言語文化教育研究
Online ISSN : 2188-9600
ISSN-L : 2188-7802
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特集「市民性形成と言語文化教育」
全体趣旨
シンポジウム
論文
  • アイルランドで子どもを育てる親たちの「複言語育児」を事例に
    稲垣 みどり, 金 泰明
    2019 年 17 巻 p. 33-52
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,異なる他者と価値観の違いを認め合いつつ共に生きるための原理を共生論の立場から紹介し,その言語教育における実践の事例を報告する。日本国内外の言語教育の現場において,共生論の原理をどのように文脈化できるかを考察することが本稿の目的である。まず,哲学,人権論および共生論が専門領域である金泰明が,カント,ヘーゲル,ホッブズ,フッサールらの近代哲学の思想を概観しながら共生論の原理を「自由の相互承認」と「共通了解」の原理を中心に論じる。次に,言語教育/日本語教育を専門領域とする稲垣が,アイルランドの複数言語環境で子どもを育てる親たちを対象としたフッサールの「共通了解」の原理に基づく「本質観取」ワークショップの実践を報告し,ワークショップの実践を「言葉の教育における﹁価値﹂と﹁意味﹂はどのように創出されるのか」という観点から論じる。最後に,共生論の原理を言語教育の目指す「価値」の創出の原理に重ねて考察する。

  • 汎ヨーロッパレベルでの議論の経緯とその達成
    山本 冴里
    2019 年 17 巻 p. 53-70
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本研究では,「汎ヨーロッパレベルでの議論において,citizenshipの育成は,第二言語教育とどのように関わるものとされているのか」という問いを立て,汎ヨーロッパレベルでの議論の経緯を追った。Citizenshipは,ヨーロッパにおいては新しい用語というわけではないが,汎ヨーロッパレベルでの政治組織が一定程度「国家」の役割を置き換え,同時に領域内外からの「他者」との接触が日常化するなかで,新たな意味と重要性を獲得した。また,各地で頻発したテロリズムは,社会的包摂・社会的結束を新たな課題とした。民主的citizenshipは,こうした概念と絡みあいながら,現在のヨーロッパで,(第二)言語教育をふくむ教育分野でのキーワードとなり,その涵養のための概念的なツールが作成されている。

  • 難民としてスウェーデンに渡った日本語学習者の語りから
    市嶋 典子
    2019 年 17 巻 p. 71-87
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,難民としてスウェーデンに渡ったシリア出身の日本語学習者アリ(仮名)の紛争前から現在までの日本語に関する意識の動態,シティズンシップの内実を,インタビューデータから考察したものである。インタビューは,シリア紛争が勃発する前の2011年3月から紛争勃発後の2017年1月までに実施したものである。インタビューからは,アリにとっての日本語は,①自身の将来の仕事につながるもの,②国境を越えた関係性の構築を実現するもの,③一人の人間として認めてもらうためのもの,④社会や環境を変えていくものであることが浮かび上がってきた。また,アリは,国民国家の枠組みを越え,新たな関係性を構築する一方で,国民国家の枠組みを利用し,自身の将来の仕事に結び付けようと戦略的に考えていた。アリは,言語や国籍,人種の境界性を柔軟に意味づけ,自らの生きる場を変革することを志向しながら,シティズンシップを生成していた。これらの結果を踏まえた上で,外国語が,個人の人生に深く関わり,シティズンシップ生成に寄与する媒体になりうることを主張した。

  • 成員カテゴリーの変化に着目した会話分析から
    萬浪 絵理
    2019 年 17 巻 p. 88-109
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    国際交流協会等が実施する地域日本語教育の取組みにおいては,外国人の日本語学習ばかりでなく,すべての市民のコミュニケーション能力の向上と多文化共生意識の醸成が求められている。市民性形成と外国人の日本語学習の両立をめざすとき,対話型学習活動におけるファシリテーターには,どのような発話が効果的だろうか。本研究では,ファシリテーターの発話が学習活動参加者の相互行為にもたらす影響を解明するために,外国人と日本人が参加する学習活動の談話データを用いて会話分析を行った。その結果,談話参加者の成員カテゴリーが「日本語学習者」「日本語学習支援者」に固定化せず,随時変化していた。成員カテゴリーの流動性は,日本語での理解や産出の困難に起因する談話トラブルの修復過程に,ファシリテーターや日本語学習支援者のみならず,日本語学習者が主体的に参画していたことからも確認できた。

