日本薬理学雑誌
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158 巻, 3 号
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特集:創薬研究の最前線ー中枢神経用薬の創薬に向けて
  • 山田 清文, 松本 直樹
    2023 年 158 巻 3 号 p. 217
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
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  • 福永 浩司
    2023 年 158 巻 3 号 p. 218-222
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    [早期公開] 公開日: 2023/03/29
    ジャーナル 認証あり

    アルツハイマー病(AD)は認知症の主要な原因疾患である.細胞外における老人斑の沈着及び細胞内における神経原線維変化を病理的特徴とする進行性の変性神経疾患で根本治療薬はない.私達は神経可塑性を改善する新規治療薬候補SAK3を創製した.SAK3はT型カルシウムチャネルの活性化して,アセチルコリン遊離を促進する.T型カルシウムチャネルは海馬歯状回の神経幹細胞に高発現して,SAK3投与によるBDNFの誘導は神経幹細胞の増殖と分化を促進した.これらの作用により,SAK3は抗うつ効果を示した.T型カルシウムチャネルサブタイプであるCav3.1欠損マウスでは海馬歯状回の神経幹細胞の増殖と分化が障害された.SAK3によるCaMKIIの活性化反応はADマウスで障害されるスパイン再生とタンパク質分解装置プロテアソーム活性低下を改善した.プロテアソーム活性の上昇は,ADマウスのアミロイドプラークサイズを縮小させる.このようにSAK3は神経変性疾患の神経可塑性を修復して,記憶障害を改善すると考えられる.本研究では新しい認知症改善薬のターゲットとしてT型カルシウムチャネルを提唱する.

  • 永井 将弘
    2023 年 158 巻 3 号 p. 223-227
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    [早期公開] 公開日: 2023/03/29
    ジャーナル 認証あり

    パーキンソン病はアルツハイマー病に次いで有病率が高い神経変性疾患であり,中脳黒質にあるドパミン神経細胞の変性・脱落により発症する.薬物治療には原因療法(疾患修飾薬)と対症療法(症状改善薬)に大別されるが,現在市販されているパーキンソン病治療薬は,すべて対症療法である.脳内のドパミン不足による大脳基底核回路の機能不全を改善するために,ドパミン前駆体であるレボドパがパーキンソン病薬物治療の主軸となっており,加えてドパミンアゴニスト,抗コリン薬,NMDA受容体拮抗薬,COMT阻害薬,MAO-B阻害薬,アデノシンA2A受容体拮抗薬,δ1受容体作用薬などの症候改善薬が補助薬として広く用いられている.原因療法に関しては,2020年1月にClinicalTrials.govに登録されたパーキンソン病を対象とした臨床試験145件のうち57件が疾患修飾薬に関連していた.抗αシヌクレイン抗体,GLP-1受容体作動薬,キナーゼ阻害薬などの臨床試験が疾患修飾効果を期待され行われているが,残念ながら現時点においてパーキンソン病進行抑制効果が立証された薬剤はない.基礎研究で得られた有益な結果を臨床試験で証明することは容易ではない.特にパーキンソン病のような神経変性疾患では,神経細胞の変性の程度を定量的に把握できる有用なバイオマーカーが臨床に存在しないため,疾患修飾薬の臨床的な有効性を示すことがより困難である.また,臨床試験においてプラセボを長期間使用することが研究倫理上難しいことも,適切な評価を困難にしている要因の一つとなっている.

特集:精神疾患の新たな創薬標的分子の可能性に迫る
  • 吾郷 由希夫, 毛利 彰宏
    2023 年 158 巻 3 号 p. 228
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル 認証あり
  • 衣斐 大祐
    2023 年 158 巻 3 号 p. 229-232
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    [早期公開] 公開日: 2023/03/29
    ジャーナル 認証あり

