コロナウイルスは一本鎖RNAウイルスの一種で,外側にエンベロープと呼ばれる脂質二重層があり,電子顕微鏡では冠・光冠(コロナ,corona)のように見え,名前の由来となっている.自己再生することはできず,angiotensin converting enzyme 2(ACE2)受容体を介してヒトの細胞に付着して侵入し,細胞内で増殖する.一般的な風邪を引き起こす4種類のヒトコロナウイルス(human coronavirus:HCoV)に加えて,severe acute respiratory syndrome(SARS),middle east respiratory syndrome(MERS)などをきたすいくつかのコロナウイルス性疾患が従来より知られている.「新型コロナウイルス」はSARS coronavirus-2(SARS-CoV-2)と名付けられ,SARS-CoV-2によって引き起こされる新しいコロナウイルス感染症は「2019年に発見されたコロナウイルス疾患」の略でCOVID-19と名付けられた.SARS-CoV-2感染は症状発現前に広がり,予防としてマスク着用や社会的または身体的距離などの予防措置が重要とされる.COVID-19の治療は,呼吸管理,中和抗体薬(ソトロビマブ,カシリビマブ/イムデビマブ),抗ウイルス薬(レムデシベル,モヌルピラビル,ニルマトレルビル/リトナビル),コルチコステロイド(デキサメタゾン,プレドニゾロンなど),免疫調整薬(バリシチニブ,トシリズマブ),抗凝固薬(ヘパリンなど),抗菌薬を適宜組み合わせて行い,併存疾患の治療も並行して行う.
一酸化窒素(NO)-cGMP-PKG経路は肺動脈性肺高血圧症(PAH)の発症や進展に重要なシグナル経路である.NO-cGMP-PKG経路の調節異常により血管収縮の亢進,血管炎症,血栓形成が生じ,PAHへ進展することが知られている.NO-cGMP-PKG経路に作用点を持つPAH治療薬にはホスホジエステラーゼ5型(PDE5)阻害薬と可溶性グアニル酸シクラーゼ(sGC)刺激薬があり,PDE5阻害薬であるシルデナフィルやタダラフィルはcGMPを5’GMPへ分解する酵素であるPDE5を阻害することによりcGMPを貯留させ,血管平滑筋の弛緩,血管拡張をもたらす.またその作用はcGMPの上流シグナルとなるNOの産生量にも依存する.一方,sGC刺激薬リオシグアトはNO-sGC結合を安定化することにより,内因性NOに対するsGCの感受性を高める作用とともに,異なる結合部位を介してNOによる刺激がなくても直接sGCを刺激してcGMP生成を高めるという二面的な作用を有している.異なる薬物動態や薬力学的特性を持つこれら薬物の使い分けについてのエビデンスは乏しいが,PDE5阻害薬よりもsGC刺激薬への反応性が良いPAH患者群が存在する一方,その逆の反応性を示すPAH患者群があるかもしれない.本稿ではPAHにおけるNO-cGMP-PKG Axisの重要性,またPDE5阻害薬とsGC刺激薬の特徴と臨床試験から得られた知見について紹介する.
急性呼吸窮迫症候群(ARDS)は重症な呼吸不全を呈する症候群であり,その原因は多様であるが,肺炎など肺自体を障害する直接損傷と,肺以外に原因が存在する間接損傷に大別したとき,間接損傷の原因としては敗血症が最も頻度が高く,また,基礎疾患別にも最もARDSに移行しやすい疾患であり,一方,敗血症の経過中に半数近くがARDSを発症するとされ,敗血症以外の原因によるARDSに比べると著しく予後不良である.ARDS肺では,毛細血管の透過性が亢進し肺水腫を生じた状態にあるが,敗血症では,ヒスタミン,一酸化窒素(NO),トロンボキサンA2,血管内皮増殖因子(VEGF)など種々の血管透過性物質産生増加あるいはそれらが作用する受容体の過剰発現が起こることが,非心原性肺水腫発症機構として有意な役割を果たしていると考えられる.近年,敗血症は遺伝子関連疾患として捉えられており,その発症や重症化に関連して,NF-κBをはじめいくつかの転写因子により,多くの分子の産生が転写段階で多彩に変化して病態形成に関与すると考えられていることから,敗血症病態修飾分子の発現を誘発するいくつかの転写因子を分子標的とした治療法に関して,新たな敗血症性ARDS発症予防の開発を模索していくうえで今後の研究の展開が待たれる.本稿では,敗血症性非心原性肺水腫に関わると考えられる血管透過性を増大させる因子について紹介し,敗血症性ARDSに対する新たな治療戦略における種々の血管透過性増大因子の意義について考察する.
