胃炎の国際的分類はUpdated Sydney System(USS)ならびに,国際疾病分類(ICD-10)が知られているが,いずれも成因論的分類としては不十分であり,京都で行われたヘリコバクター・ピロリ胃炎に関する国際的コンセンサス会議において,成因に基づいた胃炎の分類案がコンセンサスを得た.しかしこの成因分類にはまだ改変,解決を要する多くの課題が残されている.胃炎の分類にはほかに内視鏡所見による分類や病理組織所見に基づく分類があるが,胃炎の体系的治療や予防を考えるうえでは成因分類は必須であり,将来胃炎の全体像を明らかにするためには,胃の組織構築,胃の細菌叢,免疫応答など基礎的研究の進歩と,臨床病態の一層の解明が必要である.
【背景・目的】右側結腸に限局する虚血性腸病変を虚血性右側結腸炎と定義し,その臨床像と内視鏡所見の特徴を明らかにし,虚血性大腸炎と比較する.【方法】最近の11年間に経験した虚血性右側結腸炎7例を対象とした.病型は一過性型1例,狭窄型5例,壊死型1例であった.臨床像,腹部CT像,内視鏡像などについて検討した.【結果】虚血性右側結腸炎は,高齢男性に多く,基礎疾患では血管側因子を持つものが多くみられ,臨床症状は腹痛が主で血便や下痢は比較的少なかった.腹部CT像では著明な腸壁肥厚がみられた.非壊死型の内視鏡像は特徴的であり,輪状~帯状潰瘍であった.潰瘍は,腸間膜対側で幅が広く深い傾向がみられ,それに続いて腸間膜側に向かい浅く狭い潰瘍がみられ,全体として輪状傾向あるいは帯状傾向を呈していた.【結論】虚血性右側結腸炎は,虚血性大腸炎とは臨床像と内視鏡像が異なっており,病態が異なるものと推察された.
症例は59歳女性,腹痛と交代性便通異常で当科を受診.大腸内視鏡,注腸X線,病理組織所見から横行結腸に限局したCap Polyposisと診断した.Helicobacter pylori除菌が成功するとEMR/クリッピング部の再発はなくなった.Helicobacter pylori陽性のCap Polyposisでは,その持続感染が基礎にあり,除菌成功が本症の改善には重要と思われた.
十二指腸静脈瘤は比較的稀な疾患であり,その治療法は確立されていない.今回われわれは2例の十二指腸静脈瘤出血を経験したので報告する.症例1は57歳女性.嘔吐,黒色便を主訴に受診した.上部消化管内視鏡にて十二指腸下行部にF3形態の静脈瘤を認め,バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術を施行した.症例2は54歳男性.C型肝硬変にて通院中であり,黒色便,吐血を主訴に受診した.上部消化管内視鏡にて十二指腸水平脚に噴出性出血を伴うF3形態の静脈瘤を認め,血管内塞栓促進用補綴材(ヒストアクリル,AESCULAP AG,Tuttlingen,Germany)注入にて止血を得た.2例とも再出血は認めていない.
症例は49歳男性.便潜血陽性のため上部消化管内視鏡検査を受けた際,十二指腸に15mm大の発赤調のドーム状隆起を伴うⅠs+Ⅱc様病変を認めた.EUSでは粘膜下層までに限局した病変で,内部に多数の無エコー域を伴っていた.しかし,鉗子触診で弾性軟を示し,NBI拡大観察で粘膜模様は保たれていた.当初SM深部浸潤癌を考えたが,粘膜癌・腺腫の可能性もあり,診断的治療目的にEMRを施行した.組織学的には,Brunner腺過形成を伴う高異型度腺腫であった.辺縁のinverted growthと中央腫瘍腺管の嚢胞状拡張により,Ⅰs+Ⅱc様を呈したと考えられた.十二指腸Ⅰs+Ⅱc様病変に遭遇した場合,NBIなど先進的modalityや鉗子触診を駆使しつつ,低侵襲治療を追求すべきと思われた.
