言語文化教育研究
Online ISSN : 2188-9600
ISSN-L : 2188-7802
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特集:コン_ヴィヴィアリティと言語文化教育
全体趣旨
シンポジウム
フォーラム
論文
  • 「ことば観」の変容を捉える実践記録から
    狩野 裕子, 井出 里咲子
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 32-54
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    近年日本の外国籍住民が増加傾向にあるなか,家族を帯同して生活する定住志向の外国籍住民が増加している。外国籍家族にとって日本の保育園,幼稚園,こども園といった場(以下,保育園)は,地域社会参加の入口であり,様々な人が出会う公共空間である。小・中学校では自治体やNPO,ボランティアによる通訳翻訳や日本語支援がある程度整備されている。これに対し,保育園での外国籍家族支援には限りがあり,現場ではさまざまな問題が生じるとともに具体的な解決策が模索されている。本稿は,茨城県つくば市を拠点に実施中の参加型アクションリサーチ(PAR)の実践研究から,保育の場でのかかわりと対話を促進するコミュニケーションのしかけづくりについて報告するものである。また活動の経緯においてさまざまなアクターの「ことば観」の解きほぐしがなされたことを示しつつ,ことばの「道具性」がコンヴィヴィアルな公共空間を拓く可能性について論じる。

Regular Contents
論文
  • 教室談話におけるその種類
    加藤 伸彦
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 55-73
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本稿の目的は,社会文化理論の観点から,日本語教室における母語による「プライベートスピーチ(private speech:以下PS)」の機能を明らかにするために,PSの形式及び前後の文脈を基に,母語によるPSの分類を提案することである。その目的の下,タイ人・ベトナム人技能実習生が学ぶ日本語教室の教室談話のデータを22時間分収集し,母語によるPSの分類を行った。そして,母語によるPSの種類として,他者発話の直訳,母語による読み上げ,理解の確認のための翻訳,理解のための翻訳,翻訳を含む理解の表出,目標言語の代替,問題解決のための思考の表出,自身の誤りに対する認識の表出,自身の発話を導くための思考の表出,自身の理解を促すための思考の表出,事物や事象に関する思考の表出,事物や事象に関する感情の表出の12種を提案し,そのPSが発せられた理由や学習への影響を考察した。

  • 留学生によることばの説明実践に着目して
    李 頌雅
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 74-97
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究では,日本の大学におけるチューター活動に着目し,日本語学習者である外国人留学生がチューターにことばを説明する実践に焦点を当て,その実践に見られる連鎖上の特徴,使用された言語的・非言語的リソースや受け手の返答を分析した。約27時間の会話データを分析した結果,以下の特徴が見られた。(1)チューターによる質問,ことばの繰り返し,「知らない者(K-)」である認識的ステータスを表す発話やことば探しによって実践が開始することが観察された。(2)留学生が自分なりの説明を行うほか,日本語の概念との比較や英語への切り替えを通して説明を行っている。説明上の困難が生じた場合,受け手であるチューターが他者修復を行い,それを手助けとして利用し,留学生が説明を完成させることが見られた。(3)留学生がことばの説明実践を通して,自身の専門分野や国の社会文化に対してエキスパート性を示している。一方,チューターは説明の受け手として参与し,その説明を支持することが観察された。留学生によることばの説明実践では,新参者(novice)と熟達者(expert)の位置付けの流動性が見られる。つまり,ことばの説明実践は言語・文化学習の双方向性を可能にする実践だと考えられる。

  • ある授業参観者の変化と気づきからの具体的提案
    杉原 颯太
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 98-110
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,筆者による約100時間の授業参観実践の経験から明らかとなった,言語授業参観のための授業参観の4観点を具体的に提示した。4観点には,(1)授業の計画された活動に注目する「計画的活動」,(2)授業の授業目標達成のための活動に注目する「目標達成」,(3)授業において偶発的に発生する出来事に注目する「偶発的活動」,(4)授業において安心できる人間関係や居心地の良いクラスを作ろうとする活動に注目する「ケア」,がある。本稿はこれら4観点を,筆者が実際に辿ったその大部分を偶発性に支配される実践のエピソードから記述し,さらに,理論的背景から説明した。本稿が示した4観点は言語授業参観において有効な観点であると期待される。