    うつ病の約3~4割は,治療抵抗性うつ病とされている.治療抵抗性うつ病に対する治療薬として,NMDA型グルタミン酸受容体拮抗薬ケタミンの光学異性体「エスケタミン」が欧米の一部の国で使われ始めているが,抵抗性や副作用の点からその使用は制限されている.最近の臨床報告から,マジックマッシュルームに含まれる幻覚成分である「シロシビン」が治療抵抗性うつ病患者に対し,即効かつ持続的な治療効果を示すことが明らかとなった.その結果は,その後の臨床研究からも支持され,アメリカ食品医薬品局はシロシビンがうつ病の画期的治療薬に成り得ると発表した.さらに,シロシビンやリゼルグ酸ジエチルアミド(LSD)などセロトニン作動性幻覚薬(精神展開薬,サイケデリック)が,うつ病のみならずアルコール依存症,不安障害,心的外傷後ストレス障害など様々な精神疾患に対しても効果を示すことが報告されている.このような,ここ数年のサイケデリックに対する関心の高まりは「サイケデリック ルネッサンス」と呼ばれている.興味深いことに,サイケデリックの精神疾患に対する治療効果は幻覚作用に関与するセロトニン5-HT2A受容体を介していないと考える研究者も存在する.一方,サイケデリックのセロトニン5-HT2A受容体刺激によって引き起こされる幻覚や神秘的な感覚が精神疾患治療に有用であるという考えも存在し,サイケデリックによる精神疾患の治療効果におけるセロトニン5-HT2A受容体の役割は詳しく分かっていない.本稿では,精神疾患の中でも「うつ病」を中心にサイケデリックの治療効果に関する最新の臨床および非臨床研究について概説し,セロトニン5-HT2A受容体の治療標的としての有用性についても考えたい.

  • 毛利 彰宏, 長谷川 眞也, 國澤 和生, 齋藤 邦明, 鍋島 俊隆
    2023 年 158 巻 3 号 p. 233-237
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    [早期公開] 公開日: 2023/03/29
    ジャーナル 認証あり

    うつ病の病態にはモノアミン仮説が提唱されており,抗うつ薬の主流が選択的セロトニン(5-HT)再取り込み阻害薬であることから,特に5-HT神経系の機能低下が広く受け入れられている.しかし,患者の約1/3は既存の抗うつ薬に対して難治性であるため,新しい創薬ターゲットに対する新規抗うつ薬の開発が求められている.トリプトファン(TRP)は5-HT経路だけでなくキヌレニン(KYN)経路においても代謝される.インドールアミン2,3-ジオキシゲナーゼ1(IDO1)は,TRP-KYN経路の代謝を行う最初の律速酵素である.IDO1は炎症性サイトカインによって強く誘導され,TRPを代謝し,5-HT経路で代謝されるTRPレベルを低下させ,その結果,5-HT合成を抑制し,うつ様行動を惹起する.下流のキヌレニン-3-モノオキシゲナーゼ(KMO)は,KYNを3-ヒドロキシキヌレニンに代謝する重要な酵素である.KMOが欠損すると,キヌレニンアミノトランスフェラーゼ(KAT)によりKYNが代謝され,キヌレン酸(KA)が増加し,うつ様行動が惹起される.一方,慢性予測不能軽度ストレス(CUMS)は視床下部-下垂体-副腎皮質(HPA)系を破綻させ,前頭前野におけるKMOの発現が低下し,KAを増加させる.これにはCUMSによるKMOを主に発現するミクログリアの減少を伴っている.KAはα7ニコチン性アセチルコリン受容体(α7nAChR)アンタゴニスト作用を有する.ニコチンやガランタミンによるα7nAChRの活性化により,CUMS誘発のうつ病様行動が減弱される.IDO1の誘導による5-HT合成抑制と,KMO発現低下を介したKAレベルの増加によるα7nAChR拮抗作用はうつ様行動を引き起こすことから,TRP-KYN経路の代謝的変化がうつ病の病態に深く関与していると考えられる.TRP-KYN経路は,うつ病の新規診断方法や抗うつ薬の開発に向けた魅力的なターゲットになることが期待される.

