日本顎関節学会雑誌
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27 巻, 3 号
選択された号の論文の8件中1~8を表示しています
依頼論文
  • 築山 能大
    2015 年 27 巻 3 号 p. 185-189
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    アメリカ口腔顔面痛学会(AAOP)は2013年4月に,口腔顔面痛の評価,診断および管理に関するガイドライン(AAOPガイドライン)第5版を公表した。そのなかのTemporomandibular disorders(TMD)診断基準の箇所に,当時未公表でありその後2014年初頭に公表されたDiagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(DC/TMD)とExpanded TMD Taxonomy(拡大TMD分類)が収載された。DC/TMDは妥当性と信頼性の検証に基づくTMDの診断基準であり,頻度の高いTMDのみをカバーしている。一方,拡大TMD分類はエキスパートのコンセンサスに基づくTMD分類であり,TMDを広くカバーしている。いずれも,国際歯科研究学会(IADR)の国際RDC/TMDコンソーシアムネットワークと国際疼痛学会の口腔顔面痛スペシャルインタレストグループとの共同作業でとりまとめられたものである。AAOPガイドライン第5版が公表されるまでは,臨床医が的確に診断するためのTMDの診断基準を提供するAAOPガイドラインと,1992年に公表された科学的な妥当性の検証に基づくResearch Diagnostic Criteria for Temporomanidibular Disorders(RDC/TMD)の2つの診断基準が存在していた。2012年にAAOP評議会がDC/TMDと拡大TMD分類の採用を決定したことで,TMDの診断基準が統一される運びとなった。これにより,TMDの診断基準に関して共通の道具が提供され,異なる研究間の患者集団の比較や多施設による大規模研究の遂行が容易になり,診療の場で使われる概念的な枠組みをさらに発展させる効果も期待できる。また,この国際標準の診断基準は,新しい知見と理解の向上に基づいて今後も修正されていくとの認識である。
  • 井川 雅子
    2015 年 27 巻 3 号 p. 190-195
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    国際頭痛分類(International Classification of Headache Disorders:ICHD)は,専門家の合意に基づいて作成された国際頭痛学会の頭痛分類と診断基準である。1988年の初版から改訂を経て,2013年7月に第3版beta版(ICHD-3β)が公開され,2014年10月には日本語版が発表された。beta版である理由は,2015年現在改訂中の世界保健機関(WHO)の国際疾病分類第11版(ICD-11)と整合性をもたせるためであり,ICD-11との調整後にICHD-3として最終版が発表される予定である。ICHD-3βでは,頭痛疾患を3部(part),14のグループに分類している。第1部(グループ1~4)は,一次性頭痛,すなわち頭痛そのものが疾患であるもので,1.片頭痛,2.緊張型頭痛,3.三叉神経・自律神経性頭痛などがこのなかに含まれる。顎関節症と鑑別が必要な疾患の多くは,このグループに属している。第2部(同5~12)は二次性頭痛,すなわち,原疾患の症状として頭痛が生じる疾患群を指す。「顎関節症(TMD)による頭痛(Headache attributed to temporomandibular disorder(TMD))」は11.7に分類されているが,歯科医が専門とする顎関節症によって生じる本頭痛の診断には,国際疼痛学会(IASP)の口腔顔面痛グループ(OFP Special Interest Group)とRDC/TMDネットワーク協議会が連携して作成したDC/TMDの診断基準を使用することが推奨されている。第3部(同13,14)は,「有痛性脳神経ニューロパチー,他の顔面痛およびその他の頭痛」であり,三叉神経痛,舌咽神経痛,口腔内灼熱症候群(舌痛症),持続性特発性顔面痛(いわゆる非定型歯痛/非定型顔面痛)などがここに分類される。顎関節症を正しく診断するためには,鑑別すべき疾患について知ることが必要であるため,専門医にはICHD-3βの知識が必須である。