Regular contents
論文
  • 関係性文化理論の観点から検討する当事者研究
    中川 篤, 柳瀬 陽介, 樫葉 みつ子
    2019 年 17 巻 p. 110-125
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    社会学者のバウマンが指摘する「個人化」の潮流は本来協働的な営みであるはずのコミュニケーションを個人化して考える傾向と連動しているように思われる。しかし,ますます複合的になり,個人で解決困難な問題が増加していく社会においては,多くの人間が協働的に問題への対処を目指すコミュニケーションこそが重要となる。そこで本研究では共同体による問題対処のコミュニケーションについて,精神保健福祉の分野で目覚ましい成果を挙げる当事者研究を題材にして再考した。その際の理論的枠組みは,個人の特性ではなく関係性の特性に注目する関係性文化理論である。再考の結果,当事者研究のコミュニケーションは,特定の関係性を文化として定着させた上でのコミュニケーションであり,その関係性の文化においてコミュニケーションは弱さを力に変えることができることがわかった。

  • アメリカのある高等教育機関での振り返りの実践から
    末松 大貴
    2019 年 17 巻 p. 126-146
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    近年,日本語教育においても「学習の振り返り」が注目されている。しかし,振り返りの内容と振り返りに対する意識との関連を詳細に分析した研究は見られない。本稿では,「実践研究」という立場から,学習の振り返りの実践の中で,振り返りに対して肯定的に捉えていた2名の学習者に注目し,どのように振り返っていたのかという点について分析を試みた。その結果,実践の中で定められていた「1週間を振り返る」という枠を超えて過去を振り返っていたということ,そしてその際,「自分にとってのキーワード」を基に振り返りをしていたという特徴が見られた。その結果と2名の学習者の振り返りに対する意識から,「自分にとってのキーワード」を用いた重層的な振り返りを支援していくことが必要である,ということが示唆された。

  • 国内教育機関における古典日本語学習支援の方法を探るために
    山口 真紀, 野原 佳代子
    2019 年 17 巻 p. 147-168
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    国内で日本研究を行う日本語学習者への古典日本語教育は先行研究も少なく,シラバスも確立していない。本研究では,国内で古典日本語文献を用いて研究を行う若手外国人研究者への古典日本語学習支援の方法を探るためのケーススタディーとして,10名の協力者のデータから古典日本語がどのように読まれているかを調査し,どのような支援が可能かについて考察した。まず,発話思考法による古典文解釈調査を行い,発話プロトコル及びフォローアップインタビューのデータから,文章理解における語句の意味推測に用いられる既有知識を特定した。さらに,調査後に読解活動全体を振り返ってもらい,読解活動をどのように把握しているかを聞き取った。これらを分析した結果,現代日本語による読み替えを軸とした認知プロセスと,読解において現代語日本語知識を重視していることが明らかになった。この結果から,国内における学習支援の方法として,学習者の現代日本語知識を積極的に活用した支援方法を提案した。

  • 「箱根会議」という経験をめぐるライフストーリー
    三代 純平, 佐藤 正則
    2019 年 17 巻 p. 169-189
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本語教育振興協会が1997年に開催した第1回日本語教育セミナー,通称「箱根会議」に関するインタビュー調査である。当時箱根会議に参加した11名の調査協力者の語りから,日本語学校にとって「箱根会議」がいかなる意味をもっていたのかを論じる。調査協力者に対するライフストーリー・インタビューから明らかになった箱根会議の意義は「日本語学校の連携」が生まれ,日本語学校の「社会的アイデンティティの確立」を共に目指すことが確認されたことである。そして,そのために手を取り合い「日本語教育の質の向上」に努めていく素地が整ったことである。箱根会議は,日振協と日本語学校の「管理する側・管理される側」という関係を乗り越え,管理される側であった日本語学校が主体的に自分たちを定位し,社会に働きかけるための象徴的な出来事であった。箱根会議の経験を一つの契機に,日本語学校は,国際交流の最前線を担う教育機関としての社会的アイデンティティを構築すべく歩みを進めるようになったのである。