  • 前川 素子
    2023 年 158 巻 3 号 p. 238-241
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    [早期公開] 公開日: 2023/03/29
    ジャーナル 認証あり

    統合失調症については,ゲノムワイド関連解析やエクソーム解析の結果などから,シナプス関連遺伝子がリスク遺伝子として複数同定されている.また,死後脳の組織学的研究から,統合失調症では大脳皮質の錐体細胞樹状突起スパイン(神経細胞樹状突起にある棘状の構造でシナプス後部を形成する)密度の低下が報告されている.これらの背景から,シナプス機能不全が統合失調症のリスク形成に関わることが考えられている.一方,著者らはこれまで,脂肪酸を内因性リガンドとする核内受容体「peroxisome proliferator-activated receptor α(PPARα)」と統合失調症病態メカニズム形成の関連に注目して解析を行ってきた.著者らは,統合失調症患者において「稀ではあるが機能的変化につながる」PPARA遺伝子(PPARαをコードする)変異が存在することを明らかにした.また,Pparaノックアウトマウスは,統合失調症様の行動変化を示すとともに,脳内でシナプス関連遺伝子の発現変化が起きること,大脳皮質前頭前野においてスパイン密度の低下が起きることを見いだした.これらの結果は,PPARαの機能低下が脳内のシナプス機能低下を介して統合失調症のリスク形成につながる可能性を示している.筆者らは,核内受容体PPARαの機能低下が統合失調症病態形成に関わるとすれば,人為的に核内受容体PPARαの機能を活性化することができれば統合失調症の治療に役立つのではないかと考えて,核内受容体PPARαを分子標的とした統合失調症の治療薬開発を検討している.

  • 吾郷 由希夫, 浅野 智志, 坂元 孝太郎
    2023 年 158 巻 3 号 p. 242-245
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    [早期公開] 公開日: 2023/03/29
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    統合失調症は,人口の約1%(国内罹患者:約88万人)に発症する多因子疾患である.既存薬はモノアミン神経伝達物質の調節に関わる作用機序を有するもののみであり,限定的な治療効果や有害作用の発現が課題である.血管作動性腸管ペプチド受容体2(VIPR2,別名VPAC2受容体)は,臨床ならびに非臨床研究から統合失調症の有望な創薬標的として考えられるが,VIPR2のリガンドがペプチドであることや,VIPR2のサブタイプであるVIPR1やPAC1受容体と立体構造的な相同性が高いことなどにより,VIPR2に選択的な低分子化合物の開発は難航している.そのような状況のなか,2018年にファージディスプレイ技術を用いた大規模なペプチドスクリーニングから,VIPR2に選択的な人工アンタゴニストペプチドVIpep-3が見いだされた.しかしながら,同ペプチドは天然アミノ酸で構成されているため,プロテアーゼによる分解の懸念があった.我々は,既存のVIP/VIPR1の複合体モデル,VIPR2の細胞外ドメイン構造,VIPのC末端構造などの情報を参考にして,VIpep-3の最適化を試みた.得られたペプチドの一つであるKS-133(MW=1558.8)は,VIpep-3(MW=1941.1)よりも分子量が小さいにも関わらず,選択的かつ強力なVIPR2阻害活性と高い血中安定性を示した.さらに,KS-133はVIPR2を介する大脳皮質前頭前野のリン酸化CREBの増加を抑制し,また生後発達期のVIPR2過活性化による認知機能障害の発症を抑制したことから,in vivoにおける有用性も示唆された.本稿では,VIpep-3の発見からKS-133の分子デザイン,そして薬効評価までの一連の研究を紹介し,KS-133の新しい統合失調症治療薬のリード分子としての可能性を議論したい.