症例は57歳男性.下痢を主訴に来院.下部内視鏡検査にて,直腸(Rb)後壁に3cm大の結節状の隆起を呈する粘膜下腫瘍を認めた.画像上,病変は粘膜下の嚢胞性腫瘤であり,通常生検およびEUS-FNAを行ったが,確定診断は得られなかった.深在性嚢胞性大腸炎を第一に疑い,診断的治療目的に経肛門的切除術を施行し,病理組織検査にて深在性嚢胞性大腸炎と診断した.術前のEUSを含めた画像診断は病理所見に合致するものであった.本疾患は,直腸粘膜脱症候群の肉眼形態の一つとしても亜分類されているが,その頻度は稀である.わが国では2015年までに自験例を含め49例の報告があるのみであり,その臨床的特徴について考察した.
症例は65歳女性.2014年12月に肝浸潤,十二指腸浸潤,頸椎転移を伴う胆嚢癌と診断し緩和治療を行っていた.2015年3月に嘔気,嘔吐を主訴に当院を受診し,進行胆嚢癌による十二指腸閉塞,胆嚢十二指腸瘻形成を認めた.内視鏡的十二指腸ステント留置術を施行するも,ガイドワイヤーが瘻孔に迷入し狭窄部を突破出来ず.最終的に結石除去用の側孔付バルーンカテーテルを使用しステント留置に成功した.ステント留置翌日より経口摂取が可能となり,術後大きな問題なく約1カ月半後に肺炎で死亡された.胆嚢十二指腸瘻形成によりガイドワイヤー留置が困難な場合,側孔付バルーンカテーテルの使用により瘻孔の遮断が可能となり有用な方法と考え報告する.
症例は71歳男性.2年前に膵頭部の膵管内乳頭粘液性腫瘍(分枝型)のため膵頭十二指腸切除術を施行した既往がある.今回,肝機能障害を認めたため,精査目的に近医より紹介となった.画像検査で右肝管に魚骨を核とした胆管結石を疑い,シングルバルーン内視鏡による内視鏡的結石除去術および異物除去術を行った. 除去した針状の物質は病理組織検査などより魚骨と診断した.膵頭十二指腸切除術後に魚骨を核にした胆管結石の報告はまれであり,貴重な症例と考え文献的考察を加えてこれを報告する.
近年,欧米においてはバレット食道が急速に増加しており,本邦においても今後増加することが懸念されている.バレット食道を診断するためには,十分に食道胃接合部を伸展させ,下部食道柵状血管の下端もしくは胃の襞の上縁を確認し,胃から連続する円柱上皮を確認する.SSBEの表在癌は右前壁に多いとされ,まず通常内視鏡で発赤・凹凸不整の所見を見落とさないことが重要である.深達度診断には白色光観察に加え,画像強調内視鏡,拡大内視鏡,超音波内視鏡,食道造影が用いられる.凹凸のほとんどない0-Ⅱbや0-Ⅱa,基部にくびれを有する0-Ⅰ型,浅い陥凹を有する0-Ⅱc型は粘膜癌を示唆する.酢酸併用画像強調+拡大内視鏡は癌の側方伸展の診断に有用である.バレット食道癌の深達度診断は治療方針をたてるのに重要である.一部のT1a-DMM癌と粘膜下層癌には転移が見られるため,内視鏡治療の適応拡大は慎重に行う必要がある.
十二指腸静脈瘤は,食道胃静脈瘤を除いた異所性静脈瘤の一つで比較的まれな疾患であり,一旦破裂すると出血量も多く致命的となりうる.その治療法は確立されたものはまだなく,EIS(Endoscopic injection sclerotherapy)による内視鏡的治療やIVR(Interventional Radiology)による塞栓療法を用いて症例に応じて加療されているのが現状である.治療前には3D-CTを用いて血行動態を評価することが重要である.破裂時の治療としてはシアノアクリレート系薬剤を用いたEISが望ましい.EISの際は腹臥位で行うと手技が安定する.一時止血後に静脈瘤が残存していればEISないしIVRによる追加治療を行う.
背景と目的:患者の鎮静状態が不良であれば,呼吸状態は不安定となり,体動も増加するため,内視鏡的粘膜下層剥離術(ESD)はより困難になり,偶発症のリスクも増大してしまう.本研究の目的は,早期胃癌および食道表在癌に対するESDにおけるプロポフォールを使用した内視鏡室での麻酔科管理下の非挿管静脈麻酔(MAC)の安全性と有効性を明らかにすることである.
