大森金礦床は福島市の西南に近く,片状花崗閃緑岩と石英粗面岩状火山岩,同角礫凝灰岩,砂岩,頁岩,礫岩等が,互に連接せる二方向より成る斷層群によりて,界を接する部分に當り,ほゞ東西に延長したる殆んど垂直の礦脈を主とし,第三紀以後の成生にかゝる。
本礦脈は主として斷層角礫帶を石英,氷長石,黄鐵礦,閃亜鉛礦等を以て礦染或は交代し,之に金銀を伴なへるものにして,そのうち硫化亜鉛礦の一部は,ウルツアイトとして晶出せる後,閃亜鉛礦に變移したるものと信ぜらる。それらの性質及び礦石の構造上,本礦床は地下比較的淺き部分にて,300°~100°Cに於て生ぜるものと認めらる。即ち淺熱水礦床(epithermal deposit)に屬す。
礦化作用は特に斷層角礫帶中石英粗面岩状碎片に著るしく,花崗閃緑岩片に著るしからず。從つて花崗閃緑岩中に於ては,礦脈は規則正しきも,品位低く,角礫凝灰岩中に於ては,局部的には品位高きも,その分布均等ならず,東西兩富礦帶は主として花崗閃緑岩と,石英粗面岩状火山岩,またはその角礫凝灰岩との境界に沿ひて發達す。
金は主として硫化物に伴なひ,自然金として發見せられ,礦床の一部は硫化物の酸化溶失によつて殘積的に一層金に富化せらるゝも,下降性二次富化の跡を見ず。
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