  • 宮地 英雄
    2015 年 27 巻 3 号 p. 196-199
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    顎関節症2軸の評価をするには,問診が不可欠である。主訴,経過,そして所見を総合的に診て,2軸の評価につなげていく。2軸の評価において,精神疾患の診断に際しては,米国精神医学会が編纂している精神疾患の診断マニュアルであるDSMという診断の指針が用いられることが推奨されているが,2013年に改訂され,第5版となるDSM-5が現在使用されるようになっている。DSM-5では,多軸診断が廃止になったほか,以前使用されていた「身体表現性障害」という用語がなくなり,「身体症状関連症群」という語が新たに登場した。この概念では,身体疾患の有無はさらに問わなくなっているようで,「苦痛を伴う身体症状に対する反応としての,異常な思考・感情・行動」を問題にしている。身体疾患の有無,鑑別を必要としない分,付しやすい疾患群となったといえる。「身体症状関連症群」では,身体症状症や,病気不安症といった疾患名が新設され,重複を少なくしまとめられた。対応について考えておかなければならないこととして,安易な侵襲的検査,治療のほか,患者や他領域の医療者へ説明をどのように行うか,という問題がある。初診医,特に身体科初診医の言葉は非常に重く,安易な説明や治療の進め方は,後でトラブルになる可能性がある。他領域との連携については,必要な病態,疾患がoverlapする場合が問題になる。
原著
  • 河村 篤志, 高嶋 真樹子, 荒井 良明, 髙木 律男
    2015 年 27 巻 3 号 p. 200-206
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    本研究の目的は,顎関節症状を訴える初診患者の身体的・心理社会的スクリーニング検査として,Research Diagnostic Criteria for Temporomandibular Disorders(RDC/TMD)Axis ⅠおよびAxis Ⅱを用いることにより,本院におけるTMD患者の現状を把握することである。2012年6月から2014年5月までの24か月間に,新潟大学医歯学総合病院顎関節治療部を受診した初診のTMD患者287人(男性65人,女性222人)を対象とした。身体的スクリーニングはRDC/TMD Axis Ⅰに基づいて行い,また心理社会的スクリーニングとしてRDC/TMD Axis ⅡのGraded Chronic Pain Scale,depressionおよびsomatizationを分析し,Axis Ⅰとの関連を評価した。身体的スクリーニングの結果,Group Ⅰ(筋障害)は対象患者の49.1%と最も多く認められ,Group ⅠaとGroup Ⅰbの割合はほぼ同等であった。Axis Ⅱ診断に関して,depressionでは全体の34.0%がmoderateからsevereであり,somatizationでは43.3%がmoderateからsevereであった。Graded Chronic Pain Scaleでは,9.6%に疼痛による心理社会的問題を認めた。depressionとsomatizationをRDC/TMD Axis ⅠのGroup別に比較すると,depressionとsomatizationともにGroup Ⅰ患者がGroup Ⅱ・Ⅲ患者と比較して有意に高い値を示した(p<0.01)。このことから,Group Ⅰ患者においては心理社会的因子へのアプローチの重要性が示されるとともに,Axis Ⅱ診断の有用性が示唆された。
症例報告
  • 玉井 和樹, 杉崎 正志, 伊介 昭弘, 高山 岳志, 来間 恵里, 林 勝彦
    2015 年 27 巻 3 号 p. 207-211
