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森 一博
1989 年 31 巻 9 号 p.
2359-2369
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
Barrett上皮,食道狭窄,などの合併症を伴った高度の逆流性食道炎と,合併症のない中等度の逆流性食道炎との病態の差を明らかにし,それぞれに対する合理的治療方針の設定を目的として,食道下部括約筋圧測定・食道内24時間pHモニター検査を行った.対象は合併症を伴った逆流性食道炎13例と,合併症のない食道炎7例の計20例である.食道下部括約筋圧は,合併症を伴った本症が12.5±3.8mmHg,合併症のない本症は14.0±9.5mmHgと有意差がみられなかった(p>0.10).食道内24時間pHモニター検査においては,食道内への胃酸の逆流と,その停滞の程度を半定量化する目的で,pH4以下を示した面積を秤量法を用いて比較したが,未治療時では,合併症を伴った本症は3.8±3.07gで,合併症のない本症の0.8±0.84gよりも有意な高値を示した(p<0.01).また未治療時に比べ,シメチジン単独投与時,およびシメチジン+メトクロプラミドの併用投与時はいずれも胃酸の逆流および停滞が有意に減少した.このpHモニターの結果に基づき胃酸の食道内逆流の阻止に必要なシメチジン投与量を決定し,継続治療を行ったところ,すべての症例で諸症状が消失し,治療効果が内視鏡で確認された.したがって,合併症を伴う高度の逆流性食道炎の治療においては,食道括約筋圧より食道内24時間pHモニター検査の結果に基づいて,至適投与量を設定することが有用であることが示唆された.また合併症のない逆流性食道炎においても,食道内24時間pHモニターで高度の逆流を認める場合は,将来,合併症を伴った高度の食道炎に移行する可能性が懸念され,high risk groupのスクリーニングにも食道内24時間pHモニターが有用と思われた.
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星原 芳雄, 福地 創太郎, 橋本 光代, 吉田 行哉, 早川 和雄
1989 年 31 巻 9 号 p.
2370-2379
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
電子スコープ(TV-Endoscope)にて胃びらんの治癒過程を観察し,凝血あるいは白苔の付着,びらん周囲の浮腫およびびらん面の発赤の有無により,5ステージ(A,H,R1,R2,R3)に分類すると共に,びらんの治癒形式について検討した.幽門腺領域と胃底腺領域では,びらんの中の各stageの占める比率に有意差が認められ,幽門腺領域のびらんではH stageが多く,胃底腺領域のびらんではHstageに比してAstageが多く認められた.両領域ともR1およびR2stageはほぼ同様の比率を示したが,R3stageは胃底腺領域のものに多く認められた.びらんの治癒過程において生じる再生上皮には,(1)びらん底部に早期に胃小窩,胃小溝構造を認め,周囲粘膜と類似したパターンを呈するもの,(2)胃潰瘍の治癒過程と同様にびらん辺縁に配列した紡錘状あるいは棚状を呈するものの2種類のパターンが認められた.これらはびらんの深さによる再生機転の差によると推定され,それぞれ村上分類のU1-0およびIに相当すると思われる.紡錘状あるいは柵状再生上皮を有するびらんは,幽門腺領域,胃底腺領域とも,主としてHないしR1 stageにみられ,各ステージのびらんの中に占める頻度は10~25%であった.
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吉田 正樹
1989 年 31 巻 9 号 p.
2380-2385
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
Campylobacter pylori (CP)感染の自然経過を明らかにする目的で,抗生物質を投与されていない42症例の胃十二指腸疾患患者に対して平均148日間の観察期間中に2~5回(延べ107回)の内視鏡検査を施行し,前後で内視鏡所見の変化とCP感染の有無との関連を検討した.その結果,CPは症例の76%(32例)で持続感染していると考えられた.また症例の10%(4例)ではCPが常に陰性であった.潰瘍が治癒してもCPは消失しない例が多く,潰瘍の治癒にはCPは直接関与していないと考えられた.前回観察時と比較した延べ65回の観察では,CPが陰性化したものが4例(6%),CPが新たに陽性化したものが2例(3%),陽性が持続したものが50例(77%),陰性が持続したものが9例(14%)であった.CP陽性者は大部分が持続感染しており,かつCPの自然消失はほとんどないと考えられた.また,新たなCP感染の機会は少ないと考えられた.
