ラット肝ミトコンドリアを用いて,プロピオン酸血症及びメチルマロン酸血症の治療における塩化レボカルニチン(LC-80)の有用性を LC-80 の光学異性体である d-塩化カルニチン(d-体)及び d
l-塩化カルニチン(d
l-体)と比較検討した.LC-80の5及び 10mMはミトコンドリア呼吸活性に対して全く抑制作用を示さなかった.一方 d-体の 5mM はミトコンドリアの呼吸調節率(RCR)を有意に減少させ,また,d
l-体の 10及び 20mMも RCR を濃度依存的に有意に減少させたことから,d-体はミトコンドリア呼吸能の抑制作用を有することが示唆された.さらに,propionate によるミトコンドリア呼吸能の抑制作用に対して,LC-80の 5及び 10mM は濃度依存的に有意な回復作用を示したが,d-体の5mM は全く回復作用を示さなかった.また,d
l-体の 10mM は d-体に比較すると有意な回復作用を示したものの,LC-80 と比較した場合にはその効果は明らかに軽度であった.そして,d
l-体の濃度を 20mMに上昇させるとその効果はさらに減弱した.ミトコンドリアの carnitine acetyltransferase(CAT)は acetyl GoA よりも propionyl CoA が基質の場合に活性が高く,また,d-体によって競合的な阻害を受けることが認められた.以上の結果から,プロピオン酸血症及びメチルマロン酸血症の治療における LC-80 の有用性が示唆されるとともに,ミトコンドリア呼吸能の抑制及び CAT 活性の阻害作用を有する d-体には治療効果は期待できず,却って有害な影響を及ぼすことが示唆された.従って,本疾患の治療には
l-体(LC-80)の使用が不可欠であり,d
l-体を
l-体の二倍量使用しても
l-体と同等な治療効果を得ることは期待出来ないことが結論された.
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