日本薬理学雑誌
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85 巻, 3 号
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  • 武 陽明, 柴生田 正樹, 永岡 明伸, 名川 雄児
    1985 年 85 巻 3 号 p. 111-117
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    両側椎骨動脈を電気焼灼したラットを用いて,その翌日総頸動脈を閉塞することにより脳虚血モデルを作製した.この脳虚血ラットにおいて虚血中(血流再開直前)ならびに血流再開後の局所脳血流量を測定し,脳虚血モデルとしての特徴づけを試みた,局所脳血流量(9部位)はトレーサーマイクロスフェア法により測定した.10分間脳虚血により大脳皮質血流量は偽手術群レベルの11.3%に減少した.以下,線条体12.8%,海馬17.1%,側坐核+嗅結節18.2%,視床24.5%,小脳35.1%,四丘体35.5%,視床下部52.1%,橋+延髄54.8%に減少し,9部位の平均値は26.9%であった.血流再開10分後では大脳皮質,海馬および線条体で血流量増加(hyperperfusion)が,側坐核+嗅結節,視床および視床下部では軽度の血流量回復が,それぞれ認められ,この6部位では20~30分後に再び減少したが,60分後には偽手術群レベルの50%以上にまで回復した.残りの3部位での血流量変動は小さく再開60分後には偽手術群レベルに回復した.30分間脳虚血により大脳皮質血流量は偽手術群レベルの1.77%に減少した.以下,海馬4.42%,線条体4.73%,側坐核+嗅結節4.85%,視床7.89%,小脳12.4%,四丘体13.1%,視床下部20.4%,橋+延髄26.3%に減少し,9部位の平均値は9.60%であった.再開10分後に大脳皮質および海馬ではhyperperfusionが,線条体および側坐核+嗅結節では偽手術群レベルへの回復が,それぞれ認められたが,その後再び減少し,60分後でも偽手術群レベルの28~49%の血流量であった.その他の部位における血流量の変動パターンは10分間脳虚血群とほぼ同様であったが,再開60分後の血流量回復の程度は小さい傾向にあった.以上の成績から,本脳虚血モデルラットにおける一般症状,脳波ならびに神経化学的パラメータの変化と脳循環動態の変動との関連性が推察された.
  • 岩木 一巳, 米谷 行男
    1985 年 85 巻 3 号 p. 119-127
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    thiazide系利尿薬の連用に伴う尿酸排泄能の変化について,ラットを用いた腎クリアランス法により検討した.一般飼料での飼育下にtrichlormethiazide(2 mg/kg, p.o.)を1日2回2週間連用した場合,軽度のヘマトクリット値上昇と明らかな低ナトリウムおよび低カリウム血症が発現するものの尿酸排泄能には変化が認められなかった,一方,ナトリウム無添加精製飼料での飼育下に本薬物(0.1,0.5および2 mg/kg, p.o.)を1日2回1週間連用することにより,尿酸のfractional excretion値の低下に基づく尿酸の排泄抑制が発現し,2 mg/kgでは糸球体濾過率の低下に基づく尿酸の排泄抑制がこれに加味された.同様の尿酸排泄抑制作用は,hydrochlorothiazide(10 mg/kg, p.o.)およびcyclopenthiazide(0.5 mg/kg, p.o.)処置によっても発現した.いずれの薬物投与においてもヘマトクリット値は顕著に上昇し血漿カリウム濃度は低下した.ナトリウム摂取の制限下にtrichlormethiazideを連用したラットにおいては,体重および飼料摂取量は減少し尿量および飲水量は増加した.これらの作用は使用した最小用量(0.1 mg/kg)で明らかに発現し,その際の変化は一般飼料での飼育下における本薬物の2 mg/kg連用の場合の変化よりも顕著であった.ナトリウム無添加精製飼料で1週間飼育したラットおよびその期間1日2回のtrichlormethiazide(0.5 mg/kg, p.o.)を処置したラットについて,腎臓の形態変化を検べた.ナトリウム摂取の制限によりmacula densa部は細胞増殖および管腔の拡張を生じ,薬物投与群においては,これらのより顕著な変化に加えて近位尿細管上皮細胞の扁平化や再生を伴う管腔拡張が認められた.以上の成績は,尿酸の排泄抑制に働くthiazide系利尿薬の性質を検討する目的にはナトリウム無添加精製飼料で飼育したラットを用いることが有用であることを示している.