脳機能は,その機能を担ういくつかの脳領域が調和することで発現すると考えられる.精神神経疾患の病態は,この機構の破綻によって引き起こされると考えられ,特定の脳領域を操作することで影響を受ける機能を特定することが極めて重要である.化学遺伝学技術の1つであるdesigner receptors exclusively activated by designer drugs(DREADDs)は,内在性神経伝達物質に反応しない人工受容体を標的神経細胞に導入し,生物学的に不活性な作動薬を全身投与することにより,その神経細胞活動を繰り返し操作できる技術である.最も広く用いられているDREADDsは,ムスカリン性アセチルコリン受容体をベースとしたhM3Dq(興奮性)およびhM4Di(抑制性)で,酸化クロザピン(CNO)により活性化することが可能である.しかしCNOにはいくつかの懸念がある.1つ目はCNOは脳への浸透性が悪いため,効果発現まで時間がかかること,2つ目はCNOが多くの内在性受容体に作用する抗精神病薬であるクロザピンに体内で代謝されるため,全身投与ではオフターゲット効果が生じる可能性があることである.そこで,これらの問題を解決するために,我々は新規化合物であるデスクロロクロザピン(DCZ)を見いだした.DCZはCNOよりも高い親和性とアゴニスト活性を有するとともに,代謝物が脳へ移行することがないためオフターゲット作用も低減されており,生体内でhM3DqやhM4Diを介して神経活動や行動を迅速に調節することが可能である.DCZは,ムスカリン性アセチルコリン受容体ベースのDREADDsの多くのユーザーに明確なメリットをもたらすものである.
多くの生命現象では,分子が局所的あるいは限られた時間に発現・活性化するなど,時空間的な特性が認められる.これらは粘菌から哺乳類まで様々なモデル生物で認められており,生命現象を担う分子の基本的な活動パターンの一つと考えられる.これまでに,こうした特徴的な分子動態を明らかにするために,蛍光タンパク質GFPと蛍光顕微鏡を用いたライブイメージング研究が,生命科学研究における標準技術になった.一方で,顕微鏡で捉えた分子や細胞の特徴的な振る舞いは生命現象との相関を示すだけであり,本当に重要か?という因果関係は不明である.従ってその生理的意義の解明には,分子や細胞を局所かつ任意のタイミングで操作する時空間操作技術を導入し,因果的な解析をin vivoで行うことが重要である.光で分子機能を不活性化するCALI法(chromophore-assisted light inactivation)は,こうした時空間操作を可能にする光技術であり,最近では様々なモデル生物においてin vivoでも用いられるようになり,広く注目を集めつつある.本項では,CALI法の原理や実際の研究例,特にin vivoへの応用や今後の展望について概説する.
