日本薬理学雑誌
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156 巻, 6 号
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特集:With/after コロナ時代の新たな薬理学教育I:遠隔教育の実践と課題
  • 吉川 雄朗, 岡村 信行
    2021 年 156 巻 6 号 p. 323
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー
  • 茂木 正樹, 古屋敷 智之, 田熊 一敞, 乙黒 兼一, 田中 智之, 南 雅文
    2021 年 156 巻 6 号 p. 324-329
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    2020年初頭からの新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の増加に伴い,大学教育は従来型の一斉授業から遠隔授業へと教育形態が変貌した.慣れない中で遠隔授業が普及したが,学会員間での新たな教育形態の情報共有のため,日本生理学会と日本薬理学会が共同で「COVID-19に対する各大学の対応と生理学及び薬理学教育への影響に関する緊急合同調査」を実施した.本稿ではこの全国アンケート調査の結果を報告する.薬理学会では2020年8月から9月にかけて,メールにてアンケートを依頼し,202大学の薬学部,医学部,歯学部,獣医学部等の薬理学講座より回答をいただいた(回答率89%).講義の方法を変更した講座は85%,実習の方法の変更は70%であった.講義では,対面での講義に代わり,ライブ講義とオンデマンド講義の使用が各30%,ライブとオンデマンドの併用が40%であった.実習ではライブあるいはライブとオンデマンドの併用が25%,オンデマンドによる実習が45%であった.ライブの長所には,質問を受け入れやすい双方向性のやり取りが,オンデマンドの長所には,聴講時間に関する自由度の高さと復習のしやすさが挙げられた.オンラインの短所には,学生の理解度,視聴の状況,学生の反応が把握できない点,通信環境の不具合が挙げられた.また,学修水準の二極化を危惧する声もあった.実習では,リアリティの欠如や動物実験に関する長所・短所が挙げられた.60%以上の講座では,COVID-19収束後も新たに導入した教育形態の活用を希望していた.自由意見では,学生のメンタルヘルス不調や生活リズムの乱れなどの懸念や,オンライン教育の質の担保,著作権の問題などが挙げられた.With/Afterコロナの世界におけるNew Normalとして遠隔教育をどのように導入し改良していくか,大学の薬理学教育は大きな転換点を迎えている.

  • 田中 智之
    2021 年 156 巻 6 号 p. 330-334
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    COVID-19のパンデミックは大学における教育プログラムにおいても極めて大きな影響を与えている.オンデマンド型授業は,講義室における感染拡大を防ぐことを目的として,しばしば採用されている.オンデマンド型授業は一般に受講学生には好評であるが,その理由としては,繰り返し視聴できることや,寛いだ状態で受講できることがあげられる.一方,私たち教員側はビデオ講義を作成する上で学生からのフィードバックを受けることができないことがあるため,講義が十分に理解されているかをしばしば懸念せざるを得ない.さらに,多くの教員はオンデマンド型授業作成の初心者であり,講義作成に必要な様々なツールに習熟する必要がある.ここではオンデマンド型授業を作成する上でのTipsをいくつか紹介する.普段,板書で授業をしている教員には適切なペンタブレットと,コンピュータ上で授業を録画するソフトウェアが必須である.長時間のビデオ講義はファイルサイズが大きくなりがちであるが,通信環境を問わない快適なビデオ講義を提供するためには,ファイルサイズの圧縮ツールは欠かすことができない.学生が利用しやすい質疑応答のシステムを整備しておくことにより,学習効果を高めることが期待できるが,これは反転学習の導入にもつながる.対面授業をビデオ講義と組み合わせたブレンド授業は近年教育の分野で注目を集めている.COVID-19のパンデミックは,授業を振り返り,改善する良い機会になっているといえる.

  • 野村 洋, 天野 大樹
    2021 年 156 巻 6 号 p. 335-337
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    実習は,実践的な科学研究を学生に実体験してもらう貴重な場であり自然科学の教育には必須である.薬理学実習では一般的に,実験動物を使って薬物の作用を解析することで生体メカニズムや薬物の作用メカニズムを学ぶ.自らの手を使って実験を行い,自分の目で観察することが実習では重要な要素となる.しかし,COVID-19の流行下では,私たちの大学ではオンラインで実習を行う必要があった.摘出臓器を用いた薬理学実習では,私たちはシミュレーションソフトウェアを用いてモルモット腸管の平滑筋に対する様々な薬物の作用を解析する実習を行った.行動観察の実習は,あらかじめ教員が行った実験をビデオで学生に見せて,行動を観察,解析してもらった.本稿では,私たちが行ったオンライン薬理学実習について,特にシミュレーションとビデオを用いた実習の実際と課題を重点的に紹介する.

