日本顎関節学会雑誌
Online ISSN : 1884-4308
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32 巻, 2 号
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原著
  • 野澤 道仁, 有地 淑子, 福田 元気, 木瀬 祥貴, 内藤 宗孝, 西山 雅子, 小木 信美, 勝又 明敏, 有地 榮一郎
    2020 年 32 巻 2 号 p. 55-64
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2021/02/20
    ジャーナル フリー

    目的:パノラマエックス線画像による変形性顎関節症の診断に深層学習システムを適用して,その診断能(診断精度および診断一致率)を明らかにし,有用性を検証することを目的とした。

    方法:変形性顎関節症を疑いCT検査を実施した症例のうち,CT画像で下顎頭に変形が確認された138関節(92症例)のパノラマエックス線画像と,上顎洞炎を疑ってCT検査を行い,その結果下顎頭に変形が確認されなかった138関節のパノラマエックス線画像を対象とした。深層学習システムはネットワークとしてAlexNetを使用して構築し,5分割交差検証およびデータ拡張の手法を用いて作成した学習モデルの診断精度(感度,特異度,正診率)を算出した。またROC曲線から曲線下の面積(AUC)を求めた。比較のために3人の歯科放射線医および3人の臨床研修歯科医が同一画像の評価を行った。さらに診断一致率(κ値)も算出した。

    結果:深層学習システムの感度は84.5%,特異度は66.2%,正診率は75.4%,AUCは0.76であった。AUCは深層学習システムと歯科放射線医が臨床研修歯科医より有意に大きな値を示した。深層学習システムによる診断一致率(κ値)は0.84で,歯科放射線医(0.55)および臨床研修歯科医(0.31)の観察者内一致率よりも高かった。観察者間一致率は歯科放射線医で0.47,臨床研修歯科医で0.21であった。

    結論:パノラマエックス線画像による変形性顎関節症の診断について,深層学習システムを適用したところ,その診断精度は歯科放射線医と同等であり,診断の一致率は歯科放射線医や臨床研修歯科医よりも優れていた。したがって,深層学習システムは診断支援としての使用が十分に可能であり,その有用性が示された。

症例報告
  • 和気 創, 儀武 啓幸, 田口 望, 山口 賀大, 高原 楠旻, 佐藤 文明, 依田 哲也
    2020 年 32 巻 2 号 p. 65-71
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2021/02/20
    ジャーナル フリー

    目的:筋突起過形成症は,過形成した筋突起が頰骨後面および頰骨弓内面に干渉することで開口障害を引き起こす疾患である。その詳細な成因は不明だが,小児での発症はまれである。今回われわれは,小児に発症した両側筋突起過形成症に対し,手術療法を施行し,術後の開口訓練に難渋した症例を経験したのでその概要を報告する。

    症例:8歳の女児で,開口障害を主訴に来院した。初診時の自力および強制最大開口時の上下中切歯間距離は15 mmであった。パノラマエックス線,単純CTにて両側筋突起の頰骨弓上縁を越える過形成を認め,両側筋突起過形成症の診断にて全身麻酔下に両側筋突起切除術を施行した。口内法にて下顎第一大臼歯頰側歯肉部から下顎枝前縁部分に切開を加え,側頭筋を筋突起から可及的に剝離した後,超音波切削器具にて筋突起を切除した。術後翌日から徒手による閉口訓練を開始し,術後6日目からは徒手による開口訓練を開始,術後8日目からはヤセック開口訓練器による開口訓練を開始した。術後1年5か月を経過し,自力最大開口は38 mmである。病理組織学所見では,腫瘍性病変や異常所見は認めず,正常な骨組織であると考えられたため,先天性もしくは幼少期に発症した筋突起の過形成が開口障害の原因であると考えられた。

    結論:今回われわれは,小児に発症した両側筋突起過形成症を経験した。小児の筋突起過形成による開口障害はまれな病態であり,開口域の後戻りを生じる可能性も否定できないため今後も厳重な経過観察が必要と思われる。