  • 批判理論とフランスの大学日本語専攻課程における実践事例を基にした考察
    原 伸太郎
    2019 年 17 巻 p. 190-213
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿では,現代の言語教育実践において目指すべき「批判的」とは,学習者の自己批判的態度であることを主張する。そして,その自己批判とは,学習者が「私はなぜその言語を学ぶのか」という理由を他者に説明し,それについての相互的な了解を目指すことだということを,フランクフルト学派の批判理論に基づき理論的に述べる。さらに,自身の実践事例に基づき,学習者の自己批判を伴う批判的言語教育の実現可能性と意味を論じる。

  • 感情労働としての介護という視座から
    藤原 京佳
    2019 年 17 巻 p. 214-233
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本研究では介護の仕事を「感情労働」とし,ことばに見出された意味を通してEPA介護福祉士候補者のアルファティさんがどのような介護観を形成しているのかを探った。調査は1年間の縦断的インタビューによって行い,そこから作成されたストーリーを通して意味を読み解いていった。アルファティさんが利用者との間で行った「ことば遊び」や「お母さん」ということばからは利用者と関係を築くことこそが自らの役割であるという介護観,「flexible」ということばから利用者の立場に立って考え,行動するという介護観が読み取れた。また,「人間関係」,「心の関係」,「信頼関係」という利用者と切り結ぶ「関係」には,介護の仕事に就く以前から貫かれた,他者とつながることへの強い熱意が表象されていた。アルファティさんの介護観の根底にあるのは,他者とつながるという個人史的な価値を維持し,利用者という他者との間に自らの役割を見出し,それを実践していくことだったといえる。

  • 台湾民間教育機関のある中堅教師の語りから
    内山 喜代成
    2019 年 17 巻 p. 234-254
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    台湾の民間の成人教育機関では数年に渡り教室が継続することがある。そのため,学校教育機関のカリキュラムなどに基づいて教室をデザインすることはできない。本研究では複線径路等至性アプローチを用いて,長期間継続する成人の日本語教室に焦点を当て,中堅教師がどのように教室デザインを変容させてきたかを分析した。分析の結果,教師は成長の過程で,教える教師と学ぶ学習者という関係性から対等な教室参加者へという関係性の捉え直しを行っていた。また,その関係性の中で,教師が学習者と協働で教室デザインを行うことで,その教室独自の価値を創造していることが示唆された。

  • インタビューの語りの会話分析
    勝部 三奈子
    2019 年 17 巻 p. 255-276
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本研究は,日本語教師同士のインタビューの断片を,社会構築主義的な立場から会話分析の行為連鎖と成員カテゴリー化装置という分析概念を用いて微視的に分析し,インタビューにおける質問と回答,説明の行為連鎖の中で用いられるカテゴリー化とその述部の現れ方を記述した。この分析によって,インタビューの説明の達成のために「職人」と「研究者」というカテゴリーとそれに結びつけられる述部が用いられていること,また限られたカテゴリーに関するリソースを一般化することによって所属の教育機関に紐づけられた日本語教師のステレオタイプの構築と分断が行われていたことが,可視化される形で明らかになった。ステレオタイプの構築は意図的ではなく,会話の進行の中で無意識に行われており,このことは日々行われる教師間の会話に内省を促すものである。

