慢性膵炎は悪性新生物の合併率が高く,非可逆性,進行性の予後不良疾患とされるが,従来の慢性膵炎診断基準は「高度の完成された慢性膵炎しか診断できない」という問題点があり,早期診断,早期治療導入による予後改善を目指し,本邦から世界に先駆けて「早期」慢性膵炎の診断基準が作成された.その特徴の一つに画像項目において,早期で慢性膵炎を診断する手段として多くの報告がなされているEUSに重きが置かれていることがあげられる.その所見の多くは新しいEUSによる慢性膵炎の分類・診断基準である,Rosemont分類から進行慢性膵炎の所見を除いたものが引用されている.
症例は70歳女性.19歳時胃潰瘍のため胃全摘術を受けた.右季肋部痛の精査目的で施行した上部消化管内視鏡にて切歯17cmより食道空腸吻合部にかけてlong segment Barrett’s esophagus(LSBE)をみとめた.切歯18cmには12mm大の発赤調の扁平隆起性病変をみとめ,生検にて高分化型腺癌であった.胃全摘後のLSBEに合併したBarrett食道腺癌と診断しESDを施行し,病理診断は,adenocarcinoma in Barrett’s esophagusで,深達度はdeep muscularis mucosae(DMM)であった.背景粘膜は腸上皮化生を伴う円柱上皮で粘膜筋板の2層化と食道固有腺をみとめた.胃全摘後のLSBEに合併したBarrett食道腺癌に対してESDを行った症例を経験した.胃全摘後であってもBarrett食道が発生することから,癌合併を念頭においた術後長期のサーベイランスが必要であると思われた.
症例は76歳女性.筋萎縮性側索硬化症の進行に伴う嚥下障害のために,経皮内視鏡的胃瘻造設術(PEG:percutaneus endoscopic gastrostomy)を施行された.術後2日目から腹満感が出現し,腹部単純X線検査では小腸から横行結腸までの拡張像が認められた.腸閉塞の診断で,胃壁固定を解除したところ症状は速やかに改善した.穿刺位置が通常よりも足側となり,胃壁固定2点のうち,より足側の1点が横行結腸を穿刺し,その結果腸閉塞を来たしたものと推察された.術前の上部消化管内視鏡検査や腹部CTを参考とした穿刺部位の確認も重要だが,実際に穿刺する際の標準的な穿刺位置の確認も十分に考慮すべきである.
85歳女性が心窩部痛・嘔気を主訴に当院に救急搬送された.腹部単純CTにて胃軸捻転症と診断され,内視鏡的整復術を行った.その際に,内視鏡挿入形状観測装置「以下UPD(Endoscope Position Detecting Unit):オリンパスメディカルシステムズ社」対応の大腸内視鏡を使用し,整復に成功した.その後経過良好であったため当院退院となった.退院後,再発予防のため当院外科にて胃固定術を施行し,現在再発なく経過している.今回われわれはUPDを使用することで胃の捻転の方向を確認しながら捻転の解除をすることができたため,文献的考察を加えて報告する.
症例は45歳,男性.原発性硬化性胆管炎,潰瘍性大腸炎にて経過観察されていた.大腸全摘術の術前CTにて総胆管壁肥厚を指摘され,紹介となった.US,CT,MRIでは前区域胆管内に2cm大の乳頭状腫瘤が認められた.ERCPでは前区域胆管に陰影欠損像を認め,経口胆道鏡では前区域胆管の内腔を占拠する乳頭状腫瘍と下部胆管に顆粒状粘膜が認められた.生検でintraductal papillary neoplasm of bile duct(IPNB)と診断し,肝右葉切除および肝外胆管切除を施行した.本症例では経口胆道鏡がIPNBの表層進展範囲の診断および術式決定に有用と考えられた.
症例は71歳男性.他院で2004年に十二指腸乳頭部癌に対して経十二指腸的乳頭形成術を施行された.2014年10月に発熱,嘔気を主訴に当院を受診し,腹部CT検査で総胆管結石を認め,閉塞性黄疸・胆管炎の診断で入院となった.ERCP所見では,乳頭形成術後の胆管口はpin hole状に狭窄していた.内視鏡的乳頭括約筋切開を行い,さらにEndoscopic papillary large balloon dilation(以下EPLBD)を施行した後,結石をバスケット鉗子で摘出した.治療後に胆管炎を併発したが,保存的治療で軽快し退院となった.以後再燃なく経過している.乳頭切除後の総胆管結石に対して内視鏡治療を施行した症例は稀であり,文献的考察を加え報告する.
大腸腫瘍に対する術前診断として通常観察と拡大観察は必要不可欠なモダリティーである 1).拡大観察は主として,Narrow Band Imaging (NBI)観察とIndigo carmine撒布およびCrystal violet染色による色素拡大観察に二分される.
本章では拡大観察のうち,NBI拡大観察と色素拡大観察を中心にその手技と有用性につき概説する.
