善すること,また,db/dbマウスで認められるβ細胞量の減少が有意に抑制されることも示された.以上より,ノビレチンは細胞内cAMPレベルを上昇させることによるインスリン分泌促進作用および抗アポトーシス作用を有しており,こうしたβ細胞機能の改善がノビレチンの2型糖尿病改善効果の一因であると考えられる.また,ノビレチンの血中濃度を一定に維持することで,β細胞量が保持され血糖改善効果が認められたことから,ノビレチンはβ細胞に対し保護的に働き,糖尿病の進行を抑制する効果を有する食品成分としての可能性を有する.本稿では,柑橘フラボノイドのβ細胞に対する効果に関する最新の知見について紹介する.

  • 奥山 聡, 澤本 篤志, 中島 光業, 古川 美子
    2020 年 155 巻 4 号 p. 214-219
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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    温州みかんは国内産主要果樹の中で第1位の収穫量であるが,愛媛県における柑橘類収穫品目は42(温州みかん1+中晩柑類41)と,柑橘類全体の収穫量と共に日本一の数を誇っている.その中でも,愛媛県特産柑橘の一つである河内晩柑(Citrus kawachiensis)の果皮には,クマリン化合物のオーラプテンが豊富に含まれている.オーラプテンは末梢組織において抗炎症効果を発揮することが示されていたが,これまで中枢神経系における作用は明らかでなかった.高血糖および脳虚血は,脳内において炎症や酸化ストレスを誘発し,脳に大きな損傷を引き起こすことが知られていることから,ストレプトゾトシン誘発高血糖モデルマウスと一過性全脳虚血モデルマウスに対してオーラプテンを与える検討を行った.高血糖モデルマウスの海馬におけるアストログリアの活性化とニューロンのタウタンパク質の過剰リン酸化は,オーラプテンの投与によって改善され,海馬歯状回でおこる神経新生の抑制も軽減した.また全脳虚血モデルマウスにおいても,オーラプテンは海馬においてミクログリアおよびアストログリアの活性化,さらに神経細胞死を抑制した.河内晩柑果皮乾燥粉末の抗炎症および神経細胞保護作用については,2型糖尿病モデルdb/dbマウスと一過性全脳虚血マウスを用いて調べた.河内晩柑果皮粉末投与はこれらのモデルマウスの海馬において,オーラプテンと同様の効果を示したことから,オーラプテンが河内晩柑果皮の神経保護作用にとって重要な役割を果たしていることが示唆された.

  • 宮本 理人, 土屋 浩一郎
    2020 年 155 巻 4 号 p. 220-223
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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    徳島が原産地とされるスダチ(酢橘;Citrus Sudachi)は強い酸味と特有の香りを有し,魚料理を中心に和食の付け合わせとして広く親しまれている徳島特有の食品素材である.しかし,果実が非常に小さいことから果皮を含む絞りかすの大量発生が地域産業上の大きな課題となり,その有効活用が求められている.我々は徳島県,徳島大学を中心として,香酸柑橘類を扱う県内外の関連機関,試験所等ならびに企業らとともに緩やかなコンソーシアムを形成し,スダチを含む香酸柑橘類に関する基礎研究から商品開発までを総合的に支援する取り組みを行ってきた.日本薬理学会年会中のシンポジウムでは我々の取り組みを紹介するとともに,スダチ果皮より見出したいくつかの成分に関する薬理作用とその機序について議論した.シンポジウムでの内容を踏まえ,本稿でもスダチ果皮成分による抗メタボリックシンドローム効果の研究について我々の知見と経験を紹介したい.