  • CCBIに基づく日本語教育実践としての産学連携プロジェクトにおける学び
    三代 純平, 神吉 宇一, 米徳 信一
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 111-132
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    社会を批判的に捉え,よりよい社会づくりを志向するクリティカルアプローチの一つとして内容重視の批判的言語教育(Critical Content-Based Instruction: CCBI)が議論されている。本稿は,CCBIに基づく日本語教育実践としてカシオ計算機株式会社と武蔵野美術大学が産学連携で取り組んだプロジェクトを取り上げる。本プロジェクトでは,学生と企業が協働でインクルーシブな社会を創造する活動を取材し,社会課題の解決へ向けたオンラインイベントを開催した。このプロジェクトを通じて学生たちが何をどのように学んだのかを考察することが本稿の目的である。考察から,学生たちは【テーマを「自分ごと」にするプロセス】としてプロジェクトを捉えていることがわかった。そのプロセスには,大きく分けて【過去の自分の経験とテーマを結びつける】段階と【現在の自分の経験を拡張する】段階がある。本稿でそのプロセスの詳細を論じることで,クリティカルアプローチの日本語教育実践には,①他者との出会いのデザイン,②社会実践としてのデザインという2つのデザインの視点が求められることを主張する。

  • 留学のプッシュ・プル要因との関連から
    野畑 理佳
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 133-152
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    現在,国内においてアジア非漢字圏からの留学者が急増し,日本語教育機関から専門学校への進学を選択する学習者の割合が増えている。その理由として,日本語能力が低く学部課程進学への準備が間に合わないといった報告がある。本研究では,アジア非漢字圏学習者のうちベトナムの学習者にインタビュー調査を行い,なぜ専門学校へ進学したのかについて,日本留学のプッシュ・プル要因と関連づけてうえの式質的分析法により分析した。プッシュ・プル要因は多様であるが,来日後には現実的な選択により理想自己の修正が迫られ,大学ではなく専門学校を進路として選択するケースや,日本での就業経験というキャリア形成の近道として専門学校が選択されるケースが見られた。質的調査により,日本語能力だけではない個々の留学に至るまでのプロセスおよび社会的環境から専門学校を選択する要因が明らかとなった。

  • 母語話者を含む多様な対象者と向き合ってきた教員の語りから
    志賀 玲子
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 153-170
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    学習者の多様化に伴い一層の現場対応力が日本語教師に求められると同時にフィールドを跨いだキャリア形成にも注意が向けられている。また,日本語教育学を多くの人に開かれた存在として据え,日本語教育の知見を利用した活動の対象者として母語話者を含む動きも出てきている。日本語教育が関わる場は広がっていると言える。本稿は,様々なフィールドを体験し多様な学習者と向き合う中で,非母語話者のみならず母語話者への働きかけをも行った経験をもつ日本語教員の,自身の姿勢や価値観の変容等についての語りを記したものである。語りから,学習者を多面的に捉える姿勢の獲得により,フィールドや対象者が変わろうとも現場対応がスムーズにできるようになった様子が明らかになった。学習者を社会的な存在として捉え,自らの理念を守りつつも学習者に寄り添い現実的な対応をする姿も認められた。また,開かれた日本語教育学に携わる中で,社会的な視野や見地を深めていく様子も語られた。

  • 求人情報に示された属性と条件をめぐって
    牛窪 隆太, 秋田 美帆, 徳田 淳子
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 171-184
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本稿は日本語教師の求人情報を取り上げ,日本国内・海外の民間日本語学校において教師に求められる属性や条件について応募条件欄を分析した結果を報告するものである。調査の結果,対象とした求人情報1,485件のうち,13.8%の応募条件に「日本国籍保持者」「母語話者」「日本人」が見られることがわかった。また,使用語について計量テキスト分析を行った結果,民間日本語学校で専任講師として働く上では,海外よりも日本国内の教育機関で,条件として「四年制大学卒資格」「専任経験」「クラス担当経験」が多く求められていることが示された。このことから日本語教師の資質論においても,国籍や母語,「日本人」といった属性を切り離して検討する必要があること,また,若手が新規参入するためには,資質論においてもキャリアパス上の変遷を考慮に入れる必要があることを指摘した。

