食道癌術後の狭窄に対する内視鏡的拡張術は,低侵襲かつ簡便に食事の通過障害を改善し,患者のQOL向上を図ることが可能な手技である.しかし,拡張手技は,狭窄の原因や種類により異なるため,現況が十分把握できずに行うと,重篤な合併症を引き起こす可能性もある.特に,拡張時の穿孔は,重篤になるケースもあり,外科的治療を要する症例も存在する.
食道狭窄は,食道癌切除後の吻合部狭窄と内視鏡治療後の瘢痕狭窄の2つに大別される.吻合部狭窄は,自動吻合器の内翻全層一層縫合が原因とされる膜様狭窄が多く,内視鏡治療後の狭窄は,3/4周以上の粘膜欠損に伴う広範な粘膜の治癒過程で起こる瘢痕狭窄が多い.拡張法には,内視鏡下で用いるTTSバルーンによる拡張と,透視下で用いる硬性ブジーの2種類の方法があり,狭窄の種類や程度に応じて,両者を使い分けている.
バルーン拡張は,内視鏡下に加圧していくことでバルーンが拡張し,狭窄部を拡張する方法である.拡張時に内視鏡観察が行え,拡張圧の調節が可能なことから,安全に行え,食道癌術後狭窄に対する拡張術の第一選択として用いられている.特に,膜様狭窄には効果的であるが,狭窄部が硬く高度な症例には不向きである.
一方,硬性ブジーは,塩化ビニル製のデバイスを透視下にガイドワイヤーを用いて狭窄部に誘導し,拡張する方法であり,力が短軸方向だけでなく,長軸方向にも伝わるため強力な拡張が可能である.バルーンブジー不成功例に対し,特に効果的である.しかし,拡張時の内視鏡観察ができないため,拡張時の力加減は,術者の経験によるところが大きく,熟練が要求される手技である.
いずれの方法も適切に行えば,簡便かつ低侵襲に拡張が可能であるが,過度の拡張や盲目的な操作は偶発症を引き起こす危険性を高めるため,常に,手技は慎重に行うことが必要である.
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