言語文化教育研究
Online ISSN : 2188-9600
ISSN-L : 2188-7802
最新号
選択された号の論文の22件中1~22を表示しています
特集:言語文化教育研究とは何か
テーマ趣旨
報告
  • 牛窪 隆太, 三代 純平, 牲川 波都季, 北出 慶子, 南浦 涼介, 嶋津 百代, 松田 真希子, 中井 好男, 佐野 香織, 湊 淳, ...
    原稿種別: 報告
    2024 年 22 巻 p. 3-13
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,言語文化教育研究学会第10回年次大会における企画フォーラム「言語文化教育研究とは何か」(2024年3月3日,対面・オンラインハイブリッド形式)での,以下11のテーマについての各ファシリテーターによる報告である。

    1.教室・学習者・教師を問い直す

    2.〈多文化共生〉と向きあう

    3.言語文化教育のポリティクス

    4.ナラティブの可能性

    5.市民性形成と言語文化教育

    6.言語文化教育とクリエイティビティ(Creativity)

    7.「アートする」教育

    8.ディスアビリティ・インクルージョンと言語文化教育

    9.コン_ヴィヴィアリティと言語文化教育

    10.理工系とことば/AIとことば

Regular Contents
論文
  • 中原 瑞公
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 14-33
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,アンチレイシストを自認する〈日本人〉英語教師である筆者の経験についてのオートエスノグラフィーをもとに,(1)〈日本人〉英語教師がアンチレイシストを名乗り,アンチレイシスト教育をめざすことは何を意味するのか,(2)〈日本人〉英語教師はどのようなプロセスを経てアンチレイシストとして目覚めていくのか,という問いに答えるものである。自らの経験の捉え直しと意味づけをとおして,筆者は「日常のレイシズムについての学びをとおして,英語学習者の人種言語観やコミュニケーション観に揺さぶりをかけ,彼らに善良な自己像の問い直しを促したい」「日本社会のレイシズムにも焦点を当て,英語学習者に〈日本人〉としての特権的ポジショナリティの自覚を促したい」という,自らがめざすアンチレイシズムの姿を見出していった。加えて,「差別の捉え方を転換させ,自らの善良さを問い直す」「日本社会のレイシズムの現実を受け止め,〈日本人〉としての特権的ポジショナリティに自覚的になる」など5つの転機を経てアンチレイシストとして目覚めたことを明らかにした。

  • 表出順序の分析及び手話学習者の比較研究
    平 英司
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 34-46
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    日本手話での大規模コーパスの構築は始まったばかりであり,大規模な手話データからコロケーションについての傾向を分析できる状況には至っていない。そこで,本研究では,コロケーションに関する萌芽的な試みとして,日本手話における「赤と白」及び「黒と白」に関する表出語順について,分析を試みた。具体的には,ろう者及び手話学習者に対し,複数の質問を行い手話で回答を得るタスクの中に,「日本の国旗」及び「パンダの体」についてその色を手話で問い,その回答について収録し,比較・分析を行った。結果,「黒と白」の表現では,手話学習者は「白-黒」という語順で回答することが多い(80%)が,ろう者は「黒-白」も「白-黒」も同数ほど(45%,55%)現れることが示された。「赤と白」の表現の場合でも,「赤-白」と「白-赤」で,手型等の音韻的要素に違いが見られ,「黒-白」と「白-黒」の表現の選択においても,音韻的要素が影響していることが示唆される。

  • 佐藤 淳子
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 47-69
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は留学生の専門講義理解を日本語科目でどう支援できるかに関して,実践的な提言をすることである。まず本稿ではアカデミック・コンピテンシー(AC)に関わる用語と概念を整理し,ACを「大学において授業をこなし単位を取得するために必要な知識・スキル・態度と価値観,およびそれらを文脈と要求内容に応じて調整しながら活用する能力」と定義したうえで「講義を聴く」ためのコンピテンシーは,ACの一つであると捉えた。講義を聴くために求められるACは先行研究からは特定できなかったため,元学部留学生や専門講義の担当教員などに対するフォーカス・グループ・インタビューを行い,12項目のACを推定した(研究1)。12項目のACを「講義を聴く」という授業に落としこみ,1学期間計15回の実践を行った後,実際の専門講義での各項目が役立っているか追跡調査を行ったところ,今回推定した12項目は全て高い役立ち度を感じられていたことが示された(研究2)。