  • 宮本 政臣, 佐治 美昭, 名川 雄児
    1985 年 85 巻 3 号 p. 129-141
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    thyrotropin-releasing hormone(TRH)およびその類縁体γ-butyrolactone-γ-carbonylhistidyl-prolinamide citrate(DN-1417)のラットまたはマウスにおける旋回運動,常同行動およびclimbing行動に及ぼす影響を検討した.一側黒質線条体ドーパミン神経路を6-hydroxydopamine注入により破壊したラットにおいてTRH(100 mg/kg, i.p.)およびDN-1417(20~50 mg/kg, i.p.)は大量投与によりmethamphetamine同様の同側性旋回運動を惹起した.マウスにおける常同行動のうちsniffing行動はTRHおよびDN-1417(1~20 mg/kg, i.p.)の小量投与で発現したが,licking行動発現には20~200 mg/kgの大量投与を要した.また,apomorphineは単独投与で用量依存性のclimbing行動誘起作用を示したが,TRH,DN-1417およびmethamphetamineは単独投与では有意なclimbing行動誘起作用を示さなかった.しかしながら,L-DOPAおよびRo4-4602前処置下ではTRH,DN-1417およびmethamphetamineともに自発運動発現用量でclimbing行動を発現した.TRH,DN-1417またはmethamphetamineによる旋回運動,常同行動およびclimbing行動発現作用はpimozide,haloperidolまたはα-methyltyrosine投与により著明に抑制された.また,atropineおよびscopolamine等の抗コリン剤はTRHまたはDN-1417による旋回運動作用に対しては増強作用を示したが,licking行動発現作用は抑制した.以上の成績から,TRHおよびDN-1417は中枢ドーパミン系に作用して旋回運動,sniffing,lickingおよびclimbing行動を誘起することが示唆され,また,licking行動の発現にはコリン系の関与も示唆された.
  • 武 陽明, 成実 重彦, 栗原 悦雄, 柴生田 正樹, 佐治 美昭, 名川 雄児
    1985 年 85 巻 3 号 p. 143-157
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    両側椎骨動脈を電気焼灼し,その翌日両側総頸動脈の一時的閉塞により作製した脳虚血モデルラットにおいて,血流再開後の一般症状,脳波,神経化学的パラメータならびに局所脳血流量の変化に対するDN-1417(TRH類縁体)の作用をしらべた.10分間脳虚血群において,DN-1417は血流再開直後投与により2.5 mg/kg, i.p. 以上の用量で立ち直り反射および自発運動の回復を促進させた.また,DN-141710 mg/kg, i.p. の血流再開直後投与は脳虚血により平坦化した大脳皮質脳波の回復を促進させるとともに,脳内5-hydroxytryptamine含量減少およびcyclic AMP含量増加,[3H]-cholineの取り込み抑制,choline acetyltransferaseおよびacetylcholine esteraseの活性低下などの神経化学的パラメータの変化も回復させ,hyperperfusionおよびhypoperfusionの持続時間も短縮させた.以上の成績より,DN-1417は一時的脳虚血後の一般症状および脳波上の変化から推察される意識障害様症状に対して改善作用を有することが明らかとなったが,この効果と血流再開後のモノアミン系の正常化,choline作働系抑制の回復ならびに脳局所循環動態の回復促進などの作用との関連性が示唆され,臨床においても意識障害治療剤としての有効性が期待される.
