近年,超音波内視鏡を応用した治療手技として,超音波内視鏡ガイド下胆道ドレナージ(EUS-guided biliary drainage:EUS-BD)が注目されている.EUSを用いて経消化管的に胆管を穿刺し,ドレナージを行う手技である.通常の経乳頭的胆道ドレナージが困難な症例に対しては,経皮経肝胆道ドレナージが行われて来たが,外瘻になることによる苦痛やQOLの低下から新しい代替治療としてEUS-BDが開発されて来た.EUS-BDは,消化管と胆道に瘻孔を形成させるEUS下胆管消化管吻合術(EUS-guided bilio-enterostomy)と,EUSを用いて胆道穿刺を行い,そのルートを利用して経乳頭的または順行性アプローチを行うEUS-guided approachに大別される.保険収載されている胆管に対する瘻孔形成術とは,EUS下胆管消化管吻合術のことを示し,具体的には超音波内視鏡下胆管十二指腸吻合術(EUS-CDS:EUS-guided choledochoduodenostomy),超音波内視鏡下胆管胃吻合術(EUS-HGS:EUS-guided hepaticogastrostomy),超音波内視鏡下胆管空腸吻合術(EUS-HJS:EUS-guided hepaticojejunostomy)などを示す.EUS-BDは安全に施行できれば,臨床上非常に有用な手技であり,患者さんにもたらす恩恵も大きい.しかし,不慣れな術者が重篤な偶発症をおこす可能が指摘されており,教育と普及の面で大きな課題を残している.
本稿では,EUS-BDの現状と展望について述べた.現在もなお発展途上の手技であるため,今回の内容が不変的なものではないことを付け加えさせていただく.
症例は40歳男性.2014年2月左側腹部優位の強い痛みを主訴に救急外来を受診した.炎症反応上昇あり,腹部超音波・CT・MRIで造影効果が弱い4cm大の膵体部腫瘍を認めた.脾静脈への浸潤を認め,尾部に貯留嚢胞を伴っていた.ERCPでは頭部主膵管内に不整な陰影欠損の充満があり,体部で主膵管は途絶し,乳頭開口部から易出血性の腫瘤露出を認めた.腫瘤生検にて膵神経内分泌腫瘍(PNET)が強く疑われた.肝左葉に転移巣を認めたが,症状改善目的もあり胃・横行結腸部分切除を含む膵全摘,肝S2部分切除を施行し,PNET(WHO分類grade 2)との診断を得た.PNETが十二指腸乳頭部への腫瘍露出を伴う主膵管内進展を呈することは非常に稀であり,文献的考察を加え報告する.
潰瘍性大腸炎(ulcerative colitis:UC)患者に合併するサイトメガロウイルス(cytomegalovirus:CMV)感染症の大部分は,ステロイドや免疫抑制薬の治療歴がある.今回ステロイド投与歴がないにも関わらずCMV再活性化を生じ,治療経過でCMV感染症を発症したため抗ウイルス治療を要したUC患者2例を経験した.1例目は66歳で,再燃時大腸内視鏡検査では発赤,浮腫,びらんのみだが,既にCMVの再活性化を呈していた.ステロイド治療で一旦軽快したが,その後CMV感染症を合併し抗ウイルス治療を要した.2例目は75歳で,再燃時大腸内視鏡検査で浮腫,びらん,小潰瘍のみであったが既にCMV再活性化を生じていた.ステロイドとタクロリムスで一旦軽快したが,CMV感染症を合併し抗ウイルス療法を要した.ステロイド投与歴にとらわれず,高齢者UC患者の再燃時には典型的な内視鏡画像を欠いてもCMVの再活性化を疑いステロイド以外の治療を考慮すべきである.
症例は52歳,女性.主訴は繰り返す腹痛,嘔吐.腹部単純X線検査と腹部CT検査で,上行結腸から下行結腸内側に異常石灰化像,大腸内視鏡検査では,盲腸に類円形の潰瘍と盲腸から下行結腸にかけて暗青紫色調粘膜が連続性に認められた.以上より,特発性腸間膜静脈硬化症と診断した.アスピリンとワルファリンによる抗血小板・抗凝固剤の併用療法を開始し,すみやかに自覚症状の改善を認めた.約6年後の大腸内視鏡検査では暗青紫色調粘膜が著明に改善しており,特発性腸間膜静脈硬化症の治療方法の1つとなりうる可能性があるので報告する.