  • 最近接発達領域に基づく対話型鑑賞手法を応用した英語コミュニケーション活動
    宗像 花草
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 70-89
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,対話型アート鑑賞手法を応用した英語コミュニケーション実践が,大学生の自己表現や他者との意見交換にどのような影響をもたらすかを,最近接発達領域の視座から調査した。対話型鑑賞では,参加者は,進行役の導きのもと,自由な思いや意見を共有する会話を通して,協働で作品理解をする。筆者は,大学の英語科目にて,対話型鑑賞手法を応用したコミュニケーション実践を取り入れている。学生は,自身が選んだ作品についての会話を進行したり,他者が進行する会話に参加したりする。2023年度秋学期の履修生による本実践の振り返り記述とインタビューの分析から,本実践は,多様な視点の存在を前提とした活発な意見交換や自分らしさの表現を可能にしていることがわかった。進行役,参加者の全員による相互支援に下支えされた学習機会において,学習者は,能動的に自身の思いや考えを伝えたり,積極的にコミュニケーションに参加することが明らかになった。

  • 「皇国ノ正音」の音声固有性/日本語表記法の有用性
    益田 かな子
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 90-108
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本論では,現行・訓令式ローマ字の原案である日本式ローマ字の実相を明らかにすることを目的とする。日本式ローマ字を提唱・定型化した物理学者・田中舘愛橘と田丸卓郎のローマ字国字論へと流れる思想的因子を検討した結果,本居宣長の「皇国ノ正音」に現れる音声固有性と,開国と同時に必要とされた日本語表記法としての有用性を含んでいたことが明らかになった。言語の根源は発音にあると考えていた田中舘と田丸にとって,日本語音は五十音の規則正しく美しい「語」の源であり,既存の漢字や仮名を含む「文(字)」は単なる道具であった。そのため,海外との学術交流を見据えていた彼等は,西洋標準であるローマ字を使用し,正しく日本語音を表記することを目指した。この目的を果たす表記法が日本式ローマ字だったのである。本論の検討結果が,今後の日本語ローマ字表記法の在り方を議論する際の一つの視座を提供する。

  • 大学の日本語教師養成課程担当教員の語りから見えるもの
    澤邉 裕子, 早矢仕 智子, 中川 祐治, 西村 美保, 杉本 香
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 109-129
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本論文は大学の日本語教師養成課程において地域と連携した日本語教育実習を企図し,実施してきた日本語教育実習担当教員4名の語りのナラティブ分析を通し,地域と連携した日本語教育実習の意義を明らかにすることを目的とした。各インタビューの中で見出された筋を個別のストーリーとして記述し,分析した結果,地域と連携した日本語教育実習の意義は,自らの専門性を生かし,社会に参加することのできる市民としての態度の育成であり,多様な学習者に向き合い,その個別性に寄り添いながら授業を実践する経験からの学びの獲得であると考察した。この結果を踏まえ,登録日本語教員の制度化により,実践研修の場として地域の日本語教室の場が選択されにくくなる可能性がある中,地域日本語教育に関心を持つ関係者との対話の場を作り,ことばの教育と社会の関わりという本質的な命題を多様な関係者らと問い直す機会を創出していく重要性について指摘した。

  • 団体運営に携わっている日本人参加者の認識と行動に着目して
    友宗 朋美
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 130-153
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    地域日本語教育の活動の場において対話活動が提唱されているものの,その実現が容易ではないと言われて久しい。そこで本稿では,地域日本語教育の対話活動を実施している団体の運営に携わっている日本人参加者7名にインタビューをおこない,対話活動導入から展開に至るまでの認識と行動のプロセスの解明を目的として,修正版グラウンデッド・セオリー・アプローチを用いて分析した。その結果,【現行の活動では対応できない課題】に気づき,新たな学びや話し合いを経て〈とりあえず,できるところから〉対話活動が導入されるプロセス,【対話を促す仕掛けの導入】や【対話活動の目的の細分化】を省察しながら〈ことばを超えた意義の実感〉を重ねることで,〈対話でつくる豊かな共生社会〉へと向かうプロセスが明らかになった。また導入・展開に重要な働きかけとして,他団体との連携,仕掛けと目的の一貫した省察,負担感の軽減などが有効であることを論じた。