  • 中村 正帆, 吉川 雄朗, 柳田 俊彦, 岡村 信行, 谷内 一彦
    2021 年 156 巻 6 号 p. 338-344
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    薬理学ロールプレイは,適切な処方や調剤を実践するために必要なコミュニケーションや職種間連携,問題対応などのコンピテンシーを習得することを目的に,学生が医療者役や患者家族役に扮して模擬診療を行う実践的演習である.この演習の主体は,模擬診療での対話であるため,これまでは対面型と親和性が高い授業であると考えられてきたが,コロナ禍に伴い実施されたオンライン型でも対面型と同等の学習効果が得られることが明らかになった.また,演者の大幅な増加や遠隔地間での開催など,空間的な制約がないオンライン授業の利点を活かした薬理学ロールプレイも実践されている.本稿ではまず,オンライン薬理学ロールプレイの実施に必要な,授業の設計や準備,実際の運用について具体的な事例を元に説明する.次に,オンライン薬理学ロールプレイが対面型と比べて優れている点について解説すると共に,オンライン型特有の問題について取り上げる.最後に,オンライン薬理学ロールプレイそのものが,あるいはそれを組み込んだ学習システムが,理解の深化や動機付けの向上だけでなく,メタ認知を促す可能性があることについて考察する.オンライン薬理学ロールプレイは,対面型の代替に留まらず,薬理学や臨床薬理学,薬物治療学教育においてコアをなす授業形態の一つとして,今後発展する可能性がある.

特集:小児疾患治療薬の新たな薬物標的の探索
  • 山田 充彦, 横山 詩子, 瀧聞 浄宏
    2021 年 156 巻 6 号 p. 345
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー
  • 中村(西谷) 友重
    2021 年 156 巻 6 号 p. 346-350
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    細胞内カルシウム(Ca2+)は,心臓において筋収縮を導く興奮-収縮連関(ECカップリング)のカギとなる因子であり,また心肥大形成にも重要な役割を担っている.成体におけるECカップリングは,T管上にある電位依存性Ca2+チャネルおよび筋小胞体(SR:細胞内Ca2+貯蔵装置)からのCa2+放出を介したSR依存性の機構が詳細に明らかにされている.一方,胎仔期や幼少期などの心臓ではT管やSRの構造が成体と較べはるかに未発達であり,また種々のCa2+制御タンパク質の発現パターンが異なることから,ECカップリングの機構が成体とは異なると考えられてきた.しかし,その詳細な分子機構の全貌は明らかでない.今回,私たちは神経系で重要な役割を担うEFハンドCa2+結合タンパク質NCS-1(neuronal Ca2+ sensor-1)が幼少期のCa2+シグナル調節に重要な役割を担うことを見出した.NCS-1は幼少期の心臓に神経並みに高発現し,NCS-1を欠損するマウスでは幼少期の心筋収縮力および細胞内Ca2+シグナルが顕著に低下していた.詳細な解析から,NCS-1は,SR上のCa2+放出チャネルであるイノシトール3リン酸受容体(IP3R)と結合し,Ca2+/カルモジュリン依存性キナーゼⅡの活性化を介してSR Ca2+ポンプ活性を上昇させ,SR内のCa2+量を増加させることにより構造的に未熟な幼少期の心筋収縮を増強していることが明らかとなった.さらに,NCS-1は心肥大形成の際にも発現量が上昇し,IP3Rと協同して遺伝子発現に重要な核内Ca2+シグナルを上昇させ,心肥大形成に寄与している可能性が示唆された.これらの結果は,これまで知られていなかった幼少期のECカップリングおよび心肥大形成の機構を示すものである.さらにミトコンドリアは幼少期心筋では過少であるが,私達は,NCS-1がミトコンドリアの機能亢進によりストレス下の心筋サバイバルにも寄与することを見出した.以上の結果から,Ca2+シグナル調節に関わるNCS-1関連タンパク質は,幼少期における心疾患,心肥大など対する新規薬物標的になり得る.

