顎関節脱臼は発症後の経過時間により, 新鮮例と陳臼例に分けられる。新鮮例では徒手整復により比較的容易に整復されるのに対し, 陳旧例では関節窩が瘢痕組織により閉鎖されてくるため, 多くの場合観血的整復が行われている。
最近, 我々は脱臼後6ヵ月を経過した陳旧性顎関節脱臼の一症例に遭遇し, 観血的整復術により良好な結果を得たので報告する。
患者は65才の男性で, 初診6ケ月前に全身麻酔下に腸閉塞手術を受けていた。その際挿管時の過度の開口により, 両側顎関節前方脱臼を生じたものと思われる。しかし, 患者は軽度の精神薄弱のため, 閉口障害を訴えることもなく放置されていた。
初診時所見では, 顔貌左右対称であるも閉口不能にてオトガイの軽度突出, 面長の顔貌を呈していた。左右顎関節相当部は軽度陥凹し, その前方に下顎頭を触知した。X線所見では, 左右下顎頭は関節結節を超えて前上方へ逸脱していた。外来にて徒手整復を試みたが整復不可能なため, 入院下に義歯を用いた顎間牽引, 局所麻酔下での徒手整復を行ったが整復し得なかった。そこで更に全身麻酔下での徒手, 及びFink法による観血的整復を試みたが整復し得ず, 最終的に下顎頭切除術を施行した。術後1年1ケ月の現在, 閉口時, 前歯部歯槽頂間で21mm, 開口度が同部で50mmまで回復している。また, 顎運動による機能障害もなく, 咬合状態も良好で, 手術創も極めて良好に治癒している。
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