  • 欲求-対象-社会的関係で生きる「現実の人間」のための言語教育
    包 蕊
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 154-166
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,学習者の存在を支える言語教育を実現するために,内容言語統合型学習(CLIL=Content and Language Integrated Learning)に注目した。これまでのCLIL研究で見られる内容と言語の分離の問題を取り上げ,マルクスの人間観と言語観を導入することにより,その問題の克服を試みた。マルクスの視点を基に,「現実の人間」としての学習者の存在を前提に,CLILの理論を批判的に再考察した。その結果,CLILの「内容」を学習者の欲求の対象として位置づけ,「言語」に学習者の個性的・創造的な「自分らしいことば」を培う視点を取り入れることができた。この「内容」と「言語」の新たな概念化により,本稿は,人間存在を支える言語教育としてのCLILの在り方を理論的に示す。

  • スキャフォールディングの分析を通して
    蔡 苗苗
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 167-189
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,研究計画書の作成というアカデミック・ライティング課題における4回のピア・レスポンス活動に焦点を当て,スキャフォールディングの分析を通してグループ間の相互行為の特徴を比較するとともに,グループ間の相違をもたらした要因を明らかにしたものである。その結果,グループ1は活動の1回目からスキャフォールディングが活発に行われており,その活発さは活動を積み重ねても一貫して持続している一方で,グループ2・3は一時的にスキャフォールディングの生成が沈滞していたが,活動の進行とともに後期に活発化していった様相が認められた。また,グループ内の相互行為を通した概念変化や問題解決が行われていることは共通しているものの,その過程におけるスキャフォールディングの種類と対象には明確な違いがあることが明らかになった。グループ間の相違が生じた要因は,活動後の振り返りシートとフォローアップインタビューデータをもとに分析した結果,学習者の主体性,予備知識・意識の違い,調査者の働きかけという3点が影響していることが分かった。ピア・レスポンス活動では,学習者の「協働的主体性」を引き出すことや,援助を受ける側の役割を重視し,活動中における学習者の不安などの潜在的な問題を認識した上で対応する必要があると示唆された。

  • 当事者の語りからの考察
    金 志唯(神谷 志織), 丸田 健太郎
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 190-210
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本研究は,モノリンガリズム(単一言語主義)が浸透する日本社会において,複言語・複文化主義に則った言語観は形成可能なのか,検討したものである。複言語・複文化環境で育った筆者らの相互インタビューによって語られたナラティブの分析・考察から,モノリンガリズムが支配する日本社会において複数言語話者として生きることの困難さを明らかにした。筆者らは自身の言語について,自分はその言語の「ホンモノ」の話者ではないという「ホンモノ幻想」を抱いていることがわかった。その背景にあるのは,言語の技術的側面に対する評価を受けること,そして言語の属性に対する社会からのまなざしを受けることの二点であった。こうした「ホンモノ幻想」は,複数言語話者である筆者らを〈見えないマイノリティ〉にしてしまうものであり,「ホンモノ幻想」を乗り越えるための言語教育実践や学習者像の捉え直しが求められることが本研究から明らかとなった。

  • 小学校英語教育における学級担任像の検討
    大石 海
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 211-230
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,小学校英語教育参考書にみられる音声指導言説を,批判的応用言語学(Critical Applied Linguistics: CALx)の観点から分析し,小学校英語教育における学級担任像を検討した。教育参考書内の記述を分類した結果,「母語話者志向」的な立場と「多様な英語の肯定」という立場が見出された。それに加えて,2つの立場を内包する「学習者モデルとしての学級担任」が見出された。「学習者モデルとしての学級担任」は,英語学習の姿勢や態度,英語の学習方略や学び方のモデルになることが求められている。「学習者モデル」という学級担任像には,現場で英語を指導する教師の心理的負担を軽減させ,教師が英語の授業を肯定的にとらえ得る可能性がある。それと同時に,英語の学び方を示す学習者モデルとしてデジタル教材や外国語指導助手を用いて英語を模倣させるこの立場は,母語話者志向的な態度を強化しかねない。本研究の最後に,学級担任のあるべき立場をCALxから援用した「豊かな話者」(resourceful speakers)という概念を用いて精緻化した。