  • 川岸 裕幸, 山田 充彦
    2021 年 156 巻 6 号 p. 351-354
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    心不全は小児の重要な死因の一つであり,特に新生児・乳児期に起こる心不全は重篤である.しかしながら,現在までエビデンスのある治療薬は開発されていない.筆者らは生理活性物質であるアンジオテンシンⅡ(AngII)が,新生児・乳児期の心筋細胞においてAngII 1型受容体(AT1R)とそれに共役するβアレスチン2経路を介して,興奮収縮連関の要であるL型Ca2+チャネルを活性化することを発見した.このことは,AT1R/βアレスチン2経路活性化が,新生児・乳児期の心臓において陽性変力作用を誘導することを示唆していた.そこで,AT1R/βアレスチン経路のバイアスアゴニスト(BBA)TRV027を用いて,新生児・乳児期の心臓におけるその作用を検証した.TRV027を新生児・乳児マウスに投与したところ,有意かつ持続的な強心作用を示した.一方で,TRV027は血中のアルドステロン濃度に影響を与えず,不整脈や頻脈,心筋の酸素消費量の増大,活性酸素種(ROS)の産生など強心薬で往々に見られる副作用を示さなかった.新生児・乳児マウスの単離心室筋細胞をTRV027で処理すると細胞内Ca2+トランジエントを倍増させ,また胎児から新生児期の形質を持つヒトiPS細胞由来幼若心筋細胞においても同様の効果が認められた.またヒト先天性拡張型心筋症(DCM)モデルマウスの新生児・乳児にTRV027を投与すると,その病的心の左室収縮力も有意に増強させた.さらに,このDCMモデルマウスは離乳前にほとんどが死亡するが,生後1日目からTRV027を継続投与したところ,生命予後が有意に改善された.また,TRV027は野生型マウスの新生児・乳児に対し明らかな副作用を示さなかった.以上から,BBAが新生児・乳児心不全にとって重要かつ理想的な治療薬となる可能性が示された.近い将来のBBAの臨床応用は,新生児・乳児心不全患者の治療に大きく貢献する可能性がある.

  • 川原 玄理
    2021 年 156 巻 6 号 p. 355-358
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    小型魚類であるゼブラフィッシュ(Danio rerio)が多くの研究領域においてモデル動物として使われている.ゼブラフィッシュは,飼育が容易で,多産であることから同じ遺伝背景を持つ個体を用いることが可能であり,発生学,遺伝学をはじめ様々な研究に適している.また,透明な胚や稚魚においては,発生段階において組織を直接観察することが容易なこともあり,発生学においても実験動物として活用されている.疾患関連研究においても遺伝性疾患のモデルとして多く活用され,初期発生,そして稚魚における表現型を,ヒトで見出されている症状と比較し,疾患モデルフィッシュとして解析されている.薬剤開発においては,薬剤スクリーニングに適したゼブラフィッシュの特性を利用し治療薬候補分子を探索するために応用されている.本稿では,治療薬候補のスクリーニングを目的とした疾患モデルフィッシュの開発,そして疾患モデルフィッシュを用いた薬剤スクリーニングに関して,筋ジストロフィーモデルフィッシュの例を中心に紹介する.

