言語文化教育研究
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特集:ローカルガバナンスと言語教育
大会シンポジウム:講演記録
  • 徳田 剛, 岡 孝則, 大田 ナム, 権代 祥一, 山本 晋也, 松尾 憲暁
    原稿種別: 大会シンポジウム:講演記録
    2025 年23 巻 p. 1-31
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,2025年3月1日にKDDI維新ホール(山口県)にて開催された言語文化教育研究学会第11回年次大会の大会シンポジウムの記録である。当日の議論を再現できるよう,一部音声の不明瞭な点を除き,可能な限り音声記録に忠実に書き起こした。今改めてその記録を読み返すことで,地域社会におけることばの教育の現在と未来,そして,それにかかわる私たちのあり方を考える際の一助となることを期待する。

Regular Contents
論文
  • 情勢不安下における言語文化教育の意義の考察
    水戸 貴久
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 32-54
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,2021年クーデター後のミャンマーにおける日本語教育の現状を,現地の日本語教育関係者の語りと各種データをもとに分析した。分析の結果,ミャンマーではクーデター以降,外国企業の撤退や失業者の増加,徴兵制の開始などによる社会不安の中で,若者は一刻も早い出国を目指し,日本語学習を生き抜くための手段として位置づけていることが明らかになった。また,日本側の人材需要と現地の出国希望が結びつき,日本語学校では日本語能力試験合格を優先した教育が広がっていた。その一方で,日本語教師の国外流出により教育の質と担い手不足が深刻化していることも浮き彫りとなった。ミャンマーの日本語学習者にとって日本語は「生き延びる力」であると同時に,このような現状はクーデター前に目指した教育目標と逆行し,現地の教育関係者に葛藤をもたらしていた。こうした状況を踏まえ,先行研究と照らし合わせることで,情勢不安下の言語文化教育の役割とは,困難の中で生を繋ぐ人々の希望を支える営みであると結論づけた。

  • 教師がモデル・ストーリーから脱却するために
    山田 香織
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 55-76
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,非漢字圏から日本に留学する若者が増加しているが,彼らについて,具体的な将来像がないという傾向や教師とのキャリア意識のずれが指摘されている。しかし,これを言説化する前に彼らの声を直接聴く必要があるのではないかと考えた筆者は,ベトナム人学習者を例に「日本語学校卒業生が思い描き歩んだキャリアはどのようなものであり,その中で日本への留学という経験はどのように意味づけられているのか」との研究課題を設定し,元留学生へのライフストーリー・インタビューを行った。その結果,どの協力者にも幼いころからの将来の夢があるもののそれは日本と直結するものではないということ,自身の主観的キャリアの変容に留学の中心的な意味を見出しており,必ずしも「日本語能力を道具的に活かしたい」とは考えていないことがわかった。以上のことから,教師が持つ学習者像の再考が求められることや,「人生から日本語学習を視る」という視点が長期留学生にとっても有効であることが示唆できるとした。

  • 言語間の境界線の制約を乗り越えることを目指した対話の実践から
    李 思儀
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 77-98
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,心理的援助の枠組みで発展してきたナラティブ・プラクティスを,言語文化教育における社会的言語実践として再定位する可能性を探った。分析対象となった実践では,対象者と実践者が対話的関係性の中で,言語間の境界線の意味を問い直し,その制約を乗り越える可能性を開いていく過程が明らかになった。語り手の内面の変容を目指すのではなく,語りを支える社会的言説や関係性を再構成する営みとしてナラティブ・プラクティスを捉えた。そのような実践には心理的支援の専門性ではなく,語りを共に再構築していく倫理的構えが求められる。言語文化教育実践者が,共生社会の一員としての自覚と批判的自己省察の姿勢を持つことによって,語りへの関与が可能になる。本研究は「治療手法/実践方法」という制度的区分を越えて語りの場をひらく営みとして,ナラティブ・プラクティスを公共的かつ日常的な実践として構想する視座を提示した。