事故や脳卒中などで脳が損傷を受けた際にリハビリテーションによる処置を施しても後遺症が残ることが多い.近年,脳損傷後の神経回路の修復機構の理解が進み,その修復機構が脳損傷後の機能回復を促進する薬剤の治療ターゲットとなり得る可能性がある.脳損傷後の回復過程において,失われた機能それぞれの機能に関連した脳領域が代償するために神経可塑性が重要な役割を担っていると考えられている.これまでに脳卒中後の機能回復に対する薬剤の有効性がさまざまな動物モデルや臨床試験において,神経可塑性を調節するモノアミン系に作用する薬剤に注目した研究が数多く行われており,さらにはその他のターゲットとしてNMDA受容体やCCR5といったものにも注目が集まっている.最近我々は経験依存的なAMPA受容体のシナプス後膜への移行を促進する薬剤として新規低分子化合物であるedonerpic maleateに注目した.Edonerpic maleateは,セマフォリン3Aの細胞内シグナル分子のCRMP2に結合し,AMPA受容体のシナプス移行を促進してシナプス可塑性を高めることにより,齧歯類および非ヒト霊長類の脳損傷後のリハビリテーション依存的に機能回復を促進させることが明らかになった.現在,edonerpic maleateの効果を脳卒中患者で検証する臨床試験が進行中であるため,動物実験による前臨床試験と臨床試験の両方から適切な薬物標的をさらに解明し,前臨床試験の結果を臨床試験の成功に結びつけていくことが必要と考えられる.
糖尿病性腎臓病は糖尿病合併症の一つであり,最終的には腎不全に進行して血液透析などの腎代替療法が必要になる疾患である.血糖コントロールなどの薬物治療により,糖尿病性腎臓病の発症・進展を抑制することは重要であるが,現在の治療方法では腎障害の進行を完全に抑制することが出来ない.そのため,糖尿病性腎臓病に対して高い有効性を示す医薬品創出が求められているが,進行性のタンパク尿排泄,糸球体硬化病変,腎間質線維化,糸球体濾過量低下など,糖尿病性腎臓病患者と同様の進行性の腎障害を示すモデル動物が限られていることが創薬研究の課題の一つである.この課題によって糖尿病性腎臓病の病態生理が未だ十分に解明されていないことも,新規の医薬品創出の障壁となっていることが考えられる.SGLT2阻害薬は,腎臓の近位尿細管におけるグルコース再吸収を抑制することで,尿中へのグルコース排泄を促進して,血糖低下作用を発揮する医薬品である.このSGLT2阻害薬の糖尿病性腎臓病に対する有効性を検証するため,糖尿病性腎臓病患者と同様の高度な進行性腎障害が認められる2種類のモデル動物を用いてSGLT2阻害薬であるルセオグリフロジンの薬効を検証した.その結果,ルセオグリフロジンは単独療法またはACE阻害薬との併用療法により,これらモデル動物で認められた腎障害の進展を抑制したことから,SGLT2阻害薬が糖尿病性腎臓病の有効な治療オプションとなる可能性が考えられた.
常染色体優性多発性嚢胞腎(ADPKD)は最も頻度の高い遺伝性腎疾患で,60歳までに約半数が末期腎不全に至ることから,本邦における透析導入原因の4番目に多い疾患である.バソプレシンV2受容体拮抗薬トルバプタンはADPKDを適応として承認された初めての薬剤であり,2014年に日本,2015年に欧州,2018年に米国で承認され,現在は多くの国で処方されている.トルバプタンの研究開発は,水だけ出す利尿薬が必要という臨床ニーズから始まり,2009年に米国で低ナトリウム血症,2010年に日本で心不全における体液貯留を適応に,世界初の経口水利尿薬として承認された.この水利尿薬としての研究開発の最中,cAMP上昇を抑制するV2拮抗薬がADPKDに有効であることが報告され,並行してADPKDを対象とした研究開発が進められた.トルバプタンは多発性嚢胞腎モデル動物において腎臓内cAMPの上昇,腎嚢胞の増大を抑制し,死亡率の改善も認められた.一方,ADPKDの薬事承認を目的とした臨床試験は世界で初めてであったため,エンドポイント,対象患者の選択等に関して,専門の医師や当局との協議を重ねながら準備を進めた.病態早期の比較的腎機能が保たれている患者を対象としたTEMPO 3:4試験では,トルバプタンが腎容積増大と腎機能低下を有意に抑制することが認められ,また,ある程度腎機能が低下した患者を対象としたREPRISE試験でも,腎機能低下の抑制が確認された.トルバプタンの承認を機に作用機序の異なる化合物の研究開発も盛んとなり,後期臨床開発ステージのものもある.近年,腎臓分野でもiPS細胞を用いた研究が進み,ネフロン前駆細胞や尿管芽の誘導,腎臓オルガノイドの樹立,集合管前駆細胞の作製など報告が多く,iPS細胞を用いた嚢胞モデルの研究から,さらなる疾患メカニズムの解明や新たな作用機序の薬剤が生まれてくるものと思われる.病態の進展抑制だけでなく治癒までを望める薬剤が出てくることを期待するとともに,これを目指して研究を追求していきたい.
