顎関節円板の後方転位を伴った不正咬合の1症例を経験したので, 機能検査所見ならびに画像検査所見を併せて, その概要を報告した。
患者は, 初診時年齢22歳8か月の男性である。左側顎関節部の違和感, 顎が右側にのみ動くので不快感を感じる, 奥歯の咬み合わせが悪い等の複数の訴えを有して当科を受診した。
口腔内診査では, 上下顎前突が認められ, 正中線は上顎に対して下顎が右側へ偏位し, 左側の第一大臼歯の咬合関係はアングルIII級傾向であった。
顎関節の症状としては, 下顎運動障害が認められ, 左側への側方運動が他動的にも不能であった。また, 左側顎関節部の違和感も自覚していた。
機能検査所見ならびに左側顎関節の下関節腔造影エックス線検査所見による精査の結果, 左側の関節円板後方転位と診断した。
左側への側方運動に際して, 転位した円板が物理的障害となり, 作業側下顎頭の運動制限が生じていると考え, 治療としては, まずマニピュレーションにより下顎の運動制限を解除することを試みた。その結果, 他動的にも不能であった左側への側方運動が可能となったため, 下顎の運動制限の再発を防ぐため, 運動療法を併用し, 上下顎前突ならびに左側臼歯部の咬合関係の改善を含めた咬合の再構成を矯正治療により行った。
最終的に, 関節腔の拡大を図るため, 臼歯を挺出させる力系を用い, 咬合高径を挙上して治療を終了し, 良好な結果が得られた。
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