対象と方法:2010年7月から2013年3月の期間に,国立がん研究センター中央病院内視鏡科にて早期胃癌または食道表在癌に対してESDが施行された連続症例を,MAC群と内視鏡医が麻酔を行う通常群(Control群)に分けて,後方視的に検討した.検討項目は,患者背景,内視鏡所見,治療結果,体動の有無,酸素飽和度(SpO2),使用薬剤および使用量とした.
結果:早期胃癌137症例(16%)および食道表在癌82症例(57%)がMAC群として,一方,早期胃癌731症例(84%)および食道表在癌63症例(43%)がControl群として,ESDが施行された.MACは全体の21%に施行された.胃ESD中の第三者の抑制が必要な体動は,MAC群で30例(22%),Control群で533例(72%)であり(P<0.0001),食道ESDではMAC群で36例(44%),Control群で53例(84%)であった(P<0.0001).最低SpO2の中央値は胃・食道ESDにおいてMAC群がControl群より有意に低かった(胃,96% vs. 98%,P<0.0001;食道,96% vs. 98%,P<0.0004).MACは入院期間を延長させるような有害事象の原因にはならなかった.
結論:プロポフォールを使用した麻酔科管理下の非挿管静脈麻酔(MAC)は,ESD中の体動を有意に減少させることでより安全な治療環境を実現することができ,長時間の治療が要求される困難症例やより強力な鎮静が必要な困難症例に対して非常に有効であると考えられる.
【背景】胃癌や胃潰瘍を含む胃疾患は,消化管の中で最も頻度が高い.現在使用されている受動式カプセル内視鏡では,胃内腔は広いため胃全体を観察することは不可能である.磁気制御カプセル内視鏡システムは胃観察を目的に開発された.従来の胃内視鏡検査と磁気制御カプセル内視鏡による胃局所病変検出の一致率を前向きに検討した.
【方法】2014年8月から12月にかけて中国の中心施設で上腹部症状のために胃内視鏡検査が予定された350名の患者(平均年齢46.6歳)を対象として,磁気制御カプセル内視鏡と従来の胃内視鏡検査を比較する多施設共同の盲検試験が行われた.鎮静なしで通常の胃内視鏡検査の2時間後にカプセル内視鏡が全例に施行された.胃内視鏡検査をゴールドスタンダードとして,磁気制御カプセル内視鏡による胃局所病変の検出の感度,特異度,陽性的中率,陰性的中率を算出した.
【結果】磁気制御カプセル内視鏡による胃全体の局所病変の感度が90.4%(95%信頼区間(CI):84.7-96.1%),特異度が94.7%(95%CI:91.9-97.5%),陽性的中率が87.9%(95%CI:81.7-94.0%),陰性的中率が95.9%(95%CI:93.4-98.4%),一致率が93.4%(95%CI:90.8-96.0%)であった.胃上部(噴門部,穹窿部,体部)の病変に対して,磁気制御カプセル内視鏡の検出は感度が90.2%(95%信頼区間(CI):82.0-98.4%),特異度が96.7%(95%CI:94.4-98.9%)で,胃下部(胃角,前庭部,幽門)の病変に対しての検出は,感度が90.6%(95%信頼区間(CI):82.7-98.4%),特異度が97.9%(95%CI:96.1-99.7%)であった.磁気制御カプセル内視鏡で進行癌1例,悪性リンパ腫2例,早期癌1例を検出し,腫瘍や大きな潰瘍など重要な病変はいずれも見逃すことはなかった.350症例のうち,5例に9個(1.4%)の副作用が報告されたが,335例(95.7%)は胃内視鏡よりカプセル内視鏡を好んだ.
【結語】磁気制御カプセル内視鏡は従来の胃内視鏡検査と同等な精度で,胃上部および胃下部の局所病変を検出する.ほとんどの患者から従来の胃内視鏡検査と比べ,磁気制御カプセル内視鏡は好まれ,鎮静なしに胃病変のスクリーニングとして用いることができる.