特集:筋のホメオスタシスとその異常による疾患
  • 冨田 太一郎, 山澤 德志子
    2020 年 155 巻 4 号 p. 224
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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  • 呉林 なごみ, 村山 尚
    2020 年 155 巻 4 号 p. 225-229
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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    2型リアノジン受容体(RyR2)は心臓の興奮収縮連関において中心的役割を果たす筋小胞体のCa2+遊離チャネルである.RyR2のCa2+遊離活性が異常になると細胞内Ca2+動態に異常をきたし,それが異所性興奮すなわち不整脈の引き金になるという研究が数多く報告されている.たとえば,RyR2のアミノ酸変異はカテコラミン誘発性多型性心室頻拍(CPVT),特発性心室細動,左室緻密化障害などさまざまな不整脈疾患を起こすことが報告され,変異の総数は300種類を超えている.また慢性心不全ではリン酸化や酸化等によるRyR2の修飾異常が起こると考えられている.これらの多様な不整脈疾患の詳細とそのメカニズムはまだ解明されていない点が多い.我々はHEK293細胞を用いたRyR2チャネルの機能解析により,様々な疾患変異や修飾異常を定量的に評価する方法を確立した.その結果,催不整脈性変異には機能亢進型と機能抑制型があることを見出した.臨床診断ではそれらを区別することが困難なため,本解析法は不整脈性疾患の診断および治療法の選択に非常に有用なことが分かった.このレビューでは,疾患変異RyR2に関する研究の現状と課題について解説する.

  • 山村 寿男, 鈴木 良明, 山村 彩
    2020 年 155 巻 4 号 p. 230-235
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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    肺高血圧症とは,安静時の平均肺動脈圧が25 mmHg以上となる難治性疾患である.肺高血圧症臨床分類で第1群の肺動脈性肺高血圧症(PAH)は,肺動脈に病変を有する難病である.PAHの主な病因は,肺動脈の過収縮(攣縮)と肥厚(リモデリング)である.これらの病変による肺動脈圧の持続的な上昇は,右心不全を引き起こし,死に至る原因となる.肺血管リモデリングは,肺動脈平滑筋細胞の過剰な増殖とアポトーシスの減少によって起こる.肺血管リモデリングを誘導する肺動脈平滑筋細胞の異常な興奮シグナルは,細胞内Ca2+濃度([Ca2+cyt)の増加によって惹起される.肺動脈平滑筋細胞には,電位依存性Ca2+チャネル(VDCC),ストア作動性Ca2+(SOC)チャネル,受容体作動性Ca2+(ROC)チャネルなどのCa2+透過性チャネルが発現している.それらCa2+チャネルの発現は,PAH患者の肺動脈平滑筋細胞で増加し,細胞内Ca2+シグナルを亢進させる.我々は,特発性肺動脈性肺高血圧症(IPAH)患者由来の肺動脈平滑筋細胞を用いて,SOCチャネルとROCチャネルを介した細胞内Ca2+シグナル制御の分子機構とその病態生理学的役割の解明を目指した.その結果,Notchシグナルは,transient receptor potential canonical 6(TRPC6)で構成される肺動脈平滑筋細胞のSOCチャネルを直接的(非ゲノム作用,活性化)および間接的(ゲノム作用,発現増加)に増強することが分かった.一方,IPAH患者由来の肺動脈平滑筋細胞で発現増加するCa2+感受性受容体の下流において,[Ca2+cyt上昇に関与しているROCチャネルもTRPC6で構成されていることが分かった.さらに,PAHモデル動物やTRPC6遺伝子欠損マウスを用いた解析によって,TRPC6チャネルの阻害はPAHの進行を抑制することも明らかになった.本研究成果は,TRPC6が肺動脈平滑筋細胞のSOCチャネルとROCチャネルの両者を構成し,PAHの病態形成機構に関与することを示唆している.そのため,肺動脈平滑筋細胞のTRPC6チャネルを標的とした創薬は,PAHの新規治療戦略や治療薬の開発につながることが期待される.