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下山 孝俊, 高平 良二, 草野 裕幸, 清水 輝久, 中越 享, 平野 達雄, 三浦 敏夫, 富田 正雄, 牧山 和也, 飛永 晃二, 國 ...
1989 年 31 巻 9 号 p.
2386-2394
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
外科的切除後5年以上経過したクローン病22例について術後再発7例と切除時に病変を遺残した5例を中心に検討した.1)再発率は41.2%で,広範囲の縦走潰瘍およびaphthoid ulcerを伴った症例が多く,とくに術前に内科的治療が行われた小腸型は平均8カ月と早期に再発した.敷石形成型の小腸・大腸型の再発率は低く,比較的長期にわたり良好に経過した.2)再発部位は吻合部中心領域で,再発後の経過は術後内科的治療の影響も関与して病変の進展は遅かった.2例が術後5年6カ月,9年8カ月目に狭窄のため再切除された.3)病変を遺残した5例では,吻合部病変はほぼ再発例に準じた経過を示し,aphthoid ulcerは内科的治療にて一時期消失した.再切除例はない.しかし,skipにみられたS状結腸病変は長期にわたり難治性であった.広範囲の病変では,本疾患の病態上,微細病変は遺残して切除し,術後は内科的治療をあわせて行うのが有用と考えられる.
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清水 誠治, 磯 彰格, 大塚 弘友, 尾川 美弥子, 青木 美博, 多田 正大, 川井 啓市
1989 年 31 巻 9 号 p.
2395-2405
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
大腸癌症例56例に対して大腸用超音波内視鏡(XCF-UM1,XCF-UM2)を用いて,深達度診断,リンパ節転移の診断を試みた.全例で病変部までのスコープ挿入が可能であったが,病変の描出率は56例中40例(71.4%)であった.病変部位別にみると直腸では全例で描出可能であったのに対し,S状結腸より深部の病変ではより低率であった.また環周度,狭窄度が高い程描出率は低下した.病変の進行度では早期癌に比べ進行癌で描出率は低率で,進行癌の中では隆起型に比べ陥凹型で低率であった.深達度正診率は描出可能であった40例中36例(90%)であった.描出が可能であれば,部位,環周度,狭窄度,進行度による深達度正診率の差はみられなかった.傍腸管リンパ節転移の診断率は17例中7例(41.2%)と低率であり,病変部の狭窄のために十分な走査が不能であったことが原因と考えられた.また反応性リンパ節腫脹と癌転移の鑑別は不可能であった. 超音波内視鏡検査は大腸癌の広がりを知る上で有力な情報を提供しうるが,狭窄が高度の病変では診断上の限界があり,今後細径の超音波内視鏡の実用化が望まれた.
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吉田 行雄, 井戸 健一, 谷口 友志, 橋本 実, 笠野 哲夫, 木村 健, 関口 正, 菊池 克也
1989 年 31 巻 9 号 p.
2406-2410_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
臓器反射スペクトル法の原理に基づき,569nmと650nmの2種類の狭帯域干渉フィルターを用いて得られる電子内視鏡の画像解析から得た組織ヘモグロビン分布の画像は,正反射光の影響,光量不足などの問題点を残しているが,数々の優れたユニークな特徴を持つものである.既ち,i)二次元でのヘモグロビン分布図が得られる.ii)任意の関心領域での平均ヘモグロビン濃度(Hemoglobin Index・Hb-1)が求められる.iii)非接触法であり生理的条件下での測定が可能なこと.iv)検査手技による再現誤差のないこと.v)瞬時に連続的に測定可能であることなどである.これらは従来内視鏡的に行われている他の血流測定法にはない画期的な測定法であり,今後この分野の研究及び臨床に果たす役割は極めて大きいものと期待される.
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岡野 均, 児玉 正, 辻 秀治, 藤野 博也, 福光 真二, 加嶋 敬
1989 年 31 巻 9 号 p.