  • 中堅段階で日本語教師を一旦離れたI氏のキャリア形成のプロセス
    松尾 憲暁
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 185-201
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究では,タイの教育機関で6年半日本語を教えた後,日本語教師以外の職業に転職したI氏に対してインタビューを実施し,キャリア形成プロセス及びそのプロセスにおける日本語教育観の変容を分析した。複線径路等至性アプローチによる分析の結果,I氏は社会人の学習者に対して教える中で,「社会のことを知らない」という想いが生じ,それが教えることへの不全感に繋がっていた。その不全感が転職を促したが,その後日本語教育以外の仕事に従事する中で不全感は解消されていき,I氏は再び自身の生活と関わる範囲で主体的に日本語を教えるようになっていく。つまり,転職はI氏にとって日本語教師であり続けるために必要な行為であった。そして,転職というキャリアにおける重大な選択に学習者の存在が影響を与えていたことは,日本語教育が相互的な営みであり,教師自身の「生き方」にも大きく関わる可能性があるということを示唆している。

  • ライフストーリーに見られるナラティブ・アイデンティティを通して
    藤原 京佳
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 202-221
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本研究は,国家試験に合格したEPA介護福祉士のライフストーリーに見られるナラティブ・アイデンティティを通して「自己構成」としてのキャリアを理解するものである。自己構成としてのキャリアについては「キャリア構築理論」を援用した。研究協力者のライフストーリーからは【親の期待どおりのわたし】,【新しい関係性の中で生きるわたし】,【日本で働くわたし】,【同期の支えの中でがんばるわたし】,【やすらぎ苑で働くわたし】,【自分が決めた介護士としてのわたし】,【越境を経験したメンターのわたし】,【インドネシアと日本どちらでも自由に暮らせるわたし】が読み取れた。一方で,研究協力者はEPA候補者・介護福祉士をめぐるモデル・ストーリーとは距離をとり,独自のストーリーを筆者との間で構築していた。「外国人材」と呼ばれる人々が増える中,受入れ社会は,そうした人々一人ひとりを「その人」として見つめていくことが求められる。

  • 国際交流協会Aの事例から
    横山 りえこ
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 222-240
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    多様なエスニシティの人びとが国内に増加し,我々の生活に密接に関わる地域日本語教育が益々重要となることが予想されることから今後,国(マクロ),行政(メゾ),個人(ミクロ)の多層的連携がより一層望まれる。本稿では,マクロとミクロをつなぐメゾの立場に注目し,ある国際交流協会が日本語教室を運営する中で直面した課題とその対応を明らかにするとともに,課題解決に重要な要素を検討することを目的とする。SCATを用いてそれら要素を分析した結果,(1)問題を「明確」にする力,(2)解決・改善のための「柔軟さ」,(3)教室内外の関係性構築といった「人的な環境調整」,(4)教室活動等を定期的に見直すといった「構造的環境調整」が課題解決に重要だと示唆された。本稿がこれからの多文化共生社会の形成に向けた多層的連携の意識付けとなり,地域日本語教室を運営する行政(メゾ)らにとって課題解決のための有用なヒントとなれば幸いである。

  • ナラティブ・セラピーに基づく言語教育実践の可能性
    高松 知恵美, 原 伸太郎
    原稿種別: 論文
    2023 年 21 巻 p. 241-261
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,言語教育が実現を目指すべき学習者の「自律」について,再定義することを試みる。まず,言語教育研究における「自律」の扱われ方の問題点を指摘し,西洋近代思想史における人間観の変遷をふまえて学習者の「自律」とは何かを考える。そして,言語学習者の「自律」の捉え方についての筆者の見解として,「人権尊重」という観点から政治的「自律」を改めて定義し,ナラティブ・セラピーに基づく言語学習者の「自律」を実現する教育実践の可能性について論じる。さらに,筆者の行った学習者が自身にとっての日本語学習の必然性を考える自分史執筆及び対話活動の実践における事例を基に,その定義の妥当性を確認し,言語学習者の「自律」を実現する教育実践のあるべき方向性を示すことを目的とする。