  • 貝淵 信之, 岡本 俊宏, 浪花 崇史, 冨永 浩平, 宇田川 源
    2020 年 32 巻 2 号 p. 72-76
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2021/02/20
    ジャーナル フリー

    今回われわれは,下顎頭周囲に異所性骨腫を伴った両側陳旧性顎関節脱臼に対して観血的整復術,関節隆起切除術,関節円板切除術,高位下顎頭切除術,腫瘍摘出術を施行した1例を報告する。

    患者は39歳,女性。2013年3月に縊首自殺を図ったため心肺停止となり,当院救命救急センターに搬送され蘇生処置が行われた。蘇生後,慢性期病院へ転院となった。2014年3月頃から顎関節脱臼を繰り返すようになり,訪問歯科で整復処置を行っていたが,整復不可能となったため2014年9月初旬に当科に紹介受診となった。初診時,意識レベルJCS(Japan coma scale)Ⅱ-20。気管切開されており,開口状態で閉口不能であった。両側顎関節部の陥没と前方部の突出を認めた。CTを撮影したところ,両側下顎頭は関節隆起を越えて,頰骨弓内側の側頭窩下に位置していた。また,両側下顎頭の前内方に下顎頭と不連続な不透過像を認めた。10月に当院へ転院となり,両側陳旧性顎関節脱臼,両側顎関節部良性腫瘍の臨床診断のもと,全身麻酔下観血的整復術,関節隆起切除術,関節円板切除術,高位下顎頭切除術,腫瘍摘出術を行った。両側に耳前側頭切開を加え,関節隆起の切除,関節円板の切除および高位下顎頭切除術を行った。下顎頭の周囲に硬組織を認め摘出した。病理組織診断は骨腫であった。術後は顎間固定を2週間行った。11月初旬,術後経過良好のため転院となった。その後,顎関節脱臼の再発は認めていない。

  • 岡澤 信之, 上田 順宏, 川上 哲司, 山本 育功美, 松末 友美子, 桐田 忠昭
    2020 年 32 巻 2 号 p. 77-83
    発行日: 2020/08/20
    公開日: 2021/02/20
    ジャーナル フリー

    Jacob's diseaseは,筋突起部の骨軟骨腫においてマッシュルーム状を呈し増大化した腫瘍と頰骨弓との間に偽関節様の関係を形成している状態と定義されている。今回われわれは,Jacob's diseaseと咀嚼筋腱・腱膜過形成症の併発症例に対し,手術を行い経過良好であった1例を報告する。患者は27歳の男性で,長期にわたる開口障害のために当科に紹介された。最大開口域は4 mm,側方運動は左右ともに4 mm,前方運動は6 mmと制限されていた。CT画像にて左側筋突起の先端には26×18×18 mmのマッシュルーム様の不透過像を認め,これと接する頰骨弓は変形をきたしていた。MRIでは,両側咬筋にstrike root appearance像を認めた。左側筋突起部腫瘍性病変および両側咀嚼筋腱・腱膜過形成症の疑いと診断した。全身麻酔下にて口内法と口外法を併用し,左側筋突起部腫瘍性病変を含む切除術を施行した。しかし,開口時に両側咬筋前縁部に硬い張りを触知したため,右側筋突起切除術および両側咬筋腱膜切除術を併施した。手術終了時の開口域は63 mmであった。筋突起部腫瘍性病変の病理組織学的所見は,病変の頂部に菲薄した線維性組織と未熟な硝子軟骨様の組織が確認され,直下には移行的に髄腔を有する海綿骨組織が確認されたため骨軟骨腫であり,Jacob's diseaseと咀嚼筋腱・腱膜過形成症の併発症例と診断した。術後4日目より開口訓練を開始し3か月間継続した。術後12か月の開口域は60 mmであり,再発所見は認めず経過良好である。

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