  • 学習者にとってのスピーチ大会での学びを幅広くとらえるために
    末松 大貴, 細井 駿吾, 山田 茜
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 99-121
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    中国における日本語のスピーチ大会に焦点を当てた研究は,「学習者ニーズ」を調査するという観点が中心であった。本研究は,近年の日本語教師の専門性に関する議論の中で見られる,「省察(reflection)」による動態的な専門性の考え方に基づき,中国でスピーチ大会指導を経験した3名の教師で専門性について省察する活動を行った。その中で「学習者に合った指導」を挙げていた2名に注目し,SCATによってその認識を詳細に分析した。その結果,2名の認識には,スピーチ大会指導中の経験だけでなくその前後の経験が関わっていたことが明らかとなった。この結果と,中国における日本語のスピーチ大会の現状および「学び」の捉え方に関する先行研究を踏まえ,中国の日本語スピーチ大会指導における専門性とは,学習者の学びの幅を広く捉え,スピーチ大会の前後の経験を踏まえて専門性について省察し,構築しようとする態度のことであるということを提唱する。

  • 「媒介者としての教師」像の協働構築
    広瀬 和佳子, 熊田 道子
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 122-140
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,教師同士が実践研究として授業実践を振り返り,対話する場を持つことで,自身の実践を捉え直す概念として「媒介者としての教師」という新たな教師像が協働構築された事例を検討した。日本語教師である第一著者と第二著者が,第二著者の授業中の具体的な出来事を基に,相互に実践を振り返る活動を継続して実施した。対話によって第二著者の実践知が言語化され,第一著者がそれを自身の解釈とともに記述することで,第二著者は教室での自分の役割が「媒介者としての教師」に変化していたことに気づく。「媒介者としての教師」をめぐる対話は,第一著者,第二著者の双方にそれまで無自覚だった教育観や教師観を言語化させ,自身の実践の基盤に対する省察をもたらした。このような協働省察の過程を分析し,教師に深い省察を促す実践研究の意義と可能性を議論した。

  • 小学校英語教育実践のクリティカルな分析
    大石 海
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 141-159
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,小学校英語教育実践を,批判的応用言語学(Critical Applied Linguistics)の観点から検討した。その際,学級担任を「豊かな話者」(resourceful speakers)という概念を用いて捉え直すことと,そうした「豊かな話者」としての教師像を,アクティヴ・インタビューで授業実践者と共有することで,小学校英語教育という文脈に,批判的応用言語学や「豊かな話者」という概念からアプローチする可能性を探究することを試みた。研究参加者である2名の小学校教師を「豊かな話者」と捉えることで,教室内の多様な英語の可能性に注目することができた。また,「豊かな話者」という見方をアクティヴ・インタビューによって2名の教師と共有することで,母語話者志向的な語りとは異なる語りが生成されていった。さらに,児童の話す言葉も教室空間において聞かれるべきものとして捉えられていることが明らかとなった。2名の教師は,教師の専門性も生かしながら,彼女ら/彼らの話す英語を肯定的に受容しようとしていることが分かった。

  • カリフォルニア早期リテラシー学習の指導枠組みに着目して
    金箱 亜希
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 160-182
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,継承語教育における初期リテラシー指導の課題に着目し,アメリカ・カリフォルニア州で実践されている早期リテラシー教育プログラム「California Early Literacy Learning(CELL)」の理論と実践を分析することで,主体的な学びを引き出すことと読み書きを段階的かつ体系的に指導することを,統一的に行う方法を検討することを目的とする。CELLの開発者スウォーツの著作や研修動画等の分析を通して,CELLは,対話を通した読み書きの相互的・循環的な学習プロセス,意味のある活動の文脈の中でのスキルと読書行動の統合的な指導,子どもの既有知識と協同学習を活かした活動設計といった特徴的な指導が展開されていることが明らかになった。主体的な学びの点において限界もみられたが,読み書き学習の不足を補うことを意図した補完的な読み書き指導に偏りがちな日本の継承語教育にとって重要な示唆が得られた。