2413-2418_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
われわれは組織接着剤であるHistoacryl(R)blue(n-buthyl-2-cyanoacrylate)を用い,注入方法の基礎的検討を行うとともに難治性胃静脈瘤出血例に対する同剤の臨床応用を行った.基礎的検討からHistoacryl(R)blue単独を数秒かけて徐々に注入する方法が,重合体(Polymerization)が他臓器へ塞栓物質として運ばれる可能性がもっとも少なく安全な注入法であることがわかった.臨床的検討においては,従来の方法で止血困難な胃静脈瘤出血2例に本法を施行し,初回硬化療法にて完全止血ならびに静脈瘤形態の消退を得ることが出来た.本法に起因すると思われる臨床上問題となる合併症は認められなかった.しかし,Histoacryl(R)blueが真の硬化剤でないと言う観点からも,本法の適応を従来のAethoxysclero1を中心とした硬化療法にて止血困難な胃静脈瘤出血例(特に穹隆部静脈瘤出血例)に限定し,慎重に検討を行っていくべきと考えられた.
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池田 政文, 佐竹 儀治, 坪水 義夫, 藤田 力也, 菅田 文夫, 岡 寿士, 鈴木 快輔
1989 年 31 巻 9 号 p.
2419-2424
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
大腸癌の発育過程を知る目的で,癌の深達度が固有筋層までの大腸pm癌36例と大腸早期癌64例(m癌27例,sm癌37例)を肉眼形態および病理組織学的に比較検討した.pm癌の肉眼形態をI型,II型,IIa+IIc類似型に分けた.固有筋層への浸潤度を1から4まで4段階に分けた.その結果,pm癌のI型,IIa+IIc類似型は浸潤度が軽く(1または2),3cm以下の小さいものがほとんどであるのに対し,II型は浸潤度が高度(3または4)で大きさは4cm以上のものが多かった.深達度ss以上の進行癌の大多数がII型であるのに対し,pm癌は1型が28%と1/4強を占めた.特にS状結腸では,I/II比が1と直腸のそれが0.3であるのに対し有意に高かった(p<0.01).早期癌ではS状結腸においてIpを中心に丈の高い群が圧倒的に多かった.以上よりS状結腸ではIpを主とする丈の高い群は進行が遅く,I型pm癌を経てII型pm癌へと進展する可能性が示唆された.また,腺腫合併率はm癌74%,sm癌33%,pm癌0%であり,pm癌へ至る過程で腺腫成分が失われると考えられた.
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谷口 友志, 吉田 行雄, 井戸 健一, 木村 健, 菊池 克也, 加藤 晴夫
1989 年 31 巻 9 号 p.
2425-2431_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
平坦で,且つ色調変化に乏しい小病変をより見つけやすくする画像処理方法を得る目的で,東芝一町田製電子内視鏡の静止画像を用いて,HSV変換における彩度のhistogram flatteningを試みた.本画像処理の狙いは,赤い部分をより赤く,白い部分をより白く表示することである. 胃腺腫及び早期胃癌の発赤,あるいは褪色の画像情報をHSV色空間に変換し,色相,彩度,明度の画像に分離,その各々のhistogramを分析した.その結果,彩度のhistogramのみが2峰性を示した.これらの事実から,胃粘膜の色調変化は彩度の差に由来するものと考えられ,微細病変の色調変化を強調する目的で,彩度のhistogram flatteningを施行した. 本画像処理により,淡い発赤,あるいは褪色部が周囲粘膜との間に強いcontrastを持って描出され,しかも,その部分は摘出標本の病理組織学的レベルにおける病変の拡がりとよく一致していた. 本処理により,胃粘膜の僅かな色調変化が強調されたことから,一般に,通常の内視鏡検査において見落とされやすいとされている,平坦で,且つ色調変化に乏しい小病変をより容易に認識することができると考えられた.
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渡部 博之, 島 仁, 長沼 敏雄, 五十嵐 潔, 荒川 弘道, 正宗 研, 上坂 佳敬, 佐藤 誠
1989 年 31 巻 9 号 p.
2432-2439
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
stomal polypoid hypertrophic gastritis (gastritis cystica polyposa)(以下SPHG,GCPと略)に合併した残胃m癌の1例を報告する.54歳の男性,19年前,IIc+III様進行胃癌の診断で胃亜全摘術を受けた.昭和62年4月末,右側腹部痛のため近医受診,Billroth II法で再建された吻合部胃粘膜側にイモムシ状の隆起を認め,精査加療目的で当科に入院した.入院後,胃X線,内視鏡検査で吻合部胃大彎側にイモムシ状の隆起を認めた.隆起部の粘膜は正常部から漸次移行し一部に発赤びらんを伴っていた.びらん部からの生検でGroup Vがみられ残胃癌と診断,残胃部分切除術を施行した.病理組織像で,中分化型管状腺癌が隆起部の表層にみられ,残胃m癌であった.その下層にSPHG(GCP)を示唆する胃小窩の軽度の延長,偽幽門腺の増生とその嚢胞化,軽度の慢性細胞浸潤などの所見がみられた.症例報告に加えて,SPHG(GCP)の本邦報告例22例(癌合併11例)について文献的考察を加えた.
