日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
Print ISSN : 0915-3004
ISSN-L : 0915-3004
26 巻, 2 号
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 成田 紀之
    2014 年 26 巻 2 号 p. 85-92
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    口顎ジストニアは,顎・舌・顔面の持続的な異常筋活動を特徴として,咀嚼,嚥下,ならびに開口の障害,食いしばりを引き起こす。口顎ジストニアの病因には,遺伝子素因,中枢神経の損傷,末梢性外傷,服薬,代謝性疾患,あるいは中毒や神経変性疾患などが挙げられる。口顎ジストニア治療における第一選択肢はボツリヌス神経毒素を用いた治療であり,咬筋,側頭筋,あるいは外側翼突筋へのボツリヌス毒素の応用により,口顎ジストニアの約60%に咀嚼ならびに会話の改善がもたらされる。また,薬物治療では,抗コリン製剤,ベンゾジアゼピン製剤,抗痙攣薬などが応用されている。口顎ジストニアに認められる感覚トリックは,たとえば口唇あるいはオトガイをそっと触る,ガムを噛む,話をする,楊枝を咬むなどして,ジストニア症状が一時的に軽快することであるが,このとき,ボツリヌス毒素治療と同様にして,感覚トリックによっても,感覚運動皮質の活動性に変調が生じえる。口顎ジストニアは,うつ,不安,強迫性障害,ならびに統合失調症といった精神障害と共存しており,これら口顎ジストニアの精神心理的側面は臨床診断を難しくする。最近のわれわれのデータは,口顎ジストニア患者におけるボツリヌス毒素治療が,ジストニックな異常筋活動の軽減ばかりか痛みや精神病理の緩和に有効であることを示唆している。本論文は,包括的な理解を目的として,口顎ジストニアの治療について概説するものである。
原著
  • 内田 貴之, 小見山 道, 久保寺 翔, 岡本 康裕, 飯田 崇, 若見 昌信
    2014 年 26 巻 2 号 p. 93-99
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    咬合接触状態の検査において,シリコーン材料を用いた方法は,臨床上の有用性が高いとされている。近年,付加型シリコーンを用いた適合検査材ブルーシリコーン®(ジーシー社製,以下BS)および専用の分析装置バイトアイBE-I®(ジーシー社製,以下BE-I)が開発され,簡便かつ定量的に咬合接触状態の評価が可能になった。そこで,本研究ではBSおよびBE-Iを臨床応用するにあたり,同一の術者が測定した際の結果の信頼性を明らかにすることを目的として検討を行った。被験者は顎口腔機能に異常を認めず,第3大臼歯以外の欠損を認めない者12名(男性7名,女性5名)を対象に,歯科用ユニットに座らせた状態で,連続した5日間の同一時刻にBSを用いて咬合接触状態を記録,BE-Iを用いた解析を行い,以下の結論を得た。1. BE-Iの可視化レベルを徐々に上げることにより,咬合接触面積は有意に減少するが,咬合接触点数は30 μmまでは変化なく推移し,それ以上になると有意に増大した(p<0.00)。2. バイト材の解析において,上顎咬合面からの解析結果と下顎咬合面からの解析結果を比較した場合,前歯部の咬合接触面積が下顎咬合面からの解析で有意に大きくなった(p=0.013)。3. 軽度咬みしめにおける咬合接触面積の級内相関係数は前歯部が0.7以上,他の部位は0.8以上を認め,臨床応用に対する信頼性は確保されていた。しかし,咬合接触点数の級内相関係数は広い範囲の値を認め,咬合接触面積に比べ低く,評価には注意が必要と考えられた。
  • 阿久津 美和, 河島 睦, 小倉 直美, 服部 俊夫, 山崎 文恵, 伊藤 耕, 近藤 壽郎
    2014 年 26 巻 2 号 p. 100-107
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    顎関節内障(internal derangement:ID)患者の顎関節滑膜では炎症所見が確認されており,TNF-αはその病態形成に関与する因子として知られている。今回,ID患者から得た培養ヒト顎関節滑膜細胞をTNF-αで刺激し,antibody arrayを用いてケモカインタンパク質産生を検討した。ID患者より顎関節滑膜組織を採取し,out growth法にて滑膜細胞を得た。得られたヒト顎関節滑膜細胞をTNF-αで4時間刺激し,培養上清中のケモカインタンパク量をantibody arrayを用いて検出した。Antibody arrayの結果,TNF-α刺激では無刺激時と比較してケモカインのスポットは全体的に濃い傾向を示した。スポットを定量後,TNF-αによって産生上昇が認められた7種類のケモカインについて,real time-PCR法で遺伝子発現量を継時的に確認した。TNF-αで2, 4および8時間刺激したときのケモカイン遺伝子発現量は7種類すべてにおいていずれの時間でも無刺激時より上昇した。ケモカインは白血球の遊走を誘導し,炎症に深く関与している。したがって,TNF-αはID患者の顎関節滑膜細胞において,ケモカイン産生を上昇させることにより,関節腔内の炎症病態の形成に関与していると考えられた。
臨床
  • 永尾 史徳, 土生 学, 清宮 弘康, 宮本 郁也, 國領 真也, 上原 雅隆, 高橋 哲, 吉岡 泉, 冨永 和宏
    2014 年 26 巻 2 号 p. 108-113
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    咀嚼筋腱・腱膜過形成症の臨床像は不明な点が多く治療法も確立されていない。今回,われわれは九州歯科大学附属病院で観血処置を施行した咀嚼筋腱・腱膜過形成症患者の治療法と術後経過について検討を行った。対象は2008~2013年までの6年間に当院で咀嚼筋腱・腱膜過形成症に対して観血処置を施行した後,術後6か月以上経過を観察しえたものとした。対象は7例で,それぞれの症例について術前・術中・術後の開口距離の経過について調査を行った。男性3例,女性4例で,手術時年齢は17~35歳であった。全例で術中の最大開口域は術前より大幅に改善した。術後に開口訓練を継続した例では,術後6か月まで一定の開口距離が保たれていたが,さまざまな理由により術後に開口訓練が十分に行えなかった症例では開口距離が術前と同程度まで後戻りしていた。開口距離の維持には術後の開口訓練の継続が重要であることが示唆された。
症例報告
  • 濵田 真智, 中嶋 正博, 室井 悠里, 正重 裕一, 大西 祐一, 覚道 健治
    2014 年 26 巻 2 号 p. 114-119
    発行日: 2014/08/20
    公開日: 2014/10/01
    ジャーナル フリー
    顎関節強直症の治療には一般的に口外法の顎関節授動術が選択される。今回われわれは,関節突起骨折後の変形治癒に起因した顎関節強直症に対して,口内法による右側筋突起切除術および右側顎関節低位授動術を施行した。術後1年6か月で疼痛なく,38 mmの開口距離が維持され,パノラマX線像および三次元CT像では,骨切り断端部の骨は吸収し,偽関節の形成を認め,開口時,骨の干渉を認めず術後経過は良好である。下顎頭内側の広範囲の骨性癒着および筋突起過長症を認める症例では,口内法での顎関節授動術も選択肢の一つであると考えられた。また,再癒着を防止するためには術後に積極的な開口訓練が必要であると考えられた。
feedback
Top