日本消化器内視鏡学会雑誌
Online ISSN : 1884-5738
Print ISSN : 0387-1207
ISSN-L : 0387-1207
53 巻, 9 号
選択された号の論文の14件中1~14を表示しています
総説
  • 丹羽 寛文
    2011 年 53 巻 9 号 p. 2963-2987
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    中世,近世を通じて潰瘍という疾患の本態は知られてはいなかったが,潰瘍に伴う症状すなわち疼痛と吐血は知られていた.この時代の潰瘍の治療とはすなわちこれらの症状に対する治療で,主として民間薬,呪い(まじない)などが行われていた.日本でも江戸時代は漢方が主体であったが,果たして的確な治療が行われていたかどうかは疑わしい.
    その後解剖で潰瘍という疾患が明らかにされたが,診断学の未熟な当時は潰瘍の診断は不可能で,吐血を伴わない潰瘍は無いと思われ,また鑑別診断という考え方も無く,出血があれば潰瘍として治療の対象となった.明治時代も後半になって潰瘍の治療には制酸薬が主体となったが,X線検査,内視鏡検査もまだ未開発で,診断は極めて怪しく,効果の疑わしい種々な治療法が施されていた.昭和7(1932)年には欧米で軟性胃鏡が作られ報告され,胃鏡検査の重要さが認識される様になったが,実施できる施設はほとんどなく,胃鏡を用いての診断は机上の空論であった.X線検査の実用化ははるかに遅れ,日本では終戦後それもかなり時日がたった昭和30年頃からようやく行われる様になったが,精度はまだ極めて未熟であった.したがって診断に基づき的確な治療が行われる事はほとんど無かったといっても良い.胃鏡もごく少数の施設で試験的に使われはしたものの,日本での内視鏡の本格的な応用は胃カメラが実用になった昭和32,3年以来のことである.潰瘍治療の薬剤としては終戦後かなり時日を経てから抗コリン薬が登場し,その後相次いで種々な抗コリン薬が登場した.その結果抗コリン薬と制酸薬の合剤が広く使われ,さらに種々な防御因子増強薬が登場したが,その意義は明らかでなく今では全く意味を失った.その後近年になってH2受容体拮抗薬,ついでPPIが出現し,潰瘍の診療も診断に基づき的確に行われる様になった.しかし再発の問題が未解決であった.その後除菌療法が登場し再発の問題も片付いたと思われたが,新たに除菌後の食道炎の発生を見る様になった.本稿ではこれまでの潰瘍治療の変遷と内視鏡との絡みを主体に論じてみた.
  • 田尻 久雄
    2011 年 53 巻 9 号 p. 2988-2999
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    欧州における大腸カプセル内視鏡検査(colon capsule endoscopy,CCE)に関する臨床試験のデータをもとに,CCEの現況と課題について概説する.
    CCE関連の論文でエビデンスレベルの高い全11編によると,4段階尺度でCCEの腸管前処置状態が「優または良」,2段階尺度で「良好」であったと判断された割合は27-89% であったが,全体的には80% 前後の報告が多かった.またカプセルのバッテリー持続時間(約10時間)内での排泄率(全大腸検査完遂率)は75-94% であったが,排泄率のさらなる改善が求められる.
    CCEによる6mm以上のポリープの診断能は,大腸内視鏡検査をgold standardとした場合,PillCam COLON1+2,PillCam COLON1単独,PillCam COLON2単独での感度,特異度がそれぞれ(63,83%),(58,85%),(86,71%)で,PillCam COLON2単独が圧倒的に良い結果が報告されている.
    CCEの高い実用性,精度および安全性は大腸スクリーニングに適していると思われるが,今後大腸スクリーニングに特化したstudyを実施する必要がある.CCEの費用が問題となるが,検査に対する患者の指示遵守度の向上が得られるようであればCCEによるスクリーニングの費用対効果は高いと考えられる.
  • 高添 正和, 畑田 康政, 金井 隆典
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3000-3013
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    クローン病画像診断及び治療の変遷
    クローン病に対しては,腸管病変の部位,範囲,解剖学的重症度を踏まえてこそ合理的治療が可能となる.画像情報はクローン病の治療選択に必須である.
