日本顎関節学会雑誌
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28 巻, 2 号
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依頼論文
  • 原 節宏
    2016 年 28 巻 2 号 p. 115-125
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/10/14
    ジャーナル フリー

    筋痛および筋膜性疼痛(筋・筋膜痛)の解剖・組織・病態生理に関しては,十分な検討がなされているとはいいがたい現状があるものの,2000年を越える頃から,体幹や四肢に対する基礎研究および臨床研究が活発に行われるようになり,これまで常識とされてきた筋痛や筋膜痛のとらえ方に新たな知見が示されるようになった。たとえば,運動時の筋疲労の原因物質として考えられてきた乳酸については,疲労感をもたらす疲労物質ではなく,運動後に短時間で消費されるエネルギー源であるという考え方が支持されるようになり,筋膜においては筋外膜・筋周膜・筋内膜などの筋組織の筋膜を広く被う皮下組織の筋膜が存在し,これらが病態に大きく影響していることが明らかになり,また,各種治療法に対する治療効果に関しても,組織・細胞レベルでの検討が報告されるようになった。本稿は筋痛における局所性筋痛および筋膜性疼痛(筋・筋膜痛)について明らかになっている文献的根拠と仮説を整理し,顎関節症における筋痛のとらえ方と接し方について考察する。

原著
  • ―非復位性関節円板前方転位に対する予備的検討―
    山口 賀大, 佐久間 重光, 遠渡 将輝, 坂口 晃平, 田口 慧, 小林 里奈, 足立 充, 伊藤 裕, 田口 望, 日比 英晴
    2016 年 28 巻 2 号 p. 126-134
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/10/14
    ジャーナル フリー

    運動療法は,施術直後より関節可動域を増大し,疼痛を早期に軽減させ病悩期間を短縮するものの,その効果について定量的な評価を行った研究は少ない。本研究では,術者が行う顎関節可動化療法と患者が行う自己牽引療法を1つの運動療法プログラムとして捉え,非復位性関節円板前方転位症例に実施した際の短期的治療効果を検討した。

    顎関節機能に中等度以上の障害が認められた45例を対象として運動療法を施行し,初診時とその約2週間後の初回再来時における臨床症状(最大開口域,安静時痛,開閉口時痛,咀嚼時痛および日常生活支障度)について評価した。

    その結果,最大開口域,開閉口時痛,咀嚼時痛および日常生活支障度において有意な改善を認めた(p<0.001)。これら症状の改善は,運動療法により関節可動域が改善され,関節腔が拡大されることで下顎頭の動きが改善したものと考える。したがって,本運動療法プログラムは,非復位性関節円板前方転位に伴う諸症状を短期間に軽減させる有効な保存療法になる可能性が示唆された。

  • 稲野辺 紫巳, 荒井 良明, 高嶋 真樹子, 河村 篤志, 永井 康介, 山崎 裕太, 髙木 律男
    2016 年 28 巻 2 号 p. 135-143
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/10/14
    ジャーナル フリー

    近年,顎関節症の寄与因子の一つとして歯列接触癖(TCH)が注目されてきた。しかし,TCH是正の介入効果を検証した報告は少なく,特に歯科衛生士によるものは見つけられない。そこで,本研究では咀嚼筋痛障害を有する患者を対象に,歯科衛生士による行動変容法を用いたTCH是正指導を行い,その介入効果を検証することを目的とした。咀嚼筋痛障害患者をランダムに介入群(14人)と対照群(14人)に割り付け,歯科衛生士が患者に対し「張り紙法」による行動変容アプローチを行い,その効果を無痛自力開口量,最大自力開口量,強制開口量,圧痛部位数,現在の痛み,過去1週間の最大の痛み,過去1週間の平均の痛み,顎機能に関する活動制限項目数について比較検討した。

    再診時には,介入群で無痛自力開口量,強制開口量,圧痛部位数が有意に改善し,一方,対照群では無痛自力開口量,最大自力開口量が有意に改善した(p<0.05)。群間比較では過去1週間の最大の痛みと過去1週間の平均の痛みに有意差が認められた(p<0.05)。

    歯科衛生士による行動変容支援は咀嚼筋痛障害患者の症状改善に有効であることが示された。また,指導内容実施調査において,介入群患者の全員が「できた」「だいたいできた」と回答しており,歯科衛生士による介入の容易性や有用性が示唆された。本研究の結果から,歯科衛生士による行動変容サポートは,歯科衛生士の患者に対する新しい介入分野として期待できる。

症例報告
  • 窪 寛仁, 渡辺 昌広, 伊達岡 聖, 大西 祐一, 覚道 健治, 本橋 具和, 杉立 光史
    2016 年 28 巻 2 号 p. 144-150
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/10/14
    ジャーナル フリー

    患者は71歳の女性で,10日前の感染根管治療後から開口障害が生じ,右側顎関節部疼痛および咬合異常を主訴として来院した。初診時の自力最大開口距離は25 mmで,開口時の関節雑音は認められなかった。また,両側性の臼歯部開咬が認められたが,口腔内外に明らかな炎症所見を認めなかった。顎関節症以外の顎関節疾患を疑ったが,2日後のMRI検査で右側関節突起の内側に膿瘍形成を疑わせる所見が認められ,血液検査ではWBCおよびCRPが高値を示していたため,咀嚼筋間隙膿瘍を疑い,CDTR-PIを処方し,外来で経過観察を行うことにした。3日後の再診時に軽度の熱感を訴えたため,CTRXの経静脈投与を追加したが,その2日後の血液検査で炎症が増悪していたので緊急入院させ,同日からCLDMとPIPCを投与した。口腔内からの試験穿刺で粘稠な帯黄色の膿が認められたため,切開排膿術を施行し,その後は連日,切開部からの洗浄処置を行い,入院14日目に軽快退院となった。退院時,わずかな臼歯部開咬と右側顎関節部疼痛が残存していたが,退院後1か月で開口距離は38 mmに改善し,咬合異常も消失していた。現在も定期的な経過観察を行っているが,炎症の再燃は認めない。

  • 樋口 景介, 千葉 雅俊, 野上 晋之介, 髙橋 哲
    2016 年 28 巻 2 号 p. 151-157
    発行日: 2016/08/20
    公開日: 2016/10/14
    ジャーナル フリー

    患者は52歳女性で,右側顎関節の痛みを主訴として当科を受診した。初診時,右側に顎関節痛とクレピタス音を認め,21 mmと開口制限があった。MRIで右側の顎関節に非復位性円板前方転位,下顎頭に軽度のosteophyteを認めた。右側変形性顎関節症と診断し,Tooth Contacting Habit(TCH)の是正を指導し,薬物療法,スプリント療法を行い,約3か月後に顎関節痛は消失した。約1年後に某歯科で約5 mm咬合を挙上された直後から再度右側顎関節に激痛を生じ,MRIで右側の下顎頭にerosionとbone marrow edema,joint effusionを認めた。薬物療法,スプリント療法を再開し,咬合高径を元に戻した。その後に顎関節腔洗浄療法を行い,顎関節痛は消失した。約2年4か月後のMRIで下顎頭のosteophyte,関節結節の平坦化が持続した。

    咬合挙上は顎関節症を誘発するリスクのある歯科治療である。咬合挙上を契機に顎関節症状が急速に悪化し,顎関節形態に大きな変化をもたらす可能性がある。咬合挙上を行う際,顎関節負荷を増加させないためTCHなどの悪習癖の是正を十分に指導することが必要と考える。

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