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早部 好美, 羽白 清, 辻村 大次郎, 松井 洋勝, 山本 俊夫
1989 年 31 巻 9 号 p.
2440-2445_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
症例は63歳,女性.主訴は心窩部不快感.胃X線及び内視鏡検査にて胃体下部前壁に中心陥凹を有する山田III型の粘膜下腫瘍様の隆起性病変を認めた.生検にて胃癌と診断し胃亜全摘術を施行.腫瘤は7×8mmで病理組織学的には,粘膜欠損部に限局して異型細胞が腺管構造を呈しながら粘膜下異所腺を伴い粘膜下組織にまで増殖浸潤し,さらにその深部に主に膠原線維の著明な増生を認め,深達度Smの中分化型腺癌であった.粘膜下腫瘍様の形態を呈した早期胃癌の報告例は極めて少ないが,本症例は,病理組織学的に粘膜下異所腺に併存した胃癌であり,さらに粘膜隆起の主因が膠原線維であるという点で特異的であると思われたので,ここに文献的考察を加えて報告する.
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帆北 修一, 榎本 稔美, 高尾 尊身, 金子 洋一, 愛甲 孝, 島津 久明, 松下 文雄, 田中 貞夫, 柏崎 一男
1989 年 31 巻 9 号 p.
2446-2453
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
胃梅毒の1例を報告し,若干の文献的考察を加えた.症例は21歳女性.1987年8月,心窩部痛と嘔吐を主訴として来院した.胃X線・胃内視鏡検査で胃角部および幽門前庭部の多発性潰瘍と診断し,外来で抗潰瘍剤の投与を行ったが,症状および内視鏡所見の改善傾向が認められなかったため入院治療を行うことにした.入院時内視鏡所見では,胃角から幽門前庭部に不整形の多発潰瘍をともなう白苔・びらん・出血などの多彩な所見がみられ,胃悪性リンパ腫の疑診のもとに生検を施行したが,悪性所見は認められなかった.血清梅毒反応が強陽性と判明したため,胃梅毒を疑い駆梅療法を開始した.治療開始3カ月後には内視鏡所見は著明に改善し,血清梅毒反応も低値となった.駆梅療法前の生検組織標本の特殊染色(Warthin-Starry法)によりTreponema pallidumが証明され,胃梅毒の確診が得られた.抗潰瘍療法に抵抗し,難治性病変を持続する症例には,本疾患の可能性も考慮に入れ,血清梅毒反応や生検組織標本の特殊染色を行うことが重要である.
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木村 光政, 田中 武, 辻 ますみ, 堤 清助, 越山 肇, 東海 浩, 村田 哲也
1989 年 31 巻 9 号 p.
2454-2462
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
超音波内視鏡を用いてDieulafoy潰瘍症例の太い粘膜下層血管の診断を試みその有用性を報告した. 症例は39歳男性.消化管出血にて来院,胃内視鏡検査にて胃体上部後壁のDieulafoy潰瘍と診断.エタノール局注止血法にても止血し得ず血管造影法施行.動静脈奇形と診断し広範囲胃切除術を行った.切除胃組織学的所見で胃体部の広範囲に直径1mmの動静脈奇形を認めたため残胃において超音波内視鏡検査を行ったところ第3層にヒモ状や数珠状の均一低エコー像を得た. Dieulofoy潰瘍は内視鏡的止血症例が増加し太い粘膜下層の血管の確認がなされない症例が多くなってきている. 超音波内視鏡検査は粘膜下層の太い血管を抽出しうるのでDieulafoy潰瘍の診断には有力な検査法と考えられる.
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池田 直樹, 野田 八嗣, 竹森 康弘, 山崎 隆吉, 太田 五六, 岡田 保典, 油野 民雄
1989 年 31 巻 9 号 p.
