蔭ノ沢鉱山の鉱床は新第三紀中新世に相当する下部緑色凝灰岩,これを貫く石英閃緑岩,さらにこれら両岩類をおおう上部緑色凝灰岩中に胚胎する鉱脈型,鉱染交代型鉱床である。
鉱脈型鉱床は石英閃緑岩体内および石英閃緑岩と緑色凝灰岩との断層帯中にあって,走向は東西方向が主で,南北は従である。これに属するものは,第一鉱体・末広〓・神仙坑〓である。その鉱石は角礫質石英黄鉄鉱黄銅鉱・脈状の石英黄銅鉱・粘土質鉱である。
一方,鉱染型・交代型鉱床は下部緑色凝灰岩の粘土帯に賦存するが,その規模は前者ほどではなく,かつて高品位金銀鉱を産したというが,旧坑のため明かでないが,銅鉱には乏しかつたようである。鉱石は主に粘土質鉱である。朝日・千寿・寿鉱床はこれに属するようである。
この鉱床の鉱化作用(稼行の出来る鉱体)が訓縫統までおよぶことは明かであるが,その上を直接に第四紀層でおおれてわいるため上限は不明である。なお,従来議論されてきた新第三紀層を貫く完晶質岩石は鉱床生成と関係があるか,どうか,という問題に対してはこの鉱床では直接的には,役割を演じていないと考えられる。すなわち,鉱床は閃緑岩をおおう上部緑色凝灰岩中にまでおよんでいるので,鉱床生成を火成活動と結びつけると,閃緑岩は直接関係しないことになる。
しかも,西南北海道においては,新第三紀層を貫く深成岩には,茅沼地方のように鉱床と直接関係のあるものと,蔭の沢鉱山のようにないものとの二種があり,かつその活動時代を異にしている。
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