74歳男性.慢性骨髄性白血病に対してダサチニブを内服中.血便を契機に施行した大腸内視鏡検査にて横行結腸から直腸にかけて多発し,滲出物の付着と出血を伴うアフタ様びらんを認めた.病理組織学的には表面に炎症性滲出物の付着する陰窩炎であった.感染症を念頭に置いて抗菌薬の投与を行ったが改善せず,ダサチニブによる出血性大腸炎を疑い投与を中止したところ,血便の消失と内視鏡所見の改善を認めた.第2世代チロシンキナーゼ阻害薬であるダサチニブによる消化管出血の報告は散見されるが,ダサチニブ中止前後の内視鏡所見の変化を観察し得た症例は貴重であると考えられた.
門脈ガス血症(HPVG)と腸管気腫症(PCI)とを呈した黄色ブドウ球菌腸炎の1例を経験した.症例は40歳,男性.主訴は血便,腹痛,発熱.31歳時に潰瘍性大腸炎(UC)と診断され,寛解を維持していた.初診時にHPVG・PCIを呈し,大腸内視鏡検査で直腸~S状結腸に多発性の縦走潰瘍を認めた.UC再燃との鑑別を要したが,便培養で黄色ブドウ球菌が検出され,抗生物質の投与で症状は改善した.
UCを背景に感染性腸炎に罹患した場合は,粘膜の脆弱性のためHPVG・PCIを発症する可能性がある.
【目的】Cold snare polypectomy(CSP)の有用性と安全性,問題点について検討を行った.【方法】CSPにて切除した陥凹型を除く10mm以下の大腸ポリープ645病変を対象とし,後出血,クリップの有無,断端陰性率,一括切除率,病変回収率について高周波凝固によるポリペクトミー(HSP)と比較検討した.【結果】CSPにおいて後出血は認めず,クリップ使用も少なかった.また,断端陰性率66.7%,ポリープ一括切除術97.5%,病変回収率99.5%で,対象群であるHSPとの差はなかった.CSPの導入初期:後期の断端陰性率は56.3:80.3%であった.【結論】CSPは手技的なlearning curveが存在するが安全性,有用性が高く,適応病変の見極め,切除後の内視鏡的評価を十分に行うことで,非常に有効な治療法となりうる.
本邦でも大腸ステントが2012年から使用可能となった.大腸ステントの導入で,緩和治療ではストーマ造設を避けることができる.また閉塞性大腸癌の外科治療としても,術前大腸ステント治療Bridge to surgeryで緊急手術を回避し,術前に十分な減圧が得られるため,全身状態の改善を待って安全な一期的切除吻合が行える事で,大腸癌の根治性と手術安全性が両立した治療となる.大腸ステントの有用性は広く報告されているが,そのためには十分に安全に留意した手技が必須である.本稿では手技の実際や,安全な手技のコツなどについて述べた.安全のために最も重要なのは適切な適応の判断であり,炎症の強い症例や切迫破裂の症例は避けなければならない.日本消化器内視鏡学会関連研究会である大腸ステント安全手技研究会のホームページに示されたミニガイドラインも安全な手技施行の参考となる.
術後再建腸管(Billroth Ⅰ法を除く)を有する胆膵疾患における内視鏡的アプローチは,従来の内視鏡では困難とされており,経皮的治療や外科的治療など侵襲的な治療を選択せざるを得なかった.しかしながら,バルーン内視鏡の登場により術後再建腸管を有する胆膵疾患に対する内視鏡的アプローチが一気に現実的なものとなり,より安全で確実に処置を完遂できるようになってきた.本稿では,特にshort typeのダブルバルーン内視鏡を用いたERCPを中心に,盲端部への深部挿入およびERCP関連手技の実際とコツについて言及したい.
背景と目的:胃酸分泌異常は,Helicobacter pylori(H. pylori)感染に伴う様々な疾患に関連する.だが,多くの微小内視鏡所見と酸分泌能の関連性を同時に調べた研究は,これまでに報告されていない.そこで,本研究では,高酸と低酸の診断に有用な微小内視鏡所見を明らかにすることを目的とした.