2463-2471
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
超音波内視鏡にて胃巨大皺襞を,塩化インジウムを用いたRIスキャンにて蛋白漏出を検討しえたMénétrier病の1例を経験したので,報告する.患者は,66歳女性で,浮腫,貧血のために入院.検査所見では,赤血球375万/mm
3,Hb5.6g/dl,血清鉄15μg/dl,血清総蛋白5.3g/dlと著明な鉄欠乏性貧血および低蛋白血症をみ,胃X線検査および胃内視鏡で胃体下部から上部大彎に巨大皺襞を認めた.胃生検組織では,腺窩上皮,固有胃腺のいずれもが増殖している腺性肥厚性胃炎の像であった.超音波内視鏡検査では,胃壁の5層構造のうち第2層の肥厚を認め,皺襞の巨大化は,粘膜層の肥厚によると考えられた.
111In-トランスフェリンを用いたスキャンにより,胃からの蛋白漏出が証明できた.Ménétrier病と診断し,鉄剤とファモチジンを投与したところ,貧血,低蛋白血症が改善し,同治療を続行中である.
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早川 康浩, 卜部 健, 米島 学, 寺田 光宏, 水野 恭嗣, 松下 栄紀, 稲垣 豊, 鵜浦 雅志, 小林 健一, 服部 信
1989 年 31 巻 9 号 p.
2472-2477_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
症例は60歳,女性.右季肋部痛を主訴に入院.入院後肝門部リンパ節転移を伴う原発性肝癌の診断で化学療法を施行中,突然心窩部痛と黄疸を認めた.各種画像診断で肝門部リンパ節転移の総肝管侵潤に伴う胆道出血による閉塞性黄疸と診断された.診断後内視鏡的胆道ドレナージ(ENBD)を施行し,ドレナージチューブよりウロキナーゼを用いて洗浄を繰り返したところ,総肝管内の凝血塊は消失し,疼痛及び黄疸も除去された.以後貧血の進行,黄疸も認めないため,内瘻化はせずENBDチューブ留置のまま外来通院となった.退院3カ月後肝不全にて死亡し,剖検では肝右葉後区域にEdmondsonIII型の肝細胞癌を,肝門部に総肝管を取り囲んで侵潤する転移巣を認めた.本例は閉塞性黄疸を伴った胆道出血の治療に際して,ENBDとウロキナーゼ注入の有効性を示す症例と考えられた.
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森 久男, 山岡 宏太郎, 木須 達郎
1989 年 31 巻 9 号 p.
2478-2485_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
症例は43歳女性.主訴,吐血.4年前よりときどき食後に悪心・嘔吐があり,昭和57年3月,夕食後嘔吐・吐血・血圧低下のため当科に緊急入院.低緊張性十二指腸造影・内視鏡検査で十二指腸第III部に境界明瞭な浅い潰瘍とその肛門側の著明な狭窄所見がみられた.生検にて類上皮細胞肉芽腫を認め,同組織の結核菌培養で結核菌を証明し十二指腸結核と診断した.また注腸造影・大腸内視鏡検査において回盲部および上行結腸にも陳旧性腸結核の病変がみられた. 十二指腸結核の発生頻度は腸結核の約2%で,本邦では今日まで61例の報告があるが,本症例のように吐血を主訴としたものは木林らの1例のみである. 十二指腸結核は診断が困難で狭窄を呈することが多く,悪性疾患との鑑別が問題となる.本例のように内視鏡下生検及び結核菌培養で術前に診断し得た症例は少なく,若干の文献的考察を加え報告する.
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関 孝一, 高間 俊夫, 伊藤 芳晴, 古波津 修, 山崎 英二, 白井 康博, 土岐 隆生, 畔 立子, 道田 健
1989 年 31 巻 9 号 p.
2486-2490_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
高度の肝左葉萎縮を伴う肝内胆管癌の1例を報告した.症例は68歳の女性.腹腔鏡視診下に肝外側区域は小さく薄い白色の平板状で,肝実質細胞は脱落し残されていないとみえ,肝内胆管左葉枝はろう様白色の緊満してつややかに光る嚢腫様にみえた.胆管癌の組織学的診断は壁側腹膜面の黄白色転移結節の目標鉗子生検により診断された.肝外側区域の萎縮は肝内胆管左葉枝が腫瘍性に充満,閉塞されることにより招来されたものと結論された.肝左葉萎縮,肝内胆管癌の早期診断に腹腔鏡検査が有用で黄疸出現前の病態をのべた.