  • レジリエンスと行為主体性を生成する言語文化教育へ
    中井 好男
    2019 年 17 巻 p. 277-299
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,結婚を機に韓国から移住し,日本社会でことばの市民として生きるようになったJさん(仮名)の生の物語から言語教育への示唆を得ようとするものである。Jさんとの語り合いをもとにTEM図を用いてJさんの生を示すとともに,Jさんの生の解釈と,筆者とJさんに起きた自己変容について記述した。Jさんは来日後,地震という非日常の経験や日本語が使えないがゆえに虐げられてきた韓国人女性移住者との関わりなどを通して,ことばの認識だけではなく日本で生きる自己の捉え方をも変える自己変容を経験している。Jさんはこの自己変容を通して,教育は生を豊かにする贈与であるべきだということを知り,現在,ノンネイティブ日本語教師としてその実践に取り組んでいる。Jさんの生に関する語りは,レジリエンスを有する行為主体性が構築されてきた過程を描き出すと同時に,日本社会にはびこるネイティブ・スピーカリズムを再考する必要性を示している。

  • 気づきを得ることの難しさ
    髙井 かおり
    2019 年 17 巻 p. 300-316
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,日本語教師が日々の授業を振り返り改善を行っていても,それが教育観の振り返りにはつながっていないことがあるのではないかという問題意識の下,タイの中等教育機関で働いていた斎藤先生にライフストーリー・インタビューを行い,日本語教育観が変容したのかどうかを明らかにし,なぜ変容したのかしなかったのかを考察した。その結果,斎藤先生の日本語教育観は,変容した部分と変容しなかった部分があることがわかった。変容した要因は,斎藤先生がその日本語教育実践に関わるタイ人教師や生徒たちの考え方との異なりから気づきを得たことであった。変容しなかった要因は,逆に異なりがなかったからであった。しかし,異なりがあったからといって日本語教育観の変容につながる気づきを得られるとは限らない。自分(たち)の実践を批判的に振り返り,当然と思われていることでも疑い,問い続けることが重要である。

  • 人の語りにふれて境界を越える
    武 一美, 齋藤 恵
    2019 年 17 巻 p. 317-338
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本研究の目的は,移動経験のない大学生が,「複言語で育つ子ども」をテーマとするワークショップ型の授業を通じて,どのように複言語で生きる人々の問題を受けとめ,思考していったのかを明らかにすることである。個々の学生の「驚き/注目」がどのように現れ,更新されていったのかを可視化するため,学生たちが記述したコメントシートやレポートの記述の分析を行った。その結果,人の語りを聴くこと,話し合うことをきっかけとして,学生たちの「驚き/注目」から,学生たち自身の「問い」や「私見」が生じ,それが教室の外(将来)の課題へと連続性をもって展開されていったことが明らかになった。

  • 複言語・複文化性の原点回帰と「移動」概念の再定義
    藤谷 悠
    2019 年 17 巻 p. 339-359
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    東浩紀の『ゲンロン0―観光客の哲学』(2017)によると,現代の世界は,ナショナリズムとグローバリズムなど,様々な局面で二項対立的な「二層構造」になっているという。本研究は,国際性という文脈のみに単線化された結果,「二層構造」を生み出す要因となっている複言語・複文化の物語を,「本来の姿」へと回帰させることを目指している。単線化した複言語・複文化の物語の例として,「移動する子ども」研究を批判対象とし,同研究が暗示する「移動する子ども」と「移動しない子ども」の二項対立的構造を概観しながら,その間に中間的文脈を作り出すことを試みる。そうすることで,同研究における「移動」概念を拡張的に再定義する。これらの目的に向けたナラティブな調査として,日仏「ハーフ」の人々を対象としてライフストーリー調査を行なった。それに加え,筆者自身の「ひきこもり」経験をオートエスノグラフィーとして記述し,それをハーフたちの語りと交差させる。そうして,「ハーフ=移動する子ども」と「ひきこもり=移動しない子ども」との間に「部分的つながり」を見立てることで,複言語・複文化の物語を複線的な「本来の姿」へと蘇らせるのである。