特集:RANKL 分子を介した骨代謝制御,その生理・病理・薬理
  • 青木 和広, 兼松 隆
    2023 年 158 巻 3 号 p. 246
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル 認証あり
  • 保田 尚孝
    2023 年 158 巻 3 号 p. 247-252
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル 認証あり

    RANKL(receptor activator of NF-κB ligand)の発見は破骨細胞分化・活性化調節メカニズムの解明,骨代謝と免疫学をつなぐ骨免疫学の開拓,ヒトRANKL抗体(デノスマブ)の臨床応用などのインパクトをもたらした.デノスマブは多くの国で骨粗鬆症治療薬およびがん骨転移による骨病変治療薬などとして臨床応用されており,2021年度の全世界での売上は53億ドルに上る.本総説の前半ではRANKLの発見にまつわる筆者らと米国Amgen社との熾烈な競争を紹介する.RANKLに関する最近のトピックスの一つとして,RANKLアンタゴニストとして知られていたW9ペプチドによるRANKL逆シグナルが挙げられる.W9はリガンドであるRANKLに結合して,リガンド側にシグナルを入れるので逆シグナルと呼ばれる.このRANKL逆シグナルによって骨芽細胞分化,骨形成が促進することが明らかになった.興味深いことにW9は軟骨細胞にも作用し,細胞分化,軟骨欠損修復を促進することが分かったが,その作用はRANKLを介さず,メカニズムは不明である.今後,そのメカニズム解明は変形性関節症などの治療薬開発に役立つであろう.もう一つのトピックスはanti-RANKL抗体(anti-RANKL)によるがん免疫増強である.RANKLは胸腺髄質細胞(mTEC)の分化・成熟に重要な役割を果しており,通常,mTECは自己免疫を防ぐために自己抗原特異的T細胞を排除している.筆者らはanti-RANKLによりmTECの機能を抑制し,がん抗原特異的なT細胞を新生させることにより,がん免疫を増強できることを発見した.anti-RANKLは,2018年のノーベル生理学・医学賞に輝いた免疫チェックポイント阻害薬(anti-CTLA-4抗体,anti-PD-1抗体)とは別のメカニズムで効果を発揮することから,これら免疫チェックポイント阻害薬との併用が期待できる.事実,後ろ向き研究からデノスマブ単独や免疫チェックポイント阻害薬との併用の有効性を示す結果が得られている.現在,これらを併用した臨床治験がいくつも進行中であり,近い将来に多くのがんは治る時代が来るかもしれない.

  • 本間 雅
    2023 年 158 巻 3 号 p. 253-257
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル 認証あり

    RANKLは双方向性のシグナル分子であり,RANKを発現する細胞に作用して下流応答を活性化する順シグナル経路と,RANKLを発現する細胞内で下流応答を活性化する逆シグナル経路がある.RANKL逆シグナル経路の活性化は,複数のRANKL三量体が分子間架橋され,クラスターを形成することでトリガーされる.成体においては,RANKLは主に骨組織と免疫系に発現が認められる.骨組織に関してはRANKL順シグナルと逆シグナルを分離した解析が進んでおり,順シグナルは成熟破骨細胞の形成を誘導して骨吸収を担う一方で,逆シグナルは破骨細胞に由来する共役因子の一つである膜小胞型RANKによって活性化され,骨芽細胞の初期分化の促進を担う.免疫系においては活性化したT細胞を含むリンパ球でRANKLの発現が認められ,RANKを発現する樹状細胞などの抗原提示細胞との相互作用によって,順シグナルおよび逆シグナルの活性化が生じると考えられるが,両者の作用を分離した解析は進んでおらず,それぞれが担う生理機能の解明は今後の課題と言える.RANKL逆シグナルを活性化するためには,RANKL細胞外ドメインに結合する抗体の可変領域などを利用し,これを複数連結することでRANKL三量体間を架橋できるコンストラクトが有効である.また分子サイズを低く抑えることで,RANKL三量体間を架橋しつつも,RANKとの相互作用には影響しないコンストラクトも存在し,逆シグナルの選択的な活性化も可能である.一方,RANKL逆シグナルの活性化を阻害する分子のデザインに関しては今後の実証研究が必要であり,特に逆シグナルの活性化のみを選択的に抑制するためには小分子化合物が必要となる可能性がある.RANKL逆シグナルの生理機能,および活性修飾方法の双方で残されている課題が今後解決されれば,疾患治療への応用に道が拓けると期待される.