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西村 隆通, 西川 正博, 福崎 隆明, 黒田 耕平
1989 年 31 巻 9 号 p.
2491-2495
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
遊走胆嚢GrossA型及びB型の2例につき,その診断への各種検査の有用性を比較検討した. GrossA型の症例は嘔吐を主訴として受診した74歳の女性で,GrossB型の症例は急性腹症で受診した18歳の男性である.腹部超音波検査にて胆嚢位置異常と体位変換による胆嚢の可動性を認め遊走胆嚢と診断した. この2例につき胆道造影検査,CT及び腹腔鏡検査を施行した.胆道造影検査では,Gross A型の症例でのみ胆嚢胆管の過長をみたが,ともに明かな胆嚢位置異常や,体位変換による胆嚢の可動性などの所見は得らるに至らず,CTでは位置異常は明かではなかった.一方,腹腔鏡検査ではGrossA型及びB型の鑑別を含めて遊走胆嚢の診断が可能であった. 以上より,腹部超音波検査により遊走胆嚢の診断は可能であるが,穿孔性胆汁性腹膜炎等重篤な危険性をもつGrossB型の判定は不可能であり,遊走胆嚢の診断・鑑別には腹腔鏡検査が不可欠と思える.
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中村 常哉, 林 繁和, 栗田 恭充, 加納 潤一, 古川 剛, 佐竹 立成, 中澤 三郎, 山雄 健次
1989 年 31 巻 9 号 p.
2496-2504
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
症例は59歳男性,昭和60年頃より上腹部もたれ感あり.近医のUSで胆嚢に異常を指摘され精査目的にて昭和62年6月22日当科に入院した.US,CTで胆嚢に辺縁平滑な楕円形の腫瘤を認めたが胆嚢壁は正常であった.ERCPでは膵管は不明瞭に描出され,同時に胆嚢管が描出された.胆嚢内に辺縁平滑な楕円形の透亮像を認めたが,胆嚢管と総胆管の関係は不明であった.PTCCでは水様透明な液が吸引され,胆嚢内に辺縁平滑な可動性のある透亮像を認めた.さらに胆嚢管から十二指腸が造影されたが,総胆管は造影されなかった.胆嚢結石と診断し胆嚢摘出術を施行した.手術中,胆嚢管より造影すると胆嚢管は膵管に合流し,総胆管は描出されなかった.胆嚢内に6×4×2.5cmの乳白色の物質を認め,成分は蛋白質であった.胆嚢は組織学的に軽度の炎症を認め癌はなかった.術後ERCPでは胆嚢管はSantorinii管の分岐部より乳頭側で主膵管と合流し,総胆管との交通は認められなかった.主膵管と総胆管は乳頭部で同一部位に開口し,通常の合流形式を呈した.以上,胆嚢管と主膵管の合流した先天的膵胆管合流異常症の極めて稀な1例を報告した.
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岩永 整磨, 澤 隆文, 山崎 和文, 水田 陽平, 西畑 伸二, 久保 啓吾, 村田 育夫, 今西 建夫, 牧山 和也, 原 耕平, 中越 ...
1989 年 31 巻 9 号 p.
2505-2510_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
フリー
症例は66歳女性,右季肋部痛を主訴に来院した。既往歴として40歳のとき胆嚢結石症にて結石摘出術を受けていた.理学的に黄疸を認め,生化学的検査では血清ビリルビンや胆道系酵素の上昇があった.腹部エコーで総胆管の拡張があり,ERCPで総胆管の拡張と総胆管結石と思われる陰影欠損及びその下方に厚さ1mm弱の横走する透亮像を認めた.隔壁を伴った総担管結石と考え手術を行った.術後のTチューブをとおしての胆道鏡で総胆管下部に全周性の隔壁を認め,生検も行い,組織像にて慢性炎症細胞を伴う胆管粘膜の所見を認めた.胆管の隔壁形成は,過去20年間の本邦報告例の集計において,自験例を含め29例と稀であり,文献的考察を加えて報告した.