  • 中国の大学における実践事例をもとに
    符 暁旭
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 183-204
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究では,翻訳ワークショップを採用した翻訳教育を,中国のA大学日本語専攻の大学生を対象に実施した。翻訳ワークショップを通じた訳文の変化と学生のスコポス意識の関連性について明らかにするために,学生が作成した訳文を対象に,翻訳プロセスに関するデータと合わせ,質的記述的に分析を行った。その結果,スコポス意識は訳文の質に直接的かつ肯定的な影響を与え,質の高い訳文を作成するには学生のスコポス意識が重要であることが明らかになった。本研究の結果を踏まえ,今後の翻訳教育においては,学生のスコポス意識の育成の重要性とその育成方法としての実践的な翻訳ワークショップの有効性が示唆された。

  • 日本語教師の労働をめぐるインタビューの会話分析
    勝部 三奈子
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 205-223
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究はある一人の日本語学校の非常勤講師がインタビューの中で,日々の授業準備を自らの生活との関連の中でどのように意味づけているのかを,インタビューの構築プロセスとともに分析し記述したものである。具体的には,筆者が行ったインタビューの中の「無給の授業準備」をめぐる質問と回答の場面を,会話分析を援用して分析し記述した。分析の結果,インタビューの内容と構築プロセスの2つの側面から次のことが主に明らかになった。内容面では,「介護者」であることを余儀なくされる家において,授業準備を行う間は「日本語教師」であることができ,そのことが介護生活での拠りどころになっていることが明らかになった。また構築プロセスの側面からは,介護生活の拠りどころとして語られることで,無給の授業準備は主体的に選択された行為とされ,結果としてインタビューの中では無給の問題が矮小化されていることが明らかになった。

  • 「日本語教育の参照枠」の問題点と可能性
    岩内 章太郎, 三輪 聖, 稲垣 みどり
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 224-238
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿の目的は,ミランダ・フリッカーのいう「証言的不正義」がことばの教育においていかに働きうるのかを,複言語・複文化主義の成立過程とその受容に注目することで,明らかにすることである。複言語・複文化主義という理念そのものは,むしろ「証言的正義」の実現に寄与すると考えられるが,それが言語教育の実践の現場に落とし込まれたり,日本の教育に輸入されたりする際に(「日本語教育の参照枠」),証言的不正義が働く可能性は十分にある。なお,本稿は,個別的な事例の実践報告ではなく,ことばの教育において働きうる証言的不正義の本質的な類型の一部を明らかにすることを目的とする,ということを付記しておきたい。

  • 示し,向き合い,つなぐ協働的オートエスノグラフィー
    佐々木 陽太, 中原 瑞公
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 239-256
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究の目的は,「英語教育とは,英語を教えることである」という既存のあり方を超えた英語教育のあり方を探索することである。英語教師の資質や能力についての議論は,これまでほとんど画一的で技能的側面に偏重してきていた。こうした状況において,「英語教育とはどのようなものか」といった根本的な問いはほとんど問われないままになっている。本研究では,2人の英語教師が「英語教育とは何をすることか」をはじめとする問いに応答する形で協働的オートエスノグラフィーに取り組み,支配的な英語教育のあり方に代わるオルタナティブ・ストーリーを提示することを試みた。それに加え,オートエスノグラフィーを語り聴き合う機会を通して,私たちは単独では得がたい気づきを得ることができた。本研究は,英語教育のあり方を多面的かつ動態的に捉え直し,教師をはじめとする英語教育の関係者をより開かれた議論へと招く。

  • 中高生の語りにみる教育的意義の検討
    寺村 優里
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 257-271
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本研究は,中高生を対象とした言語意識アプローチに基づくワークショップ(WS)を通じて,言語教育において言語意識が学習者の内面的変容を媒介する過程を質的に検討した。ヴィゴツキーの「媒介」概念を理論的枠組みとし,再帰的主題分析により「他者との関わり」「情動」「言語に対する自覚性・随意性」の3つの観点から語りの分析を行った。その結果,言語意識の形成は学びの共有や言語的背景の異なる学習者との接触による内省,情動的経験による自己肯定感の高まり,言語構造や言語的多様性への気づきを促した。言語意識は,単なる言語に関する知識の獲得にとどまらず,学習者の感情と思考の両面をつなぎ,抽象的で高度な思考へと導く教育的意義をもつ可能性が示唆された。