腎疾患は患者のクオリティオブライフを著しく低下させる世界的に有病率の高い疾患であり,有効な治療法確立が急務となっている.腎疾患の進行には酸化ストレスや炎症が関わることが示唆されているが,抗酸化/抗炎症の重要な制御機構としてKelch-like ECH-associated protein 1-nuclear factor erythroid 2-related factor 2(Keap1-Nrf2)システムが知られており,活発に研究が行われている.このKeap1-Nrf2経路を強力に活性化することが知られるバルドキソロンメチルは,これまでの臨床研究において腎機能の指標である糸球体濾過量(GFR)を増加させる作用が確認されており,腎疾患治療の新たな薬剤となり得ることが示唆されている.本稿ではこのバルドキソロンメチルの腎疾患治療薬としての可能性について,開発経緯や最近の開発状況と共に概説する.
変異原性は発がんの原因となるDNA塩基配列の永続的変化を惹起することから,変異原性を含む遺伝毒性研究はこれまで発がん性のハザード同定を主眼に進められてきた.その背景には,変異原性には閾値は存在しないとの前提があった.一方,遺伝毒性発がん物質にも実際上の閾値の存在は否定できないとの見解もある.近年,遺伝毒性試験から毒性反応曲線の出発点(point of departure:PoD)を求め,用量反応関係からベンチマークドーズ(BMD)法を用いて得られる統計学的な信頼区間下限値BMDL(benchmark dose lower confidence limit)を活用し,遺伝毒性を発がん性リスク評価に応用する試みが検討されている.また,クロマチン構造を規定し緻密な転写制御を担保するエピジェネティック制御の破綻も考慮した新たな視座からの遺伝毒性研究にも注目が集まる.このBMD法とエピジェネティクスの観点からの研究は,遺伝毒性をゲノム不安定性ともいうべき概念に昇華させうるものであり,本総説ではこの両概念について紹介したい.
全身性エリテマトーデス(SLE)は自己免疫疾患であり,免疫複合体の蓄積を介して多臓器に炎症を引きおこす疾患である.以前よりSLE病態にはⅠ型インターフェロン(IFN)が関与していることが知られてきたが,近年,Ⅰ型IFNはSLEの疾患活動性の中心的な役割を担っていることがわかってきた.疾患の発症前においても環境因子や遺伝因子による過剰なIFN産生は自然免疫系・獲得免疫の異常な活性化をもたらしている.IFNは,ヤヌスキナーゼ(JAK)/シグナル伝達及び転写活性化因子(STAT)を介したIFN誘導伝子を介して,SLEの免疫学的病原性において中心的な役割を果たしている.したがって,IFNに対する治療はSLE患者の炎症を抑える作用を期待されている.アニフロルマブ(サフネロー®)は,FDAに次いで日本では2021年9月にPMDAから承認を受けた.アニフロルマブは,中等症から重症のSLEの成人患者を対象としたⅠ型IFNα受容体のサブユニット1に対するヒト免疫グロブリンG1 kappa(IgG1κ)モノクローナル抗体で,標準治療を受けているSLE患者に追加投与をする薬剤である.投与は,4週間ごとに30分以上かけて300 mgの経静脈的投与が必要である.本レビューではアニフロルマブの薬理学的特徴およびSLEに対する臨床試験成績について概説した.