  • 山澤 德志子, 山田 静雄
    2020 年 155 巻 4 号 p. 236-240
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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    高齢者の筋力低下の原因には,加齢に伴う筋減弱を特徴とする病態(サルコペニア)や,あるいは神経支配が消失することによる筋萎縮が知られている.しかしこれらの詳細なメカニズムは不明で病態マーカーもなく,病態類似性について解明されていない点が多い.一方で近年,機能性健康食品が注目されてきている.しかしながら,機能性食品素材には,作用機序が解明されていないものが多くある.機能性食品素材のポリアミンは,納豆などの大豆食品やチーズ等に含まれ,ウィルスから人に至るまで広く存在する生理活性物質で,代表的なものにプトレシン,スペルミジン,スペルミンがある.主として核酸,特にRNAと相互作用することによりタンパク質・核酸合成を促進し,細胞増殖因子として機能する.生体内では,プトレシン↔スペルミジン↔スペルミンと相互変換することにより,ポリアミンとしての至適濃度が厳密に保たれている.我々は,骨格筋量調節に対するポリアミンの作用を調べるために,まずマウス骨格筋幹細胞(C2C12細胞)を用いて,筋芽細胞の増殖,及び多核になる分化過程に対するポリアミンの効果を解析した.骨格筋幹細胞を増殖させた後,分化誘導培地に交換して骨格筋幹細胞から骨格筋細胞へと分化誘導し,核,細胞質を染色して筋管の形成を蛍光顕微鏡で観察し,ポリアミン添加群と対照群で比較した.ポリアミン添加群は分化過程において,多核になる細胞数,および一つの骨格筋細胞に含まれている核の数はどちらも有意に増加した.従って,ポリアミンは骨格筋幹細胞の分化過程の促進及びカルシウムシグナルを促進して筋肥大を起こすことが示唆された.次に生体内での実際の筋肥大過程に対するポリアミンの効果を見るために,マウスの坐骨神経を除去し,その直後からポリアミン投与を開始し,除神経3週間後にCTによる画像撮影を行った.ポリアミン投与群では,対照群に比べて健側の筋肉量が増加することが明らかとなった.

  • 冨田 太一郎, 赤羽 悟美
    2020 年 155 巻 4 号 p. 241-247
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
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    加齢に伴うサルコペニアやフレイル,あるいはがんカヘキシアなどの慢性的な炎症においては,異常な骨格筋量の減少や筋力の低下を認めるが,その機序は明らかではなく,その創薬シーズもほとんど得られていない.骨格筋の形成は発生期だけでなく成体においても生じており,運動負荷や物理的な傷害などで損傷を受けても筋は再生される.p38MAPKは組織普遍的に存在して炎症や環境ストレスの情報を核内に伝達するが,このキナーゼが骨格筋の恒常性維持に深く関与することが明らかになってきている.最近までに蓄積されたp38MAPKに関する知見からは,従来知られる筋特異的遺伝子のon-offスイッチとしての役割にとどまらず,筋の損傷や炎症を感知して前駆細胞の細胞増殖と分化のバランスを制御したり,細胞融合を制御して筋管形成を誘導するなどの新たな制御が見出されている.その一方で,加齢や慢性炎症においてはp38MAPK経路の過剰な亢進が骨格筋の恒常性を破綻させて筋の病態につながる可能性も指摘されている.興味深いことに,p38MAPK活性を薬理学的に制御することで老化した筋衛星細胞を再賦活化できることが動物モデルを用いて示されており,骨格筋の加齢を可塑的に調節できる可能性がある.さらに,先鋭的なイメージング手法を用いて,骨格筋と筋前駆細胞の内在シグナルが時間・空間的にダイナミックに動く様子を追跡することも可能になってきている.本稿では,骨格筋におけるp38MAPKの機能と制御メカニズムおよびその病態との関連について焦点を当て,骨格筋の形成と再生に関するこれまでの知見を概説する.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流(40)
  • 岡田 晃宜
    2020 年 155 巻 4 号 p. 248-252
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    医薬品開発での安全性(毒性)課題は未だ開発中止や市場撤退理由の大きな割合を占め,適切な安全性予測・評価戦略の構築は重要な課題である.特に投資が膨らんだ開発後期での中止は経営インパクトが大きく,前臨床早期での的確な安全性評価が望まれる.pre-GLP(探索)安全性評価については規制ガイドライン等がなく,各社各様の背景と考えで構築されている.そのことから,安全性が専門ではない研究者が評価系やデザインの選択理由を理解することは容易ではなく,特に研究提携や共同研究に際して自社以外の探索安全性評価に接した場合に,自社の戦略との違いに困惑する場面があるかもしれない.本稿では,探索安全性評価の戦略見直しの事例をその背景や考え方を含めて紹介することで,探索安全性評価体系が画一的なものではなく戦略的であることについて言及し,その理解の重要性について共有したい.