  • 小野 岳人
    2023 年 158 巻 3 号 p. 258-262
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル 認証あり

    頭蓋骨は,体の数分の一程度の大きさしかないが,20を超えるパーツからなる人体で最も複雑な骨構造である.この小さな部分には,口を動かすための顎関節や食餌摂取に重要な歯などの特徴的かつ重要な要素が密集している.骨組織は巨視的に見ると変化に乏しい組織であるが,微視的に見ると骨芽細胞と破骨細胞による形成と吸収(リモデリング)が起きている.骨の形成と吸収のバランスは,様々な内的および外的因子の影響を受ける.力学刺激は骨リモデリングの制御因子の一つである.頭蓋骨,特に下顎骨には,咀嚼や咬合に際して咀嚼筋の力が作用する.この力は顎骨の成長方向や成長量に影響することがわかっている.また,歯科矯正治療で歯を目的の位置に移動させる際には,歯を植立させている骨(歯槽骨)で骨リモデリングが起きている.現象レベルでは,力と顎骨や歯槽骨のリモデリングを制御することは古くから知られていたものの,その細胞・分子メカニズムは長らく不明であった.骨構成細胞のひとつである骨細胞は,骨に加わる力を感知するメカノセンサー機能を有する.骨に加わった力は,細胞骨格やイオンチャネルなどを介して骨細胞内で生化学的シグナルを誘導する.その結果,骨細胞が産生するSclerostin,Dkk-1,IGF-1,RANKLなどのサイトカイン発現量が変化する.近年,顎骨の成長や歯科矯正治療における歯の移動にも骨細胞とそれに由来するサイトカインが重要であることが明らかになってきた.これまでの歯科矯正治療は力学的なアプローチに大きく依存してきたが,今後はこれらの細胞やサイトカインを標的とした薬物療法などを併用することにより,治療成績が向上することが期待される.

  • 安藤 雄太郎, 塚崎 雅之
    2023 年 158 巻 3 号 p. 263-268
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル 認証あり

    歯周病は,口腔細菌に対する炎症応答および,それに続発して起こる歯の支持骨破壊を特徴とする.その罹患率は非常に高く,成人の歯の喪失の最大の原因となっている.近年,歯周病における骨破壊には,骨芽細胞や歯根膜線維芽細胞が産生するreceptor activator of NF-κB ligand(RANKL)が必須であることが明らかになった.このRANKLの誘導には免疫系の活性化が重要な役割を果たしている.本稿では,骨免疫分子RANKLに着目し,歯周病による骨破壊の分子メカニズムについて,我々の研究成果や最新の知見を交えながら概説する.

創薬シリーズ(8)創薬研究の新潮流56
  • 小島 肇夫, 平林 容子
    2023 年 158 巻 3 号 p. 269-272
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル 認証あり

    昨今,創薬開発においても作用機構をもとにした安全性評価の重要性が謳われ,国際機関からもヒト由来‍細‍胞や組織を用いた動物実験によらない代替試験法(以下,代替法と記す)を利用した安全性評価の要‍望が増えている.ただし,動物実験で捉えられる多様な現象を,従来開発されてきたような,ひとつの代替法で網羅できないことは明らかであり,そもそも動物実験データとの比較に留まりヒトの毒性を評価す‍る‍こ‍とを想定していない場合もある.そこで,創薬開発にNew Approach Method(NAM)の活用への期待が高まっている.本稿では,NAMの事例として,生殖毒性試験の代替法および人体摸倣システム(Microphysiological system:MPS)による安全性評価の行政的な受け入れに関する昨今の状況をまとめた.