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    外耳道は,骨部と軟骨部に分かれており,まれに発育異常として骨部(鼓室骨)に鼓室骨裂孔(Huschke孔)がみられる。しかしながら,歯科臨床においてこれに遭遇する機会は非常に少ない。今回,われわれは,開口障害および顎関節痛を訴えた患者に鼓室骨裂孔を認めた1例を経験したので報告した。患者は,66歳女性,開口障害と顎関節痛を主訴に2009年12月に当科来院。1年前に自分の声が響くことを主訴として当院耳鼻科を受診,外耳道への顎関節円板後部組織の陥入を認め,開閉口時に伴ってその陥入程度に変化がみられることが指摘され,紹介来科した。初診時無痛開口量は22 mm,有痛開口量は30 mmで,パノラマX線写真では,右側に変形性顎関節症が疑われた。CT画像では右外耳道前壁に直径約5.5 mmの骨欠損を認め,関節円板後部組織の外耳道への陥入を認めた。以上より,鼓室骨裂孔および顎関節症と診断した。なお,主訴の開口障害と鼓室骨裂孔との関連性は認められなかった。現在無痛開口量は35 mmであり,開口練習を行いながら経過観察中である。
  • 大竹 史浩, 谷尾 和彦, 永川 賢治, 田窪 千子
    2015 年 27 巻 3 号 p. 212-217
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    転位関節円板の重度骨化を認めた変形性顎関節症の1例を報告する。61歳女性が開口障害を訴えて受診した。5年前に顎関節の痛みと開口障害を認め,近在歯科を受診した。歯科医院ではスタビライゼーションスプリントを4年間装着した。疼痛は軽減したが,開口障害は変わらず当科紹介となった。開口度は切歯間距離では23 mmであった。パノラマX線画像やCT画像において,左側顎関節周囲に広範囲な帯状の石灰化物と下顎頭の肥大が認められた。全身麻酔下に関節円板切除術と下顎頭切除を行った。組織学的に関節円板の骨化と関節包の石灰化物を認めた。術後に開口度は35 mmまで改善した。大きな顔貌の変化や顔面神経麻痺は認めなかった。術後2年6か月で開口度は35 mmを維持し,顎機能も良好である。
  • 辻 要, 安田 典泰, 山田 耕治, 蒲生 祥子, 福田 あおい, 竹山 旭, 栗岡 香美, 林 洋希, 大下 修弘, 酒匂 潤, 黒田 卓 ...
    2015 年 27 巻 3 号 p. 218-224
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    骨軟骨腫は成熟した硝子軟骨から構成される良性腫瘍で,顎顔面領域での発生は比較的まれである。患者は39歳男性で,咬合異常と咀嚼障害を主訴に来院した。2007年より左側耳前部の腫脹を自覚し,2010年には顔貌の非対称が認められた。徐々に下顎の右方偏位が著明となり,咬合異常と咀嚼障害を認めたため,2013年1月に来院した。触診にて左側顎関節部に骨様硬の腫瘤を認めた。下顎正中は右側へ12 mm偏位していた。パノラマX線写真では左側の下顎窩と下顎頭の間に境界明瞭なX線不透過像を認め,CTでは左側顎関節部に骨皮質で覆われ,内部に不規則な骨硬化像を伴う,39×30×29 mm大の腫瘤状病変を認めた。骨軟骨腫または骨腫の臨床診断で,同年4月に全身麻酔下にて下顎頭を含めた腫瘍切除術を施行した。腫瘍上方部は頭蓋底に接しており,一部に癒着が認められたため,残すこととした。病理組織検査にて骨軟骨腫の診断を得た。現在,術後約2年経過しているが,残存腫瘍の増大などは認めず経過良好である。
  • 磯村 恵美子, 榎本 明史, 妹尾 日登美, 田中 晋, 古郷 幹彦
    2015 年 27 巻 3 号 p. 225-230
    発行日: 2015/12/20
    公開日: 2016/01/25
    ジャーナル フリー
    下顎頭過形成については数多くの報告があるが,幼児の報告例はわれわれが調べたかぎりではない。それは,下顎頭過形成の主症状が顔面非対称や咬合不全であり,幼児期では気づかれにくかったり,気づかれても治療の対象とはならなかったりするためと思われる。われわれは,1歳児の下顎頭過形成の患児に対し,開口障害を認めたために早期に下顎頭切除術を施行したところ,6歳時に開口障害を再発したため,側頭筋皮弁の挿入を併用した顎関節形成術を施行した症例を経験したので報告する。
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