    CDを診断する上で,ひとつだけでゴールドスタンダードとなる基準はない.診断は臨床的評価のほか内視鏡的,組織学的,放射線学的および/または生化学的検査の組み合わせで確定される.小腸CDが疑われる症候性患者で狭窄が除外された場合,回腸終末部の内視鏡検査が正常もしくは不可能な場合,またはX線透視もしくは断面イメージングで病変が認められない場合,カプセル内視鏡検査を検討する.X線検査,特に小腸二重造影検査は粘膜病変および腸管壁全層の病態を把握するのに最も有用である.この検査はCDで最も重要な小腸の過去,現在の病態を評価する上で欠くべからざるものである.またダブルバルーン小腸内視鏡は小腸病変部の生検が可能となり,さらには小腸狭窄部を拡張するのにも用いられる.
原著
  • 本島 柳司, 宮崎 信一, 青木 泰斗, 中島 光一, 岡崎 靖史, 赤井 崇, 上里 昌也, 井上 雅仁, 岡住 慎一, 島田 英昭, 落 ...
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3014-3022
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    【目的】食道癌に対して胸部食道亜全摘胃管再建を行った症例の逆流性食道炎(RE-re)および円柱上皮化生(CLE-re)と胃管酸度(胃管pH)の関係を検討した.【方法】RE-reはロサンゼルス分類(改)(LA分類)にて分類し,CLE-reはCLE-re無し症例・部分性(軽度)CLE-re症例・全周性(高度)CLE-re症例に分類した.胃管pHは上部消化管内視鏡検査時に鉗子孔挿入型微小ガラスpH電極を用いて測定した.【結果】RE-reにおいてはLA分類のGradeが重症化するほど胃管pHが低値であった.CLE-reにおいてはCLE-re分類が重症化するほど胃管pHが低値であった.LA分類のGradeが重症化するほどCLE-reの合併が増え,LA分類Grade D症例の66.7% にCLE-reが合併していた.【結語】RE-reおよびCLE-re発生には胃酸の関与が考えられた.
症例
  • 高松 徹, 東海 浩一, 牛丸 信也, 松本 吏弘, 岩城 孝明, 福西 昌徳, 鷺原 規喜, 宮谷 博幸, 吉田 行雄, 山田 茂樹
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3023-3027
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    食道粘膜下腫瘍(SMT)は良性腫瘍が大部分を占め,悪性は稀とされている.しかし,画像所見のみでは良悪性の鑑別が困難な場合もあり,組織型により治療方針も異なるため組織診断を得ることが必要である.今回,われわれは30mmの食道SMTに対して超音波内視鏡下穿刺吸引生検術(EUS-FNAB)を試みたが,組織量が不十分で確定診断に至らず,粘膜切開後直視下生検にて確定診断が得られた症例を経験した.EUS-FNABはSMTに対する組織診断法の第一選択であるが,EUS-FNABにより十分な組織が得られない場合には,本法を試みてよいと思われた.
  • 野中 康一, 中尾 将光, 石川 恵子, 清水 道生, 桜井 孝規, 落合 康利, 外川 修, 西村 誠, 新井 晋, 佐々木 裕, 喜多 ...
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3028-3033
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    症例は65歳女性.近医のスクリーニング上部内視鏡で前庭部大彎に陥凹性病変を指摘され未分化癌が疑われた.2度の内視鏡検査で複数個の生検が施行されたが,明らかな癌細胞やリンパ腫細胞は認めなかった.当院紹介後の内視鏡検査で通常観察で認識しうる陥凹よりも離れた後壁側をNBI観察施行したところ,特徴的な所見を認めたため同部位を生検.MALTリンパ腫の診断に至った.胃癌との鑑別にNBI観察が有用であった一例を経験したので報告する.
  • 新田 敏勝, 川崎 浩資, 芥川 寛, 江頭 由太郎, 石橋 孝嗣
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3034-3039
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    症例は76歳,女性.突然の心窩部痛,嘔吐を主訴に当院救急外来を受診された.上部消化管内視鏡検査所見では,胃穹窿部から索状物が認められ,幽門洞へ引き込まれていた.また腹部造影CT検査では,十二指腸球部に占有する5cm大の腫瘤陰影を認めた.まず,術前に用手圧迫を併用し内視鏡下に整復を行い,胃穹窿部から発生したGISTと診断し,小切開による胃部分切除術を施行した.病理組織学的にもKIT(+)CD34(+)でGISTであった.ball valve syndromeをきたした症例に対し,内視鏡下に嵌頓を解除し,適切な加療を行えた1例を経験したので報告する.