新薬紹介総説
  • 鄭 智恵, 有吉 泰亮, 米田 智廣, 香川 雄輔, 河北 泰紀, 真木 彰郎
    2023 年 158 巻 3 号 p. 273-281
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    アシミニブ塩酸塩(販売名:セムブリックス®錠20 ‍mg/40 ‍mg)は,チロシンキナーゼ阻害薬に分類され,BCR::ABL分子のABL領域にあるミリストイルポケットを作用点とするものとしては,世界初である.本邦では,2022年3月28日に前治療に抵抗性又は不耐容の慢性骨髄性白血病(CML)の治療薬として承認された.CMLに対する既存のチロシンキナーゼ阻害薬(TKI)がBCR::ABL1のアデノシン三リン酸(ATP)結合部位を作用点とするのに対して,アシミニブはBCR::ABL1のアロステリック部位であるミリストイルポケットに特異的に結合し,ABL1ファミリー分子(ABL1,ABL2,BCR::ABL1)を阻害する.このアシミニブの薬理特性から,BCR::ABL1に対するspecifically targeting the ABL myristoyl pocket(STAMP)阻害薬と分類される.In vitro及びin vivoにおける薬効薬理試験において,アシミニブは細胞増殖抑制及び抗腫瘍効果を示した.国際共同第Ⅰ相first in human(FIH)試験では,慢性期及び移行期のCML患者を対象としてアシミニブ単剤での最大耐量(MTD)及び推奨用量(RDE)が検討された.しかしながら,本試験での用法用量ではMTDに到達しなかったため,本試験までに得られた忍容性,安全性,薬物動態(PK)及び予備的な有効性データに基づき,T315I変異を有しない慢性期及び移行期CML患者では40 ‍mg 1日2回,T315I変異を有する慢性期及び移行期CML患者では200 ‍mg 1日2回をRDEとした.2剤以上のTKIによる前治療歴があり,直近のTKI治療に抵抗性又は不耐容の慢性期CML患者を対象とした国際共同第Ⅲ相試験では,主要評価項目である24週時点の分子遺伝学的大奏効(MMR)達成率において,比較対照群であるボスチニブに対するアシミニブの優越性が示された.安全性については,アシミニブ群で最も多く認められた副作用は血小板減少症で,その他に好中球減少症なども認められた.これらの結果からアシミニブは,前治療薬での薬剤抵抗性や有害事象の発現による不耐容で治療に苦慮していたCML患者に対する新たな治療選択肢となることが期待される.

  • 金田 倫明
    2023 年 158 巻 3 号 p. 282-289
    発行日: 2023/05/01
    公開日: 2023/05/01
    ジャーナル フリー

    ネモリズマブ(製品名:ミチーガ®皮下注用60 ‍mgシリンジ)は,「アトピー性皮膚炎に伴うそう痒(既存治療で効果不十分な場合に限る)」を効能・効果として2022年3月に世界に先駆け,本邦で承認された新規作用機序の生物学的製剤である.ネモリズマブは,アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis:AD)の主要な起痒物質の一つであるインターロイキン31(IL-31)の受容体であるIL-31受容体A(IL-31RA)を標的としたヒト化抗ヒトIL-31RAモノクローナル抗体である.ネモリズマブはIL-31と競合的にIL-31RAに結合することにより,IL-31シグナルの伝達を阻害し,そう痒を抑制する.第Ⅲ相試験では,既存治療を実施したにもかかわらず中等度以上のそう痒を有する13歳以上のAD患者に対し,外用療法の併用下で本剤60 ‍mgを4週に1回皮下投与した際の有効性が投与開始16週後のvisual analogue scale(VAS)変化率により検証されている.また,投与開始16週後の皮膚症状の改善及び生活の質(quality of life:QOL)の改善も確認されている.更に,最長68週間の臨床試験データがあり,そう痒,皮膚症状及びQOLの継続的な改善又は維持が認められている.主な副作用は,アトピー性皮膚炎,皮膚感染症,上気道炎である.本剤投与中に一部の患者では皮膚症状が悪化することがあるため,本剤投与中は患者の状態を十分に観察し,抗炎症外用薬の強化や場合によっては休薬する等の適切な処置が必要である.本剤は,AD患者の最も苦しむ症状の一つであるそう痒を抑制し,皮膚症状の改善をもたらす新たな治療選択肢である.また,患者の睡眠の改善をはじめとした生活における障壁を減らし,QOLの向上に貢献することが期待される.本稿では,ネモリズマブの薬理学的特徴,薬物動態,並びに本剤の国内臨床試験における有効性及び安全性成績について紹介する.

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