  • 社会文化理論に基づく内言の調査から
    加藤 伸彦
    原稿種別: 論文
    2025 年23 巻 p. 272-293
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿では,社会文化理論に基づき,日本語中級後期レベルの読解授業時の学習者の日本語による内言を,思考リスト法を用いて調査した結果を報告・考察した。社会文化理論の発達観では,内言は思考のための重要な心理的道具,かつ,人間を新たな発達段階へ導くものとされており,その解明が目指されている。本稿では,学習者の内言について,以下の3点,具体的には使用頻度,使用目的,具体的な内言について調査を行った。調査の結果,授業中の活動ごとに内言の使用頻度が異なること,学習者ごとに内言の使用頻度が異なること,授業中の活動ごとに内言の使用目的が異なること,主に単語を内言として使用していること,日本語による内言を使用し思考していることが明らかとなった。この結果は,教育実践への貢献だけでなく,日本語教育・日本語学習および学習者の日本語の発達を社会文化理論の枠組みに位置づける上で重要な理論的貢献を果たすものである。

フォーラム
  • [書評]大木充・西山教行(編)『CEFR-CVの「仲介」と複言語・複文化能力』
    小柴 裕子
    原稿種別: フォーラム
    2025 年23 巻 p. 294-300
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,大木充・西山教行(編)『CEFR-CVの「仲介」と複言語・複文化能力』の書評である。同書は,2018年および2020年に公表されたCEFR-CVをふまえ,CEFR-CVがクローズアップする「仲介」を応用した具体的な取り組みや,複言語・複文化能力についての論考をまとめたものである。同書を構成する9つの論考は,日本語教育を含む外国語教育の視座から,CEFR-CVを検討している。本稿では,日本語教育に携わる評者の視点から,各章を紹介したうえで,同書の意義と今後の展望について述べる。

  • [書評]牛窪隆太,福村真紀子,細川英雄(編著)『ことばと公共性―言語教育からことばの活動へ』
    末松 大貴
    原稿種別: フォーラム
    2025 年23 巻 p. 301-318
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,牛窪隆太,福村真紀子,細川英雄(編)『ことばと公共性―言語教育からことばの活動へ』(2024年,明石書店)の書評である。本書は,様々な立場でことばの教育や研究に関わる15名の執筆者らが「公共性」という観点からそれぞれの実践や経験を考察している。このことを通して,従来専門家の領域として考えられてきた「言語教育」を,すべての人に関わる「ことばの活動」として考えることの意義や可能性を,読者に問いかけている。本稿では,各章について評者の考えも含めて内容をまとめ,本書の意義と今後の展望について,評者の考えを示す。

  • 佐世保市の実践から考える
    佐野 香織, 石田 聖, 中尾 大樹, 福田 渚
    原稿種別: フォーラム
    2025 年23 巻 p. 319-328
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本記述は,私たちが言語文化教育研究学会第11回年次大会において行ったパネルセッション『「今よりちょっといいまち」を実現することば「地域日本語」のデザイン―「まちづくり」「コミュニティデザイン」「エリアマネジメント」の主語を通して考える』で,会場とのディスカッションで得た「問い」をもとに,パネリストである私たちが考えを巡らし,ふり返った記述であり,「声」である。「まち」に生きる人はもちろん,地方地域の実践者や行政関係者,企業関係者等との共有をめざすものである。パネルセッションは,私たちが持つ複数の立場,考えの記述はそれぞれでありながらも,「いまよりちょっといいまち」について,「地域日本語」という視点から考えることで,産・官・学・民がともに考える機会ともなった。「地域日本語」と表現されているわたしたちの「まち」のことばをバウンダリーオブジェクトとして,本記述から多様な人々と対話をしていきたい。