  • 清水 周哉, 加藤 功大, 飛鳥井 香紀, 高口 裕規, 三浦 亜紀, 田中 義人, 松永 誠治郎, 長谷川 泉, 浜谷 茂治, 大野 智義
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3040-3046
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    症例は60歳の女性.検診による上部消化管内視鏡検査で十二指腸下行部に径0.5~2cm程の多発する上皮性腫瘍を認めた.他の小腸病変の有無についてシングルバルーン小腸内視鏡検査を施行したところ,空腸に径1cm程の中心陥凹を有する上皮性腫瘍を認めた.これらは生検にていずれも腺腫と診断されたが,十二指腸病変に対しては膵頭十二指腸切除術が,空腸病変に対しては空腸部分切除術が施行された.空腸病変の病理診断は,サイズが6mm×5mmの粘膜内にとどまる高分化管状腺癌であった.本邦ではこれまでに径10mm以下の小空腸癌の報告は稀であり貴重な症例と思われた.
  • 増田 勉, 稲次 直樹, 吉川 周作, 内田 秀樹, 久下 博之, 横谷 倫世, 山口 貴也, 山岡 健太郎, 下林 孝好, 榎本 泰典
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3047-3053
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    粘膜下腫瘍様形態を示す大腸癌は少なく,その中で1cm以下の進行癌はさらに珍しい.今回便潜血反応検査陽性後の精査にて発見された,7mm大の粘膜下腫瘍様形態を示す横行結腸進行癌の一例を経験したので,その臨床病理学的特徴及び発生機序等を文献的に考察し報告する.症例は60歳代,女性.便潜血反応検査陽性にて受診.精査にて横行結腸右側に粘膜下腫瘍様形態を示す癌を認め,腹腔鏡補助下結腸右半切除術を施行した.病理組織学検査結果及び進行度は,7×6mm,中分化腺癌,pSS,pN0(0/19),sP0,sH0,cM0,fStage IIであった.
  • 山田 将護, 野田 知宏, 坪井 順哉, 黒田 誠, 大岩 道明, 駒田 文彦, 勝田 浩司
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3054-3061
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    症例は70歳,男性.両肺の多発結節影精査目的に当院紹介となり,下部消化管内視鏡検査にてmultiple lymphomatous polyposis(MLP)および虫垂開口部に粘膜下腫瘍様隆起を認めた.病理組織学的精査,fluorescence in situ hybridization(FISH)法,CT検査,PET検査,骨髄検査よりマントル細胞リンパ腫(MCL),Ann Arbor分類Stage IVAと診断し,Rituximab併用化学療法4クール施行後に完全寛解を得た.今回,われわれはMLPとともに虫垂開口部に粘膜下腫瘍様隆起を呈したMCLの稀な1例を経験したので報告する.
注目の画像
手技の解説
  • 竹内 学, 橋本 哲, 小林 正明, 佐藤 祐一, 成澤 林太郎, 青柳 豊
    2011 年 53 巻 9 号 p. 3064-3072
    発行日: 2011年
    公開日: 2011/11/07
    ジャーナル フリー
    亜全周性・全周性食道癌ESD後の術後狭窄に対して,これまで主にバルーン拡張術が行われてきた.週1-2回の間隔で術後早期より開始し,狭窄の程度を確認しつつその間隔を延ばしていくが,患者に長期間負担を強いることや,瘢痕化した狭窄の拡張では穿孔の危険を伴うことが課題であった.それらを克服する目的で2008年1月よりわれわれは,ESD後の術後狭窄対策として,食道の炎症や食道拡張術後に使用されてきたステロイド(ケナコルト®-A)をESD切除面に局注することを開始した.原液のまま1回約0.2mlずつ,膨隆を形成するように潰瘍面の浅層に局注する.これを潰瘍面に満遍なく施行し,術後早期より週2回,計2-4回繰り返し局注を行った.亜全周切除例では約80% において追加EBDは不要で,全周切除例ではEBD単独に比べ追加EBD回数を減らすことが可能であった.よってステロイド局注療法はEBDに代わる術後狭窄対策となりうると考える.一方,ステロイド局注による遅発性穿孔の報告があることより,決して固有筋層へは局注せず,切除面の浅層に局注することが重要である.
内視鏡室の紹介
最新文献紹介
feedback
Top