  • 移住地の日本語学校における日本語学習及び教育についての語りを中心に
    近藤 弘
    原稿種別: 論文
    2024 年 22 巻 p. 231-252
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本研究では,非日系コロンビア人日本語教師ルスさんの日本語学習者及び教師としてのライフストーリーを記述・分析した。そして以下の三点について論じた。まず,1990年代のコロンビア日本人移住地の日本語学校では継承語教育から外国語教育へと移行していく中で,教育の担い手と日本語・文化の価値づけが変遷していたことである。次に,コロンビア日本人移住地では日系,非日系といった背景の異なりに関わらず,現地日本語教師が現地社会とそこで生きる人々との関わりを通して,人間教育としての意義を日本語教育に見出していたことである。最後に,ルスさんにとって日本語・文化を学ぶことは,人生の中で得る様々な経験や出会いとその意味づけにより,特別な意味を持つようになったことである。

フォーラム
  • [書評]神崎真実(2021)『不登校経験者受け入れ高校のエスノグラフィー』
    小幡 佳菜絵, 権野 禎, 小澤 伊久美
    原稿種別: フォーラム
    2024 年 22 巻 p. 253-260
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,神崎(2021)の要点を整理したうえで,市民性・批判性・生態学的アプローチという3つの観点を手がかりに,言語文化教育研究への示唆を検討する書評である。本書は,マイクロ・エスノグラフィーによって,不登校経験者「受け入れ校」2校における,教員たちの日常的実践を帰納的に分析している。具体的には,教育実践に日常的に揺らぎが生じつつも,教員たちの不断の営為・記号配置によって,生徒たちの「居場所」が動的に生成される過程が明らかにされている。「場のデザイン」という方法論に根ざす,受け入れ校のこのような支援のありようは,市民性・批判性・生態学的アプローチの考え方を実践へと有機的に導く際の実例として,言語文化教育研究に示唆を与えうる。また,本書は,生徒の学力・能力保証を追求する学校的機能と,自己充足的な時間によって特徴づけられる居場所的機能が共存しうる,生徒全体に対する学校全体の支援の具体的実像を,文化心理学の視角から呈示している。

  • [書評]Paula Kalaja, Sílvia Melo-Pfeifer(編)Visualizing multilingual lives: More than words
    鈴木 栄
    原稿種別: フォーラム
    2024 年 22 巻 p. 261-272
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,Paula Kalaja, Sílvia Melo-Pfeifer(編)Visualizing multilingual lives: More than words(2019, Multilingual Matters)の書評である。本書は,外国語学習に携わる研究者たちが,研究方法として革新的なビジュアル・データを使用した研究をまとめたものである。第一部は,「多言語における自己」(多言語環境にいる学習者と彼らの言語に関する研究),第二部は,「多言語学習者(学校,大学,留学などの異なる環境において英語か日本語を学ぶ英語・日本語以外の母語をもつ学習者)のアイデンティティ」,第三部は,「多言語教師教育(第二言語あるいは外国語教育に携わる教員養成に関する研究)」をテーマとしている。本稿では,掲載されている各研究において使用されるビジュアル媒体とビジュアル・データを使う研究方法に焦点をあて,第二言語あるいは外国語教育研究におけるビジュアル・データ使用の利点と課題,および,ビジュアル・データを使用する外国語教育研究の今後の展望について論じる。