  • 日常のレイシズムに対する学習者の語りの分析をとおして
    中原 瑞公
    原稿種別: フォーラム
    2025 年23 巻 p. 329-348
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    近年,英語教育におけるアンチレイシスト教育(レイシズムに抗う人を育てる教育)というテーマが重要度を増している。しかし,現状では学習者を対象としたデータが不足しており,日本の英語教育においてアンチレイシスト教育実践の方向性を検討することが難しくなっている。本稿では,学習者を対象としたインタビュー調査をとおして,「レイシャル・マイクロアグレッション(悪意なく日常的に繰り返されるレイシズム)の実例を学習者はどのように受けとめるのか」という問いに答えた。この問いに答えることにより,本稿は,日本の英語教育においてアンチレイシスト教育実践を考えるときに実践者にとって参照可能な「リソース」としての知見を提供することをめざした。具体的には,学習者の語りの分析をとおして,「行為者の意図と受け手への悪影響を分ける」「加害可能性や特権から自己のコミュニケーションを振り返る」など,実践を構想するうえで重要と考えられる着眼点を示した。

  • 多文化共修の学内環境整備に向けて
    中川 康弘
    原稿種別: フォーラム
    2025 年23 巻 p. 349-358
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    文化的多様性を活かし,日本人学生と留学生の共修を学内の日常風景とするにはどうしたらよいか。そんな問いを出発点とする本研究では,留学生の日本語クラスにサポーターとして参加している2名の日本人大学生に焦点をあて,文部科学省が掲げた「多文化共修」の土台作りに必要な課題を浮き彫りすることを目的とした。調査方法には半構造化インタビューを取り入れ,日本人大学生2名に,学部留学生の葛藤を示した論文の感想を求めた結果,教員の明示的な配慮や同じ国の留学生が無意識に集っていることに閉鎖性を感じる点などが,日本人学生と留学生の関係の深まりの停滞に影響を与えていることがわかった。そうした事実は,日本人学生と留学生の二分化が前提にあり,不可視化された権力再生産の機会になっていた。よって,両者を隔てる「境界」の存在がこれからの多文化共修の障壁になるという結論が導き出された。

  • チームエスノグラフィーによる探索的調査
    中井 好男, 藤阪 希海, 塚本 薫平, 高 智子
    原稿種別: フォーラム
    2025 年23 巻 p. 359-380
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,沖縄県のオルタナティブスクールにおける調査を通して,チームエスノグラフィーの「羅生門的現実」を検討するものである。公教育の限界を示すかのようにオルタナティブスクールの存在感が増す昨今,フォーマル,ノンフォーマル,インフォーマルを問わず教育システムの包括的な改革が喫緊の課題となっている。障害者家族,フリースクールのボランティア,外国につながる日本語教育実践者,発達障害当事者という多様な立場をもつ筆者らがフィールドワークを実施し,学びの様相と意義,およびその課題を多角的に検討した。経験とフィールドでの現実との往還を通して描かれた4名のエスノグラフィーには,人間性のぶつかり合いである教育の姿とニーズを介したケア関係に基づく教育の課題が示されている。それぞれの視点から記述された「羅生門的現実」を通して,教育を理解し,現場を改善しようとする営みにおけるチームエスノグラフィーの方法論的可能性について議論する。

  • LISELL-Bプロジェクトから見る再文脈化への示唆
    南浦 涼介, 細野 花莉, 大岡 慎治, 小國 晴香, 山本 亮介
    原稿種別: フォーラム
    2025 年23 巻 p. 381-400
    発行日: 2025/12/21
    公開日: 2026/01/18
    ジャーナル オープンアクセス

    本稿は,外国人児童生徒教育を担う教師・支援者教育の課題を,日本国内の研修16本の分析と米国LISELL-Bプロジェクトの事例比較を通して検討した。まず研修は施策主導の支援・ケア志向が多数で,教育目標を再定義し資源的視点で学力を伸ばす試みは殆ど見られなかった。次に検討したLISELL-Bは大学・学校・家庭・地域の協働を基盤に,科学探究と言語発達,アイデンティティ形成,教師の主体的専門性開発を一体的に実現した点が特徴であった。これを踏まえ,異なる専門の大学院生が日本の現場への再文脈化を討議し,①欠損的研修構造の乗り越え,②研究者依存を超えたボトムアップ型実践,③多様な子どもの共通面に立脚した教科学習デザイン,④機能言語学的視点の導入の必要性を抽出した。ここからLISELL-Bプロジェクトが文脈出発型目標再定義のアプローチの重要性とその教師教育としての示唆を示した。

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