  • 伊藤 智子, 横山 詩子
    2021 年 156 巻 6 号 p. 359-363
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    未熟児動脈管開存症は超低出生体重児の約70%に発症し,生命予後を左右する.動脈管は胎生期の体循環を維持するが,出生後は血中酸素分圧が上昇し,血管拡張ホルモンであるプロスタグランディンE2(PGE2)の血中濃度が低下することで速やかに収縮する.この血管収縮による閉鎖を機能的閉鎖という.シクロオキシゲナーゼ阻害薬は,PGE2の産生を阻害することで機能的閉鎖を誘導する現在唯一の動脈管開存症治療薬である.しかしながら,動脈管が完全閉鎖(解剖学的閉鎖)するためには,妊娠中期から形成される内膜肥厚形成が極めて重要であり,シクロオキシゲナーゼ阻害薬の効果は十分ではない.未熟児は内膜肥厚形成が完成する前に出生するために解剖学的閉鎖に至りにくく,予後を改善するためには内膜肥厚を誘導する新規治療薬の開発が望まれている.動脈管の内膜肥厚は複数の細胞外基質と中膜から遊走した平滑筋細胞で構成される.糖タンパク質fibulin-1は多様な細胞外基質と結合して細胞遊走に関与することが知られている.我々は,胎生期にPGE2がEP4受容体を介して動脈管平滑筋細胞でfibulin-1を増加させること,fibulin-1欠損マウスでは内膜肥厚が十分に形成されずに動脈管開存症となることを見出した.EP4受容体は主にGsタンパク質と共役するGPCRであるが,fibulin-1はcAMPを介さずに,ホスホリパーゼC-プロテインキナーゼC-非古典的核内因子κB経路を介して分泌された.Fibulin-1は内皮細胞由来のバーシカンと,バーシカン結合タンパク質であるヒアルロン酸と複合体を形成して平滑筋細胞の内腔側への一方向性細胞遊走を促進し,内膜肥厚形成を促進した.EP4の下流として選択的にfibulin-1を誘導する新規薬剤は,動脈管内膜肥厚を標的としたより効果の高い未熟児動脈管開存症治療薬となることが期待できる.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流48
  • 尾崎 晴茂
    2021 年 156 巻 6 号 p. 364-369
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル フリー

    安全性薬理試験のin vivo心血管系実験はヒトにおける生理機能に対する潜在的な望ましくない薬力学的作用を精度よく検出するために低分子薬の開発を通して発展し,そのノウハウが蓄積されてきた.送信機を埋め込んだ無麻酔無拘束の非げっ歯類を用いた実験が広く利用されているが,多くの研究者の努力によりその技術及び評価レベルは最適化され,ヒトにおける心血管系リスク予測に大きく貢献できている.また,ICH E14&S7B Q&AドラフトではQT間隔延長の統合的リスク評価における非臨床心血管系実験の重要性が述べられており,非臨床実験のより高い質が求められつつある.本稿では,このテレメトリーシステムを用いたin vivo心血管系実験について,日本安全性薬理研究会の情報・技術交流会の一つであるテレメトリーワーキンググループ(J-ICET)における活動内容を主に参照しながら,技術及び評価の実際を紹介する.

新薬紹介総説
  • 中西 康友, 樋口 潤哉, 本田 直樹, 小村 直之
    2021 年 156 巻 6 号 p. 370-381
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    アナモレリン塩酸塩(以下,アナモレリン)は,成長ホルモン放出促進因子受容体タイプ1a(GHS-R1a)の内因性リガンドであるグレリンと同様の薬理作用を有する経口投与可能な低分子薬剤であり,食欲不振を伴う体重減少を愁訴とするがん悪液質の治療薬として本邦で初めて承認された.アナモレリンは,培養ラット下垂体細胞からの成長ホルモン(GH)の分泌を促進し,ラット,ブタ及びヒトへの経口投与によって血漿中GH濃度を増加させた.また,ラットにアナモレリンを1日1回6日間反復経口投与したとき,初回投与後から摂餌量の増加を伴う体重増加が認められた.アナモレリンはGHS-R1aに対する選択的な作動薬であり,GHS-R1aを介して下垂体からのGH分泌を促進するとともに摂餌量を増加させ,その結果として体重増加作用を示すと考えられた.非小細胞肺がんに伴うがん悪液質患者を対象とした2つの国内第Ⅱ相試験において,除脂肪体重(LBM)及び体重の減少並びに食欲不振を改善することが確認された.また,消化器がんである大腸がん,胃がん及び膵がんを対象とした国内第Ⅲ相試験においても,LBM及び体重の維持・増加並びに食欲不振の改善が認められ,大腸がん,胃がん及び膵がんでのがん悪液質に対する有効性が確認された.なお,非小細胞肺がんに伴うがん悪液質患者を対象とした海外第Ⅲ相試験で認められた有効性は,2つの国内第Ⅱ相試験の結果と一貫するものであった.安全性については,肝機能パラメータの異常,心機能及び血糖上昇に関連した副作用が認められたものの,重大なリスクと考えられる事象は認められなかった.以上,アナモレリンは,これまで有効な治療法がなかったがん悪液質の治療薬として,医療現場に新たな一手をもたらすことが期待される.