  • 三浦 洋治, 乾 淳, 中村 忠男
    1985 年 85 巻 3 号 p. 159-165
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    虚血下脳の保護作用を示すnizofenoneの心臓活動電位および収縮力に対する作用を細胞内微小電極法を用いて検討した.nizofenone(10-6および10-5M)はモルモット右心室乳頭筋およびイヌPurkinje線維の活動電位持続時間を著明に延長させ,さらにPurkinje線維では有効不応期を延長させた.Vmaxは10-5または10-4Mで抑制された.乳頭筋収縮力は10-4Mで抑制された.epinephrineで誘発したPurkinje線維の自動能は3×10-5および10-4Mで抑制され,モルモット洞房結節歩調取り電位は10-6および.10-5Mで抑制された.nizofenoneの乳頭筋活動電位持続時間の延長作用はquinidineと同程度で,Vmax抑制作用はquinidineよりも若干弱かった.以上の結果から,nizofenoneは心筋細胞膜に対していわゆる“quinidine様作用”を示し,その強さはquinidineとほぼ同程度であることが推定された.
  • 田中 郁夫, 日上 広幸
    1985 年 85 巻 3 号 p. 167-171
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    TKG01とその無水物とのβ-cyclodextrin等モル包接化合物であるTA903の抗潰瘍作用と胃液分泌に対する作用を比較検討した.投与量は両化合物の共通構成成分であるTKG01無水物量で同量となるように設定した.水浸拘束ストレス潰瘍において,TA903は経口投与により用量依存的(100,300 mg/kg)な抑制作用を認めたが,TKG01は300 mg/kgにおいてのみ有意な抑制作用を認めた.塩酸ethanol潰瘍においてTA903は低投与量(30,100 mg/kg)で強力な抑制作用を認めたが,TKG01はこの潰瘍を抑制しなかった,indomethacin潰瘍において,TA903とTKG01はTKG01無水物量で100 mg/kg,300 mg/kgの経口投与でほぼ同程度の有意な抑制作用を認めた.幽門結紮ラットの胃液分泌に対し,TA903は十二指腸内投与により,胃液量,酸排出量,pepsin排出量を用量依存的(100,300 mg/kg)に抑制したが,TKG01は100,300 mg/kgにおいてpepsin排出量のみを抑制したにすぎなかった.以上の結果より,TA903はTKG01に比較してより幅の広い抗潰瘍作用を示すことが認められ,TA903の抗潰瘍作用機序は,細胞保護作用と胃液分泌抑制作用によるものと考えられる.
  • 河野 康子, 野村 靖幸, 瀬川 富朗
    1985 年 85 巻 3 号 p. 173-183
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    中枢神経系におけるdopamine(DA)レセプター刺激によるアドレノセプターの変化を検討した.ラットの大脳皮質粗シナプス膜を50 mM Tris-HCl緩衝液(pH7.7)浮遊液としてDA(0.1~100 μM)またはapomorphine(0.1~100 μM)存在下で37°C,30分間インキュベートすると[3H]clonidineで標識したα2レセプターが濃度依存的に増加した.しかしこれらのDAアゴニスト処置は[3H]WB4101結合でみたα1レセプターや[3H]dihydroalprenolol結合でみたβレセプターには顕著な変化を生じなかった.DAの[3H]clonidine結合増加作用はインキュベーションの温度と時間に依存しており,Scatchard解析すると高・低両親和性結合成分の最大結合数増加に基づいていた.大脳皮質膜標本ではpimozide,cis-flupenthixolによる拮抗からDAの作用がDAレセプター刺激,殊にD1レセプターを介していると考えられた.しかしDA処置による[3H]clonidine結合増加は多くの脳部位から得た膜標本で一様に認められ必ずしもD1レセプターの分布を反映しなかった.このことからは[3H]clonidine結合増加にはD1レセプター刺激とともにDAの膜機構に対する他の未知の作用も関与することが考えられた.一方,Mn2+とDAの[3H]clonidine結合増加作用は相加的に出現するので両者の作用機序は異なるらしい.さらにDAの[3H]clonidine結合増加作用には一部GTP結合制御タンパク質が介在する可能性が示されたがcyclic AMPの関与は認められなかった.またDAの作用とは逆に大脳皮質膜標本をpimozide,cis-flupenthixolで単独処置すると高濃度になるにつれて[3H]clonidine結合を低下した.今回の実験結果から中枢神経系でDAレセプターのアゴニストとアンタゴニストがα2レセプターを逆方向に変化させる調節因子となることが示唆された.