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阪口 正博, 酒井 秀朗, 岡博 行, 北川 友朗, 宮崎 治男, 芦田 潔, 鄭 鳳鉉, 折野 真哉, 平田 一郎, 大柴 三郎
1989 年 31 巻 9 号 p.
2511-2516_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
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症例は82歳,女性.主症状は血便であった.入院後施行した大腸内視鏡検査にて,上行結腸に発赤した低隆起性病変を認めた.生検を行ったところ,噴出性の出血を認め,血管性病変が疑われた.腹部血管造影において,(1)回結腸動脈上行枝の拡張像,(2)末梢血管の屈曲・蛇行および集簇像,(3)静脈の早期還流像を認め,大腸動静脈奇形と診断され手術を施行した.切除標本のmicroangiogramでも,術前の血管造影と一致した所見が得られた. 大腸動静脈奇形は比較的稀れな疾患で,本邦での報告例は26例にすぎない.本症は,右半結腸にみられることが多く,血便を認めた患者において,右半結腸に発赤した低隆起性病変を認めた場合は,本症を念頭におく必要がある.
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相馬 光宏, 太田 知明, 北川 隆, 武藤 英二, 武田 章三, 神田 誠, 岡野 重幸, 岡村 毅与志, 並木 正義
1989 年 31 巻 9 号 p.
2519-2523_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
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症例は75歳,男性.約4週間持続する下血を主訴として来院.外来時の直腸指診で柔らかい腫瘤を触知した。大腸内視鏡検査では肛門輪より8cmの部位に管腔全体を占める表面平滑で巨大な腫瘤を認め粘膜下腫瘍を思わせた.しかし,その基部には凹凸不整な隆起性病変がみられ生検の結果腺癌の組織所見が得られた.入院後,注腸X線検査を施行したところ,表面平滑で巨大な腫瘤は認められず.大腸内視鏡検査でみられた平滑な粘膜の所見は腸管の重積状態を反映したものと考えられた。手術の結果,深達度pmのS状結腸癌であった.本邦において術前に内視鏡的に観察し得た成人腸重積症症例は著者らが調べ得た限り本症例を含め13例である.成人の腸重積症は腫瘍性疾患に起因するものが多く,また慢性に経過する場合が多いことを特徴としており,したがってこの間に積極的な内視鏡検査を行い,病変の質的診断をなす必要がある.
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田辺 誠, 広瀬 寿文, 小沢 みやこ, 飯田 龍一, 小沢 俊総, 長廻 紘
1989 年 31 巻 9 号 p.
2524-2529
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
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症例は38歳,男性.シメサバ摂食後に腹痛,下痢,末梢血白血球数上昇がみられ緊急大腸内視鏡検査をおこなった.その結果,横行結腸に内視鏡的にアニサキス様線虫を認め,それを生検用鉗子で摘出し,寄生虫学的に同定した結果,アニサキスI型幼虫であることがわかった.大腸アニサキス症,特に大腸壁に虫体が穿入しているのを内視鏡にて確認し,摘除しえた経験は稀である.
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森一 博, 横沢 禎二, 谷口 裕子, 古谷 亮, 石原 学, 細井 宏益, 数佐 哲, 井村 和博, 西野 執, 高橋 秀夫, 吉谷 和男 ...
1989 年 31 巻 9 号 p.
2530-2535_1
発行日: 1989/09/20
公開日: 2011/05/09
ジャーナル
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症例は52歳の男性,27年前,当院にて本症と診断.外来通院を続けていたが,昭和62年1月下旬より,腹痛・便秘・腹満感が出現.大腸内視鏡検査にて,S状結腸に腫瘍による狭窄がみられ,その腫瘍に接した肛門側のポリポージス状を呈した部位の生検にて高分化型腺癌が認められたため,拡大結腸左半切除兼直腸切除・横行結腸瘻造設術を行った.切除標本にて,S状結腸に長径約4cmの癌による全周性の狭窄を確認,StageはIIIであった.本邦における本症の報告例は,360例以上にのぼるが,そのうちで大腸癌合併例は,これまでに28例が報告されている.自験例は,診断確定後27年目といった,これまでの報告に例のない長期間のfollow-up後に大腸癌の合併が判明した症例で,内視鏡的ポリペクトミーを含めた,生涯的なfollow-up,の重要性が再認識されるとともに,大腸亜全摘などの予防的手術が場合によっては必要であることが示唆された.
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