方法:1999年から2012年の間,当院にて上部消化管内視鏡とガストリン刺激にて胃酸分泌能を評価するEndoscopic gastrin test(EGT)を行った器質的疾患のない223例を対象とし,後方視的に解析した.2名の対象者情報を知らない内視鏡専門医がそれぞれ別個に内視鏡画像を見直し,内視鏡所見を記録した.
結果:EGT値より,対象者を高酸群,正酸群,低酸群の3群に分類した.全対象者での検討では,ヘマチン(オッズ比[95%信頼区間]=3.32[1.40-7.83]),前庭部びらん(2.88[1.26-6.70])が高酸を有意に示唆する内視鏡所見であり,胃小区腫大(14.4[5.74-36.1]),萎縮(open type)(15.1[7.35-31.1])は低酸を有意に示唆する内視鏡所見であった.また,高酸を有意に示唆する内視鏡所見はH. pylori感染の有無によって異なり,H. pylori陽性者ではヘマチン,H. pylori陰性者では前庭部びらんであった.一方,低酸を有意に示唆する内視鏡所見は,H. pylori感染の有無に関わらず一定であった.
結論:本研究では,H. pylori感染の有無に関わらず,内視鏡所見から酸分泌能を推定することが可能であった.これらは,酸関連疾患に対するリスク評価の一助となりうる.
【背景】本邦の食道癌診断治療ガイドラインでは,食道扁平上皮癌の内視鏡治療の適応病変はEP/LPM癌であり,MM/SM1癌は相対的適応,SM2癌は研究的段階と位置付けられている.表在型食道扁平上皮癌(SESCC)の深達度診断において拡大内視鏡は重要な役割を果たしている.拡大内視鏡分類には所謂,井上分類2)と有馬分類3)があるが,双方を基盤として2012年に日本食道学会でSESCCの拡大内視鏡分類(以下,JES分類)が作成された.また,JES分類の作成委員会でJES分類による深達度診断能を評価するために多施設前向き試験を行った.
【目的】JES分類におけるtype B血管の深達度診断能を評価する.
【方法】JES分類は上皮乳頭内毛細血管ループ(intra-epithelial papillary capillary loop:IPCL)の変化を認めない,もしくは軽微なものをtype A,血管形態の変化が高度なものをtype Bに分け,type Bは微細血管の走行や拡張の程度によりB1,B2,B3に細分類し,B1はループ様構造を認める異常血管,B2はループ様構造に乏しい異常血管,B3はB2血管径の3倍以上(60μm以上)と定義している.オリジナルのavascular area(AVA)は,ストレッチされたB2,B3血管で囲まれた領域と定義しているが3),JES分類ではB1を含むtype B血管で囲まれた領域とし,直径0.5mm未満をsmall,0.5~3mmをmiddle,3mm以上をlargeとした.2011年1月から2011年8月までにhigh volume center 5施設で内視鏡治療予定のSESCC 211例を前向きに登録し,治療前にJES分類のtype B細分類に基づいて深達度診断を行い,内視鏡治療後に得られた病理結果と対比した.
【結果】登録された211例全例でtype B血管が観察された.深達度の内訳はEP/LPM癌163例,MM/SM1癌28例,SM2癌20例であった.EP/LPMのうち159例(97.5%)にB1,4例(2.5%)にB2を認め,B3は認めなかった.MM/SM1癌のうち7例(25%)にB1,21例(75%)にB2を認め,B3は認めなかった.SM2癌のうち6例(30%)にB1,3例(15%)にB2,11例(55%)にB3を認めた.B1をEP/LPM癌,B2をMM/SM1癌,B3をSM2癌の指標とすると,感度/特異度/陽性的中率(PPV)/陰性的中率(NPV)はB1で97.5%/72.9%/92.4%/89.7%,B2で75.0%/96.2%/75.0%/96.2%,B3で55%/100%/100%/95.5%であった.
【考察】B1血管の診断能は高く,EP~SM1癌をSM2癌に過大評価したケースはなかった.Type Bの正診率はover allで90.5%であり,JES分類はSESCCの深達度診断に有用と言えるが,type B2のMM/SM1癌に対する感度とPPVは75%に留まり,SM2癌対するtype B3の感度が低かった.Type B2やAVAを囲む血管の再評価が今後の課題である.