【背景】胃粘膜の腸上皮化生(IM)は,胃癌の発生に関与する病変として以前から注目されてきた.他方,IMの内視鏡診断は長い間,暗中模索の状態であったが,近年メチレンブルー染色法やNBIを用いた拡大内視鏡観察によって臨床的に診断が可能になった.しかし,われわれは内視鏡診断の基本であるconventional methodおよびIndigo carmine contrast method(IC method)を応用した簡便なIM診断が必要と考え研究を行った.
【方法】本研究は,10施設が参加した多施設前向き無作為比較共同研究である.IMの所見は,電子スコープを用いてconventional methodかIC methodにより観察し,ランダム割り付けを行った.生検組織におけるIMの有無をgold standardとして,各観察法別にそれぞれの内視鏡診断を比較検討した.
【結果】解析対象は163名で観察法別には,conventional method 87名,IC method 76名であった.前庭部におけるIMの内視鏡診断成績は,conventional methodでは,感度94.6%,特異度69.1%,ROC/AUC 0.818.IC methodでは,それぞれ78.4%,57.9%,0.681であり,前庭部ではconventional methodの方が,IC methodより診断能が高かった.しかし両者間に有意差は認められなかった.体部においてconventional methodは,感度86.1%,特異度65.9%,ROC/AUC 0.760.IC methodでは,それぞれ86.0%,82.6%,0.843であり,IC methodの診断成績が良好であった.しかし検査法間に有意差は認められなかった.IMの各診断指標のROC/AUCは,前庭部におけるconventional methodでは,絨毛様所見が0.800ともっとも良好であり,ついで白色調粘膜,粘膜の粗糙・凹凸が0.752,IC methodでも絨毛様所見が0.770と良好であった.体部ではconventional methodによる絨毛様所見が0.703であり,IC methodでは,小区型が各所見のなかで最も高く0.895であった.
【結論】Conventional method とIC methodの比較ではIMの診断成績に有意差はみられなかった.IMの内視鏡診断の指標として,絨毛様所見,粘膜の白色調,粗糙・凹凸とIC methodによる胃小区型が有用であった.これらの診断指標を用いることによって,IMの良好な内視鏡診断成績が得られた.
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