連載:カリキュラム統合と薬理学
新薬紹介総説
  • 浜谷 越郎
    2020 年 155 巻 4 号 p. 258-267
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    ロモソズマブ(イベニティ®)は,スクレロスチンをターゲットに創薬されたヒト化抗スクレロスチンモノクローナル抗体である.スクレロスチンは,骨細胞によって産生される糖タンパク質で,骨芽細胞系細胞でWntシグナル伝達を抑制することにより,骨芽細胞による骨形成を抑制するとともに破骨細胞による骨吸収を促進する.ロモソズマブはスクレロスチンに結合することでその作用を抑制し,骨形成の促進,骨吸収の抑制を示す.ロモソズマブの骨形成促進作用は主にモデリングに基づくとされる.ラットおよびカニクイザルの卵巣摘出(OVX)モデルを用いた検討において,ロモソズマブは骨量および骨強度を用量依存的に増加させた.また,ロモソズマブは継続投与により,骨形成促進作用の減弱が認められた.ロモソズマブはラットにおいて骨芽細胞の過形成や良性骨腫瘍,悪性骨腫瘍の発生がほとんどみられず,これは時間依存的な骨形成促進作用の減弱が要因と考えられる.臨床試験では,投与12ヵ月の時点で新規椎体骨折抑制効果が認められ,6ヵ月時点で骨密度増加が認められている.骨形成促進作用と骨吸収抑制作用のデュアル・エフェクトを有するロモソズマブは,新しい治療の選択肢となると期待しており,2019年1月に「骨折の危険性の高い骨粗鬆症」を効能・効果として承認された.

  • 古戎 道典, 石田 貴之
    2020 年 155 巻 4 号 p. 269-276
    発行日: 2020年
    公開日: 2020/07/01
    ジャーナル フリー

    パーキンソン病は,運動緩慢,無動,振戦などの運動症状を主症状とする神経変性疾患である.中脳黒質のドパミン作動性神経細胞の変性脱落することにより,脳内のドパミンが枯渇し,大脳基底核の運動制御機能が異常になると考えられている.サフィナミドは,選択的で可逆的な新たなモノアミン酸化酵素B(MAO-B)阻害薬であり,ドパミン代謝酵素であるMAO-Bを阻害することで,脳内のドパミン量を増やすと考えられている.さらに本剤は,ナトリウムチャネル阻害作用やグルタミン酸放出抑制作用などの非ドパミン作用を有していることが特徴である.非臨床試験では,ドパミン作動性神経を破壊したラットやカニクイザルにサフィナミドが投与され,進行期のパーキンソン病症状であるウェアリングオフ様症状を改善することが示された.また,カニクイザルを用いた実験では,サフィナミドがレボドパに対する応答時間を延長すると同時に,レボドパ誘発性のジスキネジアを抑制した.これらの結果から,本剤は,MAO-B阻害作用による脳内ドパミン量の増加に加え,非ドパミン作用の影響を介した治療効果が期待できる.臨床試験では,サフィナミドがウェアリングオフを有するパーキンソン病患者のオン時間を延長し,Unified Parkinson’s Disease Rating Scale(UPDRS)Part III(運動機能検査)を改善させることが明らかにされ,パーキンソン病患者の日常生活の活動性を高めることが示された.この結果を受けて,本剤は,ウェアリングオフを有するパーキンソン病に対するレボドパ併用薬として,2019年9月に本邦で承認された.パーキンソン病治療の新たな選択肢として期待される.

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