  • 大類 諭, 野末 晴香, 小林 聡子, 藤岡 正樹, 前川 祐理子
    2021 年 156 巻 6 号 p. 382-390
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    遺伝性血管性浮腫(hereditary angioedema:HAE)は皮膚,喉頭,消化管,四肢など身体のあらゆる部位に浮腫を繰り返し呈する希少疾患であり,患者の日常生活やQOLに重大な影響を及ぼす.HAE患者の多くはC1インヒビターの欠損又は機能低下を有し,血漿カリクレイン活性が十分に制御されずブラジキニンが過剰に生成され,結果として浮腫が生じる.HAEの治療・管理は発現した浮腫に対する対症的治療と,短期及び長期の浮腫発現抑制による予防的治療よりなる.しかしながら,本邦においてはこれまで長期的なHAE急性発作の発現抑制の適応を有する薬剤はなく,アンメットニーズが高い疾患であった.ベロトラルスタット塩酸塩(販売名「オラデオカプセル150 mg」)は経口の血漿カリクレイン特異的阻害薬であり,本邦にて2015年10月に先駆け審査指定制度の対象品目に指定され,2018年12月に希少疾病用医薬品の指定を受け,2021年1月に「遺伝性血管性浮腫の急性発作の発症抑制」を効能・効果として製造販売承認された.非臨床試験で,ベロトラルスタットは血漿カリクレインを競合的に阻害し,各種セリンプロテアーゼに対して特異性を示した.高分子キニノーゲン/プレカリクレイン依存性ブラジキニン産生に対して濃度依存的な抑制作用が確認された.HAE Ⅰ型又はⅡ型患者を対象とした第Ⅲ相臨床試験において,ベロトラルスタット塩酸塩150 mgの1日1回経口投与により浮腫発作発現頻度の低下が認められ,血管性浮腫に関するQOLは臨床的意義のある最小変化量を上回る変化を示した.主な副作用は消化器症状であった.これらの結果より,ベロトラルスタット塩酸塩はHAE発作の長期的な発現抑制に有効な治療薬であることが示され,HAE患者の長期的な発作管理のための本邦初の保険収載薬であり,患者にとって有用な治療選択肢になると考えられる.

  • 加峰 弘毅, 武井 哲子, 近藤 翠, 北澤 和哉, 原田 卓
    2021 年 156 巻 6 号 p. 392-402
    発行日: 2021年
    公開日: 2021/11/01
    ジャーナル オープンアクセス

    ペミガチニブ(製品名:ペマジール®錠4.5 mg)は,米国Incyte社により創出された新規の線維芽細胞増殖因子受容体(FGFR)阻害薬である.がん化学療法後に増悪したFGFR2融合遺伝子陽性の治癒切除不能な胆道がんを効能又は効果として,2021年3月に製造販売承認取得,同年6月に販売開始された.ペミガチニブはFGFRのキナーゼ部位に結合し,FGFR1~3のキナーゼ活性を選択的に阻害することが示された(IC50,0.39~1.2 nM).培養細胞での検討ではペミガチニブはFGFR1およびその下流のシグナルであるERK1/2やSTAT5のリン酸化を濃度依存的に抑制した.また,がん細胞の増殖に関してペミガチニブはFGFR13に遺伝子異常をもつ各種がん細胞への増殖抑制効果が認められた.FGFR2の遺伝子融合を有する胆管がん患者由来の腫瘍組織片をヌードマウスに移植した患者腫瘍組織移植モデルマウスを用いた検討では,ペミガチニブ投与により濃度依存的な腫瘍退縮が確認された.国内および海外の第Ⅰ相試験(INCB 54828-101および102試験)ではペミガチニブに対し良好な忍容性が確認された.胆管がん患者を対象に行われた国際共同第Ⅱ相試験(INCB 54828-202試験)ではFGFR2の融合遺伝子または再構成を有する患者に対し主要評価項目である奏効率に改善を認め,その有効性が示された.安全性ではペミガチニブの作用機序に基づいた副作用が認められたものの,管理可能であり,良好な安全性プロファイルを示した.ペミガチニブはこれまで限られていた胆道がんにおける標準治療不応後の二次薬物治療においてFGFR2融合遺伝子を標的とした新たな治療選択肢として貢献することが期待される.

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