  • 日本人英語学習者Aの語りの分析を通して
    山元 淑乃
    2019 年 17 巻 p. 360-382
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,教育現場に浸透しているとされる「ネイティブスピーカー志向」の第二言語習得が抱える問題を背景に,「非ネイティブスピーカー志向」の第二言語習得の実態を探索的に解明することを目的とする。その一事例として,あくまで非ネイティブスピーカーとして適切な話し手であろうとする態度を一貫して保持してきた,ある日本人英語学習者Aの英語習得に関するライフストーリーを少年期まで遡り,その学習環境や志向がどのように影響し合って学習がなされたかを分析した。また学習の過程で,Aが英語でどのようなキャラクタをどのようにして獲得したかについても検討した。そして,それらを総合的に考察することにより,Aによる非ネイティブスピーカー志向の学習について以下の4つの特徴を記述した。(1) 第二言語でのキャラクタを意図的に設定して演出し,それを省察する。(2) 第二言語の文化に敬意を持ち,改まりと丁寧さを重視する。(3) 何語であるかに関わらず言葉を大切に,構造を正確に使用する。(4) 伝えたいメッセージを明確に持つ。

フォーラム
  • フォーラム・シアターに参加した日本語教育支援者の語りから
    宇佐美 洋, 岡本 能里子, 文野 峯子, 森本 郁代, 栁田 直美
    原稿種別: フォーラム
    2019 年 17 巻 p. 383-403
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    日本語教育関係者を対象に,フォーラム・シアター(FT)と呼ばれる演劇ワークショップを実施した後で,参加者に対するインタビューを実施し,各参加者にどのような変容があったかを分析した。その結果,ある参加者はFTへの継続的な参加を経て,ネガティブ・ケイパビリティ(すぐに答えを求めず考え続ける能力)を深化させていったことが確認されたが,一方でFTに明確な終着点を求めてしまう参加者もいたことが確認された。またある参加者は,FTでは「一人称的アプローチ」(自分の内観をそのまま他者に当てはめて理解しようとする)によって他者理解をしようとしていたが,その後他者から「二人称的アプローチ」(対象の情感を感じ取り,対象の訴え・呼びかけに答えようとする)を受けることで,一人称的アプローチから脱却していくプロセスが確認された。このことを踏まえ,この種のワークショップを運営する者に求められる配慮についても論じた。

  • ナラティブをリソースとする教材作成の試み
    八木 真奈美, 池上 摩希子, 古屋 憲章
    原稿種別: フォーラム
    2019 年 17 巻 p. 404-423
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,研究は「生きるために学ぶ人々の要求に応えるもの」でなければならないという問題意識から,移住者が語ったナラティブをリソースとする教材を作成するに至ったプロセスとその意義,並びに作成した教材を使って行った実践について述べる。移住者が語ったナラティブを教材化する目的は,以下の3点である。すなわち,学習者個人のナラティブを(1) 社会に向けて開くこと,(2) それによって日本語教育に対する意味付けを変革すること,(3) それを学習者自身の未来につなげること,である。教材を作成し,実践を行った結果,実践後のワークシートやインタビューから,語りによる移住者へのエンパワーメントや移住者間での経験の共有などが見られた。また,教員養成講座での実践では,受講生の気づきが促され,未来の変化への期待が持たれた。

  • 福村 真紀子
    原稿種別: フォーラム
    2019 年 17 巻 p. 424-440
    発行日: 2019/12/31
    公開日: 2020/03/10
    ジャーナル フリー

    本稿は,佐藤慎司,村田晶子(編著)『人類学・社会学的視点からみた過去,現在,未来のことばの教育―言語と言語教育イデオロギー』の書評である。本書は,ことばの教育に携わる人々が自身の営為を見つめ直し,新たな一歩を前に踏み出すために編まれた学術書である。本書は,ことばの教育における人類学・社会学的アプローチの理論的意義のまとめ,人類学・社会学的視点からことばの教育における「あたりまえ」を疑う立場からの論考,人類学・社会学的視点からの言語コミュニケーション教育の実践例で構成されている。13人の執筆者は,ことばの教育の中で「あたりまえ」になっていることに様々な疑問を持ち,ことばの教育を問い直す必要性について論じている。本稿では,1章ごとに内容を紹介した上で,今後のことばの教育の展望について述べる。

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