フォーラム
  • 水戸 貴久, 鈴木 栄, 松﨑 真日
    原稿種別: フォーラム
    2023 年 21 巻 p. 262-277
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本フォーラムは,ビジュアル・ナラティブの解釈に複数の視点を持ち込むことで,言語教師のビリーフを捉え直すことを目的とした試行的な研究である。本稿では,大学1年生が「英語を勉強する私」というテーマで描いた同一のビジュアル・ナラティブを異なる言語を教える3人の教師が個別に分析し,その解釈を持ち寄り比較することで,各々の言語学習・教育に持つビリーフを相対化した。同一のビジュアル・ナラティブを分析しているにもかからわずその解釈が異なるのは,ロラン・バルトの言う,ビジュアルが持つ「コード化されないイコン的メッセージ」の解釈において,教師の持つビリーフの相違が反映されたためであると考えられる。教師のビリーフを捉えるための方法としては,すでに質問紙調査やインタビューによるナラティブ分析が知られているが,ビジュアル・ナラティブの分析における解釈のずれを肯定的に捉え,複数の解釈の異なりを比較する共同構築的な方法は,自身の内面に根差すビリーフを探る上で有用であると言える。このように,異なる言語を教える教師が解釈を語り合い,ビリーフを捉え直す方法は,教師研修やワークショップにおいても有効であると思われる。

  • 日本語学校・大学・大学院の事例から人・組織・機関・社会の連携を考える
    寅丸 真澄, 齊藤 千鶴, 中島 智, 中本 寧, 松野 芳夫, 佐藤 正則, 松本 明香, 家根橋 伸子
    原稿種別: フォーラム
    2023 年 21 巻 p. 278-296
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,言語文化教育研究学会第9回年次大会(2023年3月)において開催されたパネルセッション「留学生のキャリア形成支援に関わる人・組織の連携を考える―日本語学校・大学・大学院の事例から」の開催報告と考察である。本パネルセッションでは,日本語学校,大学,大学院,NPO法人における外国人留学生,及び海外大学生に対するキャリア形成支援の実態を報告し,フロアの参加者とともにその問題点や課題についてディスカッションを行った。本稿では,まず各機関における支援の事例を報告,共有する。次に,本パネルでなされた質疑応答や議論の内容を再考察する。最後に,支援者及び支援機関の連携という観点から,留学生個人,身近な他者,教育機関・支援者・支援組織,企業や地域等のコミュニティ,社会における問題点と課題を指摘する。

  • [書評]西山教行,大山万容(編)『複言語教育の探究と実践』
    寺村 優里
    原稿種別: フォーラム
    2023 年 21 巻 p. 297-302
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,西山教行,大山万容(編)『複言語教育の探究と実践』(2023年,くろしお出版)の書評である。同書は,日本で複言語教育が広まっていることを踏まえ,複言語教育に関する理論研究と実践研究をまとめたものである。同書のもととなったのは,2020年11月22日から23日にかけてオンライン開催された国際研究集会2020「ひとつの言語教育から複数の言語教育へ―CEFRからみた日本語,英語,外国語教育の連帯と協働」である。同書を構成する九つの論考は,それぞれ異なる立場から複言語教育を考察し,その意義を論じている。本稿では,各章の内容を紹介したうえで,同書の成果と今後の展望について述べる。

  • 「これまで」「今」「これから」
    小島 卓也, 内山 喜代成, 本間 祥子, 柳井 優哉, 尹 惠彦
    原稿種別: フォーラム
    2023 年 21 巻 p. 303-321
    発行日: 2023/12/23
    公開日: 2024/01/15
    ジャーナル フリー

    本稿は,言語文化教育研究学会(ALCE)の事務局メンバーであり,アーリーキャリア研究者である5名が,ALCEの「これまで」「今」「これから」について調べ,考えたことを共有するものです。ALCE設立世代から学会運営を引き継ぎつつあるALCE第2・3世代の筆者らは,ALCEのこれまでの歩みと現状をより良く理解し,今後どのようなALCEをつくっていきたいのかをじっくり語り合う場を設けることにしました。そこで浮かび上がった「公共性」「国際性」「キャリア」「持続可能性」というテーマを軸に,ALCEでの活動を振り返り,今後の展望を考察しました。その中で,ALCEの概要や普段はあまり表に出ることのない事務局業務についても説明しました。本稿を通し,さらに多くの人がALCEについて知るための,個々の会員がALCEへの関わり方を考えるための,そして,筆者らと同じアーリーキャリア研究者がその他の世代とも一緒になってALCEについて話し合うためのきっかけが生まれることを期待しています。

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