  • 梅津 浩平, 湯浅 聡, 須藤 敦子
    1985 年 85 巻 3 号 p. 185-192
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    四塩化炭素(CCl4)をラットに12週間連続皮下投与して誘発した慢性肝障害に対して,予防的に投与したトリトクアリン(TRQ)は100および200 mg/kgの用量で肝障害の悪化を抑制した.CCl4慢性処置によりコントロール群ラットには著しい体重減少が見られ,肝機能を表わす血液パラメーターの変化が生じた.即ち,肝実質細胞損傷の指標である血清トランスアミナーゼ値や,胆管系障害の指標である血清アルカリホスファターゼ値の増加の他に,タンパク合成能の指標である血清アルブミン量の減少,プロトロンビン時間の短縮や,脂質代謝系の異常を表わす血清脂質の変化等である.TRQを予防的に投与することにより,酵素の血中への漏出抑制やタンパク合成能の改善,脂質代謝系の改善の生じているのが観察された.また肝臓においてはCCl4処置コソトロール群には12週目で肝臓硬化が生じ,無処置群に比較して肝臓コラーゲン量は約5倍に増加していた.一方TRQ投与群ではコラーゲンの増加は有意に抑制された.更に,CCl4処置により認められた肝臓内タンパク量の減少もTRQ投与により改善された.これらの結果を総合的に判断して,TRQは慢性的に悪化する肝障害を予防的に抑制し,肝機能の改善に極めて有効な化合物であることが示唆された.
  • ラット実験的肝障害に対する五味子リグナン成分Wuweizisu Cの作用
    竹田 茂文, 布野 秀二, 飯塚 晃, 加瀬 義夫, 新井 一郎, 大倉 靖史, 須藤 和彦, 木内 典子, 吉田 千鶴, 前田 信也, 油 ...
    1985 年 85 巻 3 号 p. 193-208
    発行日: 1985年
    公開日: 2007/03/02
    ジャーナル フリー
    五味子リグナン成分wuweizisu Cの肝障害抑制作用をCCl4,d-galactosamineおよびdlethionine誘発実験的肝障害において血清生化学的ならびに病理組織学的手法により検討した.CCl4の高用量(1 ml/kg, p.o.)の単回投与あるいは低用量(0.2 ml/kg/day, s.c.)の4日間反復投与により惹起される血清トランスアミナーゼ活性の上昇および肝の脂肪変性,細胞壊死,炎症性細胞浸潤などの組織病変に対してwuweizisu Cは前処置ないしはCCl4との同時投与により用量依存的な改善作用を示した.d-galactosamine肝障害においては低用量(200 mg/kg, i.p.)および高用量(400 mg/kg, i.p.)の単回投与により惹起される障害に及ぼすwuweizisuCの作用をuridineと比較検討した.uridineは両障害に対して著しい改善作用を示した.一方,wuweizisu Cは血清生化学的に低用量のd-galactosamineによるトランスアミナーゼ活性の上昇を有意に抑制し,病理組織学的には両用量による障害における肝細胞壊死,炎症性細胞浸潤を抑制する傾向を示した.またwuweizisu Cはd-galactgsamine(150 mg/kg/day, i.p.)の4日間反復投与による肝障害に対しても改善傾向を与えた.ethionine(250 mg/kg/day, s.c.)の4日間反復投与により肝の萎縮,小葉中間帯のびまん性の脂肪変性および血清中性脂肪の著しい低下を認めたが,肝細胞壊死は全くみられず,血清トランスアミナーゼ活性の上昇もわずかであった.wuweizisu Cはethionineによる肝の脂肪変性および血清中性脂肪の低下を用量依存的に軽減した.以上の結果から,wuweizisu Cがヒトの肝炎における宿主の反応すなわち肝細胞の変性壊死,脂肪変性,細胞浸潤などの細胞現象に対して防御ないしは治療効果を有することが示唆された.
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