  • 新たなアプローチと課題の模索
    住田 哲郎, 山中 司, 牛窪 隆太
    原稿種別: フォーラム
    2024 年 22 巻 p. 273-285
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿は,2024年2月に開催された大学コンソーシアム京都の第29回FDフォーラムの第5分科会「ことばの教育はいかに変わる“べき”か」における議論を概観し,言語文化教育の今後の方向性と課題について考究するものである。言語文化教育は異文化理解とグローバルな視点を育成するために重要であるが,生成AIの進化により教育手法が大きく変わりつつある。例えば,AI技術による自動翻訳や言語生成は,従来の授業形式に依存せずに個別にカスタマイズされた教育を実現している。分科会では,英語教育を専門とする研究者と日本語教育を専門とする指定討論者が生成AI技術が提供する教育ツールの可能性とリスクについて討論を行った。その上で一般参加者を交えた質疑応答では,評価,教員の役割,AIツール使用の影響など,多角的な観点から意見交換が行われた。本稿では,まず当日の議論をリライトしたものを記録として示す。そして,二名の登壇者(山中司,牛窪隆太)とコーディネーター(住田哲郎)それぞれがフォーラムの開催3か月後に行なったふりかえりを記述する。最後にそれらを踏まえて,コーディネーターが全体を総括することで,言語文化教育への生成AIの導入をめぐる論点を課題として示す。

  • その多様なあり方をめぐって
    家根橋 伸子, 山本 晋也, 小口 悠紀子, 帖佐 幸樹
    原稿種別: フォーラム
    2024 年 22 巻 p. 286-305
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿では,言語文化教育研究学会第9回年次大会フォーラム『「地域日本語教育」の「地域」について考えてみませんか?』での議論を基に,「地域日本語教育」という用語で一括りに語られがちな地域における日本語教育について,「地域」ということばの持つ曖昧さ自体から問い直しを行った。筆者ら各自の「地域日本語教育」の捉え方・向き合い方に関する調査・実践報告と論考を述べ,同テーマの年次大会フォーラムにおけるディスカッションでの議論を併せ,多様な「地域日本語教育」のあり方について総括を行った。次にこの総括を踏まえ,都市社会学からの「地域」概念分類を援用することで,言語教育と地域社会形成が交差するものとしての地域日本語教育のあり方を中心に,その意義と問題について検討した。最後に,改めて地域における日本語教育のあり方について考察し,実践者・研究者が「地域」とは何かを問うていくことの重要性を主張した。

  • 産学民のまちのひとの羅生門的手法による語り
    佐野 香織
    原稿種別: フォーラム
    2024 年 22 巻 p. 306-321
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿では,まちに住み,よりよいまちを考え動いている産学民の多様な人々が,「何かが起こり生まれた」と感じ口々に語っていた一つの出来事を取りあげる。本稿で記述するのは,日本の地方都市で,Co-ya(仮名:団体名および場所名)が生まれる黎明時の実践の記録である。本稿の目的は,実践を共有するストーリーとして描き,次の実践研究を考えるリソースとなるようなストーリーの記録とすることである。よりよいまちをめざして,かかわり,動いている多様な人々の間で,どのようにCo-yaが生まれたのか,ストーリーとして描きだすことをめざした。そのために,羅生門的手法を用いて,6名の語りそれぞれから「どのようにCo-yaが生まれたのか」を多面的に記録した。

  • NHK番組アーカイブスを用いた表象研究
    古屋 憲章, 古賀 万紀子, 小畑 美奈恵
    原稿種別: フォーラム
    2024 年 22 巻 p. 322-337
    発行日: 2024/12/23
    公開日: 2025/01/18
    ジャーナル フリー

    本稿では,テレビ番組が日本語教育をどのように描いてきたかを当時の社会的文脈をふまえて分析し,テレビ番組が一般大衆に対して日本語教育に関するどのようなメッセージを発してきたかを考察した。NHK番組アーカイブスで選定したテレビ番組33本を分析した結果,番組で取り上げられる学習者は,1960年代は留学生,1970年代は中国帰国者子女,1980年代は国内外のビジネスピープルや労働者,1990年代は日系人,2000年代は看護師候補者,2010年代は外国人労働者子女と,当時の社会情勢や政策に応じて変遷していた。テレビ番組はその時代の関心が高い学習者層に焦点をあて,個人や特定の教育機関における学習/教育の困難や限界を描きだすことで,一般大衆に対して次のようなメッセージを発してきたことがわかった。①日本語教育の現状や課題を自分たちの身近な課題として捉えるべきである。②政府・自治体による施策として日本語教育を推進すべきである。

feedback
Top