有茎性病変は通常のポリペクトミーの適応である.無茎性や平坦型病変で大きいもの,小さくとも癌を疑うような病変はEMR(やESD)の適応である.コールドポリペクトミーの適応は,癌を疑わない無茎性ないし平坦型病変で,9mm以下までが妥当な線と思われる.有茎性ポリープでは,頭部寄りにスネアをかける.茎が太い場合は出血予防のために留置スネアも使用する.コールドポリペクトミーの場合,周囲粘膜を含めて切除するため,常に病変をスネアの中央付近に捉えるよう,微調整しながらスネアを閉じる.EMRの成否の大半は,局注にかかっていると言っても過言ではない.屈曲部やヒダにまたがっている病変では口側から局注を開始する.SM癌を除く大きい病変では中央部から局注を開始する方が膨隆を得られやすい.穿刺した針で病変を少し持ち上げるようにし,注入しながら針をゆっくり引き戻していく.スネアをかける際は,軽く病変を押さえ込むようにするが,筋層を巻き込まないよう注意する.患者が痛みを訴える場合や,介助者がゴムのような弾力を感じてなかなか切れない場合は,筋層を巻き込んでいる可能性が高いので中止する.
[背景および目的]大きな大腸腫瘍に対する内視鏡治療後の異時性多発病変については報告が少ない.本研究では長径20mm以上の大腸腫瘍に対する内視鏡治療後の長期経過観察における異時性多発病変の特徴を検討した.
[対象と方法]対象は2006年11月から2013年11月までに2つの施設において大腸腫瘍に対して大腸内視鏡治療を施行した連続的な患者を解析した.すべての患者は経過観察に入る前に2回以上の全大腸内視鏡検査にてその他の病変の検索を行い,毎年経過観察の内視鏡検査を行った.切除を行ったポリープを20mm以上と未満に分け最終的に20mm以上群239例と20mm未満群330例の解析を行った.検討項目は両群におけるadvanced adenoma (AA:10mm以上の腺腫および絨毛性病変)および癌の累積発生頻度とその臨床病理学的特徴とした.
[結果]AAおよび癌の累積発生頻度に関して,20mm以上群は20mm未満群に比して有意に高値であり(3年累積発生率22.9% vs 9.5%, P<0.001),また5-9mmの腺腫の発生率も有意に高値であった(45.2% vs 28.8%, P<0.001).異時性病変の特徴については,部位に関して右側大腸の率が両群間に有意差を認めた(78.8% vs 50.0%, P=0.015).
[結語]長径20mm以上の大腸腫瘍切除後の異時性多発病変は高頻度であった.
日本消化器内視鏡学会は,新たに科学的な手法で作成した基本的な指針として,「EPLBD診療ガイドライン」を作成した.EPLBDは近年普及している総胆管結石に対する治療法の一つである.この分野においてはエビデンスレベルが低いものが多く,専門家のコンセンサスに基づき推奨の強さを決定しなければならないものが多かった.本診療ガイドラインは「EST診療ガイドライン」に準じて,定義と適応,手技,特殊な症例への対処,偶発症,治療成績,術後経過観察の6つの項目に分け,現時点での指針とした.
【背景・目的】潰瘍性大腸炎(UC)関連大腸癌のサーベイランス法としてランダム生検が推奨されてきたが,狙撃生検がより効果的である可能性がある.狙撃生検とランダム生検による腫瘍性病変発見率比較のためRCTを実施する.【方法】2008年10月1日から2010年12月31日までに日本の52施設において,7年以上の罹病期間のUC患者246名を登録した.患者はランダム生検群(大腸を10cm毎に4カ所ずつ生検を行い,腫瘍性病変が疑われる部位には狙撃生検を加える群,n=122)と狙撃生検群(腫瘍性病変が疑われる部位から生検を行い,直腸からは炎症がなくてもランダムに生検を行う群,n=124)に振りわけた.主要評価項目は1回のサーベイランス大腸鏡で発見した腫瘍性病変数である.両群間で平均腫瘍性病変数の割合や差を評価した.探索的研究として両群間の非劣性も評価した.0.65(0.13/0.20)を両群間における腫瘍性病変の平均数比率の非劣性マージンとした.【結果】1内視鏡あたりの平均腫瘍性病変数は,狙撃生検群で0.211(24/114),ランダム生検群で0.168(18/107)であった(両群間比率1.251 95%信頼区間0.679-2.306).下限値が0.65の非劣性マージンより上であった.患者あたりの腫瘍性病変の割合は,狙撃生検群で11.4%,ランダム生検群で9.3%であった(P=0.617).1内視鏡検査あたりの生検数は,ランダム生検群が狙撃生検群より多く(34.8個 vs 3.1個;P<0.001),そして検査時間も長かった(41.7分 vs 26.6分;P<0.001).ランダム生検群において,発見された腫瘍性病変はすべて過去や現在炎症のある粘膜から採取されていた.【結論】RCTにおいて,狙撃生検とランダム生検では腫瘍性病変の検出率は同じであった.しかし,狙撃生検はより費用対効果が高い方法と考えられた.ランダム生検において,過去や現在炎症のない部位で腫瘍性病変は認めなかった.